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第14話 友の頼み

 ユーリの投稿する動画が日の目を浴び始めたのは一か月前、LEOの中でクロノと出会った後のことだ。


 彼女の動画が評価された最初に理由は「攻略情報が有益過ぎる」だった。


 動画の内容はレベル20以上で役に立つ装備品を売ってくれるNPCの紹介で、それまでは誰も立ち寄ることのなかった辺境の小さな村で撮影されたものだ。


 そこにいる占い師風の老人が、サイドクエストをクリアすることで序盤では破格の性能の防具をくれるという内容なのだが、この動画が注目され、その後もユーリが次々と攻略情報を投稿するので、彼女は一躍有名になった。


 その背後で彼女に情報を提供しているのがクロノである。


「俺と一緒に動画の配信チャンネルを作らないか」


 あの日、不帰の森でユーリに言ったクロノの提案は、「自分は目立たずに動画を投稿するにはどうしたらよいか」という問いへの答えだった。


 生活を楽にするために気軽に投稿した動画のせいで、紅の探究人の代表であるリオンに見つかってしまった。


 さらには本来関わることのなかったユーリまで自分を見つけたという状況にクロノは狼狽えた。


 これ以上目立つのはマズい。しかし、今更バイト生活には戻りたくない。

 その葛藤が生んだか解決策が「ユーリに情報を提供し、彼女がそれを動画にして投稿する」というものだったのだ。


 動画で得た収益は全て折半。一人で投稿するよりは稼げなくなるが、自分は表に出ないので目立つことはない。

 元々配信者だったユーリが編集する方が動画のクオリティも上がり、彼女も有益な攻略情報のおかげで名が売れる。


 双方にとって良いことづくめの提案だった。


 もちろんクロノはユーリをそこまで信用したわけではない。彼女に対して「良い人そうだ」という好感は持ったが、信頼するには付き合いが短すぎる。


 紅の探究者の一件で人間不信に堕ちっていたクロノは、彼女に「契約書への署名」を求め、その契約書に考えられる限りの安全策を記載した。


 金銭の絡む内容のため正式に作られた書類が、ユーリの警戒心も緩和してくれたらしい。彼女はその提案を受け入れて、二人は共に活動を始めたというわけである。


 ――この反応を見るに、ユーリを選んだのは正解だったみたいだな。


 黒野は目の前で嬉しそうにユーリのことを語る春斗を見て安堵した。協力者に彼女を選んだのは流だったが、彼女が有名になることは未来で保証されている。


 動画投稿の収益で食えなくなることは少なくとも大学を卒業するまでは心配しなくていいだろう。


「それでさ、その動画で紹介されてた『月闇の塔』のことなんだけど」


 春斗の話の内容が微妙に方向性を変える。

「月闇の塔」はLEOに追加された最初の大型アップデートで、主にレベルが上限に達したプレイヤー向けのコンテンツだ。


「お前まだレベル45くらいだって言ってなかったか?」


 記憶を頼りに春斗のレベルを言い当てる。新しいコンテンツに興味を惹かれる気持ちはわかるが、「月闇の塔」はレベルが上限に達していない状態で行っても旨味が少ない。


 だからこそクロノはアップデートの前に少し無理をしてでもレベルを50に上げたのだ。ちなみにクロノと共にプレイするようになってからユーリもめきめきレベルを上げて、大型アップデートの前日にレベル50に到達している。


「それは二日前までだよ。今は49。あと少しで『月闇の塔』に行けるぜ」


 春斗が得意げに言った。二日で3レベルの上昇……ガチ勢の速度だ、と黒野は自分のことを棚に上げて呆れる。


 LEOではレベル45から必要経験値量が桁違いに跳ね上がるため、レベルを一つ上げるのにも苦労するようになる。春斗が二日間碌に眠らずにゲームに没頭していたことは容易に想像ができた。


「それで?」


「お前確か最近一緒にプレイしている女の子がいるって言っていたよな」


 ユーリのことだ。黒野は自分が一緒にプレイしている女の子こそが春斗が熱中している配信者だと明かしていない。


 根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だったし、なんだか自慢の様にきこえてしいそうなのも嫌だったからだ。


「彼女ならしばらく一緒にゲームできないって連絡を貰ったよ。何でも高校の中間テストが近いらしい」


「女子高生なのかよ! いいなぁ、お前」


 別に下心があって一緒にゲームをして言うわけではないのだが、反論しても余計に面倒くさそうだったので、大げさに羨ましがる春斗を黒野は無視した。


 ユーリから連絡が入っていたのは今朝のことだ。ゲーム内のメッセージ機能を使って届いたメールがスマホに転送されていた。


 高校生といえば学業の面においては大学生より忙しいだろう。テストでゲームができないという彼女を非難するつもりはもちろんないし、残念に思う気持ちもあまりない。


 むしろ、黒野は久しぶりに一人でLEOをプレイできることに少しワクワクしていた。協力関係にあるといえ、全ての攻略情報をユーリに教えているわけではないからだ。


 人目を気にせず好きにプレイできるソロは気楽でいい。「月闇の塔」もソロでプレイするのにうってつけのコンテンツなのだ――そう思っていた黒野に春斗が告げる。


「――でもそれならちょうどいい。『月闇の塔』の攻略、ちょっと手伝ってくれないか?」


 黒野は久しぶりのソロでのLEOの攻略計画がはかなく崩れ落ちていく気配を察した。


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