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第11話 墓守

「知識?」


ユーリが問い返す。クロノは静かに頷いた。表所はどこか寂し気なままで、変化がない。


「魔物って色々な姿をしているし、動物みたいなやつも多いから良く勘違いされるんだけど、あれは野生の生き物じゃない。ゲームのシステムが作り出した機械なんだ」


「機械? 私にはそうは見えないんですけど……」


ユーリは少し懐疑的だ。クロノほどではないにしろ、彼女もこの一か月LEOの世界で様々な魔物と戦ってきた。


現実で目にする動物と比べても違和感がない、時には現実よりも現実的に見える魔物もいた。あれが機械的な動きだとはどうしても思えない。


「口で説明できるほど単純な話すではないんだ。でも、ユーリが俺のことを『強い』と思ったのなら、その理由は今言ったことで間違いない」


なんだかはぐらかされている気がする――ユーリはそう思った。けっして嘘を言っているようには見えない。しかし、クロノはまだ何か隠しているような気がした。


実際、クロノは何一つ嘘は言っていない。魔物との戦闘でクロノが見せた「強さ」はやはり「知識」に起因するものだ。


どんな魔物であれ、AIが管理するシステムには決められた行動がある。プレイヤーの行動によって勝率の高い行動を選択し、確率で動きを決めている。


LEOには膨大な数の魔物が存在し、そのすべてが個別の行動プログラムで管理されているから、普通は気づけない。


ユーリがそう感じたように、本物そっくりの動きに翻弄され、それが野生の動きなのだと錯覚してしまう。


しかし、何十戦、何百戦と戦っていくうちに気付いてしまう。

十年という長い時間をかけて培ったクロノの「知識の強さ」にユーリが気づけるはずもなかった。


――そう。知識は最大の武器だったんだ。


クロノは心の中でそう呟く。自分はそんな簡単なことにも気づかずに、知識をひけらかしていたんだ、と後悔する。


頭に浮かぶのはギルドから脱退させられた時のリオウの表情。それが、ついさっき出会ってしまった彼の顔と重なって、胸のあたりを締め付ける。


おだてられるまま調子に乗って、ギルドメンバーになんでも教えていた自分が腹立たしい。


――もう二度と、あんな真似はしない。


「誰にも安く扱われてたまるか」とクロノは改めて決意した。


「クロノさん、あれなんですか?」


不意にユーリが声を上げる。ハッとしてクロノが指さされた方に目を向けると、森の奥が淡く青い光を放っている。


――来たか。


十年後のLEOで40レベル前半の狩場に不帰の森が推奨される理由。それがこの青い光だった。


それまでクロノたちが倒していた白く半透明のベールのような魔物「クロスゴースト」は同じレベル帯の他の魔物と比べて経験値量が多いわけではない。


魔物が倒しやすいわけでも、数が多いわけでもない。それでも、クロスゴーストを狩ることには大きな意味がある。


「不帰の森でアストラル系の魔物を倒すと、ランダムな確率で『墓守のトゥームガーディアン』が現れるんだ」


青い光に向かって走りながら、クロノが言った。その背中を追いかけるユーリが問いかける。


「墓守?」


「ああ、そのままの意味さ。この森はゴーストたちにとっての墓なんだ」


不帰の森でクロスゴーストを倒し続けると、「墓を荒らされた」と思ったトゥームガーディアンが姿を現す。つまり、クロノたちはずっとトゥームガーディアンを呼び出すために「墓荒らし」をしていたのである。


「その墓守を倒すと経験値が多くもらえるんですか?」


ゲームとはいえ、まさか自分が知らない内に墓荒らしをさせられていたと知ったユーリは少しショックを受けながら尋ねる。


「経験値だけじゃない。トゥームガーディアンを倒すと、確率で何かレアアイテムを落とすことがある。ここを狩場にするのはそれも理由なんだ」


森をかき分けて進むと、淡い青色の光の真ん中に「墓守のトゥームガーディアン」がいた。


薄汚れた赤黒いフードで顔を隠し、手には大きな鎌を持ってゆらゆらと宙に浮くその姿は、クロスゴーストよりもずっと不気味だ。


「ユーリはまだレベル差があってきついと思う。俺の後ろで見ててくれ」


クロノはそう言って走り出す。手に持った赤い短剣が光る。

トゥームガーディアンはクロノが近づいて来るのに反応したかのように大きな鎌を振り上げた。


初撃の軌道をクロノは覚えていた。まともに戦ったのはもう何年も前の話だが、レベル上げに奔走した日々の経験が身体に刻み込まれている。


記憶と寸分違わぬ軌道で振り下ろされた大鎌を紙一重で避ける。そのまま懐に潜り込み、まずは一太刀。挨拶とでも言わんばかりに走り抜け様に斬りつける。


「さぁ背中を取ったぞ。この距離でお前がやることは決まっているよな?」


トゥームガーディアンがプレイヤーに背後を取られた時、AIシステムはその距離に応じて適切な行動を算出する。


クロノは距離を見極めた。そして、最も確率の高い後方への薙ぎ払いをトゥームガーディアンは選択する。


「貰った!」


高く飛び上がり、大鎌を躱したクロノは空中で身を翻し、短剣を振り下ろす。

その瞬間、トゥームガーディアンの大鎌がぎらりと光った。


横に薙ぎ払ったはずの大鎌は途中で止まっていて、その刃が縦方向に向いている。


「バカな……」


クロノが短剣を振り下ろすのと、トゥームガーディアンが大鎌を振り上げるのはほとんど同時だった。

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