07.怒涛の補習、阿鼻叫喚
エルミナ学園のプールは、もはや授業と呼べる状態ではなかった。
水面は落ち着く暇もなく揺れ続け、吹き抜ける風が波を刻む。
プールサイドには複数の術式が描かれ、淡く光りながら空気を歪ませていた。
「はーい、失敗しました〜」
シルフは明るい声で告げる。
次の瞬間、生徒の体がふわりと浮き、制御を失ったまま風の渦に捕まった。
「ぎゃあああああ!!」
悲鳴が上がり、そのまま渦ごと水面の上へと引きずられていく。
水しぶきが高く跳ね、プールの縁まで飛んだ。
「次は誰があそこに行くかなぁ〜??」
シルフはプール全体を見渡し、笑みを崩さない。
「その程度のコントロールで渡りきれると思うな!」
夜行の声と同時に、式が生徒の前へ飛ぶ。
水を切り裂くような動きで突っ込み、そのまま叩きつけた。
「いたーーーい!!」
「魔術師をあまり舐めるな!」
カイルが腕を振ると、木の精霊魔法が水際から伸びる。
足を取られた生徒たちは、その場で締め上げられ、身動きが取れなくなった。
「ギブギブギブ!!!」
「うふふふふ………そんなんことで進級できると思ってんじゃないわよ!!」
カグラの妖術が走り、炎が一瞬だけ生徒の尻をかすめる。
水に落ちても火は消えず、余計に慌てた動きになる。
「あちちちちちちちちちちちち!!!!!」
悲鳴、水音、風音が重なり、プールは完全に混沌と化していた。
「何この地獄絵図」
万里はプール全体を見回し、率直に呟く。
「先生たち本気なんだよ」
クロマは、視線を補習の中心から外さずに言った。
「本気っていうか…」
ラミリスは、言葉の続きを飲み込む。
「殺る気しか感じねーな」
ゴローが、はっきりと吐き捨てた。
「そこ!!サボってないでさっさと渡れ!」
シルフの声が、風に乗って響く。
「うっす!!」
生徒たちは揃って返事をしたが、誰一人として余裕はなかった。
水を蹴り、術式を踏み、必死に次の地点へ向かう。
同時刻、ギルドの扉が音を立てて開いた。
「ただいま〜」
九曜の声が、広いギルド内に響く。
「あ、おかえり。九曜、まさき、楓、龍也。バカンス楽しかった?」
マスタは書類から目を離さずに言った。
「任務してたにゃーん」
楓が即答する。
「何言ってんの?半年前に終わってそのまま旅行に行ってたくせに」
「バレてる………」
まさきが、小さく肩を落とす。
「マスターを出し抜けるとでも?」
「できねーであります」
龍也は即座に答えた。
「それより、ギルド変わりましたね〜。あと目の前の建物…あれは?」
九曜が窓の外へ視線を向ける。
「ギルドがちょっと燃えてね……。あれは学校だよ!」
「燃えたっていうか絶対に燃やしてるニャン」
楓がぼそりと突っ込む。
「クロマの言ってた学校………」
まさきが、思い当たるように呟いた。
「今、魔力コントロールの補習してるから………行ってみたら?」
マスタは軽い調子のままだ。
「………あぁ……そういう学校でありますか」
龍也は、妙に納得した様子で頷く。
「コントロールできないからねぇ……。行ってみようか」
九曜は笑って言った。
「にゃーーん。面白そうだにゃん」
楓も楽しげだ。
「コントロールの授業はプールでやってるみたいだから。いってらっしゃーい」
マスタの声に背を押され、四人はギルドを後にする。
外に出ると、遠くから風と水音が混じった悲鳴が、かすかに聞こえてきていた。




