第19話 ナイト・レイド・トレイン
地下五階層をぐるぐると周りモンスターを片っ端から倒すというそれまでの行動から一転して、二人は一度地下四階層のボス部屋まで移動した。
「今日はもうやめるのか?」
ボス部屋に設置された祠に触れ、セーブポイントを作るクロノを見て、アオハルが首を傾げる。
「やめないよ。ここを開放しておくと都合がいいんだ」
クロノは、タイムスリップする前のLEOで初めて月闇の塔が実装された時期の記憶を遡りながら答える。
十年弱昔の話ではあるが、概要は間違っていないはずだ。微細な違いはあるかもしれないが、大枠が合っていれば何とかなるはず。
そんなことを考えながら、クロノはアオハルと共に、地下五層のボス部屋に向かった。
「ここのボスはナイト・レイド・トレインって名前だ。ボス自体は大して強くないけど、HPが減ると手下のモンスターを複数体召喚するから気をつけろよ」
ボス部屋に着くと、クロノがそう忠告する。
「お前、もう地下五階層のボスまで倒していたのかよ。すげぇな」
「……まぁな」
アオハルが驚いたような声を上げ、それにクロノは曖昧に返事をする。実際にそのボスと戦ったのはタイムスリップする前の話だが、それを説明するわけにはいかない。
二人はそれぞれ剣を抜き、中央で座して待つボスモンスターの元へ向かった。
ナイト・レイド・トレインは騎士甲冑を身に着け、人馬一体となったケンタウロスを模したモンスターである。
身体が大きく、槍を扱うので攻撃範囲がやたらと広い。さらに馬の足を利用した機動力で迫ってくるため、初見だと中々難しい相手でもある。
「攻撃を避けたら背後を取るように立ち回るんだ。こいつの弱点は『小回りが利かない』こと。背後を取った方が戦いやすくなる」
走りながらクロノの忠告が飛ぶ。アオハルは頷き、両手剣を握る手に力を込める。
ナイト・レイド・トレインが槍を振り上げる。狙いをアオハルの方に定めたらしく、馬脚を利用して鋭い速さで駆け寄ると、その勢いを利用して強力な突き攻撃を繰り出した。
「うおりゃ!」
アオハルが両手剣を振る。槍の穂先に狙いを澄まし、上手い具合にはね上げる。
「今だ!」
アオハルが叫んだ。クロノは背後を取れ、と言ったが両手剣を扱うアオハルにナイト・レイド・トレインを上回る敏捷性はない。
クロノだってそれはわかっているはずで、それでも弱点が後ろ側だと教えてくれたのは「背後を取りやすいようにサポートしてくれ」という意味だとアオハルは解釈した。
阿吽の呼吸、と言うにふさわしいベストなタイミングで、クロノはアオハルが叫ぶのとほぼ同時にナイト・レイド・トレインの脇をすり抜けて、懐に潜り込む。
得意の戦法ですれ違いざまに一度切りつけ、ヘイトをアオハルから自分に向けさせる。
振り向きざまに放たれた槍の横薙ぎを頭上に跳んで躱し、着地と同時に、今度はナイト・レイド・トレインの正面から深く切りつけた。
二人でボスを挟むような立ち位置になる。
ナイト・レイド・トレインがクロノの方に身体を向ければ、当然その背中側はアオハルの方に向いている。
「背中ががら空きだぜ!」
アオハルは両手剣で目の前の背中を大きく斬りつけた。ナイト・レイド・トレインのHPはみるみる減っていき、その後も続く二人の猛攻によってついに総量の半分を切った。
「来るぞ」
クロノが告げる。それを合図にするかのようにナイト・レイド・トレインがモーションを変え、大きく咆哮した。
頭上に魔法陣のようなものがいくつも展開され、その中から鎧で防御を固めた犬型のモンスターに騎乗したゴブリンたちが一斉に降り立つ。
「はは、名前の意味がなんとなくわかったぜ。これはまさに……トレインだ」
アオハルが士気の高い笑い声をあげる。現れた騎乗ゴブリンたち――ドッグファイターは、再び動き出したナイト・レイド・トレインの背中を追うように隊列を組んでボス部屋の中をぐるぐると回っている。
一列になったその様子はまさに電車のようである。
「さぁ、来るぞ。手下を引き連れた攻撃が」
クロノは短剣を握りなおした。改めて意識を集中させる。
この戦いの山場はここだ。複数の手下と共に突っ込んでくるナイト・レイド・トレインの攻撃は騎馬隊の突撃に等しい威力を持つ。
槍の一撃を喰らえば大きなダメージになるが、ただ突っ込んでくるだけの波に飲みこまれるだけでも十分に危険だ。
ただ、ここを乗り越えれば大きなリターンが待っている。
「もしかしてだけどよ、召喚されたあの手下たち一体一体にドロップの可能性があったりするのか?」
突撃してくる騎馬群を前にして、アオハルがそう尋ねた。クロノはにやりと笑う。
「正解。わざわざここに来た意味がわかったろう」
クロノはようやく明かした。
ナイト・レイド・トレインが呼び出す配下のモンスターには、それぞれにしっかりと倒した時のアイテムドロップが抽選が割り振られている。
ナイト・レイド・トレインは一度の戦闘で二回配下を呼び出す。このボス戦で二人が倒すモンスターの数を合計すると、恐らく地下五階層を一時間彷徨うよりも遥かに多い。
「もっと早く思い出すべきだったな」
今日で数時間。それはまだいいとして、ユーリと挑んだ時に三日間を費やしたことをが悔やまれる。
でもまぁ、仕方ないか――とクロノは自分で自分を慰めた。
クロノがこの方法を忘れていたは、これがタイムスリップする前のLEOで月闇の塔が実装された後、僅か一か月で修正されてしまう方法だったからだ。




