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第21話  忌まわしき鎧

「お、また出たぞ開封書」


 すっかり慣れた様子でアオハルがドロップアイテムを確認する。


 ボス部屋でナイト・レイド・トレインを見事に倒した二人は、この作業を既に三回繰り返していた。


 周回方法は単純で、ボスを倒した後すぐに月闇の塔を一度脱出し、一階層戻ったセーブポイントから再入場するだけだった。


 再開するとき、セーブポイントに設定した階層のボスは復活しないが、次の階層までのモンスターとボスは復活する。


 クロノが一度地下四階層のセーブポイントまで戻ったのはそのためだった。


 二人が入手した「ユニークスキルの開封書」はこれで三つ目。ボスを倒した回数も三回なので、ナイト・レイド・トレインを一体倒すごとに一つレアアイテムを入手していることになる。


 これは単なる偶然だったが、開封書のドロップ率を考えると運はかなり良い方だ。ただ、それでもアオハルの望むものではなかったらしい。


「やっぱ結構きついなぁ、欲しいユニークスキルをピンポイントで出すなんて」


「『魔物探知』も『探究心の証』も結構いいスキルだぞ? 何のユニークスキルが欲しいんだよ」


 クロノが上げた二つのユニークスキルは、これまでに二人が入手した開封書の名前である。「魔物探知」が最初のボス戦と三回目のボス戦でダブり、「探究心の証」が二回目のボス戦で出ている。


「魔物探知」はその名前の通り、フィールドにいるモンスターの居場所を数分に一回探知できるというもので、「探究心の証」はそれの宝箱版。「魔物探知」よりも時間の制限が長いものの、一定時間で宝箱の位置を知れる優れたスキルだった。


「あー……こんだけ手伝って貰ったし、クロノになら話してもいいかもな」


 アオハルはその場に腰を下ろし、休憩しようと身振りで伝える。

 クロノは、アオハルの隣に少し感覚を空けて腰を下ろした。


 この口ぶりだと、アオハルは何か特別な情報を入手したようだ――とクロノは思った。LEOにおいて情報の価値はそれなりに高い。


 無闇にひけらかせば、痛い目を見ることもある。クロノはそれを身をもって知っていて、タイムスリップしてからは特に気を付けていた。


 ユーリと手を組んでからも教えているのは自分にとってほとんど意味をなさない情報ばかり。最終目的であるラスボスの討伐に関わる情報は明かしていない。


 情報の価値を知っているからこそ、これまでクロノはアオハルに何も尋ねなかった。

 しかし、ナイト・レイド・トレインを三回倒して、時間はそれなりに経過している。


 クロノは夜通しでもLEOをやり続けるつもりでいるが、明日も大学があるアオハルにはきついだろう。それならば、せめて求めているユニークスキルの名前でも教えてくれれば少しは手助けできるかもしれない。


 そう考えて質問したのだった。


「これ、アイテム情報のスクショ。メッセージで送るわ」


 アオハルが自分のコンソールを操作し、クロノにメッセージを送る。

 通知画面を選択して、送られた画像を見たクロノは、少し驚いた。


「お前、これ……どこで」


 送られてきたのはLEOで手に入るユニーク防具シリーズ。「八犬守護者の聖鎧」のガントレットの画像だった。


「八犬守護者の聖鎧」――それはクロノがLEO内であまり目にはしたくない名前だった。

 全身分の鎧がゲーム内に各一つずつしか存在しないユニークアイテムで、その性能も凄まじいが、全身揃えた時の特殊効果がチート級のアイテムだ。


 ただ、クロノの頭の中ではそんな情報はどうでもよくて、忌まわしい男の顔がちらついている。


「八犬守護者の聖鎧」は紅の探究者、代表リオウが愛用していた装備だった。


「実はこの間偶然そのガントレットを手に入れてさ、説明文読んだら、合計で五か所も同じ装備があるみたいで……集めてみたい気はしていたんだけど全部そろえるのも大変そうだし、売っちまうのもいいかなって悩んでいたんだよ」


 アオハルが口早に説明する。見つけた時のことを思い出してテンションが上がっているせいか、クロノが驚いていることは気にも留めない。


 クロノは少し深めに呼吸をして、高まった脈を落ち着かせた。

 たかが鎧だ。アイツを思い出すことはない――そう言って自分を落ち着かせ、心を静める。


 アオハルの話で、クロノは大体の事情を察していた。

 過去に戻ってくる前、リオウは確かにこのユニーク装備を全身分揃えていた。しかし、それをすべて自分で集めたのかといえばそんなことはない。


 リオウはLEOで金策をして、プレイヤーから装備を買い取っていた。それは恐らく膨大な金額が必要だったのだろう。それ自体は責められるような内容ではない。


 つまり、タイムスリップする前のLEOでもこのガントレットを最初に見つけたのはアオハルで、全身集めることを諦めた彼はそれをリオウに売ったのだ。


 その間には誰か他の人の手を介しているかもしれないが、結局最後はリオウの手に届いたことは間違いない。


 では、なぜ今アオハルはこれを売らずに持っているのか。ただ、売る時期がまだ先なだけか。それとも……。


 ユーリの動画だ――クロノの中で、点と点が線でつながっていき、いっきに腑に落ちる感覚があった。


 もしもアオハルの未来が変わっているとしたら、そこには恐らく自分の存在が関係している。

 ユーリに教えた情報で、彼女が動画にした内容。それを見てアオハルは売るのを躊躇した。


 本来ならば売っていたはずのアイテムは、本来出るはずのないタイミングで公開された情報によって売られなくなった。


 未来が変わったのだ。


「欲しいスキルは『硬骨』か」


 クロノがそう呟くと、アオハルは意外そうな顔をして、すぐにニヤッと笑った。

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