西村秀智と『静原の呪い』67
どうにか全部の『記憶』を『視た』。もうヘトヘトなんだけど。
「グズグズ言うな。ここにいられる間に素案だけでも作れ」
息子に首根っこをつかまれ座らされる。目の前にレポート用紙とペン。
「ノーパソとタブレットもあるぞ」「使いたいほうを使え」
俺の横に座ったマコにもレポート用紙とペンが渡される。
「よし! やるぞ!」
やる気マンマンのマコがペンを取る。若いなあ。俺もうジジイだからヘトヘトだよ。
「何甘えたこと言ってやがる」「今いま起きてきて飯食ったばかりじゃないか」「十分体力あるだろ」
「メンタルの問題だって」
「メンタルも回復してるだろ」「親父のは『甘え』だ」「いいからさっさと考えろ」
「まずなにから手をつけるべきだと思う?」
問題提起されたら勝手に考察モードになっちまう自分が憎い。ひなちゃん晃くんから『とある御方』が「これどうにかしろ」と命じられたという教科書を広げた。ああだこうだと話をし、なんだかんだと検討し、優先順位をつけ、実現可能レベルのものから論文を作っていく。
「メモ書きなんかも残しておきましょう」「いきなり論文を出すよりも『ずっと以前からアイデアだけはあった』『いつか実現できないかとメモしていた』として見せたほうが信憑性があります」
ひなちゃんの提案には納得しかない。話し合い途中で書きなぐったメモの山の分類を息子がしていく。英語混じりのメモなせいでひなちゃんは「読めません」と。マコはマコで数式とじゃれている。久々に『キラキラ』と対話している。
そうして「差し当たって」の論文を書き上げた。今よりも格段に効率を良くした蓄電池と送電線。太陽光や風力、水力、地熱などの発電に必要なパネルやら発電機やらの効率も上げた。ついでに小型化も。これだけでも世界中のエネルギー問題が解決する。化石燃料に頼らなくてもいい世界になる。はず。
さらに有機物発電も提案。色んなパターンを書き上げたが、俺的には人間の排泄物を使った発電が一番だと思う。人間がいるところに必要なエネルギーはそこにいる人間から生み出せばいい。早い話が自給自足。送電線とか関係ないシステム考えたから、これなら隠れ里である麻比古や久十郎の村でも使える。「村に電気を引けたらいいんだが」ってボヤいてたから。
排泄物だけじゃなくて生ゴミや剪定した木の枝、雑草なんかも原料になる。『生活向上委員会』の村レベルだったらこれで電力まかなえるはず。東京とかの大都会だったら有機物発電に加えて太陽光や風力使えばイケる。
おそらくはこれのせいで世界のパワーバランスは壊れる。石油産出国からは猛反対され俺達は報復とばかりに生命を狙われるだろう。もしかしたら新たな火種になって世界中を巻き込んだ大戦争が起こるかも。核兵器のせいで世界滅ぶかも。
そんなのは面倒なので、放射能や放射性物質を無害化する理論も提案。ついでに放射性廃棄物もいい感じに分解して自然に還す理論も。それならついでにと埋め立てゴミの再利用も提案。元素分解して再構成して素材に戻す。プラスチックをはじめとした素材は再利用素材でまかなえるようになるだろう。利用促進と普及のためには簡単で低コストなシステム作らないと? それもそうだ。泥や砂、複数素材がついててもうまくそれぞれの元素に分解するようにしないとな。あそこのあれを使って、ここでこーして、これがこーなって……。分解するときのエネルギーも利用して、あーしてこーして……。
これまでは埋蔵している化石燃料が世界の主流エネルギーだから所有している国ほど金持ちだったが、この理論が一般に広まってシステム運用できるようになったら埋め立てゴミが多い地域ほど金持ちになる。それこそ海に浮かんでるゴミを競って奪い合うなんて逆転現象も起こり得るかも。そうなったら海洋汚染の解決の一躍を担うことになる。そういや海洋プラスチック問題なんてのがあったな。海流を利用してここにこーゆーの設置して濾過すればイケるな。これも提案。せっせと論文を書く。必要な機材や機械、道具も提案。
あ。海洋資源問題もあったな。貧栄養化と富栄養化はこれをこーしたら解決できるはず。生態系の問題もあるからこの程度でいいだろ。海水温度上昇は温暖化と同時に解決させないとだな。こーゆー装置作ったら海水から氷が作れるから、南極や氷河が溶けてるのはこいつで食い止めて。これだけの海水を氷に変換したら体積がこーなるから海水面がこーなるだろ? で、ここの水温を下げることになるから海流がこうなってこう……。そうなると影響受けて気流がこうなって……。
二酸化炭素問題は差し当たり二酸化炭素を吸収して酸素を出す装置を作って世界中にばらまこう。建物の外壁とか屋根とかに入れ込めたらいいな。それはこっちのこれで提案しよう。
車がなあ……。排ガス出さない車の案と、排ガスを無害化する装置を組み込んだ車の案と、どっちがいいかなあ……。両方? それもそうか。じゃ両方書いてみよう。
この装置、どれだけ小型化できるかな。既存の素材と設計じゃ無理か……じゃああそこのこれを転用して……マイクロチップをナノチップにまで落とし込んで……いや、ピコやフェムトレベルにまで落とせないか? そのためには部品がいるから、出力機を作って………。ああしてこうして……。この素材の強度が問題だよなあ……。あ。そうだ。これを使ってこーしてあーしたらいい素材になる。木材利用だから間伐材で作れるのもいいかも。木材利用が促進されたら林業も盛り返すだろう。阿呆な企業が伐採しまくるのを防ぐための法律が必要だな。ちゃんと伐採したあとは植樹することを徹底させるよう提案書に書いとこう。植樹→間伐→伐採→植樹の循環システムが徹底されれば半永久的に儲かると理解できれば森林破壊とか起きないと思うんだが。
あ。そうだな。人間が手を出しちゃいけないエリアを先に徹底しとかないとだな。なるほどそうすれば確かに生態系が守られる。けど国が保護とか口で言っても駄目だろうなあ…。え? 最初にこれとこれを製品化して、次にこっちを広めて、それらの利益で法人作って世界中の保護したいエリアを買い取って法人所有にしちまう? それなら保護エリアに不法侵入するヤツは問答無用で叩きのめせると。なるほどー。同じタイミングで別の製品広めて金稼いで保護エリアの管理会社作ると。不法侵入者の排除、研究者の受け入れと支援。少しだけ恵みをいただき世界中に還元。観光利用も少しだけ。なるほどなるほど。あちこちに利益があるとわかれば協力者も増えると。協力者が増えれば増えるほど保護エリアは守られると。そうだね。人間得がないと動かないもんね。エサの種類増やさないと。金と食料とエネルギーと娯楽と……。
あ。食料問題もあったね。それこそこーゆーのどうかな? 完全養殖プラント。こーしてこーしてこーゆーの作ったら、それこそ砂漠のど真ん中でも荒野でも魚も野菜も食えるよ。野菜ができたら畜産もできる。水は最初だけこーやってまかなって。軌道に乗ったらあとはここだけで循環できる。これなら安定供給もできるだろ。
ああしてこうして、ああでこうで、こうだからこうなって。あれやこれやと次から次へと話し合う。ひなちゃん晃くんは俺達に『記憶』を渡すための人員で息子は倒れる俺達のサポート役だと思っていたが、三人ともが俺達が論文作るためのサポート人員でもあった。
問題提起。質問。多角的に検証。俗な人間が考えそうなことを提起。費用、経費、利益など金にまつわる問題。それらについての解決策の検討。俺とマコだけだったら見えなかったことや考えつかなかったことを三人は指摘してくる。なるほど転生者というのはすごいものだと思い知らされた。
メモがどんどんと積み上がっていく。息子が分類しながらスキャンし入力しデータにしていく。ひなちゃんが息子に聞きながらファイリング。分厚いファイルがどんどん積み上がっていく。
キリのいいところで休憩。おやつにしたり食事を取ったり。気の利くひなちゃんが時間管理をしてくれて、風呂に入り睡眠も取った。風呂とかトイレとかどうなってんだろうな。疑問から検討が始まり、またメモが積み上がる。調子に乗って反重力装置を理論構築。国民的アニメの未来猫型ロボットも、その不思議道具も理論構築できた。これ完成したら一般人でも空飛べる。法整備してからじゃないと製品化できないな。それで言ったらドア型転移装置だよな。これ無理にドア型じゃなくてもいいよな。トリアンムみたいな形にできないかな。ああでこうで。あ。こっちのほうが管理しやすいか。なるほどなるほど。これ物流破壊するよな。チョー便利だけど。これもルール作りをしっかりしてからじゃないと一般に公開できないな。けどまあまずはホントにできるか作って検証しないといけないし。そうしてるうちに色々できてくんだろ。俺はそこまで手出ししない。俺そーゆーのは専門外だから。
俺の専門分野の『みる』についても論文を作っていく。長年の疑問が解けてテンション上がってる自覚はある。太陽光に可視不可視があるように、他にも色々と可視不可視な存在があった。わかりやすく表現するならば、『世界』とは『階層仕立』になっている。一般人には一枚の階層しか見えていないが、俺達みたいな高霊力保持者は高霊力保持者にしか見えない階層も同時に知覚できる。だから二枚、場合によっては三枚の階層を重ねた『世界』が見えている。
「そーゆー作品ありました」ひなちゃんが漫画や小説を紹介してくれる。まさか先にそんな作品が生まれていたとは。人間の想像力ってすげえな。いや、その作者が天才なだけかも。発想力すげえ。俺にはない。素直に脱帽。尊敬する。
そこから漫画や小説、アニメ作品をテーマに「こんなのできるか」という話で盛り上がった。有名映画の光る剣とか、有名アニメのなんでも収納するカプセルとか。質量保存の法則とか重力とか他にも色んな法則を無視したような新理論がたくさんできた。ひなちゃんとマコが読み込んではツッコミを入れてくれたり詳しい解説を求めたりしてきてさらに枚数増えた。
この『世界』に知られていない物質や法則を、理論上では組み立てられた。あとは検証。ひたすらに検証し検討し結果を重ねていくという途方も無い作業が待っている。地域差があるか、条件を変えたときはどうなるか。その確認方法も検証方法も書き出す。ああしてこうしてと指示書みたいになってしまった。
既存のものを改良したり組み合わせたり。これも実験検証が必要。これができたらこれができる。これを作るためにはこれが必要。そんなことも書き出していく。途方もない。チョー面倒。けどこれができたらどれだけの金を生み出すか理解できるヤツなら嬉々としてやらせるだろう。どれだけ環境問題に、人類に役立つかを理解するヤツも。そして仮にも『研究者』を名乗るようなヤツなら、こんな面白そうな研究に従事しないわけがない。それぞれの専門分野なら尚更。面倒だし途方もないけど「ホントにこうなるのか」「実現できるか」とやる気をみなぎらせ検証してくれるだろう。
仕事はやりたいヤツにやらせるに限る。俺もうジジイだから。若くてやる気のあるヤツらに丸投げ。
「それでいいです」「そうやってどんどん仕事割り振っていきましょう」
ひなちゃんもそう言ってる。だから問題ない。俺は後のことはなーんにも考えずにひたすら書き出すだけ。
あ。ついでにこれも書いとこう。こっちのこれも必要かな。
「いいですね!」「ジャンジャン吐き出してください!」「秀智さんと真さん以外のひとにも『記憶』の引き継ぎをしてください!」
今すぐできること。これができたらできること。もっともっと先にできるかもしれないこと。明日できそうなことからSF小説の論理付けみたいなことまでただひたすらに書き出した。
◇ ◇ ◇
一番に弱音を吐いたのは、意外にも息子だった。
「俺もう抜けていい?」「いい加減竹さんに会いたい」論文作成開始から体感で一週間経ったところでそんなことを口にした。
「親父も晃も『半身』が一緒だからいいよな」「俺も『半身』に会いたい」
グズグズ言う息子にひなちゃんがそっとスマホを差し出した。途端に息子が跳ね上がる。
「この写真、欲しいですか?」コクコクコクコクうなずく息子。
「このお仕事が終わったらお渡ししますね」悪い顔で微笑むひなちゃんは色々隠し玉を持っているらしい。バリバリ働きだした息子に晃くんが苦笑していた。
俺とマコは色々理論構築するのが楽しくて疲れを感じることなく論文作成にはげんだ。おかしなテンションになっている自覚はある。けどこのテンションでないと続けられないのも自覚している。それほど『視せられた記憶』は膨大で多岐にわたっていた。科学技術が主流の『世界』もあれば魔法が主流の『世界』もあった。それらを組み合わせた『世界』もあったし理も常識も全然違う『世界』もあった。
果てがない。
『知る』ということは。『考える』ということは。『想像』し『創造』するということは。
有限の生命の中でできうる限りを尽くす。それがヒトとして生まれたモノの成すべきこと。『世界』は巡る。生命も廻る。滞りなく循環させることが、生命を、『世界』を生かし、活かす。
今のこの『世界』は、その循環がちょっとばかし機能不全起こしてる。そこを解消すればまたうまく循環する。はず。そうなれば破滅の未来は起こることなく続いていくだろう。
無限なんてものはない。だからいつかこの『世界』にも終わりは来る。けれど『いつか』が来るタイミングを伸ばすことはできる。少なくともトモと竹ちゃんの子供が――俺達の孫が死ぬまでは、大きな苦労なく暮らせるだろう。
俺達の仕事はその程度でいい。その先はまた次の研究者が考えることだ。
『世界』は常に変化している。変化し、新たな知識と技術が生まれる。
俺達のこの論文だって、発表する今ならば革新的だと評されるだろうが、百年二百年経ったときには古臭い遅れた理論とされるかもしれない。それでいい。そうやって知識は技術は進歩していったんだから。
遠い未来、転生した俺が「古臭え理論だな」と馬鹿にするかもしれない。転生したマコとふたりで今みたいに討論して新理論組み立てるかもしれない。
そんなことを思いつき、案外そうなるんじゃないかと思えて、楽しい気持ちで新しいレポート用紙にペンを走らせた。
◇ ◇ ◇
吐き出すだけ吐き出し、まとめるだけまとめ、どうにか完成した。『西村ノート』と名付けたハードディスクは息子がシステムを組んで、書き出したメモやら論文やらをテーマ、分野、物質ごとに閲覧できるようにした。研究所への提案書も作った。膨大なファイルはダンボールに詰め研究所に送りつける予定。無限収納に入れて持ち帰ろうと思ってたらひなちゃんからストップがかかった。「ちゃんと記録に残さないと面倒なことになります」言われれば確かにそのとおり。「『盗難防止』の護符つけて送ろう」息子が護符を作り、ダンボール箱にペタペタと貼り付けた。
最後に全員でしっかりと食いしっかりと寝た。起き出してから作った荷物を無限収納に収め、諸々片付けてから『異界』を出た。
俺の体感で二か月は経ったが、一歩踏み出したそこは二か月前と変わらぬ板の間。なんか夢でも見てたんじゃないか、狐につままれるというのはこんな心地かと思ってしまい、ドッと疲れがのしかかってきた。
座り込んだ俺の横にマコも座る。「つかれたねぇ」「だな」「でもできてよかった」「だな」ふたりで話している間にひなちゃんはテキパキとウチの連中と話をしていた。元気だなあ。若いなあ。
「『異界』でしっかり休んだだろうが」「しゃんとしろ」息子が説教してくる。
「それはそれだよ」「大仕事終えたんだから少しくらいだらけさせろよ」文句を言っていたらひなちゃんの声が耳に入ってきた。
ウチの連中の希望する『褒賞』が「決まった」と。
呉羽は「正樹に『お守り』をもらいたい」。
他人を『信じる』ことを己の第一義としている正樹だから、目覚めたあとも悪人に利用される可能性が高い。善良が過ぎるほど善人な正樹が二度と喰い物にされないために、『悪人避け』とか『災難避け』とか『運気上昇』とかいった『お守り』をお願いしたいと。
いくつも付与をつけたら呉羽の保有ポイントのほとんど全部を消費することになる。それでも「つけられる限りの『護り』をつけてほしい」と呉羽は願った。
定兼は提案された封印石を希望。器物の壊れた、または壊れかけた付喪神を封じることができるもので、新しい器物に移す術を教えるのまでがセット。「ポイントでもらえるだけもらいたい」としながらも「可能であれば器物を直す術やアイテムがあればそちらも合わせてお願いしたい」と加えていた。
呉羽と定兼以外の連中はそれぞれのポイントの半分を出し合い、大胆な提案をしてきた。
「人里離れた田舎に一箇所、町中に一箇所、自分達の拠点となる場所が欲しい」
『生活向上委員会』の活動は基本的には各村持ち回りで行っている。が、時々人間の町に出かけることもある。そのときに拠点があれば便利なんじゃないかと。
『生活向上委員会』のメンバーの多くは京都市を囲む山に暮らしている。その山奥から出てすぐのところに拠点があれば集まりやすいし人里にも出やすい。そして町中に拠点があれば、今よりも便利に人間の暮らしを学べる。なんなら住所を持つことでバイトもできる。他にも色んな可能性が考えられる。
人里離れた拠点に医者を常駐させたい。病院まではいかなくても診療所レベルの医療体制を作りたい。これまでは各村で民間療法的な治療しかできなかった。それを『生活向上委員会』で知恵を出し合い学び合い助け合っているのが現在。その拠点を作りたい。各村で対応できないような病気や怪我が起きたときに運び込めるように。各村の医療従事者の学びの場となるように。
同時に商店を作りたい。道具屋が扱うような特別な道具、人間世界で売られているもの、各村で作られている商品。そういうものを一括で扱える場所が欲しいと以前から議題に出ていた。どこかの村でというのは占有になると文句が出てこれまで実現できなかったが、まったく新しい場所ならば、それもどの村の者も利用できるならば文句は出ないだろう。むしろ道具屋の道具をはじめとした特別な商品を欲しがる人間も来るだろう。少なくとも安倍家と西村家の関係者は喜ぶ。西村家つながりで静原も行きたがる。人間が客に加われば人間世界の金が手に入る。そうなれば人間世界で買い物ができる。そうして流通が生まれる。
ふたつの拠点には管理人を置きたい。管理人は利用者にサービスを提供することで収入を得る。ホテルと同じ。宿泊費と食事代が大きな収入源。他にガイドや講習会の講師としても活動してもらう。
人間世界で出歩くのも、いきなり町に行くのではなく、田舎の拠点で人間の姿人間の服装にし、休憩してから町中の拠点に移動するようにすれば負担も減る。余裕ができればトラブルも減る。そうやって経験を重ねればまた余裕ができ、色々と学ぶこともできる。結果、各村の生活向上につながる。
説明されればなるほどよく考えたなと感心しかない。これならウチの連中の出身村以外のメンバーにも恩恵がある。『ヒトならざるモノ』全体のためになる。安倍家をはじめとした『能力者』達も恩恵がある。あっちにもこっちにもいいことがある。まさに三方良し。
残りの半分のポイントの使い道はそれぞれ異なった。全部日本円にするヤツもいれば小型トラクターなどの道具を希望するヤツも。
「小型トラクター……久十郎の霊力量なら術で代用できるぞ?」
魔法文明世界の知識を組み合わせ術式を組み立てる。「ああして、こうして」説明すれば久十郎だけでなく暁月もユイも食いついた。
「あれは!?」「これは!?」次々と質問されそれぞれに術式を作っていけば諸手を挙げて喜ばれた。
「それ、宗主様の高間原でも使えるな」「術式書き出せ」息子に命じられて今度は術式を書き出す。魔法世界で聖女していたユイも加わり次から次へと術式構築していく。陣や札も検討。既存のものも再検討して効率を良くした。
新規構築した術式を込めた霊玉を使った道具も開発。『宗主様の高間原』で使っているという製品の図面を息子がひき、それを改良していく。さらに人間世界の家電をアレンジしていく。車や重機にも転用。理論と図面はできたが場所的にデカいのは使いにくそう。ということで小型化。他にも「こんなのが欲しい!」「こーゆーのできる!?」というリクエストに次々と答えていく。トリアンムに行ってすぐのときのようにあれこれ考え作るのは楽しくて、気がついたらまた山のように書類が積み上がっていた。
「これもきっと褒賞対象になりますね」ひなちゃんが困ったような楽しそうな複雑な顔で笑っていた。
「これがあればこっちは不要かも」となり、再び褒賞になにをもらうかの話し合いが行われた。
ちなみに『生活向上委員会』とも村とも無関係の碓水が協力しているのは娘達のため。「俺の可愛い女達のためなら」と。
「こういうところで気前よくして女にいいところ見せないとな」「男がすたるってもんだ」軽薄な発言に娘達はキャアキャアと喜び、暁月はこめかみを押さえていた。
◇ ◇ ◇
どうにかまとまった話をひなちゃんが書類にし、全員に確認させた。
「ではこちらで提案させていただきます」「長時間に渡りありがとうございました」「すぐにご報告して参りますので、皆様は今しばらくおやすみくださいませ」
そう言ってひなちゃんと晃くんは部屋を出て行った。
「手持ちの在庫がなくなった」息子と黒陽さんも一旦部屋を出たが、すぐに戻ってきた。襖を閉めてすぐパパパッと動き、座卓と座布団をセッティング。あっという間に料理が並んだ。
「ナツが作ってたのもらってきた」「よかったらどれでも好きなだけどうぞ」
「「「いただきます!!!」」」
「美味えぇえ!」「なにこれ! なにが違うの!?」涙を流しながら食うヤツ、黙々と食うヤツ、色々だが全員がガツガツと競い合って食った。どのおかずも美味いが、ツヤッツヤの白米と味噌汁と茄子の浅漬けの美味いこと。日本人でよかったと心の底から感謝した。
茄子料理が多いと思ったら「竹さんの実家の茄子」と息子が教えてくれた。
「他の野菜も竹さん家の」「美味いだろ」
「「「美味い!!!」」」「「「美味しい!!!」」」
料理をするメンバーは検証しながら食っていた。久十郎は敗北感に打ちのめされていたが、作成者のなっちゃんが有名料亭に勤めていると聞き納得。新八郎とふたり「ぜひ師事したい」と盛り上がっていた。
腹いっぱい飯食ってデザートまでいただいて、もうあとは寝るだけだろって状態になった。
「もういいか?」息子に問われ全員が肯定と感謝を返す。
「じゃあ」と息子が襖を開けた。
「よかったら今のうちにトイレと洗面所使って」「こっち」案内されるままに交代でトイレと洗面所を使わせてもらう。歯を磨き髭を剃り顔を洗えばスッキリした。元の部屋に戻って背伸びをする。ボキボキときしむ背中。こわばっている筋肉をほぐしていたらひなちゃんと晃くんが戻ってきた。
えらく時間かかったなと思っていたのは俺だけじゃなかった。「おかえりー」「遅かったね」マコの声かけで明かされたのは、俺達の食事中は時間停止かけてあったという事実。襖を閉めたときに黒陽さんが時間停止かけてたと。息をするように高レベルな術を展開するなんて。それも無詠唱無媒体。もう意味わかんねえ。
黒陽さん達のいた『世界』も『視た』けど、そんな無詠唱無媒体が一般的なんてことは決してなかった。やっぱりこのひと非常識人だ。
頭を押さえる俺に苦笑を浮かべるマコ。そんな俺達に黒陽さんはキョトンとするだけ。ああ。息子の苦労がわかる。その息子は苦笑で無言を貫いていた。
「お待たせ致しました」
改まった様子でお辞儀をするひなちゃん晃くんにこちらもピッと背筋が伸びる。
「基本的に皆様のご希望が通りました」
そう前置きし、ひなちゃんが次々と報告していく。
「まず呉羽さん」「ご希望のお守りは承認されました」「お渡し日時はまた改めてご連絡させていただきます」
「続いて定兼さん」「同じく承認されました」「すべて揃ってからお渡し、お渡し時に術のご指導をさせていただきます」「詳しい日時はまた後日」「渡米までにはお渡しするとお約束致します」
「続いて他の皆様ご希望の拠点についてです」
「こちらも承認されました」
ホッとするヤツ、わっと声をあげるヤツ、それぞれに喜びを現していた。
「候補地はこれから探します」「こちらは色々手続きや交渉が必要ですので、しばらくお時間をいただければと存じます」「ひと月以内には候補地の御提案をさせていただけると思います」
うなずく連中。具体的な報告に、夢物語でなく実現可能だと示され喜びをにじませている。
「それでですね」続けるひなちゃんの声の調子が変わった。
「どちらの拠点もですが、皆様だけではご不便もあろうかと存じます」
「そこで、皆様の拠点近くに安倍家の者を常駐させていただいてはどうかという案が出ております」
キョトンとするヤツ。眉をひそめるヤツ。喜ぶヤツ。色々な反応をする連中に、ひなちゃんは淡々と説明した。
「もちろん皆様に対しての理解のある者を配属致します」
「これから調整に入りますが、そちらの管理人候補者と安倍家の候補者と両方の主だった方々で少しすつ交流して、相性など問題なさそうでしたら『ご近所さん』としてお付き合いさせていただければと存じます」
「それは……こちらもありがたいが……」
顔を見合わせ探り合っていた連中の中から久十郎が発言した。迷い迷い言葉をつむいでいく。
「こちらもまだ思いつきで、『生活向上委員会』にもそれぞれの村にも話を通していない」
「まずは『褒賞』として『拠点をいただける』という許可が出たことを報告させて欲しい」
「こちらはこちらで色々話し合う必要がある」
「その後改めてご相談させていただきたい」
久十郎の説明に「それはそうですね」とひなちゃんも納得を示す。
「では皆様が話し合われている間にこちらは物件探しをさせていただきます」
「どなたか窓口になっていただけませんか?」
「こちらも窓口となる者を決めます」
「連絡方法を決め、やりとり致しましょう」
ユイと久十郎とどちらを窓口にするか相談し、結局久十郎が窓口となることを決めた。久十郎は俺名義の携帯端末持ってるから連絡取りやすいというのが一番の理由。電話番号とアドレスを控え、この件は一旦終わりとなった。
「拠点以外の『褒賞』に関しては本日お持ち帰りいただけます」
「いかがいたしましょうか」
「後日お泊りのホテルに持参しても構いませんが」
拠点以外の『褒賞』として色々申し出ていた。酒などの嗜好品、村で使える道具、現金、その他諸々。全員分となるとそれなりの物量になる。そんなのお互いに大変だ。
「そっちも急にって言ったら大変でしょ」
「呉羽か定兼のついででいいよ」
「なんなら呼び出してくれたらいつでも応じるよ」
「それでいいだろ?」全員に向け問いかければ肯定が返ってきた。
「わかりました」「では後日改めてお渡しさせていただきます」
どこか安心したようにひなちゃんが微笑む。これでこっちも一件落着。やれやれ。
「最後に、秀智さん真さんの『褒賞』ですが」
トリアンムに干渉する日程が決まったのかと待ち構えた。が、どうも様子がおかしい。事務官然として淡々と話を進めていたひなちゃんが言いづらそうに間を空けた。
「―――その前に」
どうにかというのがわかる覚悟を決めた表情で俺とマコと目を合わせたひなちゃん。そのまま深々と頭を下げた。
「申し訳ありません………。おふたりの仕事を増やしてしまいました………」
私個人の願望を小説内で叶えてもらいました
現実世界でも誰か作ってください




