第25話 ネクストステージ
大いに時間のかかったアオハルの悩みは、勉強の息抜きにログインしたユーリのおかげで幸運にも簡単に解決する。
「『硬骨』ですか? 私、この前手に入れたやつまだ持ってますよ」
彼女はそう言って、さらにそれを気前よくアオハルに譲ると言ってくれたのだ。
クロノがこの店にやって来た経緯を彼女に話した後のことである。
「本当にいいのか?」
「ええ、紹介する動画はもう撮りましたし、自分で使おうとは思っていませんので」
ユニークスキルには、覚えられる数に制限がある。スキルポイントを貯めて強化することはできるが、入手した端から覚えまくるというパワープレイはできない。
プレイヤーは自分の持っている武器や、目指したいプレイスタイルを参考にしつつ取得するユニークスキルを選択する必要があり、ユーリの望むプレイスタイルに「硬骨」は含まれていなかった。
「でも偶然出会えてよかったですね。気分転換にちょっとお買い物するくらいの軽い気持ちだったんですけど、来るのがもう少し遅かったらアオハルさん開封書を手放しちゃうところだったんですもんね」
ユーリがにこやかにそう言って、自分の持っている「硬骨」の開封書をアオハルに渡す。
「本当にありがとう!」
アオハルはそれを受け取り、自分の推しに貰えたという点も相まってクロノが見たこともないほどの興奮状態である。
「とりあえずこれで一件落着だな。全部ユーリのおかげだけど」
月闇の塔から数えれば数時間。夜も大分深い時間帯だ。
何かに取り組んでいる最中はあまり気にならないが、ひと段落すると途端に疲れが襲ってくる。
クロノが一息つこうと胸を撫でおろしかけた時である。
「いや、話はまだ全部終わっていないぞ」
とアオハルがクロノの肩に強引に手を回す。その目には、依然としてユーリへの熱意が燃えている。
「な、なんだよ……」
その圧に圧倒されながらクロノが尋ねると、アオハルは少し恥ずかしそうに、そしてユーリにはけっして聞こえないように声を細めてこういった。
「三人でどこか攻略に行く約束を取り付けてくれないか」
途端にクロノは肩の力が抜ける感覚に襲われる。
「お前な……なんか情けねぇぞ。フレンド登録したんだから直接誘って二人で遊べばいいじゃねぇか」
「バ、バカ。二人は無理だ。もしもなんか粗相をして嫌われちまったらどうすんだ。お前が間に入ってくれなきゃ、俺はきっと一言も話せねぇぞ」
ますます情けない――そう思いつつクロノがため息を漏らす。口に出さないのはせめてもの友情だ。
「もちろん彼女とどうこうなるつもりは全くない。ただ近くでそのお姿を推したいこの気持ち、お前ならわかってくれるよな」
正直クロノにはあまりよくわからない感情だった。タイムスリップする前の過去も含めて、アイドルか何かに熱狂的にハマったことはない。
ここまで熱狂的になるアオハルのことを正直若干気持ち悪いとも思っている。
しかし、ただそれだけではなく、アオハルの純粋な熱意に心を動かされそうになる気持ちもないわけではない。
「なぁ頼む。学食の食券一週間分奢るから」
結局はこの言葉が決め手となり、クロノはアオハルの頼みを承諾した。
「ユーリ、テスト終わるのいつだっけ」
「今週の金曜日です。だからその日の夜からならがっつりプレイできますよ」
金曜日なら翌日は土曜日。大学も高校もない。
これは都合がいい、とクロノはその日にユーリとの約束を取り付けた。もちろんアオハルも含めての約束だ。
「いいですけど、何をするんです? 月闇の塔ですか?」
ユーリが尋ね、クロノは首を横に振る。
月闇の塔は追加されたばかりのコンテンツで、攻略もまだ十分にはできていない。「ユニークスキルの開封書」や「スキル経験値」も入手できるし、上層階ではアイテムのレアドロップもあるため攻略したい気持ちはあるが、正直それは一人でも事足りる。
せっかくなら、人数がいないとできないことをやろう。
クロノはそう考えていた。
「人数がいないとできないこと?」
「いったいなんでしょうか」
もったいぶるクロノに対し、アオハルもユーリもあまりピンときていない様子だ。
そんな二人にクロノはさらにもったいつけてから高らかに宣言した。
「素材集めだ」
♢
金曜日。午後八時。
学校と、宿題や課題、夕といったそれぞれの用事を済ませた一同はLEOの中で集合した。
場所はサレス地域の南端。「ゴアス廃坑」と呼ばれるエリアである。
そこに集まった三人の格好を見てみると、いつもの黒い軽鎧でも、店売りのドレスアーマーでも、金属製の全身鎧でもない。
三人が一様に長袖長ズボンの作業着、ライト付きのヘルメットを身に着けている。
その姿にはファンタジー世界の要素は皆無である。
「可愛くない……」
「なんか建設業のアルバイトを思い出すな」
ユーリとアオハルがそんな小言を言うのをクロノはあえて無視をした。
別に絶対にこの格好でないといけないわけではないのだが、クロノ曰くこれは「気分の問題」である。
これから行う地道で途方もない作業を少しでも楽しんでもらおうという彼なりの計らいだった。




