立ち直り
警視庁内の空気は、堂本元警部が辞職し、刑務所爆破事件や美術館での窃盗事件にあったときとあまり変わらなかった。
新島警部が俺に近づき、厳しそうな顔で話しかけてくる。
「ここ数日、お前が、あの仮面の集団に連れ去られていた間、何があった? 詳しく話せ」
と強い口調で言われた。そんなに強い口調で言わなくてもとは思ったが、情報はできるだけ共有すべきと思い、まず気になっていることを訊く。
「俺が、連れ去られている様子を見ていたんですか?」
「ああ、お前は、頭を棒状のもので殴られていた。おそらく小型の警棒のようなものだ。お前はそれが致命傷だったのか、倒れて、そして、あの連中がトラックに運んで、お前を連れ去っていった。どうにか反抗しようとしたが、爆弾の存在をちらつかされ、あの大きな広場には人が大勢いたため、為す術がなかった。なにもできずに済まなかった」
と頭を下げてきた。上司に頭を下げられた経験はないため、俺はどうするべきかわからずオロオロとしてしまう。上司は頭を上げて、続けた。
「お前は大事な警視庁の一員だ。誰一人これ以上欠けてほしくない。そのためにもなにがあったのか教えてほしい」
と懇願された。そんなに懇願されなくても、教えるつもりだったが、思っていたより、警部が申し訳ないと思っていたことに驚いた。
そこで俺は、連れ去られたあと、液晶ディスプレイを見せられたこと。そこには大勢のひとが映されていて、もし試練をクリアしなければそのひとたちを殺すと脅されたこと。俺は、試練をミスしてしまい、その人達が死んだ映像を見せられたこと。けれど、それは俺の思いすごしで、映像はディープフェイクで今多発している落書き事件に関係していることなどを事細かに話した。
警部は、終始何も言わずに聞いていた。
「とりあえずよく無事に帰ってきてくれた。そして、わかりやすく状況を教えてくれて感謝する」
と再び頭を下げた。あまりひとを気にしていないような気がしていたが、実は誰よりも情に厚く、仲間思いの人なんだなと態度などから推測する。
「ところで、あれから事件に進展はありましたか?」
「いや、特にこれといった進展はない」
それを聞き、少しは捜査が進展していると思ったのにと悔しく思った。
「ただ、相手がいつ犯行声明を再び出してくるかわからない。なにしろ相手は、巨大な組織を持っていて、やっていることに一貫性がないように見える。そして狙いもわからない。これからどういった対応をとっていくべきか上層部と話し合っているが、まだ結論は出ていない。俺達はとにかく犯行声明が出るまで、身近な事件や事故を処理していくしかない」
確かに証拠もあまりなく、犯人の狙いもわからないのに対策をとれるはずがない。警部の言う通りだなと俺は思った。
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