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罪人  作者: 天内翔


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15/24

真相

次に目を覚ましたとき知らない場所に佐伯茂はいた。

 ここは地獄か? それとも天国か? タイムリープとかして過去に戻ってきたのか? 

 そんなふうに思ったのは、俺があんなふうに落下して生きているはずがない。そう確信していたからである。至極当然の問いであろう。どこかわからないがビルの屋上に俺は拉致されて、散々いたぶられた挙げ句、屋上から突き落とされたのだから。もしかして今までのすべてが夢だったのか。だとしたらこの状況は説明がつきそうだ。

掛け布団を取り、自分の下半身を何度チェックしても、そこを見るが、別に足が欠損などをしているわけでもなく、自由自在に動かせる。全身をくまなく見るが、特にこれといった外傷は無かった。 

 しかし、今まで夢を見ていたというのならば、ここはどこだろう。

 もしかして今までのが正夢でこれから事件が起きるのか。

 そんなスピリチュアル的なことを本気で考えるようになった。

 そう考えるようになったのは夢だか現実だかわからないが、仮面の男という高次元の存在がいたことである。

 あの男は、自分のしたいように他者を誘導して、最終的には破滅させることができる。

 とても特別な存在だと感じた。

 あれが神だと言われたら素直に、はいと言ってしまうだろう。

 ああいう部分が信者たちを引き寄せるのだなと強く共感した。

 一通り考えをまとめて、俺は何をすべきか考えた。

 その結果、やはり現在の俺の置かれている状況を把握するのが先決だという結論に至る。ここはどこで、今はいつで、誰が俺を助けたのか、拉致したのかわからないが、ここに運んで来て、ここに連れてきた目的は何か。そういったことを誰かが来たら訊こうと決心する。

 すると、ドアがギィっと鳴りながら、ゆっくり開いた。

 黒縁のメガネを掛けた男だった。

 まだ目覚めたばかりだったが、戦闘の準備はできている。

 近くに落ちていたボールペンを掴み、メガネの男に向かって構える。

 メガネの男は俺を見て、驚いている様子で誰かに向かって電話をし始めた。コイツが敵か、それとも味方か、どちらでもないのか、どちらでもあるのかの四択ではあるが、敵だったときのために逃げ出せる準備はしておこう。

 あのあとで、もう誰も信じることができなかった。

 メガネの男が俺に向かって話しかけてくる。

「無事に目を覚ましてよかった。僕が何者か知らないと思うけど、もう少し待ってくれるかな。キーとなる人物がそろそろ来るから」 

 見た目通り優しい口調でそれだけ言った。とりあえずこのメガネの男が俺に対して害意がないことはわかったし、大人しくしているかと部屋の中にあった椅子に座った。体に目立った傷がなくても、心にはとても大きく深い傷を負ってしまった。自分の過ちのせいで、大勢の人が死んでしまった。

 俺が殺したようなものだ。そしてその上、醜態がライブ配信を通して、世間、社会の人に、見せびらかす形になってしまった。とても一社会人として顔向けできないようなことだ。そのことも心を傷つけた要因の一つだが、なにより心を傷つけたのは、屋上から落とされたときの、あの何もできずに死んでいくという感覚。ただ手を上に伸ばしても空を切るだけだった。落ちているとき、スローモーションのようにすべての光景が俺にはゆっくりと流れているように映った。いわゆるタキサイア現象とも呼ばれるものが俺の身に起こったのである。

 その時、仮面の男の方を見たら、哀しんでいるように見えた。ただ俺を憐れんでいただけかもしれない。果たして俺はここから立ち直る事ができるだろうか。俺は、自分の過ちと自分の状態を客観的に分析していた。20分ぐらいがたち、外から車を停めるような音が聞こえた。メガネの男が言うキーとなる人物が来たのだろうか?まだ自分に危害を与えないとは限らない。最大限警戒しなければと気を引き締める。

 玄関が開く音が建物中に反響して、階段を駆け足で登ってくる音が聞こえた。どんな人物が来るのか俺はとても気になった。ドアが勢いよく開き、予想外の人物がそこには立っていた。

その人物は、長らく会っていなかった小学校からの親友の栗林智久だった。

 反射的に俺は声が出た。

「どうしてお前がここに?」

「実は、あの仮面の男の統治下にある組織に今、潜入捜査をしているんだ。そして、この場所は、公安関係でも、仮面の男の組織関係でもない。俺と俺の信用できる仲間が独自に調査などをしている場所だ。それに、この場所は隠れ家としては最適だ。安心してここにいてほしい」

 それを聞き、俺はさすがに親友だったら信用できるなと思った。しかし、親友がここにいる状況は理解できたが、俺自身がなぜここに運ばれているのかという謎は氷解できていなかったので訊くことにした。

「どうして俺はここに運ばれているんだ?」

「ああそれは、あの仮面の男に計画を聞かされていたんだ。そしてその計画の最後、お前を落とすかもしれないということを言っていた」

 それを聞き、親友が本当に潜入捜査しているという実感が持てた。だが、どうやってあの状況で俺を助けたんだ? どこも骨折もないし、打撲があるわけでもない。あるとすれば少しのかすり傷だけだ。

「でも、どうしてあの状況で助かったんだ? 助かりようが無かったじゃないか?」

「ああそれは、コイツのおかげだよ」

 と隣に立っているメガネの男を指し示した。

「コイツは、発明とか、機械いじりとかが趣味でね、いろいろなものを制作している。まあ多くはガラクタばかりだが」

 と少し呆れたような口調で言った。親友は続けて話した。

「お前を助けたからくりはこいつの自己紹介もかねて、こいつ自身に説明してもらったほうがわかりやすいだろう」

 とメガネの男に話すよう促した。メガネの男はクイッとメガネを上げて自己紹介を始めた。

「ご紹介に預かりました。発明大好き古川誠二です。以後お見知りおきよ」

 と元気溌剌な様子で挨拶をした。古川は続ける。

「早速ですが、あなたを助けたからくりをご説明したいと思います。まずあなたは地面には衝突しませんでした。それはなぜか、落下の衝撃を吸収したからです。これは、事故の際に出てくるエアバックや、トランポリンなどを参考に作りました。しかし、落下の衝撃はとてつもないものです。この栗林くんにすぐに作ってくれと頼まれたときは、正直困ってしまいました。いかに天才発明家の僕でも、短期間で、しかも、ひとの命を助けるものを作るのは正直荷が重かったからです。なので、徹夜で幾度も実験を繰り返しました。最初は様々な問題が噴出してきました。単純に、落下の衝撃に耐えられなかったり、首に多大な衝撃が加わってしまうことになったりなどです。素材に拘ったりいろいろ工夫をしてようやく作ることができました」

 と早口で喋った。早口すぎて途中聞き取れない部分があったが、苦労して作ってもらったことはわかった。

 感謝を伝えようとすると、古川誠二は再び喋り始めた。

「実はねこの素材にはね特性の樹液をねって作った素材が……」

 と喋っている途中に、智久に拳骨で軽く小突かれていた。痛いですよと古川は言っているが、智久は気にした素振りもなく。

「すまない。こいつはつい研究や発明とかのことになるとつい熱くなって、喋りすぎてしまうんだ」

 俺はそれを聞き、根っからの研究者肌なんだなと感じた。

「大方の説明はわかっただろう。紹介していないやつがもう一人いるが、ここに今いないから、来たら紹介しよう」

 と言い、ドアを開けて部屋を去ろうとするが、立ち止まった。

 まだなにか話すことがあるのかと思って気を引き締めたが、内容がご飯は食べたかとか風呂に入ったかということだった。俺はまだだと答えながら、立派になった親友を見た。ご飯を食べて、風呂にはいり、体力を回復させたあと、やっと少しリラックスし始めることができた。風呂上がりに作ってくれたミルクティーを飲んでいるとき、智久からある提案をされた。

「ここに、事件の間は、いてもいいんだぞ」

 そうやって心配しているような顔をした。だが、いくら親友といえどそんなに迷惑をかけることもできない。

「いや、お前にも古川さんにも悪いだろう。俺は自宅に帰るよ。同僚たちも心配していると思うし」

 俺の言ったことは本音であった。しかし、本当は一人で行動するのは怖かった。ただ、親友に弱った姿をもう見せたくはなかった。じゃなくちゃ親友が、俺に対してしてくれた行動が無意味になってしまう。

「余計な一言かもしれないが、外は、何があるかわからない。再び命の危機に晒される可能性は十二分にあるんだぞ」

 覚悟はしっかりもっているのかというようなことを目で訊いてきているような気がした。

 ここは親友を心配させるような発言や態度はしないように気をつけようと心に決めた。

「落下しているときにもう決心は、ついた。本当はあそこで落下の衝撃によって死んでいたはずなんだ。もう俺は何も怖くはない」

 そう決心のついた眼差しを親友に向けて見せた。親友は呆れたように言った。

「お前は、一度決めたら絶対に立ち止まらない芯の真っ直ぐなやつだ。ただ、困ったらいつでも俺達を頼っていいんだぞ。そうだ。新しくスマホを変えたから、連絡先を交換しておこう」

 と提案してきた。俺も、新しいスマホに買い替えていたためありがたいと思った。

「それにしても気が重いな。俺のせいで大勢死んでしまったんだから」

とその時の情景を脳裏に思い浮かべた。泣き叫ぶ人達、無惨に死んでしまった人達、俺がミスをしたせいで、未来を潰された人達。もうこれ以上犠牲は出さないようにしなければと強く心に念じたが、親友から返ってきた返事は思いもよらぬものだった。

「なんのことを言っているんだ? 刑務所爆破事件や、美術館での窃盗のことを言ってるんじゃないだろう?」

 智久が心当たりがないというような返答をすることに俺は疑問を覚えた。仮面の男は、ライブ配信をしていると言った。とすると、必ずネットニュースになっているはずだし、全国紙に警察の責任を追求するような文面が載っているはずだ。まだ智久は知らなかったのかと更に気分が重くなった。俺は、スマホで事件について調べた。 

 けれど、一向にライブ配信のことなんて書かれていなかった。テレビもつけるが、どの局も俺の巻き込まれた事件についてのことなんてやっていなかった。どういうことだ? と疑問に思う。確かに見える場所には、カメラを設置していなかったが、あの男なら、どこに設置していてもおかしくない。けれど、最初からカメラなんてつけていなかった。そしたら、あの人達はどうなったんだろう。さすがにあんなに大勢も失踪したら、何か問題として取り上げられるだろう。しかし、スマホで、失踪事件 最近と調べてもそれらしきものは何らヒットしなかった。

 俺は、意味がわからなかった。

 何度もネットニュースや、テレビのニュースを確認するが、大事件なんて起こっていることを報道していなかった。もしかして、長い間眠っていて、報道されなくなったのかなと思い、日付をしっかり確認したが、一日しか経っていなかった。

 この状況はおかしい。

 説明がつかないと俺は激しく混乱した。どうした? と親友は心配して訊いてきた。

 それに対して俺はこう返答する。

「大勢の善良な人達が、あの仮面の男によって殺されたはずなんだ。しっかりと液晶ディスプレイに映っていた」

「そうなのか? しかし、そんな事件は全然報道されていないぞ。それに警察内部の人間もそんなこと知らないはずだ」

 それを聞き、俺は更に混乱した。全く何がなんだかわからなかった。

 気持ちを落ち着けるため、猫の動画でも観ようとリモコンのスイッチを入れると、落書き事件の報道をしていた。

「次のニュースです。東京都二十三区内で同様の人物のものと思われる落書きが多数見つかっています。現場の高木アナと中継をつなぎます。高木アナ」

と呼び、画面が切り替わった。

「はい。こちら、落書きのあった現場です。赤い文字でthat`s all lieと書かれています。これは何を示しているのでしょうか。他の場所でも同様の事例が多数報告されています。同じ文面であること、赤い文字であることから、警察は同様の人物が行ったとして捜査をしています。現場からは以上です」

 それを聞き、俺は飲んでいたミルクティーを危うくこぼしかけるところだった。あれがすべて嘘だった。あの液晶ディスプレイに映っていた映像も、毒ガスで誰かを殺すというのも、そして、ライブ配信をしていたというのも。長い間放置したのは正常な判断力を無くすためだろう。頭を使わせたのも、疲弊させるためだろう。そして、最終問題の答えは、今までのことはすべて茶番だということを、指摘してほしいというようなことではないだろうか。だからこそ、ベリーハードと難易度を高く見せ、ヒントを提示することによって、なにか難しい問題を俺は出されたと錯覚させることができる。してやられたなと俺は思った。一瞬でも仮面の男のことを神だなんて思った俺は馬鹿だったと自分を責めた。けれど、俺は殺されかけたというか本気で殺す気だった。こんな簡単なこともわからない俺に幻滅して始末しようとしたのだろうか。だからあんなに哀しそうな表情をしていたのだろう。そう結論づけた。

呆気にとられたり、ミルクティーをこぼしかけたりそんな俺を不審そうな目で智久は見てきた。だから安心させるため、こう言う。

「いや、俺の気の所為みたいだ。そんな事件なかったみたいだ」

「ならいいんだが。ちょっと変だと思ってな。なんかあったらしっかり言えよ」

とまっすぐ見つめてきた。そんなふうにみつめられるのは気恥ずかしかったが、親友の好意をむげにするのは良くないと思い、しっかり返答した。

「今のところ大丈夫だ」

「そうか。ところで、家にどうやって戻るんだ?」

 そう訊かれて、俺はここが結局どこなのか把握していないことと、もう外がすっかり暗くなっていることに気づいた。でも、ここまで親切にいろいろしてくれて、さらに迷惑をかけるわけにはいかないと思い、こう返事をした。

「歩きか、バスか電車だな」

「金はあるのか? たぶんここはお前の家からだいぶ遠いと思うぞ」

 そうなのかと俺は思ったが、智久が自信をもってここが最適な隠れ家と言っている以上、見つかりにくい場所なのだろう。

「よかったらお前を家まで車で送ってやるよ」

 そこまでしてくれようとする親友にとても感謝した。正直、懐は寂しかったし、方向音痴ではないが、土地勘がない場所は、あまり自信はないため、その好意に大人しく甘えることにした。車の助手席に乗り、シートベルトを締め、発車した。車内で近況について話したり、趣味の変化や、好きな人ができたかなどありとあらゆる話をした。智久の言った通り、俺の家に着くまでには、だいぶ時間が掛かったが、その長い時間を忘れるほど、親友との久しぶりの会話は心が安らいだ。

「ここで下ろしてくれていいよ。あとは歩いていくから」

 と話しかけた。

「そうか。気をつけろよ」

 とだけ言い、俺を送り出してくれた。俺は、家につき、鍵を開け、すぐ家に入った。

 手を洗ったあと、仏壇に向かって無事に帰ってきたことと、これから犯人を見つけるということを伝えて就寝した。


⚠︎本作はカクヨムでも投稿しています

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