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罪人  作者: 天内翔


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9/23

虐殺

蝉の声も本格的に聞こえてきて、鬱蒼と茂る草花が鬱陶しくなってきたという頃、再び仮面をつけた男の動画がアップロードされた。

 予告は、最初の横浜美術館の窃盗から始まって、前回の七夕、そして今回の動画と計三回動画がアップされている。海外の場合は、動画がアップされず、警察にカードが送られてきただけだったので、なにかそこに糸口があると最初は思ったが、結局妙案は思いつかなかった。

 これらの動画を見て気づいたことは主に二つある。

 一つ目は、仮面が毎回違うことである。最初は、半分は強盗、半分は警察のような仮面で7と書いてあった。前回は、半分は医者、半分が笑っていて6と書いてあった。そして今回の仮面は、半分は消防士、半分はとても悲しんでいるような顔をして、5という数字が書いてあった。

 そして二つ目は前から気になっていたことだが、背景が暗く、椅子に座っているため、性別や体型、年齢などの情報が全くわからないということである。

 そして、今回の予告の内容は、宗教に関することであった。

 もう一度動画を再生してみる。

「僕は、信じる者は救われるというイエス・キリストの言葉に強い感銘を当時は受けてね、僕は僕自身の能力、様々な人を信じてみたんだ。すると、その当時では想像すらできなかったことを今はやってのけている。僕は、どうにかしてこの国をもっとよくしたい、人々を幸せにしたい。と、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。単刀直入に言う。みんな、僕を信じてみないか? 運命を僕に委ねてみないか?僕をもし信じるのなら八月十一日の昼間、皇居前広場に集まってくれ。特に、様々な犯罪のご遺族の方々には」

 とそこで動画は終了していた。

 なにが運命を委ねてみろだ。

 何が、信じたものは救われるだ。

 馬鹿馬鹿しい。

 佐伯茂は、スマホを一旦机の上に置き、深呼吸をして心を落ち着かせた。

 堂本警部に変わり、入った新島警部が、

「これ以上の犯罪は見過ごせない。直ちにこの動画に関わっているものの横暴を止めよう」と息巻いた。

 皇居前広場で俺達捜査員は、張り込みを行っている。

 前回の失敗を噛み締め、お偉いさん方は、機動隊の協力を得ることにしたようである。

 徐々に広場に人が集まり始める。

 そこには見知った格好をした人が多かった。

 それは、ソロモン教という新興宗教の信者たちだ。特徴的なのはその奇抜なデザインである。魔法陣のようなものが胸元に書いてあり、全体的に黒いローブでできている。明らかに怪しい格好でとても正気とは思えないが、現在勢いを増している新興宗教の一つだ。  

 しかし、なぜ信者たちがここに集まってきたのだろう。集会でも開くのだろうか?  それともあの仮面の男となにか関係があるのだろうか? 

 ここに来た理由がなんであっても、人口密度が高く、動きにくいことこの上ない。また、ここにいる人たちが人質に取られようものなら、いくら機動隊であっても無力であろう。

 そんな考えを巡らせて、あたりを見回していると、張り込みの最中、新島警部のスマホが鳴り、ちょっと間をおいて新島警部は電話に出る。

「はい。怪しげなトラックが近づいてきているんですか? できるかぎり善処してみます」

 と息を切らして電話をしていた。

 電話が終わり、捜査員たちに指示を飛ばす。

「ここの警備を一層警戒しろ」

 と強い口調で言う。

 しばらく経って人が広場を埋め尽くさんとしてきた頃、十台以上のトラックがやってきた。

 手に持っていた無線機で新島警部から「あのトラックたちに注意しろ」と指示がきた。

 トラックの近くにいたため、近寄ろうとすると沢山の人々に遮られてしまった。

 人の波をかき分けて、前に進もうとするが全く前進することは叶わなかった。他の捜査員たちも一様にトラックに近づくのに手間取っているようだった。

 そうこうしているうちにトラックから大型の液晶ディスプレイのようなものが六つほど取り出されていた。

 他にもトラックから縄で繋がれた人々が出てきた。そいつらは、刑務所で爆死したと思われていた死刑囚や極悪犯罪者などだった。刑務所で爆破があったあと、検死をできるだけしているが、なにしろ数が数なため、未だに、身元や、被害人数の正確な統計が取れていない。それに、まだ捕まっていなかった指名手配犯の姿もある。

 独自に調査して身元を突き止めたのだろうか? そうなると警察よりも優秀という事になってしまう。そんなことを認めてしまうわけにはいかなかった。液晶ディスプレイには、いろいろなひらけた場所が映し出されていた。

 スマホを見ると4と書かれた半分は教師、半分は漫画で見るような少し頬が赤みをもっている助平な顔みたいに見える仮面による動画配信が始まっていた。

動画配信をしているのは車の中のようだった。

「さあ、みなさんこれから地に降り立った神である私が罪人たちに天の裁きを下します」

 と言った途端に上空から3と書かれた天秤を真ん中に配置し右半分の背景は天使、左半分の背景は悪魔のような絵柄の書かれた仮面をかぶった男が降り立った。

 その男の服装は信者のものと似ていて、ただ一つ大きな違いは王冠のようなものを被っていることだった。

 ソロモン教の信者たちはああ神よ、神よと頭を垂れる。

 その光景を見て薄ら寒い悪寒で身体全体を覆われる。その心酔のしようは尋常ではなかった。

 突然、仮面の男が手をたたき、場は静かになる。

 まるですべての物体がその瞬間静止したような静寂だった。

 そして、仮面の男はよく通る声で話し始めた。

「警察の皆さん、最初に注意喚起をしようと思います。ぼくたちは、様々な武器を持っています。まあそれは銃や剣といったものだけではありませんが、あなたがた警察が不用意な行動を起こすと自ずと後悔することになるでしょう。まあ注意喚起はこのくらいにして、この配信を視聴中の視聴者の方々、そして、ソロモン教の信者の方々、貴重な時間を割いていただきありがとうございます。突然ですが、生きることとはどういうことか考えたことはありますか?僕は、生きることとは、一口に言ってしまえば、目標を見つけ続け、それを達成するための努力をすること、工夫をすることだと思っています。多くの人々は、目標を見つけるという初歩の段階で躓いてしまう。それはなぜか? たくさんのことがあるこの世界、社会に埋没してしまっているからだと思います。周りに合わせていけばいい。個性なんて出すと集団から爪弾きにされる。心の奥底でそう思ってはいませんか? その状態では本質的な生き方とは程遠いと僕は感じます。つまり、皆さんは孤独を恐れている。そして、孤独を恐れずとも目標を見つけ頑張り続けている最中に失敗することを恐れている。失敗と孤独は成長のためには必要不可欠なものです。自ら進んで孤独にも失敗にも向かう必要はないですが」

 と講釈を垂れた。

 俺は、少し同感することがこの時点では、できた。

「反対に僕は、目標を見つけることさえしてはいけないと思う人間もいると思う。それがここにいる罪人たちだ。この罪人たちは、強姦、恐喝、窃盗、暴行、傷害、いじめ、放火、詐欺、殺人など数多の罪を背負っている。例を挙げるとこの全国指名手配犯の三浦翔平だ。こいつは、男女問わず、大人子供問わず、連続で殺しているのにもかかわらず、警察にまだ捕まっていなかった。警察にも責任の一端はあると思うが、やはり、どんな罪も傍観者よりも警察よりも加害者のほうが数万倍、数億倍悪いと思う。こいつの処刑に賛成するものは手を挙げよ」

 と演説をして信者たちの心を鷲掴みにしていた。

 信者たちは熱狂し、歓声をあげていた。

 正直コイツの何に心を動かされるのかが、全く理解できなかった。

 その頃、俺達捜査官は信者たちが仮面の男に夢中になっている隙に着々とトラックに近づいていた。

「手を挙げよ」と仮面の男が言った瞬間、現行犯逮捕してよしとの指示が新島警部からでていたため俺はすかさず、拳銃を構えて、言う。

「不用意な真似をやめて手を挙げて投降しなさい」と。

 仮面の男はそのままの調子で続ける。

「きみは、佐伯茂くんだね。昔、きみの家族が放火によって焼け死んでしまったそうではないか」

「なぜ、俺の名前を知っている?」

 俺の過去を知っている人間なんて限られているはずだ。

 俺は激しく動揺する。

「きみは自覚がないかもしれないが、結構有名人なんだよ。まあ当時と顔は随分変わっているかもしれないが」

 と表情がわからないため相手の動向を伺うことができない。

 仮面の男は続ける。

「僕を捕まえることはできないよ。なぜならね」

 とそこで言葉を切った。

 俺は続きが気になり、なぜならなんだと言おうとした瞬間、罪人たちの首についていた首輪が締められ全員死んでいた。

 俺は状況を一瞬理解できないでいたが、仮面の男が持っていたスイッチが原因だとしばらく経ってわかった。

 液晶ディスプレイを見ると、ディスプレイに写っている受刑者たちも一様にうつ伏せで倒れ死んでいた。

 俺は、液晶ディスプレイを置き去りにしたまま逃亡しようとする仮面の男たちに向かって発砲しようとしたが、後ろからなにか硬いもので殴られて意識を失ってしまった。

 薄れゆく意識の中、仮面の男がなにか言っているみたいだが、結局聞き取れなかった。

       

⚠︎本作はカクヨムでも投稿しています

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