14. 赤の文書 参
国見藤の家で、赤の文書を見せてもらった後、鴇、碧、太常、菅原褐の4人は鴇の家に訪問した。正確には、鴇の部屋に4人が入ったら、いっぱいになるので、鴇が作成している空間に移動するために、鴇の家を訪れたのが正しい。
真っ白の空間に、白いテーブルと椅子が6脚だけ置かれている空間に4人は滞在していた。
碧は6脚ある椅子のうちの一つに腰を下ろし、ハクとコウを呼び出した。コウは碧の膝の上にちょこんと乗り、碧がコウの首元をころころ撫でている。
太常は椅子にも座らず、腕組みをして壁にもたれており、褐は碧の斜め前に座る。鴇はちゃっかり碧の横の椅子に座る。
「太常さん、晴明様はなんて言っているんですか?」
「鴇くん、晴明様はまだ、何もおっしゃっていないですよ。知っての通り、歴史の証人以外で〈時戻り〉の術が使える者はいません。そして、歴史の証人は晴明様の命令以外で行動することが禁じられています。晴明様を納得させないことには、時戻りができませんが、ここには歴史の証人がいませんから、晴明様から何も言う必要がないのでしょう」
碧は無言で太常の顔を見る。
(私、歴史の証人じゃないのに、時戻りができてる……)
碧は「とにかく」と言って「太常に伝えれば、晴明様に自動的に伝わるし、私がいれば青君に伝わる。そして、鴇は医術師」コウを足元に置いた。
「碧さま、青さまを呼びますか?」
コウの申し出に碧は「いいのかな?」と周囲を確認する。
「それ意外に選択肢ないよね」
鴇はそう言ってコウを撫でる。
(めちゃくちゃ不服そう)
鴇以外の三人はそう思っていた。
♢♦︎♢
青が鴇の家に着いた時、コウが尻尾をふりふりして、碧に褒めて、とアピールする。
「話は大体わかった」
青はそういうと碧の前の席に座った。
「前に青くんの家で見たハクの映像によると、忍術書の万川集海の編成記録を確認するために紺さんは江戸時代の伊賀に行ってたよね?」
「ああ」
初っ端なからぐいぐいくる鴇に青は押され気味である。
「太常さんも言っていたけれど、時戻りをできるのは歴史の証人しかあり得ない。そこで、弓削玄と会ったけれど、じゃあ、何故紺さんは指令で万川集海の編成記録を見にいかなきゃいけなかったのかな?」
太常は手をヌッと挙げる。
「それについては、簡単に聞ける人がいます」
♢♦︎♢
太常の身体を媒介して話す男は饒舌だった。
「いやあ………、それにしても皆さん、ご無沙汰しています。8年ぶりですね。あ、碧、お母さんに益々似てきましたね」
相変わらずの調子で鴇と青はあっけに取られていた。
「さて、気にされていることは紺さんにだした万川集海の編成を確認してもらった件ですが、何故か江戸時代を境に消えている忍術がありましてね、それを確認してもらったんですよ」
青が早く本題に入って欲しそうにジリジリとしだした。
「いや、まあ。棚からぼたもちもありました」
「そもそも陰陽師に忍術書は関係ない話なんです。妙なのがありましてね。過去に陰陽師では禁術としているいくつかの術があります。その術のいくつかを使用したと思われる忍者の死が相次いでいたので、紺を向かわせました」
腕組みをしている手をほどきながら、晴明は話を続ける。
「そもそも忍者と陰陽師は似ていて非なるもの。陰陽師は天皇直結です。方や忍者は将軍直轄。所属が異なります。加えてその歴史も異なる。それが、この万川集海を境に互いの術が交差するよう入り混じることとなったのです」
碧が「だから、誰かネズミがいると思ったと?」と言った。
「その通りです。まあ、ネズミは簡単に見つけられましたが、ネズミを手引きしている歴史の証人は、見つけられじまいです」
「ネズミ退治の一貫で、私も時戻りの権利が欲しいところですね」
青の言葉に晴明は「わかりました」と言って手を叩く。
「あなたは婚約者の医術師と一緒に行ってください」
青は「かしこまりました」と言って、太常に頭を下げる。
(天上天下唯我独尊が頭を下げた)
鴇はそんなことを思って、青を見ると青はジトリと鴇を睨め付ける。
「俺は頭くらい下げる」
(そんなことないと思う)
この場にいた誰もが心中、そう思った。
♢♦︎♢
皆が帰った後、鴇は自室のベッドに横わる。
ナツがすでに3日は帰ってきていない。万が一、ナツの身に何があった時のために、ナツには逃げ込めるように移山海造の跡をわたしていたが、それすら使えない状況ということなのだろう。
式にも色々な種類がある。
太常やコウのように主人が常にその移動範囲や行動を認識できる式もいれば、ハル、ハク、ナツのように主人と切り離して移動する式もいる。
ベッドで寝返りを打つ。
(1番の敵は身内って訳ね……)
鴇は息を深く吐くと、ベッドから起き上がり、自室を後にした。
(山口本家なんか行きたくない。だけど、式を取られても黙っているような男ではない)
鴇はスマホをボトムスのポケットに入れ、スマートウォッチを手首につけると、マンションのドアを開けて外に出る。




