第22話 ユニークスキル「硬骨」
「硬骨」は汎用性の高い防御スキルである。
「ユニークスキルの開封書」を入手後、アイテム使用によって覚えられるユニークスキルで、その後はスキルポイントを割り振ることで最大レベル5まで取得することができる。
LEOにはタンク、ヒーラー、アタッカーという所謂、戦闘の職業システムは存在しない。
プレイヤーは入手した武器に合わせて自分のプレイスタイルを確立していくか、プレイスタイルに合わせて相性のいい武器を探すことが求められる。
しかし、プレイヤーの中には連携を重視し、チームでの戦闘をしやすくするために敢えて盾役を担おうとするプレイヤーも一定層いる。
「硬骨」はレベルによってプレイヤーの防御力ステータスにバフが入るため、防御力を重視するプレイヤーにとっては必須級のユニークスキルだった。
「でも『硬骨』か。レアドロップの中ではそんなに出にくい印象はないけど、俺たちのドロップ運がそこそこ良いことが逆に影響しているな」
地下一階層では本来滅多に出ない武器ドロップをアオハルが。そして五階層のナイト・レイド・トレイン周回では一周に一度のペースで開封書をドロップしている。
傍から見れば、これはかなり運の良い方だ。だが、その運の良さ故に「硬骨」よりもレア度の高いアイテムばかりがドロップしてしまっている。
これは一種のオカルトのような話ではあるが、クロノは経験上「こういう時は何時間探し求めても中々狙ったアイテムが出ない」ということを知っていた。俗に言う「物欲センサー」というやつだ。
「なぁ、今まで手に入れた『ユニークスキルの開封書』って『硬骨』が手に入るなら手放しても問題ないか?」
何かを思いついた様子でクロノが尋ねる。アオハルは首を傾げながら頷いた。
「俺は別に構わないけど……お前はいいのか?」
アオハルは、「硬骨」以外の入手した開封書をすべてクロノに譲るつもりでいた。長時間月闇の塔に付き合ってもらった報酬の代わりだ。
しかし、クロノは「必要ない」ときっぱりと言った。
「ただ、アオハルにはこの先絶対に『八犬守護者の聖鎧』をすべて揃えて貰う。それが条件だけどな」
「八犬守護者」シリーズの最も優れた能力は「全身すべて身に着けると、装備者の防御力を攻撃力に上乗せする」というチート級の特殊効果である。
これによって装備者は攻防一体の強さを手に入れ、LEO初心者だったとしてもボス級の敵と戦えるようになる。
もしもそれが十分にこの世界になれたプレイヤーだったのなら、最前線のプレイヤーに一気に追いつくレベルになってもおかしくはない。
そして、この鎧こそ過去に戻る前のLEOで紅の探究者がラスボスを討伐できた一つの要因であるとクロノは考えていた。
まさか、アオハルがその装備を自力で見つけていたなんて――クロノは、どうにかしてリオウより先に「八犬守護者」シリーズを手に入れられないか、頭の片隅に留め置いていたのだが、その方法が思い浮かばずに半ばあきらめかけていた。
突如として舞い込んできたチャンスに思わずテンションが上がってしまっている。
二人はボスの集会を辞め、月闇の塔を脱出した。その足で向かったのは一番近くにある町「サレス」である。
「こっちだ」
クロノは今、このサレスの町を拠点にしている。月闇の塔に一番近いというのが主な理由だが、店が密集して配置されていたり、裏路地に入れば隠れた名店があったりと使い勝手がよいのだ。
既に自分の家の庭の様に知り尽くした町の中をアオハルに案内する。
裏路地に入り、入り組んだ細道を抜けて、ぽっかりと空いた空間に出る。周囲を建物に囲まれた裏庭のような場所に小さな店が鎮座していた。
「ここは?」
「ああ、多分まだ俺しか知らない隠れ商店だ。一応他の人には言わないでくれよ」
クロノの知っている情報は、全て過去に戻る前のLEOでは常識になっているようなものばかりだ。
ということは、クロノがどれだけ隠そうとしてもいずれはバレて情報が広まる。
それは十分わかっているが、せめて情報が広まるまでは他のプレイヤーよりもいい思いをしたい、というのもゲーマーならば仕方のない感情である。
店の扉を開き、中に入ると赤茶色のフードを被った小柄なおばあさんが店主を務めている。
腰が酷く曲がっているせいで実際の身長よりもさらに小柄に見えるおばあさんは「レンジー」という名前のNPCだった。
「レンジー、最近買い集めた物を見せてくれ」
「フォッフォ……お前さんも物好きじゃな。どれ、ちょっと待っておれ」
クロノが尋ねると、レンジーはスムーズな会話の流れでそう言って、店の奥に消えていく。
「おい、ここ何の店だよ。怪しすぎるんだけど……」
店の雰囲気に気圧されたのか、アオハルが小声で抗議する。仮にレンジーの前で直接店を貶したとしても、NPCである彼女はなんの感情も示さないがそうだとしてもアオハルはレンジーに聞こえないように配慮した。
「なんていえばいいかな。……わかりやすく言えば中古ショップだよ。買取をしてて、買い取ったものを他の人間に売っている店。よくあるだろ?」
二人が訪れたのは「レンジーの漁り屋」という名前の古道具屋だった。




