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ハルト、ギルドマスターに会う

 ぼくらはフレデリカさんに導かれ、冒険者ギルド『黄昏の画廊』の本社へ向かった。


 階段を昇り、三階にあるギルドマスターの部屋へ向かった。

 途中の階段や廊下にはみごとな絵画がかざってあった。


 どことなく、武技闘技場にかざられていた三戦神の絵に似た筆致の絵に見えた。


「フレデリカさん、この壁にかざられた絵はサーリグン卿が描かれたものですか?」


「ええ……ギルマスは絵を描くのが趣味で、初めは部屋に飾っていたそうなんだけど、だんだん多くなって、廊下や階段の部屋にも飾るようになったのよ」


 エリーゼがフレデリカさんを見て、


「絵を描くのが趣味なんて、妙なギルドマスターだなあ……それで冒険者ギルドの名前が『黄昏の画廊』っていうのか?」


「ほほほほほ……そうかもしれないわね。それにしても、ギルマスが入ったばかりの冒険者に会いたいっていうのは珍しいわ」


「そうなんですか?」


「ええ、飛び級のこともあるけど、あの書状が決め手ね。あなたたち、ブリトルズ司令とはどういう関係なの?」


「故郷から来る途中で、盗賊に襲われたとき、助けてくれた騎兵隊の指揮官なんですよ」


「へえ、そうだったのね……」


 フレデリカさんはもっと聞きたげだったけど、ギルドマスターの部屋についてしまった。


「失礼します、ギルドマスター」


 フレデリカさんがドアをノックして部屋に入った。


 室内は三方の壁に本棚があり、真ん中の執務机の上には書類が山と積まれていた。

 本棚の隙間の壁に絵が飾られ、観葉植物の鉢が置かれていた。


「おお、よく来ましたね」


 書類の山の向うから声がしてこちらにきた。

 ジョウロを持っている。

 どうやら、観葉植物に水を与えていたらしい。


 この人が『黄昏の画廊』のギルドマスターか。

 華奢きゃしゃな長身で、金色の髪が腰まで伸び、鼻筋の通った白皙の美貌の男性であった。

 ただ、目は糸のように細く、目を閉じているようにも見えた。

 そして、耳が細長い……彼はエルフ族だった。


 三十代くらいに見えるけど、エルフ族は長命なのであてにならない。


 北域には大別して二つのエルフ族がいる。

 光のエルフ族リョースアールヴと、闇のエルフ族スヴァルトアールヴだ。

 光のエルフ族は天界にある妖精の国アールヴヘイムに住んでいる。


 以前、ウィンダム大森林にある人食いの森で出会った森エルフの姫リリアと妖精騎士ヨナは大昔、アールヴヘイムから地上に降りて住みはじめた光のエルフ族の子孫だという。


 このギルドマスターは光のエルフ族、もしくは森エルフ族に見えた。


「私が『黄昏の画廊』のギルマスを勤めている、ロデリック・サーリングともうします」


「はじめまして、ぼくはハルト・スタージョンといいます」


「私はミュリエル・ボーモントです」


「わっちはエリーゼ・エリスンだ。ギルマスはエルフ族だったんだな」


「そうですよ。でも正確にいうと私はエルフ族と人間族の混血のハーフエルフですね」


 ハーフエルフ……聞いたことがある。ハーフエルフは人間族とエルフ族両方の特徴を受け継ぎ、外見が美しく身体能力が高く、知識が豊富で、魔術に長けた者が多いという。ただし、ハーフエルフは双方の種族から差別的な扱いを受けることがあると。


「あなたがブリトルズ司令と、彼の配下の騎兵隊を助けたという恩人の武闘士ですか」


「あっ、いや……ええと、結果的にそうなるのかな?」


「慎み深い方のようですね。彼はあなたのことを絶賛していますよ。冒険者よりも騎兵隊の騎士にしたい逸材だって書状に書いてあります」


「いえ、それほどでもないですよ……」


 ぼくは恥ずかしさと照れくささで頬が上気してしまった。


「ウェイン砦の司令官であるブリトルズ司令官とは旧知の仲だと聞きましたが……」


「ええ、彼とは昔、一時的に冒険者パーティーを組んでダンジョンを探ったことがあります」


「そうだったんですか?」


「ええ、彼は若い頃はスマートなプレイボーイだったんですが……今や麦酒ビールの飲み過ぎで自分がビヤ樽みたいになってしまいましたね」


 うわっ、辛辣だなあ……そういう事を言えるほどの間柄だったのかな?


 その時、観葉植物の葉がガサリと動き、何か虫の羽を持つ生き物が飛び出してきた。


 驚いたことに、それは四枚翅をもつ少女の姿をした小妖精だった。

 20センチほどの小さな人間だった。

 草色の服をきて、背中に昆虫のような半透明の四枚翅よんまいばねがついていた。

 髪の毛は赤毛で、青空色の大きな瞳の少女のようだ。

 エリーゼよりも数年上に見えた。


「あっ、ピクシー妖精なの!!」


 妖精好きのミュリエルが驚嘆と歓喜の声を出す。


「ちょっと、子どもたち!! ロデリックに対して慣れ慣れしいわよ!!」


 小妖精はなぜかご機嫌ななめのようだった。


「おお、わっちの故郷にはいない顔の妖精だなぁ……お前はどこの妖精の里から来たんだ?」


「なによ、無礼な口をきくわね」


「なんだとぉ!?」


「あたしは地上界を這いずり回るピクシーとは違うのよ!!」


「んあっ!? どういうことだ?」


「あたしは天界にある妖精の国アールヴヘイムから来た小妖精なのよ!!」


 ぼくらは「えっ!?」と仰天してピクシー妖精を見た。


 天界にある妖精の国アールヴヘイムや、その下にある神々の国アースガルズは、千年以上前に結界を張って、地上界と行き来できないはずだと神話に伝えられる。

 どうやって、この小妖精はそこから来たんだ?


「これエステル、妙な自慢はよしなさい。同じ小妖精じゃないですか」


「だって、ロデリックぅ……」


「エステルとは昔、神樹の森で出会ったのです。そのとき、記憶喪失だったようですが、いつの間にか自分はアールヴヘイムから来たと思い込んだみたいでしてねえ……誰しも年頃になると抱く妄想癖のようなものです。自分は特別なものだと思い込みたくなるのですね」


 うわっ、中二病か。耳が痛いや……

 ん? 中二病てなんだ?


「なによ、ロデリック。本当に本当なんだったら……」


 エステルという小妖精はプンプンと怒っている。


「まあ、その辺はいいとして、『黒い蠍』との戦いのことを、直接あなたたちから聞きたいのですが、よろしいですか?」


「あ、はい……」


 サーリング卿はぼくらの話すことを興味深く聞いていた。特に『黒い蠍』が秘蔵していた魔導兵器の魔弾砲について細かく聞いていた。


 ただ、ぼくがドライアード様からソール様の作った雷鳴神剣を継承した、正統な二代目であることはぼかし、家宝の魔剣を使って魔道士シグマの出した魔弾砲を破壊したことにした。


「なるほど……『黒い蠍』は海賊から勢力を拡大した犯罪クランだと思っていましたが、とんでもない物を所蔵していたようですね」


 ギルドマスターは顎に細い指をあて何かをじっと考え込んでいた。


「ともかくあなたがたを我がギルドで引き受けましょう」


「よろしくお願いします」


「よかったのぉ……」


 ぼくらは礼をして部屋を去ろうとした。

 傍らにミュリエルがいるが、エリーゼがいない。


「エリーゼ、どこにいるんだい?」


 呼びかけて探すと、ピクシー妖精は右側の本棚の間にある壁に飾られた大きな絵を見ていた。


「なあ、ギルマス……この絵って、もしかして……ラグナロクの絵じゃないのか?」




 次回で第三部最終回です。


 4月20日昼ごろ更新予定です。


 作品を読んでみて、面白かったと思っていただけましたら、広告下にある《☆☆☆☆☆》に評価していただけましたら、創作活動への大きな励みと活力になります。


 星の評価は日間ランキングの順位に大きく関わるため、今作のこれからに大きく影響いたします。


「今作を応援したい!」と思ってくださった方は、なにとぞ応援を、よろしくお願いいたします。


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