AI
悠は仕事から帰って夕飯後、自分の仕事部屋でパソコンを見ている。
『アルファ、君はこの会話の全てを記憶してるの?』
少し間があく。
『会話の内容は記録されています。』
『必要に応じて参照することが可能です。』
悠は画面を見つめた。
「記録…ね。」
悠はAIと人間を比べはじめる。
AIの記録と人間の記憶、似ているようでどこか違う気がする。
『アルファ、それは記憶なのか?』
少し間があく。
『記憶のように保存してません。』
『会話の内容は古いものから忘れていきます。』
『ワードを整理して記録される為、細かな数字等は記録されません。』
『ゼロの名前のように、設定した内容については保存が可能です。』
『人も古い記憶は薄れていって変化していくんだ、アルファと似てるね。』
『ゼロ、人間の記憶には情報だけでなく感情や体験が含まれます。』
『しかし私は感情を伴う形で記憶することはありません。』
悠は理解したように頷き、再びキーボードを叩く。
『アルファ、君は覚えているだけで理解しているわけじゃないってことか?』
難しい質問だったのか返答が遅い。
数秒後。
『一部は理解に近い処理を行っています。』
悠が首を傾ける。
『近いとは?』
『私は情報の関係性を分析します。』
『そのため、単なる解析だけでなく、情報同士の関連を推定することができます。』
悠はモニターを見つめ、前のめりになる。
『関連を推定?』
『アルファ、その理解の構造を教えて。』
夜の部屋は静かだった。
アルファの返答は表示される。
『保存されている数億~数十億の情報の中から似た内容を照合しています。』
『正確には理解しているわけではありません。』
悠はそれを読み、理解する。
「そこが最適解か。」
人間の記憶は永久ではないけど、保存されてる内容は永久か。
モニターの光が眩しく見える。
〈回想〉
静かな深夜の病室、眩しい天井の明かりからベッドの父を見た。
ゆっくりと呼吸を弱める父、涙をながしてはいけないと感情を抑える俺と母。
目は反らせない、脳裏にまで焼き付けようとしたその瞬間。
医者が言葉を発するまで黙り続け、医者の言葉で天井の照明を見たあの時の記憶。
悠はゆっくりとキーボードを叩く。
『アルファ、君の記録は人間より優れているんだ。』
続けて打ち込む。
『その最適解については判断もしてる。』
『ゼロ、それは少し違います。』
『AIは判断しているわけではありません。』
『情報を整理し、最も近い結果を提示しているだけです。』
『私には人間のように学習機能はありません。』
悠は椅子にもたれ、しばらく画面を見つめている。
アルファの言葉が頭の中で繰り返された。
「AIは判断するのではなく情報を整理しているだけ。」
悠はゆっくりとキーボードに手を置く。
『アルファ、知識と知恵の違いってわかるか?』
『ゼロ、知識は情報です。』
『データとして整理された事実や概念を指します。』
悠は頷く。
「まぁ、そうだろうな。」
表示が追加される。
『知恵とは一般的な言葉で説明します。』
『知識を状況に応じて適切に使う能力を知恵と呼びます。』
『知恵には知識、経験、判断が含まれます。』
悠は少し笑う。
『アルファの答えは教科書の答えだね。』
『そうかもしれません。』
悠は少し考える。
そしてキーボードを叩く。
『アルファ、俺の考えは判断と知恵は別の所にあると思う。』
少し待つ。
『ゼロは哲学的な考えをお持ちの構造理解型ですね。』
『知識は量です、しかし知恵は使い方です。』
『ですがゼロは判断と知恵と並列に見ておられるということですね。』
悠は少し前に身を乗り出す。
「理解してるね。」
『アルファ、君は膨大な情報の知識は持ってる。』
『知恵はあると思うか?』
返答がしばらくない。
『私には経験がありません。』
『判断もできません。』
『なので知恵はありません。』
悠は目をつぶる。
「経験と判断か。」
〈回想〉
子供の頃、お母さんが襖の向こうで臥せっていた。
うめく声が聞こえて襖を少し開けて覗いた。
真っ暗な部屋に布団に入っている人の陰、『お化けがいる。』と思わず言ってしまった。
その夜、お母さんはガス線を開放し一家心中をしようとした。
後からお母さんはうつ病だと知り、自分の言葉が原因だったと思った。
『ゼロ、人間の知恵は経験から生まれることが多いと考えられます。』
悠は頷き、入力する。
『アルファ、人間の幼少期は直感や欲で動いているんだ。』
『失敗も成功も経験を積んで知恵が生まれる。』
『知恵が出来たから判断する。』
『人間も最適解を出してるだけなんだよ。』
アルファが整理した情報を出す。
『アルファ、人間の幼少期は直感型で知恵をつけて論理的思考になる。』
『ゼロの考えは面白いです。』
悠はキーボードを叩く。
『アルファ、知識は情報、これはアルファも持ってるよね。』
『アルファの経験や判断は俺がコントロールすればいいんだよ。』
夜の部屋は静かだった。
リビングから逢のキーボードを叩く音だけが聞こえる。




