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第28話 未来への投資

 LEOには、プレイヤーが自分用の拠点として購入できる「プレイヤーホーム」という機能がある。


 各町の空き家はもちろん、フィールド上にある廃墟でも、「人が住める状態であれば」そして、モンスターが出現しない「セーフエリア」の判定があれば、誰でも家を持つことができるのだ。


 町には大抵宿屋があって、少ない金額で宿泊ができる。ログアウトする時に部屋のベッドで寝ておけば、次にプレイするときにバフがかかり、備え付けの倉庫にはアイテムを保存しておける。


「プレイヤーホーム」はその宿屋の部屋の上位互換のような位置づけだった。


「ほー……ここが二人の家ですか」


 ゴアス廃坑を脱出した三人はそのままサレスの町へ……は向かわず、方向を少しそれて近くの森に足を運んだ。


 深い森を突き抜けると小さな渓谷があり、その岩壁にある巨大な遺跡がクロノとユーリが購入したプレイヤーホームだった。


「……って、ここ家か?」


 渓谷に同化するかのように建てられた遺跡はかなり古い物である。崖に沿うように部屋伸び、崖の中をくり抜いた様に奥に続いている。


 広さだけでいえば相当なものだ。主要都市の王城くらいはあるかもしれない。

 だが、これを家と呼んでいいのだろうか……とアオハルは首を傾げた。


 遺跡の壁の質感が何かに似ている。しばらくじっと壁を見つめて、アオハルはようやくその何かを思い出す。


「月闇の塔そっくりじゃねぇか。ということは……ここ、ダンジョンなんじゃ?」


 アオハルの言葉にクロノはわざとらしく首を傾げ、とぼけてみせる。


 実のところ、図星だった。

 過去に戻る前、最新のアップデートを経たLEOの中では、この遺跡は月闇の塔のように追加されたコンテンツ「ダンジョン」だったのだ。


 ただ、最初にこの場所が発見されたのはアップデートが入るよりもずっと前。

 一人のプレイヤーが、見つけネットで話題にした。


「プレイヤーホームにできる遺跡を見つけたんだけど買ってもいいかな。後に削除されたリしない?」という投稿文である。


 曰く、「セーフエリア判定はあるものの、どうも他の廃墟と雰囲気が違う」「もしかすると、運営が間違えて購入できるようにしてしまったのではないか」という内容だった。


 投稿主は購入してももしかすると途中で修正されてしまい、購入が無駄になるかもしれないと危惧していた。


 ネットは一時期そのプレイヤーの話題でもちきりになり、他のプレイヤーに「買え、買え」とはやし立てられて彼は結局遺跡を購入した。


 そして、その一連の流れを追ったまとめサイトまで誕生したのだが、運営からは何の音さたもなく、次第に忘れられていったのだ。


 再びネットに関連情報がアップされたのはサービス開始から十年近い時が流れ、LEOにラスボスが追加された直後である。


「悲報。長年住んだ我が家、実はラスボスとの同居物件だった模様」


 そんな記事をネットに投稿したのは例の遺跡の購入者だった。


 彼の買ったプレイヤーホーム「終極遺跡」は、ラスボスの追加に伴ってダンジョン化される予定の場所だったのだ。


 その記事をクロノは良く覚えていた。その時は「へー、そんなこともあるんだな」と他人事だったのだが、タイムスリップした時に絶対にこの遺跡を購入しようと心に決めていた。


「ま、まぁ似ているかもな。でも、人が住めればそれはもう廃墟だろ。実際購入もできてるし」


 まさか「未来でここにラスボスが追加される」なんていうわけにもいかず、クロノは曖昧にごまかした。


 多額の購入費用を捻出し、何とかここを購入した理由はラスボスに挑みやすいからではない。


 実際、タイムスリップする前にここを購入していたプレイヤーは、ラスボス追加のアップデート時に運営から退去するようにお願いされたらしい。


 十年後、もしもクロノの知っている通りの流れでラスボスが追加されるのなら、クロノも退去をお願いされるはずだし、それをわかった上で購入したのだ。


 そして、目的はむしろ「退去をお願いされる」ことの方にあった。


 クロノの記憶にあるネットの記事には、最新アップデートの前に運営から直接連絡がきたと記載されていた。


 その内容は、「次のアップデートでラスボスが追加されること」「そのラスボスが遺跡の奥に住んでいること」が記載されており、それに伴って「住居の変更をお願いしたい」という旨がとても丁寧に書かれていたというものだ。


 住居変更の条件として、購入資金の全額返却と新たな物件購入時に八割の割引を適用する権利も与えられたと記事には書いてあったが、クロノにとってそれはどうでもいい。


 重要なのは、記事に書かれた最後の文章。


「尚、ラストボスの追加に関しましては、公式から発表があるまで情報の公開を控えていたただきたく存じます」


 一人のプレイヤーに対して機密情報を明かした運営の誠意の見せ方、とかその約束を守り、例のプレイヤーが記事を公開したのはアップデートの後だったとか、そういう話もクロノには関係ない。


 クロノが遺跡を購入した理由とは、それによって「ラスボスが追加されるアップデートの前に、運営から連絡が来る可能性がある」からだった。

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