生きなければ
なんて俺と相性の悪いスキルだ。
笑えてくる。
「騎士さん、話は後だ。俺の傷はもう治った。その子を俺に貸してくれ。」
「私の名前はアルヴァだ。」
「名乗ってる場合かよ!!」
吐き捨てるように叫び、無理やり呼吸を整えた。
「くそっ、調子狂うな。あー、アルヴァさん、その子を貸してくれ!」
「どうするつもりなんだ?」
「俺がこの子を引き受ける!あんたは奴らを倒すことだけ考えてくれ!!」
「だが!」
彼は心配なのか疑っているのか、よく分からない表情をする。
「大丈夫だ!今度こそ絶対倒れねえ!信じて任せてくれ。」
「くっ...!」
火球が緩まった。
「…ッ今だ!俺とその子を一緒に投げろ!!」
「…頼むっ!!」
ブンッ!宙に浮く。
「わわっ…!?」
彼女が驚いた顔であさっての方向を向いている。
彼女に向けて必死に手を伸ばす。
よし!掴んだ!!
強く抱き寄せる。
「…ぐっ!!」
地面に叩きつけられ、勢いのまま転がる。
アルヴァに目を向ける。
彼は盾の装備を外しており、次の瞬間、その盾を投げ捨てた。
...!?
彼は右手に持った自分の剣を、あろうことか自らの左腰に向けて一閃させた。
──パチンッ!
乾いた音を立てて、紐が弾け飛ぶのが見えた。
「あれは...!」
アルヴァは、左腰に差したまま一度も抜くことのなかった、もう一振りの剣――厳重に紐で縛られてあったその柄に、手を伸ばした。
「……力を」
掠れた、静かな呟き。
剣を鞘から引き抜く。
同時に、アルヴァの周囲だけ空気が凍りつく。
まるで精巧に作られた石像のような、冷徹な表情になる。
鞘から引き抜かれた刃は、冷酷な銀色の輝きを放っていた。
アルヴァは二本の剣先を下向きに揃え、勢いよく地に突き刺した。
彼がもともと使っていた剣の方から水が湧き出した。その水は円状に広がっていく。
俺の足が水に浸かり始めた。しかし勢いはそれほど強くなく、驚くほどでもない。
「ビビらせといて、なにをしでかすと思ったらなに水遊びしてんだ!?」
「ふざけやがって!さっさと首を落としてやる!」
「…!?」
もうひとつの新しい剣の方から水が凍り出した。
一瞬にして広がるように凍っていく。
流れが強くなかったので平たくきれいに凍った。
アルヴァがゆっくりと歩き出しているのが見える。そして走り出す。次第に速度が上がっていく。だんだん滑るような足運びに変わり、とてつもない速度で間合いを詰める。
そう、滑るように...
「いや、本当に滑ってるのか!?」
足下に目を凝らすと、刃が見えた。氷でできているようだ。
間違いない。彼はアイススケートをしている。
敵の目前に迫る。
「なっ...!速...!」
「くそ!」
超速で向かってくる彼を迎え撃つため、剣が振るわれる。
すると彼は左に体重をかけ、スッと進路を変える。
華麗に避けた後、そのまますれ違いざまに剣を目に見えぬ速度で振る。
「ぅあ゙?」
飛んだ首が喋った。
「すげえ...まるで別人みたいだ...!」
そうして彼の戦いを観戦していたが、視界の端に光が映り込んだ。
そちらに目を向けると、彼の死角から火球を放とうとしている奴が見える。
「あいつ気付いてねえ!!」
必死に氷から足を引っこ抜き、彼女を抱えながら走り出す。
火球が放たれる。
「うおおおおおおおお!!」
ジャンプで飛び込む。
なんとか火球の射線に割り込んだ。
彼女に当たらないように背中で受け止める。
「ぐううううう!!」
ものすごい熱が俺の背中を焼く。
「がはっ!!」
また地に叩きつけられる。
俺はこの短時間で何度叩きつけられただろうか。
「...!」
彼の足がこちらを向き、後ろを向いたの分かった。
横に倒れた姿勢のまま声を張り上げる。
「クソ痛えがさっきよりはマシだ!背中は任せろ!アンタは戦闘に集中してくれ!」
「...っ!」
また戦う音が聞こえだした。
「ねえ!また来るよ!」
ハッとして奴の方に目を向ける。
「後ろからも!」
「なに...!?」
前も、後ろの奴もこちらに向けて打ってこようとしていた。
「ターゲット変更か?いやそうか、元々この子が目当てだったか!どっちにしろ好都合!いいぜ!!来いよ!!」
横に向かって走り出す。
背後で着弾の音が轟く!
「へへっ!ヒヤヒヤさせてくれるぜ!」
「甘いな。小童が。」
動きを読まれ足元に着弾させられる。
「うわぁぁああーー!」
爆風が巻き起こり、吹き飛ばされてしまった。
「うぅっ...!」
氷のお陰で摩擦がほぼないのは救いだ。
冷たいくらいでグダグダ言っていられる状況ではない。
「大丈夫か!?」
「うん」
「逃げ回ってんじゃいつか食らっちまう。確かアイツが捨てた盾があったはずだ!」
周りを見渡す。氷が膨らんでいる場所を発見した。
「あそこが水を湧かした所だ!あそこらへんで捨てたはず!」
「来るよ!」
「...!」
とっさに転がり回避する。
「助かった~!サンキュ!」
彼女は嬉しそうに笑った。
「行くぞ!おわっ!」
走り出そうとして滑った。
火球が頭上を掠める。
「っぶねー...!」
「また来る!」
「...っ!」
留まってたらいい的だ。滑りながらなんとか氷の膨らみまで走る。
「現着!どこだ!?うわっ、危ねぇ!」
間一髪で避ける。
「クソ!探す余裕がねえ!」
絶え間なく飛んでくる弾を避けるので精一杯だ。
いっそ構わず探すか!?いや、一発でかなり痛いのになかなかの頻度で飛んでくる。何発も耐えられる気がしない!
火球が着弾した穴に目が留まった。
「...これだ!」
穴に駆け寄り、彼女を降ろす。
「俺の後ろにいてくれ!」
「わかった!」
割れた氷の中から良い氷を探す。
「なんだ?こんなときに何してやがんだ?」
「舐め腐りやがって!そのまま焼け死ね!!」
「よし!これだ!」
厚くデカい氷を拾い、両手でしっかり掴んだ。
飛んできた火球を受け止める。
ドンッ!と腕に衝撃が走り、
ジュッっと音がなり球状の凹みができる。
「成功だ!これなら探す隙ができる!」
敵と足元を急いで交互に目配せしながら探す。
「探してるのあれじゃない!?」
「...!?」
彼女が指し示す方向にキラリと輝く鉄の塊が埋まっていた。
「それだぁ!!」
伝えてもないのに探しているのを察してくれたようだ。
「お前、最高だ!」
彼女はにっこり笑って答えた。
「わたし、見てるだけのお姫様は嫌なの!」
彼女が示してくれた場所に駆け寄り、その上に立った。
「また俺の後ろにいてくれな!」
「うん!」
氷を両手で掴み、顔と胴を守る。
「足ががら空きだ!」
「へへっ!狙いどおり!」
氷を投げ捨て、翻すように彼女を抱えてその場から回避する。
元いた場所に穴が空き、その盾が露わとなる。
「まんまと足元を狙ってくれたな!」
その盾を拾い上げベルトを腕に通し、取っ手を握りしめる。
「盾装備だ!」
「フン!そのくらいで図に乗るな!」
奴らはまた攻撃を開始した。
「くっ!」
更に飛んでくる球を盾で弾き、受け止め、猛攻を凌ぐ。
「なあ!あっちはどうなってる!」
俺の体を掴む彼女に問う。
「かなり兄様が倒してる!もうちょっとであっちはぜんぶ倒せそう!」
「兄様??」
「そう!あの騎士様のこと!」
なんだ兄様って。
少し羨ましいと思ってしまった。
敵が敵に呼びかける。
「来い!大火球を使う!!押し切るぞ!!」
え?移動すんなら後ろ回ればよくないか?
いや、超火力で来られたら耐えれるか怪しい!確かに今まで耐えれてたし、良い判断なのかもしれない。
もう一人が合流。チャージを始めた。
なにやら奴らの胸が光り輝いている。
「気をつけて!すごいのが来るよ!!」
「あれはなんだ!?教えてくれ!!」
なにやら言いたいことが有りげな顔をしたが、一刻の猶予もない状況。すぐに話し始めてくれた。
「あれはマナと魂が結びつくことで起こるもの!!とにかくとても強力なの!!」
「くそッ!まずいッ!」
...避けるか!?あれの速度はどれだけだ!?間に合わなかったら!?
下は氷!スムーズに動ける保証はない!しかも大球にホーミングがあったら!?ならいっそ彼女を一人で逃がすか!?
...いや!彼女を一人で逃がしたとて、すぐに仕留められる可能性が高い...!!
「...!!」
俺の服を掴む力が強くなった。
彼女の手が、震えている。
...そうだ。最悪、盾で守りきれなくても死なない。この子のところまで通さなければいいだけだ!
──生きなければ!!この子のために!!俺が!!守らなければ!!!
「よぉおし!来ぉおおい!!」
覚悟を決め、盾を構えた!




