第30話 ギルド限定
「ギルド限定ダンジョン、『残傷の古城』追加決定!」
モニターの中でナビゲーターの結城氏が叫ぶ。それに合わせてテロップが表示され、次に「残傷の古城」のイメージムービーが公開された。
新月の夜にのみ姿を現す古の城。そこは昔、大きな争いのあった戦場で、内部にはスケルトンを始めとするかつての戦士たちが待ち受ける。
それは、クロノの知っている通りの内容だ。しかし――「早すぎる」とクロノは唇をかんだ。
記憶の中のLEOでも「残傷の古城」は追加されている。だが、それは「月闇の塔」の追加アップデートから少なくとも半年以上は期間が空いていたはずだった。
それなのに、今まさにモニターの中で発表されているアップデート予定日はおよそ一か月後の日付を示している。
おかしいのはそれだけではない。クロノは「ギルド限定ダンジョン」という言葉にも首を傾げる。
言葉の意味はわかる。読んで字のごとく「ギルドに入っていないと攻略できないダンジョン」ということだろう。
だが、そんなコンテンツが追加された記憶なんてクロノは持っていなかった。
やっぱり、未来が変わっている――クロノはそう確信した。
「ラスボスの追加時期が変わるかもしれない」と予測はしていたが、あくまでも半信半疑だった。
時間の流れの中で、時を遡った自分が異質な存在だということは理解している。しかし、「俺一人の行動でこんなに未来が変わるものか?」という思いもある。
「残傷の古城」の追加に伴う変化が自分のせいなのかどうか、クロノにはわからなかった。
ただ、実際に新コンテンツが発表されてしまった以上やることは決まっている。
「あーあ、ギルド限定のコンテンツか。ソロプレイヤーには厳しいなぁ」
最後に大きな発表をして爪痕を残し、配信は終了した。モニターが消えるのと同時にアオハルがため息をつく。
「アオハルさんギルドに入っていないんですね」
「あー、ちょっと理由があってさ。あんまりそう言うのに関わらないようにしているんだよ」
この場にいる三人。クロノ、ユーリ、アオハルはそれぞれの事情で全員ギルドに入っていない。
クロノはタイムスリップする前にギルドメンバーからの裏切りにあったせいだが、他の二人も「ギルド」にはそれなりに苦い思い出があるのだ。
しかし、三人の心の中にある密かな思いは案外同じところを向いていた。
「こうやって友達と遊ぶ分にはいいんだけどな」
「そうですね。信頼出来て気心の知れた人とならギルドも楽しそうです」
アオハルとユーリの視線がクロノに向く。
二人ともどこか気を使っているような、お互いを探り合っているような微妙な雰囲気だ。
その雰囲気を察しつつ、やはり中々一歩踏み込めないクロノもたどたどしい口調で話に加わる。
「ギルド限定って『ギルドに所属した状態、かつギルドメンバーが三人以上いる状態』なんだな。……ほら、ここに書いてある」
インベントリから端末型のアイテムを取り出し、その端末でたった今発表されたばかりの配信情報のまとめ記事を開く。
二人が身を乗り出してクロノの端末を覗き込む時に、クロノは二人の様子を伺った。
「へ、へぇ……三人か」
「三人……」
微かに呟いて、ちらちらと視線を泳がせる二人を見て、クロノは「いけるかも」と腹をくくる。
断られたらどうしようかという思いもあったがこの反応なら大丈夫そうだ、と判断した。
「俺たちで、ギルドを作らないか」
一呼吸おいてクロノの口から出たその提案にアオハルとユーリはほとんど同時に強く息を吐きだした。
「よかった……」
「すいません……クロノさんに言わせてしまって」
二人もクロノと同じく、お互いをギルドに誘おうとしていたのだ。しかし、そこで懸念しなければいけないのは「クロノはどうやらギルドに入りたくないようだ」という憶測だった。
これだけ膨大な攻略情報を持っていて、現在もLEOの最前線をひた走り、「ルートキーパー」なんて呼ばれるようなプレイヤーなのに、クロノはギルドに所属していない。
ギルドに入れば情報収集も攻略ももっと楽になるはずなのに、それをしないということはそれなりの理由があるのだろう。
アオハルは大学で話す時の印象から、ユーリはここ数週間一緒に過ごした様子から、そう察していた。
だからこそ「ギルドを作ろう」と一言誘うだけのことにこんなにも緊張したのである。
「悪い、なんか気を遣わせたみたいだな」
二人の気持ちを察したクロノが苦笑する。あからさまにホッとした様子の二人に、なんだか気持ちが楽になった気がした。
「別にギルドが嫌いってわけじゃないんだ。ただ……アオハルと同じようにちょっとした理由があるだけ。でも、もう大丈夫だ。二人となら、一緒にギルドを作ってみたい」
過去に戻って来たことも、戻る前に何が起こったのかも二人に話すことはできない。それをしてしまうと、さらに未来が変わってしまう可能性があるからだ。
しかし、リオウに裏切られ「もう二度と誰も信用しない」と誓ったあの日の自分とは、何かが変わったとクロノは感じ始めていた。
ユーリと出会い、アオハルと一緒にプレイしたここ数日のLEOはクロノに忘れていた「何か」を思い出させてくれたのだ。
それは、紅の探究者に所属していた頃には決して感じることのできなかった「信頼」という名の「思い」だった。




