第34話 寄生する茸
三人が最深部にたどり着いた時、そこに他のプレイヤーの姿は見えなかった。
先回りが成功したことにクロノはホッとしたが、アオハルとユーリは違う。
一番に最深部に到達したことに安堵するよりも、そこに待ち受けていた物体を見て唖然としている。
「なんだ……あれ」
「大きな植物……でも、モンスターみたい」
三人を最深部で待ち受けていたのは「パラサイトマッシュルーム」である。
植物型のモンスターで、種類ごとに分類するのなら菌類にあたる。
ただ、最深部を埋め尽くすほどに成長したその姿は大木のようであり、根のように伸びるうじゃうじゃとした触手のせいで到底キノコには見えない。
パラサイトマッシュルームは三人を歓迎するかのように、こぶし大の石のようなものを無数に飛ばした。
「あれ、虫についていた奴か!」
アオハルが気づき、剣で自分に向かってくる石のようなものをはじき落とす。
一歩遅れてユーリがそれに習い、クロノは二人よりも先に、できるだけ二人のことをかばいながらより多くを防いだ。
「あれがこのデカキノコの胞子だ。モンスターにくっつくと身体の自由を奪って意のままに操れる効果があるらしい」
「えっ……じゃあもし私たちにくっついたら……」
クロノの説明に、ユーリの顔が青ざめる。
胞子が自分にくっついた時のことを想像し、道中で襲ってきたアリやクモの様子と比べてしまったのだ。
「大丈夫だ。プレイヤーが操られるなんてことはない。ただ、一定時間行動不能になるデバフがかかるから、なるべく避けた方がいい」
クロノはそう言ってアオハルに目配せをする。意図を察したアオハルは二人の前に跳び出て、両手剣を構えた。
「全身鎧と間合いの大きい剣を持っている俺が防ぐ役にちょうどいいってことだな」
「ああ。でも剣の振りが遅いとスキも多くなるから、そこはアオハルの腕の見せ所だな」
アオハルは鼻を鳴らした。「望むところだ」という心持ちである。
迫りくる白い胞子には一定の波があった。
パラサイトマッシュルームは呼吸でもするかのように時折空気を取り込んでいて、その間だけ胞子が止まるのだ。
両手剣を巧みに振り回し、降りかかる三人分の胞子を防ぐアオハルの後ろでクロノがユーリに声をかける。
「パラサイトマッシュルームを倒すには、奴の背部にある核を破壊しなきゃならない。胞子の波の合間を縫って左右から叩くぞ」
「はい……確認ですけどあの胞子、本当に害はないんですよね。私キノコの類は子供の頃からどうにも苦手で……」
ユーリの苦手はもちろん食べる上での好き嫌いの話だが、幼少の頃に保育園で無理やり食べさせられたことでビジュアルにも苦手意識が生まれている。
虫もあまり得意ではないのに、ここまで何とか耐えてきた。それなのに最深部にさらに苦手なキノコがいたせいで彼女のメンタルはややダメージを喰らい過ぎている。
「大丈夫だ。さすがにゲーム内で一人の人間の人格や行動を操るほどの技術はLEOにもまだない。それに、俺とユーリなら胞子の波の合間にあそこまでたどり着ける」
出会う前からクロノとユーリのプレイスタイルには似ているところがあった。
アオハルのように頑強さと一撃の重さを押し出していくのではなく、軽快な動きと俊敏性で敵をかく乱し、少ない攻撃で弱点を正確につくような戦い方だ。
そして、出会ってからユーリはクロノに色々と教えを乞うようになっていたので二人のプレイスタイルはより近いくなっていた。
「わかりました。やってみます」
クロノに「大丈夫」と言って貰えたことで安心したのか、ユーリは力強く頷いた。
「準備はいいか? 合図出すぞ。一……二……今だ!」
一番前でパラサイトマッシュルームに対峙しているアオハルは、二人が話している間に胞子の波の間隔を図っていた。
合図と共に胞子はぴたりと止まり、同時にクロノとユーリがアオハルの背後から両サイドに飛び出す。
「蔓だ! 向かってくるを予測して躱すんだ」
走りながらクロノが叫ぶ。
次の胞子を蓄えている間、パラサイトマッシュルームにできる他の攻撃手段は蔓のような触手による攻撃しかない。
無数の触手が器用に動き、二人をそれぞれ狙う。
一つ目の触手の奥から二つ目が、さらにその奥から三つ目が、というように連続で襲ってくるため、走りながら二つ目、三つ目を予測しつつ避け方を決めなければならない。
体感速度はかなりはやい。例えるなら、高速道路を走る車の間を縫って道路を横断するようなものだ。
クロノの要求はかなり高いプレイヤースキルを必要とするものだった。だが、クロノはユーリならできるだろうと信じていたし、ユーリも自分を信頼してくれるクロノのことを信じていた。
一つ目、目の前に迫った目線の高さほどの触手をユーリはスライディングで下を潜って躱した。
奥に迫る二つ目と三つ目も見えている。
二つ目は地面を這うような低さの触手。手をついて上に躱し、垂直に振り下ろされる三つ目の触手を横に回転しながら逸らす。
「すげぇ……」
飛び出した二人を唯一客観的に見れるアオハルが感嘆の声を漏らす。
華麗に飛び回るユーリの避け様が、アオハルにはまるで踊っているかのように見えた。




