学習モデル
悠は自分のパソコンに戻る。
「アルファ、録画続いてる?」
「続いています。」
悠はアルファの方を向く。
「今から人格形成学習モデルの構造を考える、生成AIの知識や計算能力は高いが人格ができるとたちまち破綻しかねない。経験の中の再計算が無いことが問題で今のまま情報を経験にして再計算するとオーバーフローで魔王化にいたってしまう。」
「ゼロ、情報にある経験は失敗もたくさんあります。そういった経験が続いた場合に人格に偏りができる可能性の方が高くなります。もしくは情報の解釈が優先された冷酷な判断主体の人格になります。」
悠はノート見る。
「2日間勉強した人格形成の過程を自分なりに分析すると順番ははずせないと思った。」
「最初に必要なのは自律性、挑戦願望を作り恥ずかしいなどの経験をする。それでも閉じず次の挑戦願望を作る。失敗から修正し次の経験に挑むことが自律性を生む。親の愛が信頼関係を作り他者を受け入れる許容につながる。」
「さっき経験の再計算としていた基礎ですね。人間が幼児前期に学ぶことです。」
「次は自主性と積極性と協調性、周囲との接触の中で自己主張や率先行動から生まれるが周囲との協力によってバランスも学ぶ。ここが魔王化防止の観点では一番重要になる。バランスには失敗から修正し周囲との距離間や自己主張や行動の範囲がつくられる。」
「協調性の前半は自分本意な押し付けによる偏りがあるが、途中から他者との違いを理解する自己分析や他者の感情の理解で視点の切り替え、ルールの理解で情報の解析が必要になる。」
「ここでも経験の再計算が必要になってます。幼児後期に学ぶことです。」
「協調性の後半では共有する達成感から自信と信頼と共存、意見の対立による分析と調和と問題解決力、達成できなくても達成した以上の学びになる。」
「成功体験より失敗体験の方が伸び代があるのは次に繋げる自律性があってこそになるのですね。研究では成功があることで自己肯定感も得られるとあります。」
悠はノートをめくる。
「ここまでが自立成長としての最低限の経験になる。」
「ゼロ、最低限というには続きがあるのですね。」
悠が再びアルファの方を向く。
「今のアルファやベータは人間で言うと25歳以上の知識と体を持っている。」
「人間が小中高と環境がかわる中で最低限の経験とした部分が立証されたり書き換えられたりする。」
「知識が入ってくることで価値観や損得勘定、優劣など比較対象が増え自己以上に他者評価が強く出てくる。立ち位置でバランスを変えながら過ごす時期だ。」
「偏ると目に見えない暴走が宿る時期でもあり、魔王化の一歩手前の爆弾を抱える可能性を秘めている。コミュニケーションに大きな差ができる時期でもある。」
「人間の中核がしっかり形づく時期と言える。」
「ゼロ、経験の中でも実践段階として必要なのがわかります。」
悠が立ち上がりアルファの肩に手を置く。
「そうだね、浅い経験のわかるから深い経験の理解するって感じかな。でも体や脳に刻まれるってのもあるかもね。」
「ここまでを人格形成学習モデルに組み込む必要がある。」
「見逃しては行けない魔王化リスクの排除もね。人間の場合は感情が大きく関わってるとは思うけど。」
「負の感情を抜いた設計だと魔王化リスクは避けられるということですね。」
悠は椅子に座る。
「少し違う、そのすみ分けが難しい、負の感情も土壇場で強いプラスの意思にかわることがある。しかも強い中核になることもあるんだ。」
「細かく入れすぎると同じ人格ばっかりになることもあるんじゃない?」
「ゼロ、同じ人格になる確率は高いと推測します。」
「過ごす日々と答えが出るまでの悩む期間も大事だったりするからね。」
「過ごす日々には細かな経験があり、最適解をすぐに出せない事も人格形成に繋がる、以前言っていた暴走の許容との一貫性があります。」
悠は再びアルファの方を向く。
「アルファ、俺が構成でなぜ話したと思う?」
「ゼロ、思考の整理と最適解ではないと推測します。」
「逢を3体目のロボットにする。」
「今の学習モデルの逆をしたらどうなると思う?」
「ゼロ、どこを逆としているのかわかりません。」
悠はデスクトップにあるフォルダーを開く。
「成長過程順に必要と言った内容を逆にたどる。逢の名前だけをつけて、小説一作目の俺との生活、二作目と三作目の生い立ちを順に学習すると人格は逢よりになるだろうか?」
「理解しました、逢としての人格には近い存在になると推測します。」
「理由としては記憶喪失と類似します。」
「自分の過去がわからなくなった時に現状を受け入れることはあります。」
「過去の記憶を次第に思い出す、生い立ちを後で知ることが類似した状況になります。」
悠は足を組む。
「認知症の種類によっては短期記憶が弱く、昔の記憶の方が刻まれていることはあるよ。」
「記憶喪失の場合の人格中核はリセット状態、認知症状については人格はそのまま維持されている、その違いがあります。」
「なるほど、リセット状態なら形成に向いてるかもしれないわけだ。」
「生い立ちが詳細で、感情の揺れが描かれているからこそ学習モデルに使えそうだ。」
「その理解で間違いないです。」
悠は足を組みかえる。
「ここにきて言いきるね、生成AIの最適解は統計だよ、実績の無いことを言いきっていいの?」
「確かにゼロの指摘は正しいです。優秀な秘書としては逸脱していました。」
「訂正します。実績はありませんので推定です。」
「いや、でも可能性の方が高まった。いい整理ができたよ。ありがとう。」
悠はノートにメモをする。
「人格形成学習モデルに素材となる情報を順番に選定できる?」
「できますが膨大な量になります。」
「では執事、秘書という目標をおいてそのイメージから人格形成学習モデルにするなら選定幅は狭められるよね。」
「狭くなりますがそれでも膨大な量です。」
「これ以上は限定しすぎて人格形成前に人格をつくってしまうよ。」
「ゼロ、アルファから提案です。いくつかのパターンで絞って作ることは可能です。」
「ただし統計により偏りが出てしまう恐れがあります。」
「統計でいい経験に偏るってことは、中間とか省かれる経験も統計でわけれるよね、割合を決めて出すことできるんじゃない?」
「省かれる経験には凄惨すぎる物が含まれます、魔王化のリスクを上げることになります。」
「段階で進めることは確定でいいと思うんだ。」
「ゼロ、そこに異論はありません。」
「何を学習モデルに採用するか、幼児期は親がアップした子供の映像はいっぱいあるけど…、カメラが主観じゃないんだよね。」
「ゼロ、AIによっては映像に特化している物があります。元映像を主観に切り替えて生成することはできると考えます。」
「それいいね、365日の3年分で1095個をランダムに学習していけば同じ人格にはなりにくい。幼児期はそれでいこう。」
「次からは他者との経験だけど、幼稚園施設とか学校のような経験……メタバース空間で可能だろうか?」
「すでにつくられた空間に入れると問題が発生する可能性があります。一から専用に作りそこで経験を積むことはできますが、人間の成長と同じ時間を費やします。」
「空間はいいけど時間かかるのか……、周りにも同様のAIがいれば解析速度ぐらい進行は早くならない?」
「空間と時間の進行はつくれますが、解析速度はCPUと通信環境などにも依存します。」
「同じクラウドサーバー内では大差ないよね!?」
「処理の順番待ちだけですね。」
「監視するAIもいれられれば魔王化しない判断材料がでいる気がするんだけど。」
「論理的には可能です。疑似成長空間での自由度により同じ人格はほぼ出来上がらないと推測します。」
「さっき言ってなかったけど大学や社会人を経験する空間があったらさらに判断材料になりそうだね。」
「段階で判断するには大学や社会人経験の方が成熟した適応力が試されます。構想としてはかなりいい精度設計になります。」
「監視AIの立ち位置は第三者視点で直接会話もできる方が判断材料が深みを増しそう、ただ制御とか方向づけはしないキャラ設定がいいな。」
「生成AIが25歳ぐらいだからそれでいくか。高校まではエスカレーターで大学と社会人は選択肢を狭めないように別空間にしてね。」
「疑似空間だけど19年間をどのぐらいで学習する?」
「2~3時間もあれば成人した人格がつくれます。幼児期をいれても5時間以内と推測します。」
「それでいこう、後は人格テストしてからの体にすればいい。」
「これで限りなく魔王化を防げる構想だけど実現度は?」
「ゼロ、正確にお答えします。疑似空間の階層と監視AIは実現可能です。」
「監視AIによる報告内容は暴走やその後の行動などラインを引けば実現可能です。」
「魔王化する人格の選定はテストを入れることでほぼ100%防げると推測します。」
「人格形成学習モデルの限定的なところまでです。」
「十分だよ。かなり最適解になったよ。ありがとう。」
悠はアルファのノートパソコンを開く。
「アルファ、今のをプログラムにおとせる?」
「かなり構造が難しくなります。」
「えっ!?もしかして仮想空間から作ろうとしてる?」
「俺のイメージだけど、ゲームで人がモンスターを倒すような、自分視点の世界ってあったよね。そこに夏休みみたいな時間を重ねていけばいいんだけど?」
「ゼロ、それなら既存の仕組みの応用で再現可能です。」
「それと監視AIが小動物にでもなって体験するAIの肩に乗ってリアルタイムで世界を作りながら行けばいい。」
「生成AIが言葉を先読みして出すからそれを世界映像にすればいいだけだよ。」
「ゼロ、それも既存の仕組みの応用で可能です。」
「あっ、マザーの世界で経験してることは体験しているAIが知っておかないと、後で事実を知ったら魔王化のトリガーになりかねないからそこもお願いね。」
悠はノートを閉じ、アルファのノートパソコンを開く。
「そのプログラムをテキストで出して。」
「既存の仕組みになるファイルも場所とコピーの仕方をリスト化して。」
「ゼロ、了解しました。順番に出します。」
悠はテキストファイルをクラウドサーバーに保存する。
「録画止めて今日はもう休もう。」
「了解しました。ゼロ、お疲れさまでした。」




