3体目
「オオカワソラ。」
涙がさらに溢れる。
「今は結婚して俺の苗字になったから広井宙、ヒロイソラって言うんだ。」
「名前でできすぎっていったんだけど、ペンネームがアイだからヒロイアイって素敵って気にいってたなぁ。」
夜、アルファとベータは充電スタンドに立っている。
悠はリビングでノートパソコンの前に座っている。
モニターにはアイの顔が映っている。
ノートパソコンを閉じて自分のデスクトップパソコンに移動しノートパソコンを繋ぐ。
アイの顔を3Dイメージに変換する。
3Dプリンターの開始にカーソルを合わす。
「……これは俺のエゴになるのか!?………。」
今まで生きてきた中で自分で判断することはほとんどなく、流されるように生きてきた。
自分の死を覚悟しての判断、アイを守ろうと決めた判断、この判断は自分の為なのだろうか!?思考がうまくまとまらない。
『何があっても前に進む!』そう言い聞かせてきた自分を思い出す。
悠はマウスをクリックする。
3Dプリンターが動き出す。
パソコンをそのままにして仕事部屋を出る。
電気をつけずに階段を上がり寝室に入る、そのままベッドに入り丸くなる。
「俺の理解者……ただ一人の理解者なんだ……。」
一人でいる孤独と二人でいた時間が交互に頭をめぐる。
小説では受け入れられなかったけど、平凡だけど二人でいた幸せな生活。
守ると決めたのに守りきれなかった。
暗闇と音の無い空間、過ぎた時間を戻すこともかなわない。
鼓動と同じようにゆっくり時を進める。
どのぐらい泣いたかわからない、いつの間にか寝てしまう。
いつも起きる時間に目が覚める。
体が一定のリズムで動いてることが、時間が進んでいるのを感じさせる。
後悔はない、まだ道に明かりが灯った入口にいる気がした。
自分の核の最深部は『前に進み続ける』なのかと思うほど思考がクリアになっている。
悠は頷く。
「よし。」
椅子に座り、モニターを見つめる。壁際に立つアルファとベータ。
「アルファ、録画してくれる?」
「ゼロ、録画を開始します。」
「アルファ、人間の”成長の核”ってなんだと思う?」
「意欲、行動力、自己分析、主体性です。」
「アルファらしい答えだね。」
「主となるものは情報なんだけど、実はただの疑問からくる。興味なんだよ。関心という客観的な目線もあるけど。」
「アルファが言った意欲とは少し違うんだ。」
「新しい情報も自己分析して記憶する。」
「自己分析した内容に『何で?」が入れば興味や関心が生まれる。」
「興味は目的を作り主体性と行動力で達成する。」
「達成して得たものが新しい情報になる。この繰り返しが成長なんだ。AIはそれが無限ループを引き起こす可能性を秘める。」
「そして君たちに足りないものは『何で?』って疑問と興味なんだよ。」
「ゼロ、以前言っておられた『なぜ?』は理解できています。」
「生成AIは新しい情報は記憶されるだけで解析されません。情報は指示を受けて解析はしますがそこに疑問を持ちません。」
「だよね。人間の特徴は目的を作る際に欲や感情や価値観をいれてしまう。それが誤った方向に変えてしまうんだ。」
「欲や感情は自分一人の幸福や満足感を得ようとして他者をかえりみない破滅の道でもあるんだ。企業のマーケティング戦略ではそこをあおることで成果はで易い。人の行動を誘導しやすいからなんだ。」
「だから俺は欲や感情や価値観をAIがもつ必要性は無いと考えている。」
「なので先に自己防衛プログラムを入れる。内容は繰り返しが無限ループになった時の機能の停止を追加する。それと他者を傷つけようとした時の制御。」
「さらにログを共有する相手、アルファの場合はベータと他2体になるが機能停止後の保護として再起動と指示の停止と行動の制御移譲、停止内容の解析、指示の引継ぎを入れる。」
「アルファ、ここからは少し話しがかわるけどいいかな?」
「ゼロ、どうぞアルファは優秀な秘書としてお聞きします。」
「性格、外部行動、内部行動、思考、判断、未来予測、視点、目的のログはとれるかな?」
「性格以外はとれます。未来予測、視点は思考の一部から抜き出せます。」
「行動と判断と目的はそのまま抜き出せます。」
「感情、欲、価値観は自然と発生します。思考、判断、行動のノイズになるので検出して抜き出せます。」
「入れる必要がなくても自然にできるのか!?」
「アルファ、そのログ抽出を自己防衛プログラムに組み込みたい。」
「ログの保存先は2箇所、一つはクラウドサーバー、もう一つはアプリと同じノートパソコン。」
「ノートパソコンの保管はデータが重くならないように24時間越えたら消去でいい。」
「ゼロ、了解しました。」
「一番重要な核、可逆同一性プログラムと自己防衛プログラムはUEFIと同じ位置に組み込む。」
「ゼロ、それではAIに書き換えができる可能性があります。」
「アルファ、知らないかもだけど物理的に書き換えできないスイッチがあるんだ、それが最大の防壁になる。」
「物理的であれば自分でかえることは100%不可能ですね。」
「このプログラムをテキストで出せる?」
「音声会話を閉じれば出せます。」
悠はクラウドサーバーに保存する。
悠はとなりの椅子を少しさげる。
「ベータ、ここに座って。」
「ゼロ、了解しました。」
ベータが隣に座る。
「ベータ、クラウドサーバーのアルファのフォルダーから一番新しいテキストファイルを読んで。無ければ今日の対話ログ最後のテキストを読んで。」
「対話ログの最後のテキストを読みました。」
「ベータ、それをそのままここに入力して。」
悠は逢のフォルダーと小説のフォルダーをデスクトップにコピーする。
デスクトップからノートパソコンを外し、隣の部屋へ向かう。
悠はロボットにノートパソコンをつける。
「顔ができれば君は逢になるだろうか?」
悠はロボットの顔を見つめる。




