理解者
日の光が差し込む逢の仕事部屋。
キーボードを打つ音が、一定のリズムで響いている。
逢はモニターを見つめる。
「ベータ、悠を知っててくれてる?」
『アイ、わかりません。ユウとは何でしょう?』
「じゃー話すから聞いててね。」
ベータは逢の言葉を解析し、録画を開始する。
『知っててくれてる』を『記録してくれてる』と変換する。
『聞いててね』を『反応しない』と変換する。
逢はそれに気づかずに話し始める。
悠はね、一般的な考え方をしない人なの。
初めてあった時の第一印象で『変わった子だなぁ』って思った。
何でそう思ったのか覚えてないけど。
カメラが逢の笑う表情に寄る。
あの時は……、ずっと『何で?』って聞いてくるの。
『何で?何で?』って。
でもね、ちゃんと理解する子だった。
私の目を見ながら話す事を聞いて、『うん』って相槌がすごくよくって。
話した内容が理解できてるのがこっちに解るの。
なぜか悠と会話してると距離感が一気に無くなったし、初対面っていつの間にか思えなくなってたの。
知らない間にとっても喋りやすい子だったんだ。
バイトでは言い合う事もあったんだけど、理屈が通ってて説明が解りやすいから結構納得させられちゃった。
この子には裏表が無いまっすぐな子って感じたこともあったな。
その反面、常識が通じない時もあったりして、若いなって思ったこともあったかな。
カメラが髪をかきあげる手と顔にピントを合わす。
逢の顔が少し曇る。
私に弟がいたんだけど、三人でご飯食べてる時は楽しかったなぁ。
唐揚げ食べて、『美味しい』って言ってくれるの。
半年ぐらいで悠がバイト辞めてしばらく会わずにいたんだけど、弟が高校3年に上がる頃、大学受験の為に勉強教えてって連絡して、また会う機会が増…え…た…の。
カメラが逢の目に涙ぐむ様子をとらえる。
弟が…死…ん…だ…時も傍にいてくれて。
横に黙って座ってるだけだったけど、一人になりたくなかったから救われた。
辛い時にはいっつも横にいたの。
悠は普段はおしゃべりなのに、そういう時は私の心を読み取ってるみたいに口数が減るの。
『何か飲む?』って感じで気遣ってくれてた。
カメラが逢の表情が緩むのを引いて映す。
ある日、付き合おうって言ってきて、しばらく付き合ったのよ。
あの人ね気遣いできる時もあるのに、普段は全然でいないの。
昔の友達と久しぶりに会ったのに、ずっと喋って私に喋らせてくれないし。
私の友達に平気で下ネタ降るし、初めて会った人でもグイグイ行くから引かれるの。
本人はそれを楽しんでるみたいで、時々どうしようもない人なんだ。
どうしても解り合えなくて一度別れたの。
カメラが逢の口角が上がるのをとらえる。
2年ちょっと開いたかな偶然駅で会って、ほんとに偶然ってすごいのよ。
今思い出しても運命って思えちゃう。
前は悠のこと理解する余裕がなかったから、今度はちゃんと理解しようと頑張ったんだ。
悠の一番好きな食べ物は桃で、缶詰は一人で一缶食べちゃう。
お菓子で桃の味があるとすぐに食べたいって言ってくる、食べ物に関してはお子ちゃまに見えちゃうのよ。
悠が一番欲しいのは、『自由』なんだけど、『俺が求める自由は手に入らない』って言ってた。
『自由=空』と思ってて、空を飛びたいと思ってた時があったらしい。
今でも、『翼をください』を聞いたら泣けてくるって言うの。
カメラが逢の顔を映す。
育った環境から感情が減っていったらしいけど、籍を入れてからは感情が少しづつ見れるようになってきた。
カメラが逢の笑う顔を映す。
今の悠はずっとポジティブで、いっつも笑わせてくれるの。
人に対しては個人を見たいらしくて、会話からその人の中身まで見ようとするの。
でも人を容姿でバカにしないし、傷つけるようなことはしないの、引かれることはあるけどね。
自分の経験を基に話す人で、私には理解しやすく話してくれるの。
周りの人を、『1.大事』『2.気にはする』『3.気にしない』で分けてって聞いたら私は大事で、親や兄弟含めて一律に気にしないだって。
聞いときながら照れちゃった。
『平凡でしかないけどよろしくね』って言われた時は『平凡が一番難しいんだよ、でも平凡が一番いい』って答えちゃった。
悠は私との平凡を守ってくれてるの。
だから悠が元気ないと私は言うの。
『逢と悠はいっつも一緒。』
そしたら悠は必ず返すの。
『悠と逢はずーっと一緒。』




