第29話 公開される情報
クロノは未来から来た。
未来ではLEOは十年もサービスの続く人気ゲームで、ラスボスの実装は多くのプレイヤーが待ち望んだコンテンツだ。
ゲームに関する記憶の中で一番新しく、リオウにギルドを追放された過去やクロノ自身がラスボスを倒したいと思ってゲームをプレイしていたことも踏まえると、一番関心のあった記憶である。
いつ、どのタイミングでボスが実装されるのかは事細かに覚えている。
では、なぜボス実装のタイミングで運営からの連絡を望むのか。
それはクロノの中で「未来が変わっているかもしれない」という疑念が生まれたからである。
記憶よりもずっと早く接触してきたリオウ。本来会うはずではなかったユーリとの動画協力。それらが引き金となり、クロノの知らない展開が発生した。
その延長に、一つ不安が生まれたのだ。「少しの変化で未来が大きく変わるかもしれない。そうなったら、ラスボスの追加される時期が変わってしまう可能性だってあるぞ」と。
バタフライエフェクト――映画やドラマなんかでよく耳にするそんな効果がクロノの頭に浮かんだ。
だから、ラスボスの実装が自分の知る時期とずれてもいいように事前に連絡が来る可能性のある「遺跡をプレイヤーホーム」にするという選択をしたのであった。
「なんでもいいけどよ。どうしてユーリちゃんと一緒に住むことになったんだよ。俺はそこが知りたいね」
アオハルが口を尖らせて言う。本当のことを言うわけにはいかず、クロノが口から出した曖昧なでまかせをアオハルは軽く受け流した。
ユーリとプレイヤーホームを共有している理由に明確な物はない。
アオハルは「一緒に住む」と表現したが、クロノにとっては少し違う。どれだけリアルでもここはゲームの中で、どうしたって現実とは違う部分がある。
同じ家に一緒に住んでいたって、生活まで共有するわけではない。個々に部屋が与えられ、個人の生活はその部屋の中で完結するのだから、「同棲」というよりは「同じアパートの隣人」という感覚に近い。
ユーリがたまたま拠点にする家を探していて、たまたまクロノが遺跡を購入した直後だった。
一緒に動画を投稿するのなら話し合いができる共有空間があった方が便利なので、ユーリにも遺跡の鍵を渡したというだけのことである。
「二人とも、新情報の配信始まっちゃいますよ」
ユーリが二人に声をかける。ここは遺跡の中で一番広く、各通路を通って様々な部屋に繋がる大部屋だ。
入り口から一番近い部屋で、使い勝手も良いので、クロノはここを「リビング」と呼んでいた。
サレスの町で買い込んだ、遺跡には似合わない様々な家具が置かれていて、ユーリはそのうちの一つのソファに腰を下ろしている。
彼女の前にあるのは現実ではきっと大豪邸にしか置けないような、巨大なサイズのモニターだった。
そのモニターには例の公式チャンネルが表示されていて、配信開始までのカウントダウンが始まっている。
「お、やべやべ。先にこれを見ねぇとな」
一体どこまで本気で言っているのか。それまでのクロノを羨んだ態度から一変して、アオハルはソファに座った。
ユーリの隣が空いているにも関わらず、右隣の少し離れた一人掛けのソファにだ。
「もしかして、ずっとからかわれているのか」と首を傾げながらクロノは反対隣のソファに腰を下ろす。
「LEO公式ニュース! 皆さんこんにちわ。ナビゲーターの結城リンです。LEOの正式サービス開始から早数か月! 新コンテンツも実装されて益々の盛り上がりを見せておりますが、今日も皆に素敵な情報をお届けしますよー」
カウントダウンが終了すると配信が始まり、進行役の女性が元気よく挨拶をする。
「うわ、声優の結城さんだ。すごーい」
とユーリが声を漏らすのを聞き、クロノは内心でツッコミを入れる。「そのすごい声優さんを押さえて、未来ではユーリがここに映っているぞ」と。
本業が声優だという結城リン氏は、聞き取りやすくかつ心地の良い声でLEOのアップデート予定を発表していく。
些細なバグ修正の情報に始まり、新装備の追加、新クエストの追加など様々だ。
それらを一通り紹介し終えると、画面が急に切り替わり期待感を煽る演出が入る。
「お、これ月闇の塔の発表の時と似た演出だな。かなり期待していいんじゃないか?」
とアオハルが前のめりになる。その反対側で、クロノは頭に疑問符を浮かべる。
演出は……確かに月闇の塔の時とよく似ている。視聴者に「何か大型コンテンツの柄があるかもしれない」と期待させるようなものだ。
しかし、どれだけ記憶を遡ってみてもこの演出に似合うコンテンツの内容が思いつかない。
月闇の塔が実装してしばらくは、プレイヤーは塔の攻略に夢中になり新コンテンツの追加もなかったはずだ、というのがクロノの記憶だった。
感上げているうちに演出は終わり、結城リンが声高々にアップデートを発表する。
「おお、面白そうだな」
「へぇ、そんなこともできるんですね」
その内容を受けてアオハルとユーリが思い思いに感想を述べる。
クロノは、その場で思わず立ち上がり、呆然とする。
「なん……だと……」
口から声が漏れ出て、視線は画面の文字に釘付けになった。




