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ミュリエル、恋話に興味津々

 夕方になり、『マルデルの涙亭』で、もっとも忙しい時間がやってきた。


 近所に住む荷揚げ人夫や船乗りといった港湾従事者や、行商や物売りなどをしている商人などが、マルデルの涙亭に続々と入ってきた。

 五十席もあった広大な広間は、あっという間にテーブルが埋まっていった。


「28番テーブルにサーモンソテーとスモーブローの注文はいったよぉ」


「あいよ!!」


 ラシュリーさんがお客さんから注文をとり、ビヴァリーさんや料理人たちが料理を作っていった。


「ハルトくん、16番テーブルの品が出来たから持っておいき。火傷しないよう気をつけな」


「はい!!」


 ぼくはトレイに置かれたアンチョビとポテトのグラタンとリンゴンベリーのミートボール、ハッセルバックを慎重に持って、落したりしないように、慎重にテーブルに運んで行った。


「お待ちどうさまです!!」


「おう、きたきた。おれはこいつが大好物でな」


 ベルヌ港の労務者と思われる陽に焼けた男がうまそうに食べだした。



 ライ麦パンのサンドイッチであるスモーブローとサーモンソテーが出来上がり、28番テーブルに持って行った。 


「うまい……古里の味を思い出すなぁ……こういうのでいいんだよ。こういうので……」


 なんだか一家言ありそうな行商人さんが、満足そうに料理を食べていく。


 近くにある「黄昏の画廊」の冒険者とおぼしき戦士や魔法使いなどらしき人達も客にきた。

 ぼくらもいつかはクエストなどをこなす冒険者一本で暮らしていきたいものだ。




「ふぃ~~…大変だったのぉ……」


 ミュリエルが休憩室の長椅子にばたりと倒れた。


「ほんとうだねえ……」


 夕食のかきいれ時がすぎ、閉店が近付いて、最後のお客さんを送り出したところだ。


「新人くんたちお疲れだったのにゃ」


「おっつ~~」


 そこへ更衣室から出てきた先輩従業員のアーシュ・ルグウィンさんと、ラシュリー・ライバーさんが顔を見せた。


 ふたりとも私服に着替えて近くのアパートに帰るところだ。なんでもアーシュさんとラシュリーさんは被服科の専門学校に通っていて、ウェイトレスは生活のためのアルバイトだそうだ。

 厨房の料理人たちも着替えて裏口から帰っていくのが見えた。


「ごくろうさん、ふたりとも。まかない飯を用意したよ」


 マルデルの涙亭の女将のビヴァリーさんが、余り物の野菜や肉と卵をチャチャっと炒めて、夕食を作ってくれた。


「ありがとうございます」


 ガランとして広くなった食堂のテーブルでぼくらは夕食をいただいた。ルーシーの子守りをしていたというエリーゼやウィリアムもやってきて、夕食を頂いた。

 女将さんが、エリーゼ用の食器と、ウィリアムには無塩ソーセージを用意してくれた。


「とっても、美味しいのぉ!!」


「本当だぁ……ビヴァリーさんは調理の学校に行ってたんですか?」


「いや、先代の女将から習ったのさ。厳しい人だったけど、料理の腕は一流だったよ……」


 ビヴァリーさんがしみじみと昔を思い出すようにいう。


「あたしはねえ、昔は、旅芸人の芝居一座にいたんだよ」


「へえ、そうだったんですか」


 道理で声が大きくて、ホールまでよく通り、ハキハキと滑舌よくしゃべると思ったよ。


「こう見えて看板女優だったんだよ」


「わかります。女将さんって、とってもはながある人なの!!」


「嬉しいこといってくれるねえ……お嬢ちゃん」


「それで、看板女優がなんでこの店の女将になっているんだ?」


 エリーゼがもぐもぐ食べながらいう。


「ここの宿屋兼料理屋を経営していた亭主があたしのファンでねえ……あたしもまんざらでなく、二人は恋仲になって、ここに落ち着いたってわけさね」


「わあ、素敵なお話しなの」


「やるなあ、女将さん」


 ミュリエルとエリーゼが興味深けに食いついた。

 女の子はこういう恋話こいばな好きだなあ……


「ビヴァリーさんはどんなお芝居をしていたんですか?」


「当たり役は『女治安騎士ローズ・フラッド』だね」


 ビヴァリーさんは両手にフライパン返しを持って、素早く指先で数度回転させて、腰に帯刀する真似をした。


 思わずぼくらはパチパチと拍手をした。


「器用なんですねえ。つまり女騎士ローズ・フラッドは双剣使いだったんですね」


「そうさ、ローズ・フラッドの活躍は人気で、続編が作られ、第十幕まで台本が作られたね」


「どんな話なんですか?」


 ミュリエルが好奇心満々で先をうながす。


「辺境の町オラクルを、たった一人で守ってきた治安騎士スコット・フラッドが悪党たちに殺されるんだよ。その妻のローズが次の治安騎士が町に就任するまで、臨時治安騎士に任命されて、悪党たちに復讐を誓うのさ」


「女性騎士が一人で復讐に立ち向かうなんて勇ましいの!!」


「ところが、それとは別に、ローズは町の風紀を乱す酒場の女主人エリアと仲が悪くてねえ。エリアは町の利権を得るにはローズが邪魔でしかたなく、殺し屋を雇うのさ」


「その女主人、とんでもねえ奴だな!!」


「殺し屋はケイン・ミラという男で、エリアに呼ばれて都からオラクルの町に馬でやって来るのさ。ところが途中でローズと出会う。ローズは悪党一味に襲われて危機一髪なところを、ケインに救われる。二人は互いに殺し屋とその標的とは知らずに知り合ってしまうのさ。色々あって、二人は禁断の恋に落ちてしまうという話さね」


「ええっ、敵の殺し屋と恋仲になるんですか!?」


「それでそれで、二人はどうなった!!」


 ミュリエルとエリーゼが昂奮して先をうながす。

 本当に女の子は恋話が好きだなあ……かくいうぼくも話の先が気になる。


「それでね……」


 バタン!!!


 急に入口のドアが開いた。


「すみません、もう閉店ですよ」


 お客さんかな、と、見てみれば、眼鏡をかけた女性は見知った人だった。


「受付のフレデリカさんじゃないですか」


 息をきらせている。急いで駆け付けてきたようだ。


「あなた達やっぱりここにいたのね。あなた達らしい少年少女が『マルデルの涙亭』に入ったと聞いたから、急いできたわ」


「どうしたんですか?」


「ギルドマスターのサーリング卿があなた達に会いたいっていうのよ」


「えっ、ギルドマスターが?」


 ぼくらは眼を見合せた。




 学生時代に大きな料理屋で皿洗いのアルバイトをした事がある。


 店の奥には厨房があって、店員の更衣室や休憩室があるなんてのは中々知らない情報だった。


 仕事は大変だったけど、作中で書いたような賄い料理を料理人が作ってくれて、これがとても美味かった。


 さすがプロは違うと思ったね。


 当時のグルメ漫画で、一流の料理人は舌が馬鹿にならないよう、喫煙したり、濃い味の物を食べないと描いてあったけど、その料理人たちは階段の踊り場でタバコをスパスパ吸ってた(笑)


 まさかその時の経験が役立つとは思わなかった。


 作品を読んでみて、面白かったと思っていただけましたら、広告下にある《☆☆☆☆☆》に評価していただけましたら、創作活動への大きな励みと活力になります。


 星の評価は日間ランキングの順位に大きく関わるため、今作のこれからに大きく影響いたします。


「今作を応援したい!」と思ってくださった方は、なにとぞ応援を、よろしくお願いいたします。


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