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罪人  作者: 天内翔


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最終問題

 「これで残すは第一問だね。あらかた檻の中にいる人達は、みんな脱出できたようだね。じゃあラスト問題はベリーハードといこうか」

 今までの試練もだいぶ卑怯な面があったり、頭をとても使ったり、哲学的命題について考えさせられたり、最終問題だから理不尽な試練を出すだろうということは当然予測がついていた。

「できるだけ簡単な問題を頼む。なにしろ普段使わない脳の部分をたくさん使っているからな」

「じゃあ最後の問題は、僕が今君にやってほしいことはなんでしょう」

「――は? また哲学的な問題か? 俺がなんか答えを言って、それを選んだ理由を説明でもすればいいのか?」

「そうじゃないよ。僕がきみに求める答えは限られている。きみが勝手に答えを設定するんじゃなくて。僕の与えた問題に対して、僕の求める答えを言ってくれ」

それを聞いても意味がよく理解できなかった。

 頭を使いすぎて、しっかり機能しなくなってしまったのではないかと不安に思った。

 が、すぐにそういうことでないことはわかった。

「確かにコレだけだと不十分だね。二つヒントを出そう。一つ目は、今までの会話の中にヒントが散りばめられていること。二つ目は、元素と関係するかもしれないこと」

「元素って、化学で出てくるあの元素のことか?」

「そうだよ。さあ考えてみ給え」

 俺は、目の前のやつが言っていることが正直よくわからなかった。今までの会話の中にヒントが隠されている? しかし、ヒントを匂わせるような発言なんてしていたか? この問題を出すから、さっきの哲学的問題に対しては緩かったんだな。

 まず考えをまとめよう。

 今までの発言から考えてフェアな勝負にこだわっているようだから、必ず解けるような問題にしているはずだ。しかし、ヒントは会話の中と、元素だけ。元素の何がヒントだ? 元素の性質なのか? 原子番号なのか? 元素記号なのか? それとも全く別のものがヒントになっているのかと考えているが、しっくりくる考えは中々思い浮かべることができなかった。

 相手の表情を伺おうとするが、動揺しているのかも歓喜しているのかも何もわからなかった。

 駆け引きには仮面はうってつけだなと今更ながら思う。

 そうこうしているうちに一時間が経過していた。

 とにかく今までのことを思い出そう。

 まずチェスをやって、その後問題に答えていった。

 ヒントは会話の中にあると言った。会話の中、会話の中……。

「――あっ」

 と俺はある仮説に至った。

 それはとても突拍子のない考えだった。

 とても披露できるようなレベルではなかった。

 しかし、これが最も型にはまっているのは事実だというのはわかっていた。

 もう一度考え直してようやく、勇気が起きてきた。

 もし、この考えが違っていても、他に考えが思い浮かばないのだから仕方ない。なるようになれと俺は投げやりになった。

「携帯を貸してくれないか?」

「携帯でなにかするのかい?」

 ととぼけているようなことを言う。

 そんなはずはない。

「わかってるだろ。これが答えだということを」

「じゃあどういうことか説明をしてほしいな」

 目は爛漫と怪しく光っているそんなふうに感じた。

 錯覚かもしれないが。

「わかった。それをお前が求めるのならば」

 と少し間をおいて俺は話し始めた。

「一つ目のヒント、会話の中にヒントがあるということ。これを聞いたとき、少し疑問に思ったんだ。なぜ今まであったことと言わずに、会話と言ったのか。表現の違いと言えばそれまでだが、賭けをする価値は十分あると感じた。会話の中にあって、今までやっていないことといえばと俺は思い出して、一つあったと思い当たった。それは、ポーカーの話だ。少し言っていることが不自然だった。コールをするのが好きなんてちょっと俺には理解できないことだった。さすがに、ヒントが無さすぎるということで俺に情をかけたのだと考えた。二つ目のヒント、元素で、俺は原子番号のことを言っていると考えた。それはなぜか。理由は、一つ目のヒントと組み合わせて考えればわかる。コールを言い換えて、電話する。電話ならば、電話番号が必要だ。第三問目から第六問目の要となる単語を訳すと、平等は、英語で、equality impartiality、evenessなどだ。次に四問目は、importantだ。その次に五問目は、justice、righteousness、rightなどだ。最後に、lawだ。もちろん他にもたくさん英訳できるだろうが。ひとまずそれはおいてくれ。ここからあるアルファベットを抜いて、その元素の原子番号を並べたものが、答えになるんじゃないのか?例えば、equalityからaとuを抜いて金だとか。だから、あえて三問目から六問目は抽象的にしたんじゃないか。答えはたくさんあると。他にもサイコロもそうだ。本当にランダムに数字が出たのか? 実は磁石かなんかを使って、サイコロを操っていたんじゃないか?」

「勝手に熱くなってもらってるところ、悪いが、不正解だ。きみがそんな非論理的で穴がとてもある説明をするとは思わなかったよ。残念だ」

 そう言って、電話を始めた。

 ディスプレイには、仮面の男の部下たちがなにか作業をしているのが映っている。

 すると、檻の下が開き、中にいた人達は真っ逆さまに落ちていった。

 あぁ、うぅと俺は嗚咽を漏らした。

 結局檻の中の人たちを救うことはできなかった。

 自分が無能だったせいで。

 俺は、どうしようもなく、項垂れ、崩れ落ちそうになったが、椅子に固定されているので、机に突っ伏すような形になった。

「薄々気づいていたかもしれないが、この光景を少し前から、ライブ配信しているんだ。きみの失態によって多くの人の命が失われた。そのことを悔いるといい」

 と言い、高らかな笑い声を響かせた。

「正解は何だったんだ?」

 他に俺はアイディアを持っていなかった。

「そんなことを敗者に聞かせる義理はないだろ。仕方ないからもし成功したときの成功報酬をきみに与えようかな。絶対クリアできると僕は思っていたんだけどな。僕の見当違いだったようだ」

 そう言うと、固定電話を持ってきて、ボタンをポチポチと押し始めた。

成功報酬も何もあの檻の中の人達を救う事ができなかったんだから、意味なんかないだろう。

 そして、仮面の男は、受話器を手に取り、何かを確認しているようだ。

ようやく準備でもできたのか。

 受話器をこちらに持ってきた。

「さあ。この受話器を取ってごらん。僕は、神だからね。なんでもできるんだ」

 俺は大人しく、受話器を受け取り、耳に当てた。

 すると、懐かしい声が聞こえてきた。

 涙がとても溢れそうだった。

 が、すぐにこれが、仮面の男によって作られた偽物だということを理解した。

 だが、偽物だとしても、ソレと似た声を聞けるのはとても嬉しかった。

「それはね。死者と通話できる電話なんだよ。聞こえたでしょメッセージが」

 俺が感傷に今も浸っているとでも思っているのかそんなことを訊いてくる。

「ああ、お前は本当に趣味の悪いことをするんだな。俺のことを散々いたぶった挙げ句、こんな仕打ちをさせるとは、本当に性格が悪い。虫酸が走る」

 ライブ配信なんてされることなんてお構い無しに俺は罵った。

「なんか思っていた反応と違っているな。まあいいや。これでゲームは終了だよ。お疲れ様でした」

 俺は、こんなにお疲れ様でしたというのが、悪口に聞こえたのは今まで一回もなかった。

「やっとコレで解放してくれるのか。俺は、警察に戻ったら責任を激しく追求されるだろうな」

 もう全てを諦めたような口調で呟いた。

「そうだろうね。ただ警察に戻ったらと言ったけど、本当に戻れるのかな?」

「――どういう意味だ?」

 と返答した。

 だが、すぐに理解した。

 顔が真っ青になり始め、冷や汗を過去一番にかきはじめた。

「敗者にはそれ相応の罰を受けてもらわなくてはならない」

 そう言って、部下に俺を今まで固定していた椅子から外させ、俺を押さえつけて、手すりの近くまで運ばせた。

 俺は猛烈に焦っていた。

 過去最大級に。

「待て、話せばわかる」と俺は幾度も言った。

 だが、仮面の男はため息をつく。

「当初の見込みでは、きみは頭が良くて、まっすぐした信念のある青年だった。しかし、実際は、頭がとても悪く、一度言ったことを撤回して、何度もやり直しをさせる性根のネジ曲がっているやつだったんだね。残念だ。佐伯茂」

 くんとつけないことから本気度が伺えた。

 だが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

 責任を取らされるとかはもう頭の片隅にも残っていないくらい俺は今、生に執着を持っている。

 頭をフル回転させたが、挽回できる余地は俺には無かった。

 固定されていたせいで、全身が痺れていた。

 まさか放置させたのは、俺が失敗した際に、こういう状態にさせるためだったのだろうか。

 全部仮面の男の計画通りになっていることに俺は恐怖した。

 もしかして本当にコイツは、神なのかもしれない。

「もうきみと話していても不快なだけです。ラウム、マルコシアス。コイツを落としなさい」

 そう命令を下した。

 俺は、精一杯体をよじったり、足や腕を振り回したりしたが、結局その努力も虚しく、体格の優れた二人によって落とされた。

 あぁ、あぁ、あぁもう終わりか。

 上に向かって手を伸ばすが、ただ空を切るだけだ。

 走馬灯のように様々な記憶が押し寄せてくる。

 美味しいものを食べた記憶。友人の記憶。恋人の記憶。高校受験の記憶。警察学校の記憶。そして、俺の家族の記憶。俺の家族は、何者かによって、放火で殺された。しかし、犯人は二十五年経った今でも見つかっていない。犯人を見つけるため、俺は警察官になった。そんなことを今になって思い出した。

 最近は、もう無理だなと諦めてしまっていた。

 でも今なら、絶対犯人を探し続けることを選択するだろう。

 どんな過酷なことが待ち受けていようと。

 様々なことを後悔した。

 涙が頬を伝う。

 これで終わりか。

 あぁ、あぁ、あぁ、あぁ。そして俺は目を閉じた。

 そして、そのまま落下し続けた。



⚠︎本作はカクヨムでも投稿しています

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