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第12話 未来人の思惑

五感を踏襲したハイスペックゲームでも、攻撃を受けた時の痛みはそれほど酷くはない。

クロノはLEO 特有の、「攻撃を受けたと明確に分かる不快感」に顔をしかめた。


振り下ろした短剣は、トゥームガーディアンの脳天を的確に捉え、重力を利用して勢いよく斬りつけた。


クロノと共にレベル上げをしてきた短剣だ。いくつかの狩場で猛威を振るったガルーダの短剣は、既にレベル40帯の魔物にも通用する威力を持っている。


トゥームガーディアンを倒すには、十分だった。


光が溢れ、爆発するようなエフェクトが魔物の討伐を教えてくれる。クロノはその前に跪いた。


「クロノさん!」


少し離れたところから戦闘を見ていたユーリが駆け寄る。クロノはそれに手を上げて答え、


「大丈夫だ」


と返事をした。


振り上げられたトゥームガーディアンの大鎌は、空中で身をよじるクロノに確かに当たった。しかし、それは致命傷ではなく、せいぜいクロノのHPを半分くらい削った程度だ。


「でも墓守には対象に『恐怖』を与える特殊技があるんだ」


「恐怖」とはデバフ効果の名前である。アストラル系の魔物が使う麻痺毒のようなもので、攻撃を受けたプレイヤーは一定時間動きを制限される。


「そんなことより、ほらあれ」


クロノは「自分のことなど気にするな」とでも言うように話題を変えた。トゥームガーディアンを倒したあたりを指さして、ユーリに何かを示す。


彼女がそちらに目を向けると、地面に光るエフェクトを発見した。


「あれは?」


「多分レアアイテムだよ。俺はまだ動けないから、見てきてくれる?」


クロノに頼まれ、ユーリがエフェクトに駆け寄る。拾うように手で触れると、アイテムを入手したという通知がユーリに届いた。


「『霊廟の指輪』ってアイテムみたいです」


「お、結構いいアイテムだ。売れば多分数万はくだらない」


ユーリがアイテム名を読み上げ、クロノが嬉しそうな声を上げる。「なぜ討伐した魔物が落としたアイテムにまで詳しいのか」とユーリは疑問に思ったが、口にはしない。


情報の入手先については詮索しない条件だ。


――さて、どう出る。


心の中でそう呟き、見定めるような視線を送ったのは、クロノだった。その一挙手一投足を見逃すまいとユーリを注視する瞳に、疑念と不安の色が見え隠れする。


「へぇ、これそんなにいいアイテムなんですね。特に説明が書いてないから、何に使うのかわからないですけど」


手に取った指輪をユーリが観察するように眺める。クロノはごくりと唾を飲み込んだ。


「はい、じゃあコレ」


ユーリはそう言って霊廟の指輪をクロノに差し出す。アイテムの取得通知がクロノに届く。瞬間、クロノはほっと胸を撫でおろした。


「クロノさん?」


その様子を不思議そうにのぞき込むユーリ。


「ああ、ありがとう」


クロノはそう言って、それから「『恐怖』の効果時間が終わったみたいだ」と嘘を吐いた。


霊廟の指輪。トゥームガーディアンが落とした物はレアアイテムに違いない。町の雑貨商NPCに売れば数万の値がつくというのも真実だ。


しかし、その真価は換金用なんかではない。


クロノは、ユーリのことを試していた。わざとトゥームガーディアンの攻撃を喰らい、「恐怖」で動けないと嘘を吐いて、彼女に霊廟の指輪を取りに行かせたのが罠、いや策略だった。


レアアイテムが手に入った時、もう一人いるプレイヤーが動けないのなら、レアアイテムを持ち逃げするには絶好の機会になる。


ユーリは信用のおける人間かどうか、クロノはそれをテストしたのだった。


もちろん、持ち逃げを許すつもりはなかった。ユーリが少しでも逃げるようなそぶりを見せたら、奪い返すつもりでいた。


その必要がなかったことにクロノは心の底から安堵していたのだ。


「なぁ、ユーリ。一つお願いがあるんだけど」


これでようやく本題に入れる――そう言わんばかりにクロノは話を切り出した。


それは、町でユーリに「見学をさせてほしい」と頼まれた時にクロノが思いついた妙案である。


「お願い……ですか?」


ユーリは少し訝しんだ。目の前にいるクロノは、とても強く何でも知っているプレイヤーだ。そんな人に自分なんかができることはあるのだろうか、と少し身構えている。


「これはたぶん俺だけじゃなくて、ユーリのためにもなることだと思う。現実のお金が関わることだから、諸々の契約書とかは用意するけど、君を信頼しての頼みだ」


現実のお金――クロノの口からそんな言葉を聞いて、ユーリの頭に胡散臭い詐欺商法が浮かぶ。

ひと昔前に、VRMMOを利用した新手の詐欺が流行っていたはずだ。


――クロノさんがそんな人だとは思えないけど……。


出会ったばかりでこんな切り口で話し出されたら、「胡散臭い」と思うのも仕方がない。クロノの方だって、「信頼している」と口にしたものの心の底からユーリを信じ切っているわけではなかった。


だからこそ「契約書」という法的信頼度の高い単語を持ち出した。


――これで話を聞いてくれる気になるといいんだけど。


――とりあえず話だけでも聞いてみようかな。


二人の考えが妙なところで一致する。


意を決したクロノの話に、ユーリは目を見開いた。


「俺と一緒に動画の配信チャンネルを作らないか」

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