受け止めてやる
「「おおおおおおおお!!大火球!!!」」
二人分の力を持った、自分の体ほどある、巨大な球が放たれる。
「きぃっ…!!」
歯を食いしばり、来たる衝撃に備える。
「うおおおぁああああああああ!!!」
盾で受け止める。
「ぐぅううううう!!!」
あまりの熱で足の氷が溶けた。
これなら踏ん張りが効く!
「…っ!?」
希望を持ったのも束の間。
あまりの威力に盾が弾かれ、大きくのけぞってしまう。
「ぐぅっ!!」
盾を構え直す暇などない。
...だが!!
──絶対に通してなるものか!!
「くっっ!!」
姿勢だけでも直ぐに立て直す。
「うぁぁぁあああああああああああ!!!」
抱きしめるように受け止めた。
熱い、熱い、熱い!!
痛い、痛い、痛い!!!
全身に焼ける痛みがほとばしり、焼け焦げる匂いが鼻を劈く。
「ゔぁぁぁあああああああ!!」
泣き叫びながら押し潰すように抑え込む。
「おれはぁあ!!しなねぇえええ!!!!!おれがいるかぎりぃいい!!こいつはしなせねえぇえええ!ぜっでぇぇぇぇえええ!!!まげねぇぇええぞおぉぉぉああああああ!!」
次第に勢いが収まってくる!次第に押し返し始めた!!最後の力を振り絞り叫ぶ!!
「うおおおおおおおおおああああああああああ!!!」
バァァン!!
ジュウウウウ…
火球は弾け、鎮火した。体から白い煙が立ち上り、再生の赤い湯気も混じる。
「へへっ…耐え切った…ぜ…?」
片方は驚愕し、もう片方は悔しそうにしている。
「なっ…!?あれを止めた…だと!?」
「いや!!奴は確実に弱っている!!もう一度やるぞ!!」
奴らは再度チャージを始めた。
「くそっ!!もうまた来るのかよ!!」
「「うぉおおおあああああ!!!!大火きゅ...」」
「!?」
超速で人影が飛んでくる。左足を掲げた状態から、目にも止まらぬ早さで蹴りをかます。
左足の刃で手前の敵の喉を掻き切り、左手の剣で奥の敵の首を飛ばした。
空中で体勢が右に傾く。
アルヴァはそのまま勢い余って飛んでいき、遠くの方で地に叩きつけられた。
「ぐっ...!」
ガガガガガ!
二つの剣を右脇の氷に突き立て、勢いを殺す。
止まったかと思えば、そのまま力を失ってしまった。
「アルヴァ!!」「兄様!!」
急いで駆け寄った。
回りを見渡す。
「さっきので最後みたいだ。心臓は…動いてるな。意識を失ってるだけみたいだ。しかし、なんだこの怪我。普通、戦闘後って斬られた傷があるもんだろ。」
アルヴァは体中に内側からのように思える怪我を負っていた。
目から血涙を流した跡があり、
体中は腫れ、あざがある。
肩は脱臼、腕は骨折し、
筋肉の形状に異常が見受けられた。
「…一応聞くが、鈍器使いなんかいたか?」
「いいえ、いなかった。」
「うーん…」
頭を悩ませる。
「いえ、考えるのはあとにしないと。早く手当をしてあげないとかわいそう。仰向けに寝かしてくれる?」
「あ、ああ。わかった。」
横向きになっていたアルヴァを仰向けに寝かす。
彼女は彼の怪我に手をかざした。
「...治って!」
そう言うと、彼女の周りに緑色の光が現れ、手に集まり、強く輝いた。
同時に、パキパキと音を立てて彼女の頬と手に少しづつ結晶らしきものができ始めた。
「なっ...お前!なんだそれ!大丈夫なのかよ!」
「大丈夫だよ。このくらいなら。」
「...」
これは聞いてはいけないものなのだろうか。
そして緑色の光はアルヴァの身体全体に広がった。
彼女が治してる間に剣を引っこ抜き、鞘に戻してやる。
そうして、しばらくした後、光が収まった。
「これで大丈夫。」
「え?治ってなくね?」
彼の怪我はそのままのように見える。
「だって治療を早くするだけだよ?大丈夫!明日にはピンピンになって動けるようになってるから!」
...ッあぁー。即時治療できないタイプか。
「...どうしたの?」
「あっ、あぁ!なんでもねぇ、考えごとしてただけだ。」
慌ててごまかす。
聞きたいことは山ほどある。しかし、このままではこっちでの当たり前の質問が多すぎて、聞く度に奇異な目で見られてしまう。
変なやつ認定はもうごめんだ。やはり遠くから来たっていう決まり文句を使うか。だがその前に。
「まだ名前を聞いてなかったな!名を聞きたいなら自分から、だな!」
胸をドン!と叩き、親指でビシッと自分を指す。
「俺の名前はツヨシ・トモリ!剛き志を持ち、灯を護る者だ!俺はとっても遠くから来て、何も知らないんだ!だからなんでも一から教えてほしい!」
それを聞いて、優しい顔で微笑んだ。
「...いい名前。どおりで名前通りの...いや、なんでもない。」
「...?まぁいいや、君は?」
「私は...」
彼女の顔が曇る。
そして深刻そうな面持ちに変わり口を開いた。
「本当に何も知らないなら...トモリは...『終焉の魔女』の事も知らないの?」
「なんだ...?その恐ろしい名前は...?」
それを聞くなり、彼女は安堵したような、嬉しそうな表情になる。
「知らないんだ!よかった!で...その『終焉の魔女』...それが私なの。」
「えぇえええ!俺やべえ奴助けちまったんじゃないか!?」
笑顔から一変、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「そうだよ...人は見た目で判断しないほうがいいんだよ...?なぁんてね!そんな悪いことは考えてないよ!」
冗談だと言わんばかりにまた笑顔に戻る。騙せて嬉しそうだ。
「なんだ...。そりゃあ良かった。...うん?だがよ、そんなヤバそうな名を背負ってんのに君は全くヤバいやつに見えなかったぜ?」
ぴくっと反応し、少し真顔になる。
次第に彼女の顔が曇っていく。
「あっ、ごめ...」
「わたし、人をたくさん傷つけたの。」
「っ...」
思わず顔を背ける。
長い長い沈黙。
「...どれだけだ。」
「...たくさん。」
沈黙。耐え難い、重い空気が流れ、目をそらす。見ると、アルヴァの苦しそうだった呼吸はおさまっている。ゆっくりだが、治療はちゃんと効いているようだ。
剣の柄を握ったまま寝ている。
彼女に向き直る。
「...どうしてだ?」
「...怖かったから。」
「…怖かったのか。」
風の音と、草木が揺れる音が響く。
「じゃあ。」
顔を上げる。
風が強く吹き、彼女のさらさらとした銀髪が舞った。
俺が見つめると、彼女はこちらを見る。
銀鼠色の瞳が、まっすぐ俺を見つめた。
「今度は、俺が居る!」
「...え?」
その大きな目がまん丸に見開かれる。
「だから、大丈夫だ!」
ニッと笑ってみせる。
彼女は呆気にとられたような表情をしていたが、顔が緩み、笑った。
「ふふっ、変なの。」
「なにが?」
「普通、怖がると思った。」
「そうか。」
「...うん。」
徐々に落ち着いた表情になったかと思うと、今度はにこっと笑ってみせた。
「...ありがとっ!」
あまりにも破壊力が強い笑顔に、俺は慌てて目をそらし、頬を人差し指で掻く。
「おっおう。でっ、でも礼されるほどのことは言ってないぜ?」
「わたしにとってはそれほどのことなの。」
ほえ、と変な声をこぼし、彼女のほうに目をやる。
目を閉じて両手を胸に当てている。
それを見ると、なぜだか自然と笑みがこぼれた。




