04.終焉の食糧事情
翌日。
午前の授業が終わり、学園の中が昼の空気へ切り替わっていく。
職員室にも人の出入りが増え、食堂へ向かう者、残って書類を片づける者、それぞれの動きが重なっていた。
その中で、扉の向こうから聞き慣れた軽い声が入ってくる。
「やっほ~きたよ」
月はそちらへ顔を向けた。
「お待ちしていました」
昨日と同じ4人が職員室へ入ってくる。
九曜は相変わらず気軽な顔をしていて、まさきは静かに周囲を見ていた。
楓はのんびりとした足取りのまま室内を眺め、龍也はどこか機嫌のよさそうな顔をしている。
学園の昼時の空気に、終焉の茶会側の空気がそのまま混ざり込んできた。
まさきが月を見る。
「……ギルドの食堂でも働いていたよな?」
月は頷いた。
「朝食の時間帯はギルドで働いています」
その答えを聞いて、龍也がすぐに言う。
「限定卵かけご飯はおいしかったであります」
楓も続ける。
「さんまも絶品だったにゃ~ん」
月は変わらない調子で返した。
「それはどうも」
九曜はそこで少しだけ目を細める。
「……ところで、あの鮮度抜群の魚はどこから」
月はあっさり答えた。
「ギルドの裏に池をつくりまして……空間捻じ曲げて海の幸もとれるようにしました。海苔も塩もギルド産です」
まさきの視線がわずかに動く。
「……だから釣り具を持っているやつもいたのか……」
月は小さく頷いた。
「はい。2時間1000エンで取り放題です。不正さえしなければ……」
九曜がその言葉を拾う。
「不正?」
月の声はそのままだった。
「網漁は禁止しています。網を使った場合は釣った魚が自動的にリリースされる魔法もかかっています」
九曜は素直に感心したように笑う。
「抜け目ないね」
まさきは別のことを聞いた。
「……何が釣れるんだ?」
月は少しだけ首を傾げる。
「さぁ?そこの管理を任せている水の精霊の気分次第です」
まさきは少しだけ遠い目をした。
「坊主ってときもあるのか……」
月はすぐに答える。
「水の精霊の機嫌を損ねたらずっと坊主ですね」
九曜がそこで月を見る。
「君の場合は?」
月は特に考える様子もなく言った。
「私の場合は、来てほしいなって思った魚たちが勝手に上がって来てくれるので」
龍也がすぐに納得したように頷く。
「天帝の特権でありますな」
九曜はそのまま次の疑問を口にした。
「で、ギルドの裏にある謎のゲートは?」
月は迷いなく答える。
「食糧調達ダンジョンです。孤児院の子どもたちが魔物を倒して野菜とか肉とかをゲットして持ち帰れるようになっています。」
まさきが静かに呟く。
「……いろいろ変えたんだな」
楓はそこで別の方を向いた。
「悪い大人が来たらどうするにゃ~ん」
月の声は少しも揺れない。
「私が直々に選んだダンジョン魔物ですよ?……不正を働く輩には遠慮するなって言ってあります」
龍也は何の迷いもなく言う。
「姫君のおひざ元で悪さなんてできないであります」
月は続けた。
「もちろん、そいつらは今ギルドの職員として働いています」
九曜が思い出したように眉を上げる。
「そういえば……何人か人相の悪そうなやつらいたけど……いいの?」
月はそこで一瞬だけ間を置いた。
「………え?そこは丁寧な話し合いを重ねに重ねて納得してもらっているので大丈夫です」
月はにっこりと笑いながら答える。
4人はそろって黙った。
「………」
その沈黙が妙に揃いすぎていて、逆に答えが出ていた。
誰も口にはしなかったが、4人の中では同じ言葉が並んでいた。
(絶対嘘だ)
月はそんな空気を気にすることなく、そのまま話を進める。
「さ、暴食の魔王のところ行きますよ。食堂にいるので」
4人は月の後ろを黙ってついていく。
さっきまで食糧の話で動いていた口が、今度は妙に静かだった。
月はそのまま職員室を出ていく。
九曜たちも続き、扉の向こうへ消えていった。
月が職員室から去った後、残された空気が少しだけ緩む。
その緩みの中で、最初に口を開いたのは樹だった。
「……丁寧……ね……」
神崎も続く。
「……いやはやあれは……」
柊が思い出したように顔をしかめる。
「あの蛮行は……あいつらに同情するレベル」
カイルも低く言った。
「………聖教会のやつらはあれの何をみて心優しい聖女と触れ回っていたんだ?」
夜行がその流れの中で口を開く。
「……というか、ここに来てから月はどんどんおかしくなっているような……」
ミミはそこであっさり言った。
「でも生徒たちにはやさしいにゃん」
カグラがすぐに返す。
「……魔力を持たない子たちには……でしょ?」
シルフはそこで、別のことを考えていたように呟く。
「あれくらいやっても問題なんだな……」
セレナがふわりとそちらを見る。
「シルフ?」
シルフは急に顔を上げた。
「今日の補習も全力で頑張るわ!」
その言葉が落ちた瞬間、職員室の中の何人かが一斉に嫌な顔をした。
午前の授業が終わったばかりの穏やかな空気が、別の意味でざわつく。
今日の魔力コントロールの補習も地獄の予感である。
離れた場所で、その気配だけを感じ取った生徒たちの声が上がる。
「すっごく嫌な予感がする!」




