第27話 魔錬鋼採掘
「『人手のいる作業』って……俺の求めてたのはこういうことじゃねぇ!」
アオハルが大きな声で嘆く。その声が、深層の黒い岩肌に反響して響き渡った。
周囲を照らしてくれるのは頭に付けたヘルメットのライトだけ。そのライトが深層の広い採掘エリアの中に三つ点在している。
口では文句を言いつつも、アオハルはつるはしを振るう手を休めなかった。
既に何百、何千とつるはしを振って、「魔錬鋼」なる鉱石を掘り続けている。
現実世界なら、慣れない作業のせいで手には血豆を作り、筋肉疲労で腕は上がらなくなっていただろう。
それでも、アオハルはつるはしを振るい続ける。
「『魔錬鋼』が目標数に達するまではここからは出れない……いや、出さない」
人が変わったかのようなテンションでクロノがそう宣言したというのもあるが、それだけではない。
ユーリと少しでもお近づきになりたかったという下心も今は関係ない。
ただ、月闇の塔でクロノに手伝って貰ったお礼のためである。
気軽に誘ってしまった月闇の塔の攻略だが、アオハルが思っていたよりもずっと時間がかかってしまった。
クロノはそれに文句の一つも言わずに付き合ってくれて、さらには「硬骨」を無償で譲ってくれるユーリに引き合わせてくれた。
もちろんユーリにも「何かお礼をしたい」と申し出たのだが、彼女はこう言ったのだ。
「それなら、クロノさんを助けてあげてください。私も良くしてもらうばかりで、まだ何にも恩返しできていないんです」
先日の「レンジーの漁り屋」で初めて出会い、不意に二人っきりになった時の会話である。
アオハルは暗闇の中で顔を上げ、少し先の採掘ポイントを見た。
ヘルメットの光が小まめに揺れている。
ユーリがいる位置だった。
きっと彼女も同じなのだろう。クロノに何かしらお返しがしたくて、一生懸命につるはしを振っているのだ。
アオハルはつるはしを握る手に力を込め直し、表示される採掘ポイント目掛けて勢いよく振り下ろした。
「おー大漁大漁。これだけあればしばらく熟練度上げには困らないな。けど、本当に全部貰っちまってもいいのか?」
クロノが感嘆の声を上げ、「目標数達成」を三人がやり遂げたのは、それから数時間ほど経った後のことである。
わざわざ休日の時間のある日に集まったとはいえ、ここまで長い間鉱石を掘り続けることになると思っていなかったユーリとアオハルはぐったりとその場に腰を下ろした。
肉体的な疲労はない。翌日の筋肉痛の心配はしなくていいものの、精神的な疲労は十分溜まっている。
「集めた『魔錬鋼』はすべてクロノに使ってほしい」
というのは二人の総意だった。
もともとクロノが三人でゴアス廃坑を訪れたのは、魔錬鋼を大量に入手するため。
「採掘場所さえ知っていれば掘るのはそう難しくない」とされる魔錬鋼を掘り手を増やして集めるためだった。
それなのに「せっかくだから三人で等分にしよう」と謎の優しさを見せだしたクロノに二人が「それじゃ意味がない」とツッコミを入れる形になったのだ。
「別にいいって。俺たちはまだ生産系の熟練度を上げるつもりもないしな」
「はい。その代わり、何か作りたい武器や防具があったらクロノさんにお願いしますから」
二人はそう言って、それぞれ持ち込んだ栄養ドリンクに似た気力回復薬を口に運んだ。
クロノはその好意をありがたく貰っておくことにして、魔錬鋼を自分のインベントリに収める。
「そういや、LEOの新情報の公開日って今日だったよな?」
アオハルが思い出したように言った。
LEOでは定期的に公式のチャンネルからゲームに関する新情報が配信で発表されている。次のアップデートの予定日だったり、その内容だったり。バグの修正情報や開催されるイベント情報などだ。
サービス開始からおよそ一か月に一回公開されるこの情報は、ゲーム内に設置されたモニターで確認できるためLEOをプレイしていても見ることができる。
「あれすごいですよね。毎月何かしら目玉の新情報があるので見逃せません。運営さんの本気を感じます」
ユーリが頷きながら言った。
一か月に一回の情報解禁、というだけでなくその内容がかなり濃いために既に多くのプレイヤーの間で話題になっている。
実際に新情報を基にして月闇の塔などのコンテンツが付かされていくため、プレイヤーの期待値が高いのだ。
「今から戻れば十分間に合うぞ。もともと見るつもりで予定を組んだから」
とクロノが二人に告げる。
新情報の大まかな内容をクロノは既に知っているのだが、それでも情報解禁の配信を見逃したことはない。
タイムスリップする前の十年分の記憶には曖昧になっている部分も多く、その記憶と新情報をつなぎ合わせて攻略情報の材料にしているのだ。
「せっかくだし、三人で見ないか? どっかの宿屋の一室を借りてさ」
アオハルのこの提案にクロノはドキッとした。この次の展開がなんとなく予想できてしまったからだ。
「それなら、私たちの買ったプレイヤーホームで見ましょうよ」
まず、ユーリが乗り気になってそう失言する。ここまではクロノの予想通り。
「私たちの」「プレイヤーホーム」という言葉にアオハルが過剰な反応を見せるのも予想通りだった。
「クロノくーん? どういうことかなぁ……」
アオハルがグッとクロノに距離を詰める。その表情には先ほどまでの「クロノへの感謝」とか「お礼をしたい」なんて感情は一切消え失せていた。




