第16話 月闇の塔
月闇の塔は地上百階、地下二十階で構成される|インスタンスダンジョン《パーティー、もしくはソロ専用のダンジョン》である。
各階層はそれぞれ独立しており、プレイヤーは一階から上か下を選んで攻略していくことになる。
地上と地下ではそれぞれダンジョンの趣向が異なり、地上は主にアイテムや武器、装備のドロップ狙い。地下はレベルアップに必要な経験値とは別の、「スキル経験値」と呼ばれる経験値を稼ぐために攻略される。
「まずは五階層を目指しながら道中でアオハルのレベルを50にするぞ。そうしないと、スキル経験値を取得しても意味ないからな」
一階層に設置されたセーフエリア、通称「ロビー」でクロノは地下への階段を選ぶ。
月闇の塔が追加された主な理由は、「レベル上限に達したプレイヤーが次のアップデートまでに離れていかないようにするため」である。
レベル50になったプレイヤーはここでいくら経験値を蓄えても、アップデートでレベル上限が解放されるまでレベルを上げることはできない。
その代わりに、スキル経験値を獲得すれば一定量蓄えることでスキルポイントへの変換が可能になるのだ。
クロノが月闇の塔の実装前にレベルを50まで上げたかったのは、それが理由である。
しかし、アオハルが地下二階層に行きたいのはまた少し別の理由だった。
「地下五階層ってことは欲しいのは『ユニークスキルの開封書』だよな?」
念のため、地下一階に進む前にクロノはアオハルに確認した。
「ああ。お前もあの動画見たんだな。最前線の攻略プレイヤーでも参考にしているなんて、やっぱすげぇなユーリちゃんは」
参考にしたのではなく俺が情報の提供元なんだが――口に出せるわけもなく、心の中でそう突っ込みを入れておく。
「ユニークスキルの開封書」とはユーリが最新の動画で公開した新情報である。月闇の塔の地下階層では、五階、十階、十五階、二十階の決められた場所でのみ極めて低い確率でスキル経験値とは別にアイテムがドロップするのだ。
アイテムの効果は「通常のスキル欄には表示されない特別なスキルが解放される」というもので、ユーリの動画では実際に取得したいくつかのユニークスキルまで紹介されていた。
その能力には有能なモノも多く、今後の攻略に――特に十年後のラスボス攻略に必須級のスキルもあるため、クロノはいち早くこの塔を攻略することを目的にしていた。
ただ、ユニークスキルはそれなりに種類が多い上に入手できるものは完全なランダム。さらに、インスタンスダンジョンという特性上どのプレイヤーにも獲得できるチャンスが等しく存在するので情報の公開を許したのだった。
まさかそれが、アオハルの食指を動かすとは思わなかったけど――先導して階段を下りる。
月闇の塔はどの階層も基本的には迷路のような構造になっていて、魔物が現れる時は大抵奇襲戦法になる。
プレイヤーは専用の地図アイテムに自分の手で道順を記していかなければならないのだが、そのあたりに関してはクロノには関係のない話だった。
「お前どんだけここに入り浸ってんだよ……まるで自分の家の庭みたいにあるくじゃねぇか」
「アップデートの日から欠かさず通ってるからな。五階層までなら大抵の道は知り尽くしているよ。……こんな広い庭がある家なら住んでみたいけど」
頼っておいて半ば呆れた様子のアオハルに、軽口で返す。
半分は本当で、もう半分は嘘だった。アップデートから毎日ここに通っているのは本当のことだが、道順を覚えているのはそのせいではない。
過去に戻ってくる前に、十年間通い詰めたダンジョンなのだ。特に、ユニークスキルを求めて地下階層には何度も足を運んだので地下五階層まで、ではなく地下二十階層までの構造をほとんど覚えていた。
「この分かれ道の先に行き止まりがあるんだ。トラップ扱いだから本来は避けるけど、レベルを上げるには持ってこいだろ」
クロノの言ったと通り、二人の進んだ道の先は行き止まりだった。
足を止めるとすぐに前方に三体、後方に五体のスケルトンが出現する。
「俺が前の三体を倒すから、お前は後ろな」
「え? 俺が多い方をやるのかよ」
「付き合ってやってるんだから少しだけ楽させてもらうよ」
言うが早いか、クロノはガルーダの魔剣を抜いて前方のスケルトンに突っ込んでいく。新コンテンツの魔物はどれもレベル50のプレイヤーに合わせて調整されており、それなりに厄介な性能だ。
しかし、今更クロノの相手になるはずもなく数秒とかからないうちに三体のスケルトンは塵となって消えた。
取得したスキル経験値の総量を通知画面で確認しながらクロノは振り返る。
「……へぇ」
舐めていたわけではないが、素直に感心する。
たったの1レベルとはいえ、上限に達していないハンデを背負いながらもアオハルの動きは悪くない。
いや、むしろ良いとまで言える。
彼が使っているのはやや仰々しい装飾が施された両手剣。性能でいうと同レベル帯の武器と比較して中の上くらいに位置する量産品だ。
アオハルはその両手剣を巧みに振り回し、瞬く間に両端二体のスケルトンを斬りつけてほとんど同時に倒した。
残されたスケルトン三体が剣を振り上げてアオハルを襲う。両手剣の重さだと振った後に大きな隙が生まれてしまうはずなのだが、アオハルはそれを上手く躱した。
両手剣を支点にして地面を蹴り、高く飛び上がったのだ。棒高跳びの選手のような動きだった。
アオハルはそのままスケルトンたちの背後を取るように着地し、地面に刺さった両手剣を素早く引き抜くと、スケルトンたちが態勢を整える前に横薙ぎにして一掃した。




