第33話 洞窟の住人
この洞窟にはアリやクモといった虫タイプのモンスターが生息している。
クロノたちは時折現れるそう言ったモンスターたちと、できるだけ静かに戦う必要があった。
「うぅ……気持ち悪いよぉ。アリの酸とか、クモのねばねばとか、そういうところまで再現しなくていいのにぃ……」
「でも叫ばないだけ偉いよ。あの密集した感じ……俺も鳥肌が立ったから」
何度目かの戦闘の後、三人は小休止に入った。
アスランやエリファたちがどれくらい最深部に近づいているのかわからないのであまり休んでいる暇はないのだが、戦闘の最中にユーリがオオグモの吐く糸を浴びてしまったため、それを取り払う必要があった。
「他の人にバレちゃいけないから静かにしないといけないのはわかっているんですけど、さすがに目の前に来るとウッてなります」
「もう少しの辛抱だ。頑張ろうユーリちゃん」
弱音を吐くユーリの背中に付着した糸を慎重に取りながらアオハルが慰める。
その様子を横目に見ながらクロノは進行方向の洞窟の先に向けて耳を澄ました。
余っていたスキルポイントで「感覚強化」のスキルをできるだけ伸ばし、数十メートル先の気配を感知しようとしているのだ。
「どうだ?」
できるだけ声を潜めてアオハルが尋ねる。
クロノは静かに首を横に振った。
「モンスターが多いことくらいしかわからないな。戦闘音はしないから誰もいないとは思うけど、向こうがこっちに気付いてて対策しているんだとしたら何もできない」
クロノの記憶ではアスランとエリファは対人もガンガンするタイプのプレイヤーだった。
PKのような姑息な手段ではなく、闘技場システムや決闘システムを使った正々堂々した勝負に熱を淹れていたのを覚えている。
ただ、それ故なのかPKを企むプレイヤーに狙われるのは大歓迎、というスタンスでいくつかの対人向けスキルを伸ばしていたはずだ。
それがLEOのサービス開始当初からそうなのかはわからなかったが、対人向けに気配を消すスキルを既に取得していてもおかしくはない。
そうなると、実はクロノたちよりも先に最深部に向かっていて、こちらをPKプレイヤーと勘違いして奇襲を仕掛けてくる可能性もあるので、三人はより一層警戒して進むことにした。
「それにしても……まさかこんな風にかち合うなんてな」
洞窟の中を先に進みながらアオハルが呟く。
LEOにはゲーム内に一つしか存在しない武器や防具が数多くあるので、情報が広まるとこういった競争が起こるのは日常茶飯事だった。
だが、それは十年後のLEOを知っているクロノとっては、という話でありサービス開始から数か月しか経っていないこの時点ではまだ珍しい話だったのである。
「アオハルも覚悟しておいた方がいいぞ。『八犬守護者の聖鎧』の競争率はきっとこれの比じゃないからな」
クロノに言われて、アオハルは小さくため息を吐いた。
偶然入手したレア装備「八犬守護者の聖鎧」のことを思い出したからだ。
クロノに言われて全部集めることにしたのは良いものの、実際にその情報を集めようとしてみても具体的なことは何一つわからないのである。
「なぁ、本当に知らないのか? 装備の情報」
「悪いな。正直あの装備に関しては何も知らないようなもんなんだ、俺」
アオハルとユーリにとっては「何でも知っているクロノ」という立ち位置になりつつあるクロノも「八犬守護者の聖鎧」についてはほとんど何も覚えていない。
プレイスタイルと合わないからそもそも興味がなかった、というのもあるのだがやはり「リオウの愛用していた装備」というのが一番の理由である。
攻略情報を広く漁っていた日々の中で、確実にそれらの情報を目にしていたはずなのだが、記憶に蓋をしてしまったかのようにさっぱり思い出せないのだ。
「あ……来ますよ」
ユーリが静かに注意を促す。「気配感知」のスキルは彼女も強化していて、この三人でプレイする時の索敵役は主にユーリが勤めていた。
クロノが短剣を構え、その前でアオハルが両手剣を振り上げる。
初撃でアオハルがアリ型のモンスターを二体まとめて斬りつけ、打ち漏らした二体をクロノが手早く仕留める。
その横をすり抜けたユーリが後方に残っていた一体の羽根つきアリの胴体を細いレイピアで突き刺した。
「また頭に変なのついてますよ。なんなんですかね、これ」
倒したアリの頭をレイピアでつつきながらユーリが二人にアリの触角を見せる。
底には、硬そうな石のような、もしくは植物の種子のようにも見える丸い何かが付いていた。
ここまで倒してきたすべての虫型モンスターの頭に同じような物が付いているのを三人は確認している。
ユーリとアオハルは二人そろって首を傾げ、クロノは正体を知っていながら黙っていた。
攻略情報とネタバレは別物だからな。何でもかんでも知っていても怪しまれるだろうし――。
怪しまれるという点に関しては既に手遅れなのだが、そんな風には思っていないクロノは不思議そうにモンスターの頭を調べている二人を見て、微笑ましく笑った。




