09.職員室は今日も通常運転
職員室は、相変わらず落ち着いた空気に包まれていた。
机の上には書類が積まれ、端には未整理の資料が広がっている。
窓から差し込む光が床に伸び、湯気の立つカップがいくつか置かれていた。
「………プールの方に新たな気配が……」
月が、ふと手を止めて顔を上げた。
指先で持っていたペンが、机の上に静かに置かれる。
「ん??…………この気配は………九曜、まさき、楓、龍也……だな」
樹は椅子に深く腰掛けたまま、天井を一瞬だけ見上げてから名前を並べた。
「???」
月は首を傾げ、樹の方を見る。
「ギルドで長期任務に行っててずっと不在だった奴らだよ。なんだ、帰ってきたのか」
樹は背もたれに体を預け、片手で机を軽く叩いた。
「なんでプールの方?」
鬼影が、書類を揃える手を止めて視線を上げる。
「九曜はクロマの保護者代わり。まさきはゴローの兄。龍也は万里の父親……だからな」
樹は言葉を区切りながら、指を折るような仕草を見せた。
「竜神族の父親……」
鬼影の声が、低く落ちる。
「人型取ってるけど、隠しきれてないからな?すーぐ竜の鱗出るし、角出るし、尻尾出るしで……」
樹は肩をすくめ、口元だけで笑った。
「しかし、万里さんは気づいておらんのじゃろ?」
神崎が、眼鏡の位置を直しながら確認する。
「そうだぜ?娘の万里と妻のなずなだけ気づいてない。ヤバいだろ?」
樹は、机の上の書類に視線を落としたまま言った。
「ふ~ん……」
月は、それだけ答え、再び視線を手元に戻す。
「プールの方に行ったということは、様子見ってことかな?」
山吹が、場を整理するように言葉を挟む。
「あ、いえ……なんか一緒に魔力コントロールの授業手伝うみたいです」
月は、淡々と報告する。
「九曜とまさきと楓は……コントロール力エグいぞ?教えるのもうまいし……いいんじゃねーの?」
樹は、少し身を乗り出して評価を口にした。
「……は………。えっと、龍也さんっていうのはどうなのだい?」
ラットンが、間を測るように言葉を選ぶ。
「え?万里見てりゃわかるだろ?言わないとダメ?」
樹は即答する。
「愚問だったようだ」
ラットンは小さく頷き、口を閉じた。
「大丈夫でしょうか?」
月が、視線を上げて尋ねる。
「龍也は九曜の言うことなら聞くから大丈夫だろ?」
樹は、迷いなく言い切った。
「そうですか……。ならいいです」
月は、それ以上掘り下げない。
「いいんだ……」
鬼影が、ほとんど独り言のように呟く。
「私に迷惑がかからなければいいです」
月は、変わらない調子で締めた。
(え?一番迷惑かけてるのに?言わんけど)
職員室の空気は、最初から最後まで崩れなかった。
外でどれほどの騒ぎが起きていようと、ここは今日も通常運転だった。
次章
第25章 『終焉の茶会、今日も大騒ぎ』は、
5月1日(金) 20時より投稿を開始します。
どうぞ、お楽しみに。




