第23話 漁り屋
「漁り屋」とはLEO独自の商店システムである。
LEO内の各主要都市に隠れ商店で、店名の頭にはその店のNPC店主の名前が記載される。
町には道具屋、武器屋と様々な商店が存在するが「漁り屋」がそのどの商店とも違うのは「プレイヤーが売り払ったアイテムを売っている」という点だった。
「『漁り屋』の店主にはどれも固有の性格設定があってさ、町の中を廻って商店を巡り、プレイヤーが売ったり捨てたりしたアイテムを好んで集めてくるんだ」
時には町中のごみ箱を漁っている姿を目視できることから、この店は「漁り屋」という名前なのだとクロノは説明した。
その間に店の奥からレンジーが戻って来て、古びた羊皮紙のような紙を店のカウンターの上に置く。
「これは?……ああ、商品の一覧か」
「名前のところを指でなぞると、売っている商品が画像付きで確認できるぞ」
アオハルは、クロノに言われるまま商品一覧の一番上の名前を指でなぞる。
システムウィンドウが目の前に開き、「飛竜区の粘土欠片」というアイテムが表示される。
「飛竜区って……あのワイバーンが飛び回ってるところか。粘土欠片ってごみアイテムだよな?」
飛竜区は二人が今いる「サレス」の町と、一つ前の町の間にあるワイバーン系のモンスターが頻出するエリアである。
その地で飛び回るワイバーンが一定確立で希少な功績を落とすので、それを集めておくと後の武器強化に役立つという情報をユーリが動画にして紹介していた。
「粘土欠片」は落ちている鉱石の中に紛れており、所謂外れアイテムだ。
アオハルはそのことを思い出し、少し落胆する。
「なぁ、ここで『硬骨』の開封書を買おうってことだと思うんだけど、さすがに無理なんじゃないか?」
プレイヤーが売ったり捨てたりしたものを売ってくれるというのは確かに魅力的だが、明確な外れアイテムまで売っているところを見ると期待値はかなり低い気がしたのだ。
「『漁り屋』が買い集められるのは基本的に自分の店がある町の範囲だけだからな。飛竜区から一番近いこの町で荷物整理したプレイヤーの落とし物が紛れているんだろ。でも、『硬骨』は絶対にここにあるぜ。いいからリストを隈なく探してみろよ」
クロノに言われ、アオハルは商品リストに視線を戻す。
「隈なく探せ」と言われても、文字ばかりの商品リストは目が滑る。
大半は指でなぞる必要性も感じないほどの外れアイテムばかりだし、そういうアイテムはレア度も低いのでかなりの数が重複していた。
これだけの数を記載するには文字だけの方が都合がいいのはわかるが、これでは目当てのアイテムを見つけるのも難しい。
アオハルがそう思った時――
「あった」
ふと視線が吸い込まれるように、商品リストの文字に目が留まる。そこには確かに「ユニークスキルの開封書『硬骨』」の文字が記載されていた。
指でなぞり、ウィンドウを開く。間違いなく、アオハルの求めていた開封書で間違いない。
商品リストには、その商品が商店に売られた場合に限り、売ったプレイヤーの名前と買い取った商店の名前が記載されている。
アオハルは商品名の横に目を動かす。
「……って、お前じゃねぇか」
「硬骨」の開封書を売ったプレイヤーの名前は「クロノ」、買い取った商店の名前は「レンジ―の漁り屋」である。
クロノは少し気まずそうに笑う。
「いや、悪い。もっと早く教えてくれればすぐにここに案内したんだけどよ。まさかアオハルが『硬骨』を求めているとは思わなくて……」
「硬骨」の開封書を売り払ったのは、ちょうどユーリの「月闇の塔」に関する動画が上がった日だった。
動画で紹介するための開封書を彼女と共に三日間かけて集めていたところ、偶然にも『硬骨』の開封書が二つダブったのである。
一つは動画紹介のためにユーリに渡し、もう一つはクロノが預かる。しかし、クロノは「硬骨」を使う予定はなかったので、金策のつもりで売り払ったのだった。
「そうならそうと早く言ってくれれば……」
「いや、なんか気まずくてよ……。だって、その、購入金額がさ」
アオハルは商品リストに記載された開封書の金額を確認した。そして、その額に目を見開く。
「ゼロの数間違ってねぇか、これ」
「大丈夫。適正価格だ」
「俺の身に着けてる装備全部より高いぞ」
「そうか? 『屍竜の刃』と『八犬守護者の聖鎧』を足したら同じくらいだろ」
まだ数か月程度しかLEOをプレイしていないが、それでもアオハルにとは「見たことのない額」である。
到底持っている所持金では足りるはずもないが、アオハルはクロノが「手に入れた開封書をすべて失ってもいいか?」と尋ねたのを思い出す。
あの時にはクロノが既にこの店のことを思い出していたとするならば、入手した開封書を手放せば「硬骨」を入手できるということだ。
「開封書の取引に関しては、同価値の開封書を三つ渡すことで物々交換にも対応してくれるんだ。まぁ、手に入れた開封書の内容を考えると、あまりおススメはできないけどな」
クロノはそう言って、アオハルに入手した三つの開封書をインベントリから出すように促した。




