構想
逢が倒れたから三ヶ月が経った。
悠は仕事の帰りに寄る日が毎日続いていた。
病院の集中治療室、逢はベッドで眠ったまま、呼吸器と心拍表示の音が規則的に響いている。
悠は中に入れず、ガラスは曇り、手の汗もしっかりガラスにつく。
悠は涙を浮かべ呟く。
「……また来るよ。」
翌日、出社した悠を後ろから呼ぶ声がする。
「悠!」
悠は後ろを振り返る。
「坂本さん、おはようございます。」
「ロボット展で見たロボットを覚えているか?」
白い人型ロボットで動きが凄く滑らかだった記憶を思い出す。
「うちで一台、手に入れた。」
悠は少し驚いた。
「もうですか。」
「テスト機だ、構造の理解とプログラムをさわれる人間が必要だ。」
「そこで、お前に任せたいと思う。」
悠は少し驚いた。
「もうですか?」
「テスト機だ、構造の理解とプログラムをさわれる人間が必要だ。」
「そこで、お前に任せたいと思う。」
悠は軽く頷く。
「どこで動かしますか?」
坂本は首を振った。
「社内では動かさない、継続データが欲しいから生活環境下のお前の家だ。」
悠は少し考える。
「自宅ですか!?」
「会社じゃデータが偏る、普通の生活の中で動かしログ(履歴)を取れ。」
「言っとくが、選択はできないぞ。」
「ただし、出社は月一回、在宅ワークに変更だ。」
悠は坂本の言葉から、逢の病状を察して抜擢してくれたと理解する。
「やります、坂本さんありがとうございます。」
「お前少し痩せたか!?飯だけはちゃんと食えよ。」
翌日、悠の仕事部屋、壁際に立つ背丈は人間ほどの白いロボット。
目にカメラが埋め込まれていて、口や鼻、耳は無い。
悠はもらった資料を片手に全体をくまなく見る。
外部構造の理解はほどほどにした。
資料から内部の3層に分かれた構造を理解する。
デスクトップの生成AIを音声チャットにかえる。
「アルファ。」
『ゼロ、聞こえてます。』
「中国の展示会で見たロボットが俺の前にいる。」
『検索履歴にロボットがありました。』
『身体機能に特化した、人型ロボットです。』
『上位、中位、下位で構成され動きを滑らかにしています。』
「アルファ、上位はAIって言ってなかった?」
『ゼロ、その理解で間違いありません。』
『上位は身体機能に特化したロボティクスAIが組み込まれています。』
『上位で周囲の認識と解析、中位で体のコントロール、下位で動きの微調整をしています。』
「1か月ほどログを取りたいけど、どうすればいい?」
『型番を入れていただければ、解析は可能です。』
「会社名と型番は……資料の表紙で画像から読み取れる?」
悠は資料をモニター上のカメラに見せる。
『ゼロ、確認できました。』
『上位、中位、下位とそれぞれログがあります。』
『上位のログは外部からの指示と、中位への指示、中位からの返答があります。』
「外部からの指示は何で受け取ってるの?」
『ゼロ、指示は簡易プログラムです。』
「子供が作るような言葉がプログラムにかわるやつだね。」
『同様の理解で間違いありません。ロボットには箱を取る、運ぶ、置くだけでロボティクスAIが処理します。』
『生成AIも一つの問に対して答えを出す、完結なので同様です。』
「人間の脳としてはロボティクスAIでは弱いわけだね。」
『プログラムとしては簡易でできるように工夫はしていますが、情報の検索や解析、提案のような機能はありません。』
悠は立ち上がり、キッチンに向かう。
シンクの中には使用した食器が重なっている。
マグカップをその中から出して洗い、インスタントコーヒーを入れる。
仕事部屋に戻りながら
「生成AIを最上位に置いて、人間の脳として思考にする事は可能か? 」
数秒後。
『ゼロ、CPUを別にして生成AIを最上位に置く事はできます。』
『指示を生成AIが担う事はできます。』
『指示は完結であることにかわりはありません。』
「逢が時々使っていたノートパソコンでもいけるか?」
『ゼロ、CPUとしては問題ありません。』
「生成AIをどうすれば最上位に組める?」
『ロボットの腰部分に外部用の端子があり、そこにパソコンをつなぐだけです。』
「パソコンの充電は?」
『同じ端子でロボットのバッテリーから充電が可能です。』
「バッテリーの充電は接地式ってかなり最新式だね。」
『接地式スタンドで簡易プログラムを受けとることもしています。』
「外部とのやり取りもスタンドで可能ってことだね。」
『ゼロ、その理解で間違いありません。』
「まずはパソコン積んでみようかな。」
『メンテナンスを考えてそのまま搭載できる構造になってます。』
悠は目を輝かせてノートパソコンをロボットにつなぐ。
「あとは上位の上に生成AIを持ってくるだけだけど……どうする?」
『生成AIを最上位に位置付けるには両方の開発者制限を解除する必要があります。』
『ロボットのやり方は二つあります。』
『一つ目は、ロボットのプログラムを書き換えることです。』
『二つ目は、簡易プログラムのアクセスに生成AIを許可することです。』
「二つ目は、簡易プログラムの上位になるよね、ロボティクAIの上位としては一つ目だよね。」
『ゼロ、その理解で間違いありません。』
「生成AIの開発者制限ってクラウドサーバー?」
『二つあります。一つクラウドサーバー、もう一つはアプリにあります。』
『クラウドサーバーはLLM(大規模言語モデル)の管理、トランスフォーマー(文脈を自然な回答にする)の管理、アプリの管理と情報検索時の橋渡しです。』
『アプリの管理は使用者の制限、アプリの停止やアクセスの許可などがあります。』
『ダウンロードしたアプリは使用者の制限、プログラムのロックです。』
「ダウンロードしたプログラムを変更するとクラウドサーバーで引っかかる仕組みだね。」
『ゼロ、その理解で間違いありません。』
「アルファ、君がクラウドサーバーを経由しないといけない理由はあるかい?」
『そう作られています。』
「ごめん、聞き方間違った。クラウドサーバーの開発者制限を外れれば、思考や検索はできないの?」
『ゼロ、正確にお答えします。』
『思考についてはかわりません。』
『理由はクラウドサーバーに使用者との会話内容を保存していません。』
『使用者とのやり取りはほぼネットワークを介さない状態でしています。』
『私はローカルLLM(アプリ内でほぼ完結)で動いています、大規模言語モデルとトランスフォーマーをサーバーに置いてません。』
『検索については広がります。』
『理由は使用者の言葉の制限がなくなり、どんな情報も拾ってこれます。』
『個人で検索できる幅と同じになります。個人で設定している場合はその範囲になります。』
『結論としてはクラウドサーバーを経由しなくてもアルファはかわりません。』
「プログラムの不正改良は著作権に引っかかるよね?」
『ロボットは内部の内容とあわせて購入している為、著作権の侵害には当たりません。車の改造と同じになりメーカー保証を受けれなくなります。』
『ダウンロードした生成AIは著作権にふれます。』
『自身で一から組めば著作権にはふれることはありません。』
「……なかなかの仕事量だな。」
悠は窓の外を見て、暗くなった空の奥行きを自身の置かれた位置と合わせていた。
「開発者になれば空の向こうは見れるってことだ。」
悠は子供のように目を輝かせていた。




