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罪人  作者: 天内翔


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13/23

哲学的問題

 「褒めてくれるのはありがたいが、檻の中に閉じ込められている人達がお前の一方的な都合で拉致されているのは可愛そうだ。一気に出してくれないか。ただし、サイコロはその回数分振り、出た回数分俺にしっかり制限時間を与えてくれないか」

 一問、一問やっていたら、メンタルが持たないだろうという気がしていた。

「いいでしょう。つまり1が二連続出でた場合を仮定すると、7+7で14分にしてその間に、二問答えてくれるという認識でいいかな?」

 と俺の顔を伺いながら訊いてきた。

「それでいい。さっさと連続で出してくれ」

 少々投げやりな口調になってしまった。

「そうだなぁ。じゃあ三問目〜六問目を連続で答えてもらうことにしようかな。じゃあ四回サイコロを振って」

 一回目は、87、二回目は35、三回目は17、最後は22が出た。

「(87+35+17+22)✕7は1127だね」

「計算が早いな。そろばんでもやってたのか?」

「それは秘密だよ」

「ならさっさとお題を出してくれ」

「じゃあ一気にいくよ。第三問、命は平等であるか否か?第四問この世でいちばん大切なものはなにか?第五問正義とはなにか?第六問法は完全か?」

 矢継早に質問を出してきた。

 一つ一つが抽象的で明確な答えなどなく、考え方は三者三様だ。こんな質問に答えるなんて馬鹿げているそう感じたため、問題に

 対する不平を言う。

「どういうことだ? それらに対する明確な答えがない。そんなの一人ひとり、考えが異なる。問題として成立していない」

「そんなふうに激情に駆られないでおくれ。ただきみは僕を納得させるか、言い負かすことができればいいんだ」

 当たり前のように言ってきて再び腹が立ったが、慣れてきた気がした。

「そんなのお前次第じゃないか?お前の言うフェアな勝負ではないだろう?」

やはり俺の分析が間違っていたと反省した。

「まあそんなことを言わずにやってくれたまえ」

さっさとやれと言わんばかりの雰囲気だった。

 その雰囲気に押されて、仕方なく勝負を受けることにした。

「仕方がない。こうしている間にも時間は経っているんだもんな。最初は命が平等であるかだったか?当然命は平等だ」

 そう言いながら、こんな問題を警察官に訊いたって答えは決まっているだろう。

少なくとも国民の警察に対する印象と言ったら悪いことを取り締まったり、間違ったことを正したりすることだろう。その警察の構成員である俺がまさか命は平等ではないと言うと思ったのか。

 哲学的命題に頭をフル回転させた。

「どうしてそう思うんだい?」

「逆にどうして命は平等じゃないと思うんだ?」

こんな質問をしてきた意図を知りたいと本気で思った。

「そうだな。 例えばこういう事例を考えてほしい。大富豪の家に生まれて、幼い頃から英才教育を受けてきたご令嬢と路地裏に捨てられ、近くにいた貧乏な老夫婦に育てられた娘。果たしてこの二人の間には命は差はないと言えるのだろうか?」

 その質問を聞き、納得した。

 目の前のやつは俺にどんな人間でも果たして助けるのかということを訊いてるのだろうということを。

 俺は、自分の考えを口にする。

「それは命の差ではなく、地位や身分。お金をどれだけもっているかとかだ。そんなことでは人の命に差は生まれない」

 心のなかでは現実にはどんな人間も命に対して価値をつけている。例えば、さっき仮面の男が言ったような地位や身分、財産それに、外見、学力、実績など人間はレッテルに対して拘っていると感じる。

 でも、そういう生き方が俺はとても嫌いだった。

 だってそんな考えを持っている人が、力を手にしたら、弱者を徹底的にいたぶり、排除するのではないかと過去の歴史を見ても、現在の状況を顧みても自ずと結論は出てくる。例を挙げるならば、魔女狩りやユダヤ人虐殺などだ。どちらも一方的な都合によりたくさんの人が殺された。

 そういったことの繰り返しになる。

 だからそんなことを認めたくはない。

「だけど人って、身分、出自、地位、お金、能力、人脈、外見とかで人を判断するじゃない。あいつは、貧相で、ブスで、秀でた能力もないとか内心馬鹿にしている人なんて世界には数え切れないほどいると思うよ。それでも命は平等と言えるの?」

 仮面の男に図星をつかれてしまったが、動揺は顔には出さないようにしようと平静を装うことにした。

「そうだな。少し言い方を変えよう。命は平等でなくてはいけない。なぜなら、もし命の不平等性を認めるなら、法の届かない無法地帯では、自分よりも劣っている他人の尊厳や命を踏みにじっても良いことになってしまうから。そして、踏みにじられた人達は踏みにじった人達へ復讐を始め、負の連鎖が続いて行くだろう。そんなことを望むような人はいない。もちろん俺もその一人だ」

 俺は一般論を口にした。間違っていない自信は当然あった。

「警察官としては望ましい考え方だね。確かに、そんなことはまかり通ってはいけないね。ひとまず三問目は僕の負けとしておこう」 

 こんなに早く相手が折れるなんて俺には想定外だった。

「意外と早く負けを認めるんだな。意地でも俺の考えを認めずに、時間切れになるのを狙っているのかと正直思っていた」

「言っただろう。僕はフェアな勝負をしたいと」

 どうやら仮面の男はある面においては嘘をつかないようである。こんなに早く折れてくれるなら、いけるぞと自信を出し、四問目の内容を再度確認した。

「四問目を忘れてしまった。もう一回言ってくれ」

「仕方がないなあ。四問目は、この世で一番大切なものはなにかだよ。しっかり僕を納得させてみてね」

 それを訊かれたとき、家族、命、金、恋人、友達、自分自身などのワードが頭の中に浮かんだ。

 大切なものはこの世にたくさんあるが、その中でもやはりいちばん大切なものは言うまでもなかった。

「ああすぐ言い負かしてやる。この世で一番大切なものそれは、やはり自分の命だ」

「君なら家族とか言いそうと思ったのに」

「確かに家族も大事だ。しかし、いくら家族を大事にしていても、自分の命が無くなってしまえば、そんなこと関係なくなる」

 過去についてこんなやつに面白おかしく探られたくなかった。

 しかし、仮面の男は、俺の様子なんてお構い無しに話のネタにしてきた。

「随分冷たいこと言うんだね。過去が関係しているのかな?」

「俺の過去を探るな。これ以上探るならこのゲームを降りる」

 正直プレッシャーで押しつぶされそうだったし、お腹は減ったし、喉は渇いているし、とにかくリラックスできる空間に移動したかった。

 目を開けて閉じても眼前に広がっているのは、縛られている自分の体と、仮面の男とその部下たち。

 ああ悪夢だなと自分自身の状態を鑑みて、思った。

「無責任だねぇ。自分の立場を弁えていないのかい? 僕の部下は、きみとそしてまだ檻にいる人達をいつでも殺すことがいとも簡単にできてしまうんだよ」

 冷静に再びそれを聞いて思考をし始めた。

「いや悪い。熱くなりすぎた」

「わかってくれればいいんだよ。きみの命は今僕が握っているのだから」

 そんなことを言われる筋合いはないと激しく反発したかったが、他人の命だけでなく、自分の命も握られている以上下手なことはできない。

 下手に機嫌を損なえば、もうすぐ命の灯火が消え失せる可能性だって高いのだ。

「理由をまだ言っていなかったな。俺が自分の命が一番大事だと思った理由は、俺もそうだが誰しも、破滅することを望まないからだ」

 こんな理由で納得するだろうか? もっと詳しく説明したほうが良かったなと反省した。

「でも、自殺するひとは年間何十万人も世界にいるじゃない?それに自殺を合法として認めている国もあるよ」

 確かにそういう国は存在するし、自殺者は年間を通して多い。

 そんな現実を変えたいと俺は常日頃思っているが、俺にできるのは、人が人として真摯に向き合うこと。

 ただそれだけしかできない。

 最終決定するのはその人自身であるわけだから。

「それは破滅を望んでいるわけではない。もうこの世界がどうでもよくなるほど自分が追い詰められているだけだ。多くの人は、いざ自殺しようとするとき、ためらってしまう。ためらわない人もいるけれど、苦しむことには変わりない。苦しむということは無くすのに相当な労力と、時間が必要ということだ。それに、死んだ人は生き返らない。命は、作ることもできないし、どこからか買うこともできない。お金で殆どの物を買うことのできるこの世界で唯一買うことができない物といっていいだろう。決して合法でも許されたことでもないが、人身売買や臓器売買、オランウータンなどの密輸、薬物売買はこの世界にある。買おうと思えば、正直誰でも買える。お金さえあれば。しかし、命はどれだけお金を積んでも、購入することができない。それ故に、自殺する人を俺達警察は全力で止めるし、来生がある保証なんてどこにもない。まして、来生があったとして幸せとは限らない。むしろより残酷で無慈悲な現実が待っているかもしれない。でも、そういう現実だけど、なんだかんだ生きて生きて生き続けると、必ずいいことが待っていると俺は思う」

 事実過去を乗り越えて今があるのだから、生きていて良かったと何度も感じるときがある。

「熱弁を振るってくれてありがとう佐伯くん。論旨はよく理解できたよ。ただ、最後に必ずいいことが待っているというのが納得がいかない。そんなに現実は甘くないと僕は思うよ」

 と仮面の男は痛いところを突いてきた。

「確かに、いいことが待っている可能性も待っていない可能性もある。しかし、死んでしまえば、いいことが待っている可能性も悪いことが待っている可能性もどっちも0%だ。すべてから逃げたいがために自殺をすると多くの人は言うが、自殺は逃げではないと思う」

「自殺が逃げではないなら何だと言うんだい?」

「自殺は単なる終わりだ。逃げるということは再び戻って来る可能性があるということだ。しかし、人生という名の物語はもう続かない。こんなことを追い詰められている人の前で絶対に言うことはできないと思うが、自殺する決心があるなら、他にもっとすることがあるだろう。例えば、周りの人にできるだけ感謝を伝えるだとか、お金を募金するだとか。自分のために生きられないのなら、他の人のために生きればいいと俺は強く思う」

 どんな境遇の人にも命を無駄にしてほしくないそんな気持ちが俺は人一倍強いのかもしれないな。

「まるで自殺することを一度考えて、考えを改めているような言い草だねぇ。少し脱線していたとは思うけど四問目もクリアということで。次の五問目は正義とはなにか? だよ」

「それは実に簡単な質問だ。正義は、その時々で変わる。正義とは、法制度や世論によって位置づけられる。例えば時効というのが少し前まであっただろう? 犯罪を犯しても一定年数が経てば、無罪になるというやつだ。しかし、そんなことを遺族が容認するはずがない。自分の身内を殺しておいてぬくぬくと生きているのは我慢ならないだろう。しかし、遺族がその犯人に対して、復讐を行っても、その行いは法的にはただの悪でしかない。ただの善良な一般市民を殺したことと同等の行為になってしまう。それはおかしいだろうと時効はなくなり、法的に死刑があったり無期懲役があったりしっかりした罰が与えられることとなった。この時効の例からもわかるように時代とともに国によっても同じ行為でも正義というのは変わってしまうものだと思う」

「そうかもしれないね。その話で言うと僕の行っていることは正義かな?」

 どう答えるべきか迷ったが、正直に答えることにした。

「ある面では正義と言えるかもしれないな。ただ行き過ぎた正義は悪と同等とみなされる。正義とはとても不完全なものだ」

「真っ向から否定してくると思ったのに意外と納得してくれるんだね。この話が今までで一番納得することができたよ。第六問目を出そう。六問目は法が完全か? だよ」

 俺はそれを聞き、いろいろな事件や事故を思い出していた。

 今まで数々の事件や事故に携わってきたが、一つとして同じ事件、事故はないし、被害者も、時には加害者にも同情の余地があることが多くあったなと今までのことを一気に振り返る。

「当然、法は不完全だ。時には人を傷つけてしまうことが多くある。例えば証拠が不十分だと警察は動けないということだ。一年前だか二年前だか忘れたが、ストーカー被害にあった女性が、警察になんども通報してきた。しかし、証拠がないと動けませんの一点張りだった。警察がしたことといえば、ストーカーをしている男に対して、厳重注意という名の軽い注意程度だった。結局その女性はストーカーをしていた男に刃物で刺殺されてしまった。対応を行っていた所轄は、体裁が悪いため、世間、社会に対して謝罪会見を行った。が、それぐらいしかしなかった。心のこもっていない謝罪と決して戻ってこない命。その時俺は法の不完全さと警察が漫画やドラマなどとは違うドライな組織であることを自覚した。他には、冤罪事件があったことだ。取り調べを行ったのは、古い考えを持つ老刑事たちで、犯人の口から直接割らせればいいという考えを持っていた。考えられないことだが、その刑事たちは取り調べ記録の改ざんを行っていた。いくら、犯人の口を直接割らせることが効果的とはいえ、それが世間ではタブーとされていることを知っていたのであろう。結局長時間の取り調べで心を疲弊させた善良な一般市民であったはずのその人は、私がやりましたと言った。それが決め手となり、事件は収束し、結局その人は連続殺人犯という嘘のレッテルを貼られて、社会から爪弾きにされ、死刑が言い渡された。死刑が執行されて、後に、その人の遺族が再捜査の依頼をした。すると、その人のアリバイがつぎつぎと出てきて、さらに、真犯人は現場に残っていた毛髪などから意外と早く発見された。その時、世間は警察を大バッシングした。当然のことだろうと思う。善良な一般市民が一人警察の手違いによって殺されたのだから。遺族には多額の賠償金が支払われた。しかし、さっきもいったが命はお金では買えない。その人は帰ってこない。真犯人は法廷でこう言ったそうである。警察が間違った犯人をでっち上げている様子をニュースで観ていたが極めて滑稽だったと。その後、取調べ記録の改ざんを行った老刑事たちは懲戒解雇処分となった。これは法というか警察機構の不完全さを言っているような気がするが、法と警察はとても深い結びつきがある。どちらかが不完全ならばやはりだめなのだろう」

 警察が無力であることをこのとき強く認識した。

「よく理解しているじゃないか。きみの所属している組織のしてきた所業を。しかし、疑問だな。そんなことを思っているのにどうして警察官になろうと思ったんだい?」

 まるで今俺が警察官をやっているのが間違っているかのような言い草だった。

 とても不服だったが、コイツとは考えが合わないのだから仕方ないと考えたら吹っ切れた。

「俺は、この不完全な警察組織をこの手で変えていきたいと強く思ったからだ。さっき俺が言ったこと以外にもたくさん取り返しようのないミスを繰り返している。そんなことはもうなくしていかなければならない」

「きみのその強い思いはとても伝わってきたよ。その思いに免じてクリアとしておこう」

 俺はふうと息を吐いた。

 随分と警察の恥を晒してしまったが、いい機会だろう。

 これから警察はより進歩していかなければならない。

⚠︎本作はカクヨムでも投稿しています

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