日常
カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋をゆっくりと明るくしていく。
「…ん」
悠は目を細めながら、布団の中で体を丸めた。
隣で小さな寝息をたてる逢がいる。
悠はしばらくその寝顔を見ていたが、音をたてないようそっと布団から抜け出す。
キッチンへ向かい、冷蔵庫を開けて卵とベーコンを出し、ルーチン化した日曜日の朝食を準備する。
「今日は、塩コショウかな。」
しばらくして、階段を降りる足音が聞こえる。
「…ありがとう。」
逢が眠そうな顔で立っている。
「目覚めた?」
「うーん、まだ寝足りない。」
悠は皿に盛り付けながら答える。
「もうちょっと寝ててもよかったのに。」
逢は寝ぼけた顔で椅子に座る。
悠はテーブルに焼いたベーコン、目玉焼き、ご飯を並べ座る。
「いただきます。」
二人の声と初めに箸をつける目玉焼きの動作が重なる。
逢が一口食べて切り出す。
「悠、今日は仕事?」
「…ごめん、少し片づけたいところがあるんだ。」
「そっか、私も今日はちょっと作っておきたいとこあるから。」
「締め切り近いの?」
「うん、まぁそんな感じ。」
「無理はすんなよ。」
「そっちもね。」
二人の目が合い笑みを浮かべる。
静かに食事が進む。
食事が終わり、悠が立ち上がろうとすると逢は箸を置く。
「後片付けは置いといていいよ。」
悠は食器を揃えてキッチンへ運ぶ。
「ありがとう、じゃーお願いするよ。」
「はーい。」
逢はソファに座り、漫画を手に取った。
何気ない時間、だけど二人の間では十分な会話。
時計が時間を刻む。
リビングにはそれぞれのキーボードの音が届いていた。
悠はパソコンに向かい、コードを入力する。
逢は隣の部屋で小説を作っている。
時折、どちらかの手が止まる。
お昼を過ぎても二人のキーボードの音はやまない。
逢は立ち上がり背伸びをし、隣の悠の部屋の入口に立つ。
「桃缶食べる?」
悠はすぐに振り返る。
「食べるっ!」
力強い即答だった。
悠は立ち上がり、リビングに向かう。
逢はキッチンで缶を開け器に入れる。
器とフォークを持ってソファーに座る悠の前に差し出す。
「はい」
悠は両方の手で器とフォークを受け取る。
逢はキッチンに戻り、自分の分の器とフォークを持ってくる。
机に置いて悠の横に座る。
悠は一口食べて口角を上げながら。
「うまいっ!」
その顔を見て、逢は頷きながら笑顔を見せる。
「桃好きだよねぇ、すごい幸せな顔してるよ。」
逢はその様子を少しだけ見ていた。
「逢は食べないの?」
「食べるよ、あげないよ。」
逢は嬉しそうにフォークで一つすくう。
「美味しい。」
悠は逢の横顔を見て笑顔になる。
逢は見られてるのに気づき笑顔を返す。
悠がその笑顔に答えるように口にする。
「仕事の疲れが吹っ飛ぶよ。」
「そうだね、糖分とったし頭も回りそう。」
また二人はそれぞれの仕事に戻る。
窓の外がオレンジ色にそまっていく。
逢は背伸びをした。
「今日はここまでにしようかな。」
逢はリビングから声をかける。
「コーヒー入れるけど飲む?」
悠はモニターから目を離さずに答える。
「飲む……もらうよ。」
声が小さいとよく言われるので理解しやすい言葉で返す。
逢の声がキッチンから聞こえる。
「はーい、後どれぐらいで終わりそう?」
「もうちょっと!」
悠はさっきと同じぐらい大きな声を出す。
逢がマグカップを持って入ってくる。
マウスの奥にマグカップを置く、悠は手を止めない。
「置くよ。」
「ありがとう。」
窓の外は真っ暗、時計の針は8時15分を指している。
「結局こんな時間までかかっちゃった、ごめんね。」
リビングの明かりは少し落されていた。
テレビはついているが音は小さい。
逢はソファーに座っていた。
悠が隣に座る。
逢は少しだけ、悠の腕にもたれる。
そのままの姿勢でテレビを見る。
「ねぇ。」
「ん?」
「今、幸せ?」
唐突な問いだった。
悠は少しだけ考える。
「…まぁ、それなりに。」
「なにそれ!?」
逢は小さく笑う。
「じゃー逢は?」
「んー……。」
少しだけ考えてから。
「まぁまぁなっ!」
「まぁまぁねぇ。」
「うん、まぁまぁ。」
逢はそう言って、少しだけ体重を預ける。
それ以上は何も言わない。
何も起こらない、穏やかな日常。
二人の求める平凡が空気全体を柔らかくしている。




