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罪人  作者: 天内翔


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10/21

誘拐

目を覚ましたとき、佐伯茂は椅子に縛り付けられていた。

 まず現状を把握しようと記憶を探る。犯行予告のあった皇居前広場やその他のひらけた場所で仮面の男によって多くの受刑者たちが死んだ。そしてその男たちの逃亡を止めようと発砲しようとした瞬間、後ろから何か硬い物で殴られたという記憶が脳内を駆け巡る。 

 ここはどこかとあたりを見渡そうとした瞬間、コツ、コツ、コツという革靴で階段を降りてくる音が聞こえた。

 降りてきたのは仮面の男だった。コイツが俺に対して何を求め、何をさせようとしているのかはわからないが、現状を把握することにまずは努めることにしよう。

 聞き込み捜査で重宝されるのはできるだけ多くの情報を引き出すこと。その真意を悟られないよう雑談などをはさみ、できるだけはやくこの場を切り抜けよう。

 だから俺は前から気になっていることを訊いてみることにした。

「なあ、その仮面、動画ごとに変わっているがどういう意味があるんだ?」

 とできるだけフランクに訊いてみた。

 すると仮面の男が仮面の中で微笑を浮かべながら試すような口調で言う。

「縛られているというこの状況でよくそんなにフランクに話しかけられるものだ。よほど肝が座っているか、愚か者かのどちらかだな。僕は親切だからね。今世の中の状況がどうなっているか教えてあげようか?」

 と言い、すかさず俺は、「ああ頼む」とお願いした。

 すると仮面の男は話し始めた。

「きみを眠らせたあと、トラックを使い、ここまで逃げてきて、きみが眠ってからおよそ二日ほど経っている。まあそれ以外は特段、今の段階で話すべきことはないかな」

 と随分ゆったりとした口調で言ってくる。

 二日も経っていたのかという実感が湧いた途端、お腹がぐうと鳴ってしまった。

 犯人を目の前にして情けないとは思ったが、生理現象には抗えなかった。

「なにか食べ物はないか?」

「まあ無理もない二日も眠っていたんだ。そりゃあお腹も減るだろう。しかし、その食べ物に毒が入っていると思わないのかい?」

 と不思議そうな顔で尋ねてきた。俺は即答した。

「わざわざこんな拉致のような真似までして、食べ物の中に毒を入れて殺すというのは得心がいかない。殺す機会なんて二日の間にいくらでもあっただろう。何か俺に利用価値があると思って拉致したんじゃないか?」

 俺は、狙いが必ずあると確信していた。

「途中まではあっているけどね、単純に興味が湧いたんだ。まあ簡単な雑談をしたいと思ったんだ。別にきみを使わなくても計画に支障はない」

 とさも自信ありげに言う。

「そして、きみは優秀な刑事だ。わざわざきみの眠っている最中に殺すというのはアンフェアだろうと思ったんだ。僕は、勝負はできるだけフェアに戦いたいんだ」

フェアということにこだわる性格をしていると俺はこの時点で分析した。

「そう思ってくれているということは俺をライバルと認めてくれているということか?」

 こんなやつのライバルなんてなるつもりはないが、いい気分にさせて、さっさといろいろ話してもらおう。

「まあそういうことにしておこう。まあこれぐらいで雑談は終わりにして、本題に入ろう。きみの実力を試すという意味できみに試練を課そう。試練は今すぐにでも行いたいが、明日内容を教える。それまでじっくり考えをまとめるといい」

 と偉そうな口調で言ってきた。

「随分と俺を買い被ってくれるじゃあねぇの」

「僕の目が正しければ、確実に僕の与えた試練をクリアできるだろう。まあクリアできなくても優秀な刑事を一人再起不能にできるからいいんだけど。どちらに転んだとしても僕に損はないからね」

 と淡々と言う。そのとき再び、俺の腹から、ぐぅという情けない音が出てしまう。

 仮面の男はその様子を愉快そうに見守っている。

 馬鹿にしやがって。

 この拘束がなかったら、すぐ殴ってさっさと捕まえてやると物騒なことを考えていると、仮面の男が口をにこやかな笑みを浮かべながら、話しかけてきてくる気がした。

「ああ、きみは今お腹が減っていたんだっけ? きみとの会話が楽しくて、つい忘れてしまった。今すぐ食事の準備をしてあげる。遠隔でそこのベルトコンベアから食事がくるのと、手の拘束具が勝手に外れるから。少し待っててね」

 と言い残し階段を登っていき、部屋から出ていく。

 しばらくすると手の拘束具が外れた。

 さて、今までの話を集約するとこういうことか。まず、俺を連れ去った目的がさっきのが本音なら興味本位ということになる。俺を連れ去ってから二日以上経っているだろう。試練をクリアしなければ俺は死ぬ可能性が高い。つまり今、とんでもなく窮地に立たされているということか。

 腹が減っているのもそうだが、少し気が緩んでしまい、尿意を催してしまった。

 監視カメラに向かってトイレはどこかと訊くと、そこの赤い扉だと言われ、トイレに駆け込んだ。

 トイレから帰ってくるとキュイーンと音がした。

 ふと見ると、大量のパンや、ラーメン、丼があった。腹が減っては戦は出来ぬという言葉を思い出し、思いっきりがっついた。たくさん食べたあと、強い眠気に襲われ始める。

 嵌められたと思ったが、時すでに遅し。

 睡魔には勝てず結局眠ってしまった。



 栗林智久は、今とても急いでいる。間に合わなければ親友が死んでしまうかもしれない。

 俺は潜入捜査官としてこの組織に潜り込んだ。やはり潜入したのは成功だったようで、大規模な犯罪を繰り返し行っている。他にも潜入していた捜査官は二人いたが、組織によって消されたようだ。俺はどうにかばれずに、組織の一員。幹部のマモンとして、組織内での地位を確立させた。潜入当初は、組織の末端の末端であったが、功績を積み重ねるに従って俺の組織内での地位は上がっていった。そして現在幹部の座にまで昇りつめたというわけである。ボスや他の組織のメンバーには、礼儀正しく、忠誠心の高いメンバーとして映ったに違いない。

 そういう振る舞い方を今まで徹底してきた。

 むしろそうでないと困る。

 もう裏切り者であるということがバレたということになる。

 できるだけ急ぐが、しっかり信号は守り、法律の遵法者たらんということを意識して運転する。

 もし、気が早まって、事故でも起こしたら、行けないなんてことにもなるかもしれない。

 そんなことだけにはならないようにしなくては。

 ボスから計画を聞かされて、俺は親友を救うために必要な道具を揃えた。それがしっかり機能してくれることを俺は願っている。

 俺は、少しだけ走行速度を上げて、走り続けた。


⚠︎本作はカクヨムでも投稿しています

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