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第32話 競争開始

アスランとエリファは、二人とも「紅の探究者」に所属するメンバーである。少なくとも、クロノの記憶ではそうだった。


二人とも現実世界で何か格闘技をしているらしく、それがLEOの戦闘にも活かされている。

クロノの様に「ゲームを知り尽くした上での強さ」ではなく「反射神経と運動能力」による強さだ。


タイムスリップする前は同じギルドに所属していたというのに、クロノは二人についてあまり詳しくは知らない。


二人は取り巻き数人とのチームを常に組んでいて、同じギルドメンバーであっても他者をあまり寄せ付けようとはしなかったのだ。


それでも、あまりいい印象は持っていない。


「あの口ぶり……あいつらも『白麗の蔓』を探しているのか」


通り過ぎ様に茂みの中で聞いた二人の会話。アスランとエリファたちの目的も自分たちと同じだと考えた方がいい。


クロノは身を潜めたまま、密かに彼らの後を追った。


アスランとエリファに取り巻きの三人を含めた五人のパーティーは、迷うことなくまっすぐに目的地に向かっている。


時折聞こえる会話を総括すると、情報屋から買い取った情報はかなり詳細なもので、洞窟までの入り口も完全にわかっている様子である。


「その分すごい額をぼったくられたわ。レアアイテムを見つけて元を取らないとね」


エリファがそう愚痴をこぼすのを聞きながら、クロノはアオハルとユーリの二人にメッセージを送る。


現在地と状況を簡潔にまとめた文章だ。


「すぐに合流してくれ」


メッセージの最後にそう記した通りに、二人は数分でクロノと合流した。


「同じ獲物を狙っているパーティーがついさっきあそこに入って行った。後を追おう」


クロノはアスランたちが入って行った洞窟を指さす。


ここまで来てようやく詳細を思い出し始めた。記憶の通りなら洞窟は複雑に入り組んだアリの巣の様になっていて、先に入ったパーティーよりも早く、最深部にあるレアアイテムを入手できるはずだ。


「でも……いいんでしょうか」


クロノとアオハルは乗り気だった。及び腰なのはユーリである。


「その人たちとアイテムを奪い合うことになりませんか?」


どうやらユーリは他のプレイヤーが狙っているアイテムをこちらも狙うことに躊躇しているようだ。


「向こうが入手したアイテムを奪うわけじゃない。お互いに狙っている状態なんだから、これはフェアな競争だよ」


アオハルが言う。ユーリは微かに頷いた。「頭では理解しているが、感情が否定して前向きになれない」という感じだ。


「それなら、先に行ったパーティーに気付かれない内にアイテムだけ貰って退散しよう。結構ギリギリだけど、急げば間に合うはずだ」


ユーリの懸念は「他のプレイヤーと争いたくない」というところに重点が置かれている。

「姿さえ見せなければ恨みようがない」というクロノのこの提案に、彼女はようやく心を決めた。


作戦を実行するため、三人は急いで洞窟の中に入って行く。


「間に合うかどうかはギリギリ」というクロノの作戦は、希望的観測に基づいている部分も大きい。


まず一つ目の希望。これは十中八九大丈夫なはずだが、もしかするとも違っているかもしれないという不安があった。


クロノの記憶の通りに「抜け道が存在するかどうか」である。


洞窟の中の入り組んだ構造は、白紙の紙に地図を書きながらでも相当に難解である。

ただ、正解のルートはいくつか決められていて、その中でも最短で最深部に辿りつけるルートをクロノは覚えていた。


その記憶に間違いがなければ……という希望だ。


二つ目の希望は、一つ目に比べて運的な要素が強すぎる。

「アスランやエリファたちは、内部構造の詳細な情報を持っていないだろう」という予測。むしろ願いに近い。


彼らは情報屋から購入した詳細な情報を持っていて、実際そのおかげでクロノたちよりも早く洞窟の中に入れたのだが、その情報に洞窟内部の構造まで含まれているのかは怪しいところだ。


「情報屋」といってもそれは一人のプレイヤーであり、ゲーム内通貨のために情報を売り買いしているような輩だ。


ゲームの攻略は二の次で、攻略情報を収集することに楽しみを覚えるタイプのプレイヤーたち。


情報屋本人が洞窟に入って内部を調査したとは考えづらいし、誰か他のプレイヤーから情報を買い取ったのだとしても、その情報提供者が「白麗の蔓」を所持していなかったのなら最深部まではたどり着けていない可能性が高い。


アスランたちが地図を作成しながら攻略を進めるのなら、先に最深部に着けるだろうという希望だった。


「とりあえず道は続いてそうだ。連中はもうここを通ったかな?」


クロノは記憶の通りにルートが繋がっていたことに一先ずホッとする。

身をかがめて目を凝らさなければ見逃してしまいそうなほど小さな横穴だ。アスランたちが初見で見抜けたとは思えない。


穴の中に首を突っ込んで耳を凝らすが、その先から音は何も聞こえない。


「よし、行こう」


クロノは二人を引く連れて、横穴の中に入り最短ルートを進んだ。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読み進めました。 面白い作品に出会えて嬉しいです。 続きが楽しみです!
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