第18話 友と攻略
新たな武器「屍竜の刃」を手に入れたアオハルと元々地下階層に精通しているクロノはその後も危なげなく攻略を進めていく。
地下一階層から二階層へ進み、最後のボスを倒して三階層へ。そのまま三階層も踏破して、ついに四階層のボスまでたどり着いた。
月闇の塔では、次の階層に進むほど敵が強くなっていく。一階層と二階層のボスには危なげなく無傷で勝利した二人だが、三階層ではアオハルが一太刀受けてしまいダメージを負った。
そして、それより強くなる四階層のボス戦では、二人ともそれなりの緊張感を持って臨んでいた。
とはいっても「苦戦」というほどではない。初見で戦うアオハルは多少気疲れしたが、未来の知識を持つクロノにはまだ余裕があった。
その余裕のおかげでアオハルへの適切なサポートが可能になり、戦いやすくなったアオハルがボスの動きに慣れてきたころに「屍竜の刃」でトドメを刺す。
「ふぅ……さすがにちょっと疲れたな」
光るエフェクトと共に消えていくボスモンスターを見送りながらアオハルが呟く。
クロノはまだ余力を残していたが、別に無理をする理由はない。アオハルの発言に同意して、少し休憩することにした。
「もう四時間くらい経ってるな。飯とか大丈夫か?」
現実そっくりの感覚を再現しているとはいえ、LEOがゲームである以上、ゲーム内の食事で空腹は補えない。味は感じるし、空腹感を紛らわせるくらいのことはできるが、栄養を取れるわけではないのだ。
実際VRハード機が発売されたばかりの頃は、熱中しすぎて食事を忘れ、栄養と睡眠不足で倒れるプレイヤーのニュースをテレビで何度も報道していた。
「ああ、大丈夫。始める前に適当に食べてきたから」
クロノの質問にアオハルが返す。クロノはくすっと笑った。LEOを起動する前に適当な菓子パンを口に詰め込んだ自分を思い起こしたのだ。
大学二年生、一人暮らし、ゲーマーの言う「適当な食事」がどれくらい粗末なモノなのかは容易に想像できる。
ゲーマーなんて皆同じか――と苦笑する。しかし、仕方のないことだ。LEOにはそれほどの魅力が詰まっているのだから。
「明日の講義何限から?」
「明日……ああ、必修科目のない日か。なら明日は休みだな」
「は? 二年生から講義のない日作ってんのかよ。余裕あるなお前」
「なるべく同じ日に纏めて講義を取るようにしてんだよ。その方がゲームする時間を確保しやすいだろ」
いつもはしないような会話を、いつものテンポで交わす。大学にいる時にはゲームの話しかしないのに、ゲームの中では大学の話をしてるのがクロノには少し不思議だった。
「じゃあ、今日はまだやれるよな?」
アオハルが確認するように言いながら立ち上がる。
月闇の塔の各階層のボス部屋の後ろには、同じ形をした祠が建てられている。
プレイヤーがその祠に触ると位置が記憶され、一度月闇の塔から外に出ても、また同じところから再スタートできる仕組みだ。
クロノはアオハルの問いに「もちろん」と返し、二人は祠を素通りして地下五階層へと向かった。
♢
「スキル経験値って案外溜まんないもんだなぁ」
目的地である地下五階層にたどり着いた二人は、ボス部屋を目指すのではなくランダムに出現するモンスターを倒して回っている。
ちょうど、地下一階層でアオハルのレベルを50に上げようとした時の様にわざと行き止まりの道を選んだり、罠にハマったりして、モンスターをおびき寄せる方法だ。
二人が狙っているのは「ユニークスキルの開封書」だが、副次的にスキル経験値も集めている。
アオハルが落胆したように呟いたのは、何度目かにモンスターを倒した後のことだった。
「そりゃそうだろ。レベルと違ってスキルポイントには上限がないからな。簡単に入手できるとゲームが破綻する。レベルを上げるよりも遥かにきつい作業だよ」
それでも、未来じゃこのスキル経験値を求めて多くのプレイヤーがこの塔に足を運んだんだ――とクロノは心の中で付け足した。
LEOではプレイヤーの能力を向上させることができるスキルシステムが採用されている。
スキルポイントはレベルを上げることで入手できるが、十年後のレベル上限である95になってもすべてのスキルを取得できるわけではない。
そこでプレイヤーが目を付けたのが、二人が挑んでいる月闇の塔をはじめとする今後追加されていく予定のダンジョンだった。
「ユニークスキルもレアドロップだしなぁ。地道にやるしかないのか」
スキル経験値はものすごい量の魔物を倒さないとスキルポイントにはならず、「ユニークスキルの開封書」も低確率のドロップアイテムなので滅多にお目にかかれない。
ユーリが動画で紹介する僅か三つの開封書のために、クロノは三日間この地下五層に入り浸っていたほどだ。
「あっ……」
不意にクロノが声を上げる。それは、何か忘れていたことを急に思い出した時に出る、忘れていた自分を馬鹿にするような声だった。
「ああ……そっか。そうだ。なんで忘れていたんだ、俺……」
一人で納得したような素振りを見せるクロノにアオハルが首を傾げる。
クロノは、そんなアオハルに向き直り少し申し訳なさそうな顔をしながら
「悪い、別の方法もあったわ」
と言った。




