西村秀智と『静原の呪い』71
怒涛の夜(体感数億年)の次の日。
朝起きたらひなちゃんから伝言が入っていた。
『朝一番に正樹さんの病室に同行させてください』『確認したいこと、お伝えしたいがあります』
呉羽とマコ、護衛として碓水、暁月、定兼を連れ正樹の病院へ。ロビーでひなちゃん晃くんと合流。すっかり慣れた呉羽が手続きを済ませ、病室へと案内された。
病室には洋一夫婦がいた。同じくひなちゃんに呼び出されたと。
母が修行をつけていた関係で数年前から晃くんと親しくなっていた義弟夫婦。今回のことでひなちゃんとも親しくなり、ふたりに御礼を述べ頭を下げた。
全員が病室に入ったところで晃くんが霊玉を取り出し起動。竹ちゃん謹製の時間停止のかかる結界が展開された。なんていうか、ホント万能だなあのお嫁ちゃん。なるほど息子が非常識になるわけだ。
晃くんとひなちゃんが手を繋ぎ、空いた手を正樹の額に当てる。目を閉じ一呼吸。
「―――大丈夫です」「落ち着いておられます」
にっこりと断言する晃くんに、知らず肩が落ちた。
「『御魂分け』で分かたれた『もう片方』の記憶もあります」「『こちら』は分かたれてすぐに意識を失ったからでしょうね」「意識がふたつあることに気付くこともなく混乱もなく、『あちら』から流れてくる意識を受け入れておられます」
意識や魂がふたつみっつと分かたれると、たいていは眠っているときに夢としてもうひとつの経験した記憶を『視る』。そうでない場合もあるがそれは置いておいて。で、日々を重ねるうちに段々とそれぞれの意識が確立していき、やがて『独立した個』と成る。それでも多少の影響は与え合うし時折夢で『視る』こともあるが、時間が薬というのを体現するように次第に落ち着いていく。らしい。
とはいえ落ち着くまでの過程でひどい混乱が起きたり、場合によっては社会不適合の烙印を押されるようなトラブルを起こすこともある。今回の正樹は片方が意識のない状態だったため、そういうトラブルは「ないだろう」と判断されてはいた。が、「念の為に」と精神系能力者のふたりが来てくれたと。なにからなにまでありがたい。全員で頭を下げた。
「時間が経過して新しい『器』が肉体に馴染む頃には意識も確立していくはずです」「そうなればより覚醒に近付くと思います」ひなちゃんが説明してくれる。
「昨夜『姫様』がお授けくださった『お守り』と『加護』も馴染んでおられます」
なんのことかと問う義弟夫婦にひなちゃんが経緯を説明。呉羽が『褒賞』として『正樹を守るお守り』を『異世界の姫様』に望んだこと。昨夜『異世界の姫様』こと竹ちゃんがわざわざ来てくれ、正樹に『お守り』を装着し『加護』までつけてくれたこと。今正樹の左手首に装着してある腕輪念珠がそれだと。
「なので、こちらは外さないようお気をつけください」「病院関係者には安倍家から連絡済です」
ひなちゃんが説明してくれるが、義弟夫婦はそれどころじゃなくなっちまった。『「姫様御自ら」「加護」をつけてくださった!』『呉羽が正樹のために!』言いたいことが全部顔と態度に出てるぞ。感情制御はどうした。
「呉羽は自分の『褒賞ポイント』全部正樹に使ったんだぞ」「自分自身にはなにも使ってない」
「! ヒデ!」
ペロリとバラした俺に呉羽は焦っていたが無視。呉羽に対しさらに恐縮し感謝し恩義を感じた義弟夫婦と呉羽で一悶着起きたが俺関係ねぇから放置。横から碓水が余計な口を挟んでより一悶着起きた。最終的にひなちゃんがうまく納めてくれた。
「これならば年内には覚醒される可能性が高いです」
晃くんの説明に、義弟夫婦も呉羽も喜んだ。碓水は変わらない様子。が、一瞬わずかに口角が上がった。こいつカッコつけだからなぁ。
「それとですね」
「正樹氏の記憶の確認をしました」
「記憶操作がうまく働いていました」
「ご結婚されたおうちは『内藤』ではなく『斉藤』だと認識しておられます」
正樹の魂をふたつに分ける前。晃くんが記憶操作を施した。その内容は正樹の結婚相手の名字。『内藤』ではなく『さいとう』だったとした。
『ないとう』の『な』を『さ』に変えるだけ。その程度なら聞き間違いとか勘違いとかでよくあること。だから被術者への負担もない。あとは本人が勝手に漢字を当てはめ、納得し受け入れる。
「万が一なにかの拍子で正樹氏が内藤家について知ったり調べたりしても『別件』と判断するはずです」「正樹氏にとって十五年間過ごしたのは『斉藤』家ですから」
なにからなにまで至れり尽くせり。ホントありがたい。
そこからひなちゃん晃くんが色々と解説してくれた。
まず、正樹をだましこき使ってきた連中について。
内藤というその家は、京都で安倍家と並ぶ『藤家』の、遠い遠い遠縁だった。
『藤家』とは。千三百年前の王の近衛を祖とする一族。王の側近として権勢を誇った藤原の一族の中の、武力と霊力に優れ代々王家守護を任せられた武官の家。
『藤原』の人間が増え分家を繰り返すうちに『佐藤』『加藤』『伊藤』など名字が変わっていった。
名字を変えても王家守護の任は変わらず受け継がれており、それまでどおり『藤原』でまとめるのはわかりにくいとなった頃に『藤家』と呼ばれるようになった。
現代にもその血脈は続いており、本家はもちろん分家にもそのまた分家にもそのまたまた分家にまで様々な伝説や逸話が伝わっているという。
で、問題の女の家が、そんな『藤家』の遠縁だった。
はるか昔に内藤本家から分かたれた血族。ただし長いこと『能力者』が生まれることはなく、ここ数百年は内藤本家からも他の『藤家』からも『関係者』だと思われていない。
それでも本人達は『かつて藤家に名を連ねていた』誇りだけを代々脈々と受け継いできた。『藤家』の知らないところで。
幼い頃からずっとかつての活躍を聞かされて育ち、『藤家』の誇りだけを持ち続けてきた。数百年前から代々霊力量が一般人以下になり『藤家』どころか『能力者』と関わることすら皆無。王家に仕えることも、武官として武術に励むことすらない。なのに本人達には『藤家』の誇りだけはある。
意味わかんねえ。
「自分はもっとできるはず」「自分はもっと評価されるべき」「活躍する場がないだけ」「本気を出してないだけ」などなど自分勝手な思想を持っていた。
そういう鬱屈したものが根底にあった連中が、地元で活躍する青眼寺と西村家への憧れと嫉妬をこじらせていた。
そういったものが根底にあり、正樹を虐げ悦に浸っていた。最終的には青眼寺と西村家を我が物にしようと企んでいた。
ろくでもねぇなあ。
そしてそんな『藤家の落ちこぼれ』もしくは『かつて藤家だったことにしがみついている輩』はあの家族だけではなく「この京都だけでもかなり多くいます」とひなちゃんが言う。「調査確認はまだですが」と言いつつも断言するあたり、そう口にするだけのナニカがあるんだろう。
とにかく、そういう輩がしつこくしぶとく『能力者』への羨望と嫉妬をくすぶらせているらしい。
つまり今回のように、意味不明な一般人から西村家が不愉快や理不尽をぶつけられる可能性があると。
「面倒くせぇな」
「同感です」
「人間性が最低でも、危険思想の持ち主でも、なにか行動を起こさない限りは始末もできません」
「なので、基本放置しかないです」
「ただ『そういう輩がいる』ということは皆様で情報共有して、自衛に努めていただければと思います」
「可能であればご縁のある方にも広く注意喚起をお願いします」
「意味不明な妬みを受けているのは西村家と青眼寺だけではないので」
西村家と青眼寺は、母がむやみやたらとしたお節介のせいで一般にも広く知られている。だから「妬み嫉みも集まりやすいです」とひなちゃん。
寺は不特定多数の人間が出入できる場所でもあるので「用心に越したことはないかと」と忠告してくれた。
続けて解説してくれたのは、地元の人間について。
青眼寺のある場所は元々霊力の溜まりやすい『場』。戦国時代に荒れ果てたその『場』を清めるために主座様が開祖様に依頼して寺を復興させ、現在に至る。
代々の住職及び縁の者が真面目に勤めを果たしてきたおかげで青眼寺の周辺一帯は他と比べて霊力の多い土地と成っている。だからこそ高霊力保持者も生まれやすいし、妖達は居心地よくて定住する。
そのことになんの疑問も持っていなかったし問題とも思っていなかったが、ひなちゃんの話に目を剥いた。
人間に限らず生物には『優れた子孫を残そうとする本能』があるという。だから強いモノ、能力の高いモノはそれだけで異性を惹きつける。フェロモンに近いそれを察知するセンサーを持つヤツは『能力の高い異性』を察知した途端、相手に魅了され好意を抱きとらわれる。優れた子孫を残そうとする本能のままに。
で、青眼寺を中心とした近隣一帯に『場』の影響が出ていると。そのせいで『能力者』と全く関係ない一般人でも、他地域と比べ霊力が多めだったり、感知能力に優れている者が多い。それはつまり、『ヒトならざるモノ』や高霊力保持者を察知できる者が多いことにつながる。『能力の高い異性』を察知するセンサーを備えている者も。
そういうセンサーを持った人間が多い地域に、六十五年前に突然現れたのが、『能力の高い男』であるところの俺。
普通の赤ん坊はそれなりの霊力を持って生まれ、成長に従い修行を重ねて霊力を上げていく。らしい。
ところが俺は生まれ落ちた時から高霊力を保持していた。両親祖父母だけでは手に負えず、さらには高霊力保持者を狙った『悪しきモノ』まで呼び寄せてしまい、伊佐治を中心に何人もの妖が守り世話してくれた。
高霊力を制御するためにも自衛のためにも修行を課せられた俺を直接指導してくれたのが伊佐治。親父も伊佐治の指導を受けていたから、俺と親父は親子というよりも兄弟弟子といったほうがしっくりくる。
当時は知らなかったが、伊佐治は高霊力――むこうでは魔力か――に満ちたトリアンムからの『落人』。それも戦乱期に叩き上げで将軍にまでなった男。そんな男に指導された俺や親父やウチの連中は、短期間で近年滅多にお目にかかれないレベルに成長した。
そんな俺達が外に出たら――『そういうセンサーを持ったヤツ』の前に現れたら、どうなるか。
あっという間に『能力の高いモノ』と知覚され、惚れられる。
暁月が身の危険を感じるほどにモテモテなのは「そのせいもある」とひなちゃんが断言する。そう言われたら暁月に言い寄ってたのは蛇系のオスばかりだった。神も神使も『主』も。「他種族」と暁月が言ってたヤツも多分大きく分類したら蛇系だったんだろう。
麻比古や久十郎をはじめとした他の連中は『同族の異性』と出逢うことがなかったから気付かれなかっただけ。このへんにいる神や神使や『主』は男が多いと。女の神や神使や『主』がいたら「間違いなく取り込まれていました」とひなちゃん。
そういや麻比古がやんちゃを謝罪するために村に顔を出したのって俺が留学するときだよな。あの頃はもうかなり落ち着いてて霊力制御もお手のものになってたから村の女達に混乱はなかったってことか?
そう考え指摘すれば、思ってたのと違う答えが返ってきた。
この本能、基本的に『子孫を残す』――『生殖』のための本能。なので基本的に対象は同年代の異性。そのうち『お相手』のいるヤツはたいてい対象外。麻比古の村に謝罪に行ったとき、麻比古の同年代は全員結婚していた。だから問題が起こらなかった。
逆に言えば暁月は、今よりもっと霊力を抑えるよう訓練をすればこれまでのように言い寄られるとかトラブルを引き寄せるとかは少なくなると。黒陽さんがそういうの得意だから「お願いすればご指導くださると思いますよ」とひなちゃんはまとめた。これに暁月は喜んだ。間違いなく明日の朝の修行で頼むだろう。
暁月に関してはそれで済みそう。『生活向上委員会』を含めた他の連中へも「こういう話がある」と注意喚起しておいたらいいとアドバイスしてくれた。
で。わざわざそんな話をしてくれたのは、暁月のためじゃなかった。
「青眼寺周辺一帯の女性の一部に、秀智さんとトモさんそれぞれの、強烈な妄信者がいます」
「それもかなりの数」
『能力の高いモノ』を察知するセンサーを持った女の多い地域に、伊佐治により鍛えられた高霊力高能力保持者の俺が現れた。
幼稚園とか行ってたら徐々に慣れた可能性もあったらしいが、幼い頃の俺は「母の結界から出せる状態じゃなかった」とかで幼稚園には通わなかった。トモも同様。
そんな俺が、トモが、小学校入学のために世間に出た。
あっという間に『能力の高いモノ』と知覚され、惚れられた。
俺の周囲にあったことをひなちゃんが並べていく。生まれる前から俺について面倒見てくれてた暁月達が「あったあった」「いたいた」と話の裏付けをする。俺全然知らないんだが?
「そういう娘の気配をヒデは嫌って近寄らなかったから」「『ナリソコナイ』とか低低級妖魔だと判断してたよ」
首をひねる俺と違い、義弟夫婦は顔色を悪くしていた。今でも親しく付き合いのある人物が何人も挙げられていたらしい。「そんな危険人物だったなんて…」とうろたえていた。
『秀智さんが対象のヤバいひと』で『今でも世間に出ているひと』の中には、トモのことを「自分と秀智の孫」だと思っているヤツや「秀智自身」だと思っているヤツもいると。
「なので、トモさんは同年代だけでなく秀智さん世代からも狙われています」
「この件はトモさんにもお伝えして注意喚起しました」
「先程の『藤家の落ちこぼれ』同様、なにかやらかさない限りは手出しができません」
ちなみに『秀智さんが対象のヤバいひと』には「世間から隔離されているひと」も多数確認されたらしい。色々教えてくれたが「気持ち悪ぃ」「知るかよ」としか思わない。今後も無関係でお願いしたい。
「このたびの法事で、秀智さんとトモさんが公の場に姿を現しました」
「そのことが妄信者達を刺激した可能性があります」
「なのに当の秀智さんトモさんは青眼寺周辺から姿を消すとなると、青眼寺関係者に問い合わせや何らかの攻撃があることが予測されます」
他人事で聞いていた義弟夫婦が疑問を浮かべる。「実は」とひなちゃんが説明。
先日の山鉾巡行のときに京都中に降り注いだ桜吹雪は、『姫様』達が追っていた『悪しきモノ』が貯めていた霊力を極微量に固めたものだった。そのため触れたり取り込んだりしたモノに影響が出る可能性がある。実際当日午後からヒトにも『ヒトならざるモノ』にも影響が出て騒ぎが起こった。
あれからひと月経っているけれど、時間が経って馴染むこと、あのときに受けた刺激で徐々に霊力が増えることなどがあると。そのあたりは現在も安倍家が観測中らしい。
正樹が育てたあの小娘の法事での発言や態度も「桜吹雪の影響がなかったとは言えない」とひなちゃん。そして、あの小娘同様に暴走したりおかしくなったりしているのが「いないとは言えない」と。なんだそれ。気持ち悪ぃ。
同時に、ただでさえ『場』である青眼寺周辺一帯がより霊力が増えたわけで、これまでは察知されなかったヤツらが「ターゲットにされる可能性がある」。具体的には『お相手』のいない椿が一番危険だと。次に寺の妖達、沙樹の子供達。そして退院したら正樹も。
「これまでは秀智さんとトモさんという強烈な高霊力保持者が矢面に立っていたことで他の方々への影響はありませんでしたが」
『桜吹雪』の影響がどこにどんなふうに出るかは「神仏にも読めない」。なので『藤家の落ちこぼれ』をはじめとした西村家と青眼寺に妬み嫉みを持っているヤツ、『能力の高い異性』を察知するセンサーを備えているヤツなどが「トラブルを起こす可能性がある」とひなちゃんは断言した。
「充分お気をつけください」
顔色が悪くなった義弟夫婦に苦笑していたら、ひなちゃんはこっちにも注意喚起してきた。
まず俺。今日の午後からまた研究者達との親睦会やら学生向けの講演会なんかが予定されている。不特定多数が出入できる場所もあり、前述のオカシイのが突撃してくる可能性があると。今週末に京都を離れると知られている可能性もあるので「間違いなく何らかのトラブルが起こります」とひなちゃんが断言。真顔やめてよ。
「俺にはマコがいるのに、なんでいまだに狙われてんの?」
ふと思いついて質問すれば、ひなちゃんは嫌そうに眉を寄せた。
「言いましたでしょう」「『妄信者』だと」「『妄信者』には都合の悪い現実は理解できません」
「だから秀智さんの妄信者が真さんを狙う可能性もあります」「むしろ真さんのほうが危険かもしれません」
とにかく気をつけろと。護衛のまとめ役をしてくれてる碓水が呉羽に目を向けかけて口を引き結んだ。片手で自分の顔を覆う碓水。絶対『「呉羽を正樹に」なんて言わなければよかった』って思ってるぞ。
呉羽は呉羽で正樹に危険が及ぶ可能性に頭がいっぱいになっている。俺とマコのことも心配してくれよ。
次に暁月達『生活向上委員会』を含めた妖達。『お相手』のいるヤツらは大丈夫のはず。未婚のモノも本人達がいいならまあ問題ないだろう。心配なのは子供達。幼児から少年少女が『桜吹雪』に狂わされたオカシイのに襲われる可能性がある。
『能力の高い異性』狙いでなく、ただ単に『桜吹雪』でオカシクなった妖についての報告が安倍家に入っているが、安倍家の把握していないものも間違いなくあるだろう。
そんな暴走状態の妖が無差別に村や妖を襲う可能性もある。
逆に、それぞれの村にそんな暴走状態のヤツがいる可能性も。
あれやこれやと指摘され、暁月の顔色が悪くなった。あわててメモを取りひなちゃんに質問する暁月。大変だな。まあがんばれ。
『記憶』を『視た』上で色々検証した結果、ウチの連中は高間原から『落ちて』来たひとの子孫だろうと意見が一致した。
高間原から『落ちて』きたひとは総じて霊力量が多い。その子孫も当然霊力量が多くなる。
高間原の四方の国は獣の国。北は爬虫類。南は鳥類。西は哺乳類。東は他の『世界』から渡ってきた龍の国。
魔の森で息を潜めるように生きていた者が、弱いことで知られていたヒトの一族が『不思議なチカラを得た』と耳にし、頭を下げその方法を教わった。そのときにヒトの姿を取る術も教わり、交流のためにヒトの姿を取り続けた。
最初にヒトの一族から――『災禍』から色々教わった一族が、近隣の他の一族に教わったことを伝えた。結果、王族とまつられるようになった。
基本的に同じ一族間で婚姻を重ねていた者達。この『世界』に『落ちて』以降も同じ一族間で婚姻を重ねた。それから約一千年後。『能力者排斥運動』が起きた。生き残った一部は宗主様のところを頼り、一部はそれぞれの一族で隠れ住んだ。
その隠れ住んだ生き残りの子孫がウチの連中。
『能力者排斥運動』を恐れ、『異界』を作ったり強い結界を展開したりした。それは結果的にその範囲内の霊力を保つことになった。そうしてその範囲内は高霊力を保つことになり、高霊力を持った子供が生まれる。同時に寿命も延びた。
『能力者排斥運動』を恐れ、他所との交流もほぼ絶った。それは結果的に村落での婚姻を重ねることになり、より血が濃くなる。
そうやって四千年という長い時間の間に『人化の術』は弱まったり変質したりした。結果、ヒトの姿を取れなくなった者、ヒトと獣の混じった姿になった者、どちらの姿も自在に取れる者などが現れた。
それは『ヒトならざるモノ』。
長い時間を経るうちに、この『世界』に元々いたり新たにうまれたりした『ヒトならざるモノ』と混同されていった。そうして現代では本人達も『ヒトならざるモノ』だと、『妖』だと自認している。
なので、『生活向上委員会』のメンバーには、高間原から『落ちて』来たひとの子孫と、その他がいる。
そのどちらにも『桜吹雪』の影響はあるだろうと。
ただ、「高間原の縁者ならば」と『姫様』達が「なにかあれば協力する」「いつでも相談して欲しい」と言ってくださっているとひなちゃんは明かす。
「主座様直属にご連絡くだされば『姫様』方にご報告可能です」
今回の『褒賞』関係で久十郎と晴臣くんとのホットラインが結ばれた。元々トモと久十郎はつながっていた。それらを使えばいいと勧められ、暁月が頭を下げていた。
「とにかく、なにかあればご報告ご相談ご連絡ください」「場合によっては他家にも周知したり、安倍家が対応しないといけない事態もあり得ます」
義弟夫婦に、暁月達にこんこんと諭すひなちゃん。それ晴臣くんの仕事が増えるんじゃないの? まあ俺関係ねぇからいいか。
ひと通り注意喚起が終わったあとは次の話。
昨夜俺達がホテルに戻ったあと。『宗主様の高間原』で作ったあれこれについての情報共有がなされた。
で、『宗主様の高間原』で作った霊力測定器と水浄化装置を安倍家の技術者が再現しているらしい。
俺達が『むこう』で作ったのと『こっち』で作ってるのとで差が出るか。使いごこちは。使ったのと使わないのとで違いが出るか。などなど、実証その他の実験の被験者として「正樹を使いたい」そうな。それ絶対この病院にいる頭巾の発案でしょ。
正樹の保護者である義弟にその許可とサインをもらいたいとひなちゃんが書類を出してきた。
「なんで医者じゃなくてひなちゃんが?」問えば「どなたが『安倍家の関係者』かは伏せておきたいのです」と謝罪された。
「危害はない」「むしろ覚醒が早まる可能性がある」と説明され、洋一がサインをした。
「あと、念の為に」と教えてくれたのは、例の女の両親と正樹自身の保険金について。
正樹はこの十五年の間に、相当額をあの一家にむしり取られている。そのうえにヤツらのやらかしの尻拭いまでしている。それは「補填させなければならない」と母は手を打っていた。具体的には晴臣くんに指示を出していた。その筋書きは次のとおり。
弁護士の晴臣くんが正樹一家のところに行ったのは『西村家と青眼寺に対し迷惑行為を繰り返していることへの警告』。「夫が西村家の本当の跡継ぎ」「故に娘が西村家と青眼寺を継ぐ」と聞かない女とその両親を納得させるためにDNA鑑定を受けさせた。
そのときに内藤正樹本人から相談された。「自分は同姓同名だっただけで西村家とも青眼寺とも関係ない」「しかし家族は一向に聞いてくれない」「迷惑をかけた青眼寺の西村正樹氏と青眼寺に自分が得る保険金を全額寄贈したい」「どうにかできないだろうか」
そこでそのことを記した遺書を作り、預かっていた。「なにか察するところがあったのでは」「普段から虐げられていたようですし」警察や保険会社から問われたらそう答えればいいと。
遺書も署名も手配済。あとは母の筋書き通りに進むはずだったが、どんな奇跡か正樹はこうして生きている。それならそのまま正樹の口座に金を入れようと晴臣くんが動いてくれている。
「なので、なにか問い合わせがあっても『弁護士にまかせている』とだけ答えて、全部晴臣さんに丸投げしてください」
「下手に動かれるよりは全部お任せしたほうが仕事しやすいです」とまで言われては義弟夫婦も「わかりました」以外言葉がなかった。
そんなやりとりを見ていて、ふと思い出した。トモが言っていた。義弟夫婦の孫達は正樹が直樹の兄だと知っていること、あの小娘を従姉妹だと思っていること。
そのことを義弟夫婦に伝えればふたりとも驚いていた。「うまいこと説明しとけよ」「でないと正樹が目を覚ましたときにまた一悶着あるぞ」
ひなちゃんにも危険が察せられたらしい。義弟夫婦とひなちゃんでどうにかなりそうなところまで話し合いが行われた。
他にもああだこうだと話をし、長い長い面会はようやく終わった。




