第18話:反撃の序曲
次の日から暴露系配信者のチャンネルで、光の父親が「娘を監禁された」と訴える動画が拡散され、みるみる再生数が上がっていった。
成瀬の別荘には不穏な空気が漂っていた。
「……成瀬さん、私、お話しします。今日の配信で、全部」
震える声でそう告げた光の瞳には、かつてない決意が宿っていた。
成瀬と一条医師が見守る中、光はカメラの前に座った。コメント欄には父親の言葉を信じた人々からの心ない言葉が並ぶが、光は逃げずに口を開いた。
「……私の父は、本当は私を助けたかったんだと思います」
意外な言葉に、ネットがざわつく。
「私の目が悪くなったとき、お母さんは私の治療のために、お弁当屋さんのパートを掛け持ちして、コツコツとお金を貯めていました。お父さんも、最初は必死に働いてくれました。でも、目の手術には莫大なお金がかかる。お父さんの稼ぎではどうしても届かなかった……。絶望したお父さんは、お酒に溺れていきました」
光は一息つき、膝の上のヒゲ(俺)をそっと撫でた。
「お母さんが、少しでも足しになればと貯めていた通帳を見つけたとき、お父さんは言ったんです。『こんなはした金で、光が救えるか!』って……。それで、お金を持っていってしまいました。……それから、二人は離婚しました。全部、私のせいなんです。私の目が悪くなければ、二人はいがみ合うこともなかった」
光の頬を、涙が伝う。
「お父さん、見てますか? 私はずっと、自分が家族を壊したんだと思って生きてきました。だから、もう終わりにしたいの……」
その時、俺——ヒゲは、光の腕から身を乗り出し、カメラを真っ直ぐに見据えた。成瀬が俺に託した「戦略」は、攻撃ではなく「救済」のプロットだった。
「……オ、ト、ウ、サ、ン。……モ、ウ、イ、イ、ダ、ロ」
俺の声が、静かな部屋に響く。
「……ヒ、カ、リ、ハ……。オ、マ、エ、ヲ……ユ、ル、シ、テ、ル……」
配信を見守っていた父親は、その光の告白と猫の言葉に、これ以上は耐えられなかった。画面の中で流れていた暴露系動画が、突如として非公開に切り替わる。父親自らが、配信を止めたのだ。
部屋に沈黙が戻り、成瀬が静かにノートパソコンを閉じた。
「……これで、物語の第一章は完結だ。君の父親は、ようやく自分自身の絶望からも解放されたんだろう」
一条医師は光を優しく抱きしめ、上から目線で成瀬と佐伯に合図を送った。
「さあ、いつまでも湿っぽくしてちゃダメよ。光さんのオペと、キラの手術……二つの『光』を取り戻すための戦いは、ここからなんだから」
佐伯は「へいへい」と笑いながら、明日、病院にキラを連れてくるようにと言った。
「ヒゲの旦那、いい演説だったぜ。……さあ、30万円の奇跡を見せてやろうじゃないか」
第19話:予告
光の告白により父親との因縁が解け、舞台は佐伯動物総合病院へ。
いよいよキラの足の手術が始まる。
「佐伯、失敗したら承知しないわよ」と、上から目線でプレッシャーをかける婚約者の一条医師。
一方、ヒゲは成瀬の部屋で、生前の自分が書き残した「光への手紙」を成瀬が持っていることに気づく。
「未来男……お前、あの日本当は何をしようとしていたんだ?」
成瀬の問いかけと共に明かされる過去の真実、そしてヒゲの身体に起きる異変。
次回、「境界線を越える者」。




