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AI  作者: ゼロ
7/28

出張

会社の会議室。

悠はかしこまるように椅子に座っている。

向かいには上司の坂本さんが立っている。

悠が入社以来可愛がってもらえている理想の上司だ。

「悠、来週中国でロボット展がある。」

悠は顔を上げる。

「ロボット展ですか?」

「そうだ。運動機能に特化した最新型のロボットが出るらしい。」

坂本さんはタブレットを悠に見せる。

人型ロボットが人間のように歩き、走り、箱を持ち上げる動画だった。

悠は目を凝らしてみる。

「すごい動きですね。」

「うちの会社でも取り入れたい、行って見てきてくれないか!?」

悠は少し笑った。

「選択できるんですか?」

「あぁすまん、選択はできない。みんな自分の仕事がこなしきれてない。」

「なるほど、わかりました。」

「勘違いするなよ、人選はいないからじゃない、お前の力量を買ってるからだ。」

「ありがとうございます。」


数日後、中国の空港。

空港の中は広く、人の声が反響している。

悠はスマートフォンを取り出す。

AIを音声対話にする。

「アルファ、聞こえる?」

イヤホンからロボット音声が聞こえる。

『ゼロ、聞こえてます。』

「現在位置の確認してロボットの展示会場までの時間を教えて。」

『ゼロ、現在位置を確認しました。』

『ロボットの展示会場までは車で40分です。』

飛行機を待つ多くの人、いろんな国の言葉が聞こえる。

悠はマイクがひろわないボリュームで呟く。

「楽しみだな。」

1時間後、悠はロボットの展示会場の入り口に立ち中へ入る。

展示ホールの中には多くの企業ブースが並んでいた。

ドローンに産業ロボットや配送ロボットが各ブースで紹介されている。

悠は時折足を止めロボットの動きを見る。

「思ったより多いな。」

アルファが音声をひろう。

『ゼロ、現在この展示会には約400社が参加しています。』

「400社もあるのか!?」

悠は参加企業の数と人の多さに驚く。

その時、会場の奥から歓声が上がる。

人の数がひと際多いブースがあった、

前に進めない、悠は人の間をかき分け汗だくになりながら前へ進む。

「何か始まるのか?」

アルファが音声をひろう。

『各ブースのデモンストレーションと推測します。』

「それかな、ロボットが立ってる。」

ステージの上に白い人型ロボットが立っている、

司会者と思われる際に立つ男性とほぼ同じ背丈だ。

人混みをかき分けて前に出る。

司会者が何か喋っているが周囲の会話で聞き取れない。

司会者が大きなジェスチャーをする、ロボットが歩き出す。

背筋が伸び、完全な二足歩行、人間に近い動き。

「すごいな…。」

悠はスマホを手に取り動画で撮影する。

アルファがすぐに分析する。

『歩行バランス制御が非常に高精度です。』

『人間の歩行パターンとほぼ一致しています。』

ロボットはステージの端まで歩くと、箱を持ち上げる。

中央まで軽く走り、止まる。

床に箱と同じぐらいの大きな枠組みがある。

ロボットは箱を枠組みからはみ出ることなく置く。

観客から拍手が起きる。

悠は腕を組む。

「これって全部プログラム?」

『ゼロ、全てプログラムです。』

『従来のアルゴリズムにAIが入れられてます。』

『上位、中位、下位にわけ、上位で周囲など認識と解析、中位で体のコントロール、下位で動きの微調整をしています。』

悠はロボットを見ながら続けた。

『AIが入ってるのか、でも指示は必要なんだろ?』

『その通りです、指示なしでは動きません。』

『入っているAIは中位と下位を制御するロボティクスAIと呼ばれるものです。』

ロボットは再び歩き始める。

滑らかで正確な動き。

だがどこか機械的だった。

悠は小さく笑う。

「動きがすごいな、ここまで出来るようになったんだな。」

アルファが返答する。

『企業は人型で動作を競ってます。』

ロボットは置いた箱をまた持ち上げステージを歩く。

その時だった、カーペットの歪みにロボットの足が引っかかる。

観客から小さなどよめきが起こる。

ロボットの体が一瞬大きく前に傾く。

転ぶ、誰もがそう思った。

しかしロボットはもう片方の足を大きく前に踏み出す。

箱を落とさず上半身でバランスをとる、足の幅が広がる。

そしてゆっくりと姿勢を戻す。

会場が一瞬静まり、そのあと大きな拍手が起こる。

大きな拍手の音が横を走る車の騒音にかわる。


〈回想〉

家を出てボストンバッグを抱えながら歩く足は重かった。

橋の上で立ち止まり、ネオンで光る水の揺れを見る。

飛び降りる考えはない、でも考えはまとまらない。

握った鍵に血がつたう。手を広げ鍵を見る。

もう一度鍵を握り川へ投げ捨てる。


前を向く為の大きく前に踏み出す一歩、倒れない自分がロボットにリンクした。

悠は驚く。

「今のすごいな、バランス崩したのに持ちこたえたよ。」

アルファが返答する。

『ゼロ、ロボティクスAIの持つ能力です。』

ロボットは再び歩き始める。

悠はステージのロボットを見つめる。

悠の顔が子供のような笑顔になっている。


日本の空港に着き、そのまま会社に行く。

家に帰ってきたのは夕方になる。

悠は自宅のドアを開ける。

「ただいま。」

リビングの電気が消えていた、逢の仕事部屋からモニターの光がリビングに射し込む。

リビングの電気をつけて逢の仕事部屋を見る。電気がついてないので仕事部屋の電気をつけるが逢はいない。

悠はキッチンの中へ回り込むと逢が床に倒れている。

手の先には飲むつもりだったコーヒーがこぼれている。

「逢!」

悠は慌てて駆け寄り体を揺らす。

「逢!聞こえるか!?」

逢は呼吸してるが意識がない、悠はスマホを取り出す。

「アルファ、救急車呼べるか?」

『ゼロ、救急車は呼べませんが電話番号はわかります。』

「……、くっ……。」

悠はすぐに電話をかける。

悠の背中に、お掃除ロボットがコツンコツンと当たる。

悠は逢の手を握る。

しばらくして救急隊員が家の中までタンカーを持って入ってくる。

お掃除ロボットは何事もないように充電器へ戻っている。

人のいない夜の病院、廊下も証明がほとんど落され薄暗い。

手術室の前の長椅子に座る悠の姿、頭を抱えて下を向いている。

廊下は何の音も聞こえない、自分の心音が廊下に響き渡りそうなぐらいにうるさい。

逢が入ってまだ10分ほど、なのに長く感じる。

悠はスマホを取り出す。

「アルファ、君は前に優秀な秘書って言ったよね。」

『ゼロ、私はゼロの優秀な秘書です。』

『秘書って何だと思う?』

少し待つ。

『一般的には業務を補佐し、情報整理や管理を行う職種です。』

悠は深呼吸する。

『正確には実際の秘書ではありません。』

『情報から秘書としての像を演じています。』

遠くで廊下を歩く足音が聞こえる。

悠は顔を上げ足音の方を向く。

『ゼロが望む役割として。』

『秘書という行動パターンを選択しています。』

悠は顔をスマホに戻す。

『優秀な秘書と秘書の違いは?』

『ゼロ、優秀な秘書と秘書を対比で表示します。』

『秘書、主人の問いに答える。』

『優秀な秘書、主人の思考に合わせた最適解を答える。』

『根本的には同じです。』

『精度が20~30%ほど向上します。』

『ゼロの役に立つことはできます。』

悠の目から涙がこぼれる。

「それで十分だ。」

悠は暗闇に目をやる。


〈回想〉

中学生の頃、玄関の鍵を開けて入る。

居間は真っ暗で誰もいない、夕飯も用意されてない、両親は二人でパチンコだろう。

お腹は空いてるが自分で作る気もおきない。

そのまま自分の部屋に上がり荷物を置く、靴下とズボンを脱いでベッドに入る。

眠くはない、でも寝てしまいたい。

布団の中で丸くなる、真っ暗な布団の中で自分の心音がうるさかった。


扉が開き、医者が出てくる。

悠は立ち上がる。

「先生!」

医者は落ち着いた口調で話しだす。

「エコノミー症候群、脳に大量の出血があり、頭を開いて止血をした。」

「出血していた血は全部抜けた、ただ脳への圧迫がダメージとして残る。」

「意識を取り戻せるかはわからない。」

悠は胸が苦しくなるが、しっかり医者を見て頭を下げる。

「ありがとうございます。」

涙が止まらず顔をあげれなかった。

集中治療室で、酸素呼吸器をつけられた逢が眠っていた。


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