08.地獄を見て、地獄に加担す
プールの外に立っただけで、異常さははっきりと分かった。
水を叩く音が断続的に響き、風が建物の中を抜けていく。
その合間に、悲鳴が混じっている。
「大精霊の魔力の波動を感じるであります」
龍也は、空気の流れを読むように周囲を見回した。
「いや。その前に悲鳴が聞こえるのだが?」
まさきは、素直な疑問を口にする。
「魔力コントロールでこんな悲鳴なんて上がらいにゃーん」
楓は、プールの方をじっと見つめたまま言った。
「…………プールってあそこかな??」
九曜は、建物の奥を指差す。
四人は並んでフェンスの外から覗き込む。
視界に入ったのは、落ち着いた授業風景とは程遠い光景だった。
「……………あれは何をしているんだ?」
まさきの声が、わずかに低くなる。
「えっと………風の渦に生徒を放り投げて、式で生徒をひっぱたいて、エルフの精霊魔法で締め上げて、妖狐の妖術で燃やされてる」
九曜は、見えたままを順に口にした。
説明が終わる頃には、水面が大きく揺れ、誰かが吹き飛ばされている。
「…………コントロール関係ないにゃー」
楓の一言が、状況を端的にまとめた。
「あ、万里たち発見であります」
龍也が視線を動かす。
「頑張ってるね〜」
九曜は、プールサイドに立つ顔ぶれを見て言った。
「ゴローはどこにいるんだ?」
まさきは、人数を数えるように目を走らせる。
「……………長い事あってなくて忘れてるにゃーん」
楓は、特に悪びれずに答えた。
その瞬間、プールサイドの一角がざわつく。
「……………あ、九曜たちなんだよ!」
クロマの声が上がった。
補習に関わっていた全員が、一斉に外を見る。
水音と風音の中で、視線だけが揃った。
「見つかったか……」
四人は、ほぼ同時にそう思った。
「…………ギルドの魔術師たちか……」
夜行が、短く状況を把握する。
「ども」
九曜は、軽く手を上げた。
「兄貴ーーーーー!!!」
勢いよく叫びながら、ゴローがこちらを見る。
「お前誰だ?」
まさきは、間を置かずに返した。
「ゴローだよ!!忘れられてるだろうなって思ってたけどよ!」
「…………????5年前のゴローはこんなに大きくないが?」
まさきは真剣な顔で首を傾げる。
「身長伸びたんだよ!」
「…………そうか……大きくなったな……ゴロー??」
「ゴローだよ!」
「そうか……すまん」
そのやり取りを横目に、万里が小さく息を吐く。
「お父さん……」
「万里………」
龍也は、視線を逸らしたまま返事をした。
「ヤダ、お父さんまたアトピー?」
「そ……そうであります!」
クロマたちは、一瞬だけ無言で固まる。
(いや、竜の鱗だろ。気づけよ)
「おかえりなんだよ」
クロマが、ようやく場を戻す。
「ただいま……で、何してるの?」
九曜は、改めてプール全体を見る。
「地獄のコントロール」
クロマの返答は簡潔だった。
「お前らまだできてないにゃん?」
楓が、率直に聞く。
「マスターからの命令で行けって………」
万里は、肩をすくめる。
「そっかぁ…………」
九曜は、風の渦と生徒たちを順に見た。
「ゴローたち………」
まさきは、その様子を黙って見つめる。
「俺たちも手伝うにゃーん」
楓が、あっさりと言った。
「さすがにね………」
九曜も、迷いなく頷く。
「最悪なんだよ」
クロマが、ぽつりと呟いた。
「あ、出来てなければプールに沈めてもいいんで」
シルフが、何の気負いもなく言う。
「聖女からの許可は得ている」
カイルが続けた。
「死んでも月が蘇生させるから大丈夫よ」
カグラは、楽しげに付け加える。
「んじゃ遠慮なく」
九曜たちは、同時に動き出した。
(ところで………月って誰?)
その疑問は、誰にも拾われないまま、
風と水音と悲鳴の中へ溶けていった。




