その40.勝利の女神は何を思い、何を残すか
「嘘だろ……麻莉亜……」
「ご迷惑とご心配をお掛けしました。本当に申し訳ありませんでした」
麻莉亜は凛と引き締まった顔で俺の前にやってきたと思ったら、そう言って深々と頭を下げてきた。
麻莉亜が……麻莉亜が俺を助けにやってきてくれた。
信じられない。
どうして麻莉亜がこのタイミングで、ここへやって来られたのか本当に分からない。
口調も態度も麻莉亜そのものだが、偽物なんじゃないかとすら思えた。
「間に合って良かったですが、時間が残っていません。詳しい話は後でします。今は勝負に集中しましょう」
麻莉亜は中央に表示されている掲示板を見ながらそう言う。
「麻莉亜……本当に麻莉亜なんだな!?」
「はい。私が必ず海人さんを守ります。海人さんは安心して見ていて下さい」
麻莉亜はそう言って、そっと俺を抱きしめてくれた。
その心地がVRのものとは言え、紛れも無く麻莉亜に抱き寄せられた時の心地だ。
いつも傍にいて、いつも俺を守ってくれた俺の姉。
麻莉亜を感じることができて、この絶望的な状況の中でも俺の気持ちが落ち着いてくるようだった。
麻莉亜はすぐに体を離すと、IPの確認作業に入る。
残り時間は40秒を切っている。
この状態では、いくら麻莉亜でも厳しいかもしれない。
それでも麻莉亜は悲観するような様子など一切見せずに凄い速さで目を動かしていた。
「何だ何だ~? 変なの来たぞ~?」
「誰だ? 七原の知り合いか? 随分と良い女を味方につけてるじゃあねぇか」
「…………」
麻莉亜に気がついた久志川と黒波がそんな言葉を掛けてくる。
「ま、この状況で出来ることなんてたかが知れてるけどな! 残念ながら、勝負はついてましたーっと! 七原の葬式の参加者かな!?」
「くっくっくっく。状況を見て絶望しろ! そこの女、聞け! 俺に味方するならお前は救ってやってもいいぞ!? 俺のチームに入れば、幹部にしてやる。一緒に世界を救う仲間の幹部だ。七原なんかよりもずっと強い俺が守ってやるぞ?」
黒波がそう麻莉亜に言うも、麻莉亜は完全に無視して確認作業を続けている。
俺も黒波と久志川に耳を貸すことなく、麻莉亜の補助をするように言葉を掛けた。
「相手は事前に俺のステータスを知り、勝ち筋を組み立てていたみたいなんだ。この回も既に小盾を使ってくると予測されている。クライシスを出しても相手のC封じで封じられてしまうからそれしかないんだが……」
俺がそうフォローすると、麻莉亜はすぐに俺に手を指示してきた。
「剣に小盾を付けましょう。状況はかなり厳しいですが、勝ち筋がない訳でもありません。相手はこちらのクライシスを恐れてC封じを使ってくる可能性が高いです。だから敢えて小盾しかないと海人さんに伝え、小盾を出しにくくさせたのだと考えられます」
「……分かった」
時間を見てみる。
残り14秒。
俺がこの時間で何を考えても麻莉亜の思考を上回ることはできない。
今は麻莉亜を信じるしかないんだ。
俺は麻莉亜の言う通り、剣に小盾を添えて確認を押した。
麻莉亜は歯を食いしばるように相手のことを睨みながらも、そっと俺の手を掴んできた。
麻莉亜とて、自信があるわけではないのだろう。
だから俺は麻莉亜を信じているという思いを込め、その手をぎゅっと握り返してやった。
俺の考えた展開では、ここでC封じを使われなければ後は何をやっても負ける。
相手がこっちの手を読み間違えてくれることに懸けるしかないんだ!
「お前の手を当ててやろうか~?」
久志川は手を選びながら楽しそうにそう言ってくる。
「お前、クライシス添えただろ~? 分かってんだよ! お前が勝つ道はそれしかないんだよね~。ここで小盾を使って凌いだところで、ほぼ負けは確定しているようなもの。だから、お前はここで小盾と思わせてクライシスを使い、逆転するしか道はないんだよ! でも、残念でした~。はい、これで七原君死亡~。お疲れ様したーー!!」
久志川はへらへらしながらそう言ってくる。
本気でそう思っているのかどうかは知らないが、それを聞いて吹き出しそうになるのをこらえるのがとても辛かった。
ここで吹き出したらバレてしまう。
もしかして、それを狙って話しかけてきているのかもしれない。
だから俺はこらえるように麻莉亜と繋いでいる手にグッと力を入れ、笑いを堪えた。
麻莉亜は完全に無表情でやり過ごしている。
さすが麻莉亜だ。
「くっくっくっく。ようやく、俺が七原を打ち破れる時が来たか……。長かった……長かったぞ……。これでようやく世界は変わるんだ……。世界は本来のあるべき姿に戻る……」
黒波はそんなことを呟いて空を仰いだ。
「世の中の人間は実に愚かだ。そうは思わないか? 七原」
「…………」
「世間は自分で何かを成し遂げることのできない、強い者に擦り寄るだけしかできない無責任のゴミ共だ。世間は七原七原ともてはやし、立尾を馬鹿にし続けてきた。立尾という名前を蔑称として俺に投げつけるゴミもいた。しかし、エボルが出現するとどうなったか、お前もよく理解できているだろう」
「…………」
世間は手のひらを返し、七原のバッシングを始めた……か。
こいつの言う、世間は無責任だという言葉は今の俺なら理解できなくはない。
「しかし、それが本来あるべき世の姿なんだ。七原重蔵は今まで立尾が全員で協力して築き上げた技術を盗み出しただけに過ぎない。世間はそんなことも知らずに、七原が勢い付いたと分かるやいなや、七原に飛びついた。世間は実に愚かだ。しかし、扱いやすい。強いと分かれば飛びつくだけのゴミなら、強いと分からせてやればいい。エボルの作るゲームが支配する世界は、そういう意味で世間の本質を見事に突いている。俺はこのルールに則り、世界を本来あるべき姿に戻してやる。今ここで七原を葬り去ることでな!! 七原は能なし! 貧弱! 負け犬だってことを、世間に知らしめてやる! 立尾を馬鹿にしてゴミ共に知らしめてやる!!」
「黒波サイコー!! 立尾サイコー!! 七原は死ね!! 今すぐ死ね!! あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
黒波は有り余る持ち時間を存分につかって、そうつらつらと七原への恨みを語ってきた。
正直言って、俺としては心底どうでもいい。
温度差がありすぎる。
黒波の気持ちは理解できなくもない。
今俺が世間に対して恨みをかっていることを不条理だと感じるのと同じように、黒波もまた今まで自分の生まれた環境のせいで周りから馬鹿にされてきたんだ。
そんな自分ではどうすることもできない不条理な否定を受け続け、今までずっと恨みを積もらせてきたんだろう。
だから、それを晴らすためにこうして七原を潰すことに躍起になっているんだ。
確かに、一度傾いた世間の流れを変えるのは難しい。
それは今俺も身にしみて分かっている。
でも、黒波にはこんな方法以外にも思いを晴らせる方法があったはずだ。
きっと七原という名前や立尾という名前に毒された黒波は、こうして七原を倒す以外に自分を……立尾を挽回させる方法が分からないだけなんだ。
そしてそれが如何に自分勝手な方法で、仲間同士の潰し合いになっているということも。
俺はこんな戦い望んではいない。
でも、今はやるしかないんだ。
名前に毒された、世間の動きに毒された、そしてエボル作ったゲームに毒された黒波をここで倒して、それは間違いだと分からせてやるしかないんだ!
「さて、七原。最後に言い残すことはないか? 何なら、何でも聞いてやるぞ。聞いてやるだけだけどな!!」
「…………」
俺は下手なことを言ってボロを出さないよう、無言を貫く。
今となっては俺も世間に対して黒波と同じ気持ちを抱いている。
できることならここで黒波を倒して、わだかまりを解き、同じ気持ちを抱えた物同士世間と、エボルと戦っていけるように協力するべきだと思う。
こいつもあの蓮華の兄貴。
きっと理解してくれるはずだ。
だがこの試合が終われば、俺か黒波、どちらかは命を散らすことになる。
今後わだかまりを解く機会なんて絶対に訪れることはない。
――――やっぱりこのゲームは間違っている。
「ないか。それでは、お前の命もここで終わりだ。死ね!! 七原!!」
黒波はそう言うと、パネルの操作を始めた。
今はこいつとのわだかまりとかを言っている場合ではないと、俺もすぐに試合に頭を切り替えた。
さっき久志川が言っていたことが本当なら、相手はC封じを使ってくる。
そうだったら俺の命はギリギリの所でつなぐことが出来る!
頼む!!
==========
カイト
HP:12→6
剣:9
【小盾】
引き分け:ダメージ6
クウゴ
HP:10
剣:21
【C封じ】
引き分け
==========
――ターン2 エクストラ――
カイト:6 クウゴ:10
見事に麻莉亜の読みは的中し、俺は命をつなぐことができた。
だが、状況は全く変わっていない。
むしろここからが本番といった感じだ。
麻莉亜もそれは分かっているようで、喜ぶような仕草は取らなかった。
一方相手はこっちの手に意表を突かれたようで、少し2人で揉めているのが見て取れる。
久志川は決まりが悪そうにしていたが、少し苦笑いする程度で大丈夫だからと黒波を制している様子だった。
「勝負どころです。慎重に行きましょう」
「あぁ。俺も時間を目一杯使って手を考える。そうしたらぜひ麻莉亜も最善の手を教えてくれ」
「分かりました」
麻莉亜はもう既に最善手を考えているだろうが、俺も麻莉亜に少しでも近づこうと、持ち時間の5分を目一杯活用して手を考えることにする。
まず冷静に互いの持ち手を確認してみた。
=====
カイト:6
拳9、弓12、無形
強撃、クライシス、博打、弓見切り、(小盾)
クウゴ:10
剣21、マイティ9、無形
必殺、クライシス、剣見切り、吸収、(C封じ)、(交換)
=====
真っ先に思いつくのは、無形クライシスだ。
相手のC封じは消えたので、こっちのクライシスが封じられることもない。
拳は有りだが、弓は無しだ。
下手に弓とか出して、相手のクライシスをもらったのでは目も当てられない。
この回で無形クライシスを使えばこの回で死ぬことはないが、問題はその次の回だ。
もし無形クライシスを空振りしてしまった場合――その時は自動的に相手が無形を使ったということになるのだが――そうなると次のフォアで、相手がマイティを構えたら打つ手なしで負けが確定する。
無形クライシスを出すなら、確実に仕留められないと自動的に負けになってしまうんだ。
そうなると他の手を探したくなるのだが、他の拳や弓もマイティをくらえば即死。
何をやっても運の勝負となってしまう。
こうなれば、もう相手が何を出すのか予測して、それを的確に当てた上で対処していくしかない。
「……相手は無形クライシスか?」
「……可能性は高いですが、こちらが拳、無形の場合は相手のクライシスが空振りとなり、相手は形勢不利になります。相手がこの局面をどう据えているか……それが問題ですね」
「相手はほぼ勝ちを確信しているみたいだが……相手が確実に勝てる勝ち筋なんてあるのか?」
「ありません。相手が有利なのは確かですが、相手も一歩間違えれば死ぬ状況まできているのも事実です。私達はその隙をついて……」
そこで麻莉亜が突然言葉を詰まらせる。
言葉を詰まらせるタイミングではないので、何が起こったのかと相手も麻莉亜も見てみるのだが、特に変わった様子はないように見えた。
「相手が無形クライシス、対してこっちがクライシスを添えずに無形を出せば、勝機が見えてきますね……」
「本当か!?」
俺はこのゲームにおいて、今初めて麻莉亜の凄さを思い知ったと思う。
俺には無形でうまくいったとしても、その先の展開が読みきれない。
それでも交換のSSが戻ってくる相手の方がずっと有利な気がするんだが、向こうもクライシスを使い切ることになるので、状況はイーブンくらいに持ち込めるか。
麻莉亜のその言葉を聞いて勇気と希望が湧いてきた。
俄然やる気も出てくる。
麻莉亜は本当に、本当に頼もしい俺の味方だ。
「ただ、相手が無形クライシス以外であればほぼこちらの負けが確定します」
「…………」
相手の様子を見てみる。
相手もかなり悩んでいるようで、久志川が黒波に色々とパネルを指さしながら説明していた。
麻莉亜も俺と同じように相手の方を見て様子を伺っている。
麻莉亜だって超能力者じゃない。
今まではたまたま相手の態度や言動の中に埋まっていたヒントを麻莉亜が探し当て、相手の手の手を読んできた。
今も麻莉亜は何かヒントがないか探っているのだろう。
俺も麻莉亜に頼ってばかりじゃダメだ。
相手から何でもいいからヒント見つけるんだ。
そんなことを考えていると、不意に麻莉亜は前を向いたまま言葉をポツリと呟いた。
「私は……私が嫌いです……」
「え……?」
突然の麻莉亜らしからぬ言葉に耳を疑った。
「私は人間ではありません……。それでも小夏さんに励まされ、人間であろうと思い込みました」
「小夏? どうしたんだよ急に!」
麻莉亜の様子に異変を感じて、麻莉亜の傍に近づこうとしたのだが、一歩歩み寄った所でその足を止めてしまった。
前を向く麻莉亜の頬に、涙が伝っているのが見えたから。
そう言えばさっきから何か様子がおかしかった。
ずっと前――相手の方ばかり見て俺に顔を見せてこなかった。
麻莉亜はまだ何か倒れた時の後遺症でも引きずっているのか……?
「私には相手の会話が耳に入ってきてしまいます。相手は無形とクライシスを……選択するようです。海人さんには聞こえましたか?」
「!!!」
そうか!
麻莉亜は本気を出せばかなり広い範囲の音を拾える性能を持っている!!
今久志川と黒波が話していることが聞こえていたんだ!!
この勝負、勝ったか!!?
い、いや、待て。
麻莉亜の様子がおかしいぞ!?
何で勝ちが見えた状態なのに、こんなにも悲しそうな声で体を震わせているんだ!?
「人間の方には聞こえてこない距離ですよね。私もセーブを解除しないと聞こえない距離でした。それが私には辛いです。私は人間ではないと思い知ったようで、辛いんです」
「麻莉亜……」
「どうしてお父さんは……お母さんは、私をこんな人間でもない、ただのアンドロイドに感情なんて余計なものを加えたのでしょうか。 どうしてお父さんやお母さんは私を人間と近しい存在として作ったのでしょうか!? 分かりません! いくら考えても分かりません! こんなことなら、ただのアンドロイドに、命令をもらって動くことしかできないただのアンドロイドに生まれたかった!!」
麻莉亜は声を震わせてそう言う。
声が大きいので相手に聞こえてはいないか心配になってくるが、そんな心配している場合じゃない。
「……小夏さんには色々と慰めて頂きました。清秋さんや椿さんに似てとても優しく、温かい方だと感じました。それで私は立ち上がり、海人さんを守らなければならないと、こうしてここまでたどり着きました。でも、ここに来ることで私はアンドロイドなんだとより強く思わされました。……辛いんです! 海人さんはこんなに傍にいるのに、私は一生海人さんに近づくことができない!! 私はあなたの傍にずっと居たい。誰よりも近いところで、あなたをずっと守っていたい……」
「麻莉亜……」
麻莉亜はそこで振り返って、俺と顔を合わせてきた。
その麻莉亜の表情はひどく悲しそうで、目からは涙がポロポロと流れ落ちてきている。
……麻莉亜は自分がアンドロイドであることが嫌なんだ。
初めて麻莉亜のそんな胸のうちを知った。
今までずっと、麻莉亜がアンドロイドであることなんて俺は気にしたことなかったし、麻莉亜も気にしたことはなかったはずだ。
……多分、俺が篠辺野とべったりくっついていることをトリガーとして、それに気がついたんだろう。
俺のそんな様子を見て、自分がアンドロイドであるということを自覚してしまったのだろう。
まるで、篠辺野の描いた漫画の主人公のように。
麻莉亜はふっと倒れこむように俺に抱きついてきた。
そして俺の胸の中で泣き始める。
「どうして……どうして……」
「何言ってんだよ。俺と麻莉亜はいつでも一緒じゃないか。今もこうして守ってもらってる。麻莉亜がいなかったら死んでたところだぞ。本当に麻莉亜がいてくれて助かっている。ありがとう、麻莉亜」
「いいえ、結局私は海人さんを守ることすらできなかった!! そんな私が憎い! 嫌い!! もう、消えてなくなりたいです!!」
「そんなこと言うな。既に十分に守ってもらってるさ! 麻莉亜がいなかったら即死だったぞ」
「海人さん……ごめんなさい……ごめんなさい……さっきから危険通知が……ごめんなさい……」
謝る麻莉亜の様子が更におかしくなってきた。
俺の胸で泣く麻莉亜の体が赤い光を放ち始めた。
どういうことかと一瞬考えたが、麻莉亜の言う『危険通知』という言葉でピンときた。
ゲームに限らず、ほぼほぼ全てのVRを使ったアプリには『危険通知』という機能がある。
これは現実の体に異変が起きたことを知らせるもので、体が大きな衝撃を受けたり病に侵されたりした時にVRの体にそれを知らせる機能だ。
こうなった場合はほぼほぼの場合強制的にVRから帰還させられる。
このゲームについても、それについて説明書きがあった。
戦闘中は危険通知があってもVRから帰還することはない。
ただし、アシストにおいてはその限りではない。
このゲームのルールにはそう書いてあったはずだ。
つまり、麻莉亜は今現実の体に何らかの危険が及んでおり、VRから帰還させられようとしている――ということになる。
「体が熱暴走を起こしています……。色々な思考を巡らせ、答えのないものを考えすぎてしまったようです……。私も海人さんを守ると決めてここに来たのに、それすら出来ることができなくて……。私は……自分でくだらない考えを巡らせて、本来守るべきものを疎かにして……もう……こうして存在しているのが……辛い……」
腕の中で泣く麻莉亜の体がどんどんと透明に変化していく。
「いいんだよ、それで」
この状況で麻莉亜がいなくなるという絶望が起ころうとしているのに、俺は自然と笑顔だった。
自分でも良く分からない。
多分、麻莉亜がそんなくだらないことで悩んでいたということが知れたのが嬉しかったんだと思う。
「存在しているのが辛いなんて言うな。俺は麻莉亜がいてくれて嬉しい。麻莉亜は麻莉亜だ。人間なんだ。俺の姉なんだ。俺はずっとそう思ってきたし、これからもそう思っていく。俺を守る使命なんて糞食らえだ。そんなことは何も考えなくていい。俺だっていつまでも麻莉亜に守られっぱなしの甘えん坊じゃねぇんだからさ。俺の傍にいたいなら、いつでもいてくれよな! もう、ピッタリ密着するくらい、いつでも傍にいてくれよ! 俺が死ぬまで一生だ! 俺は麻莉亜が傍にいれば安心できる! 俺より先に死ぬようなことがあったら絶対許さないからな!」
「…………」
こんな状況だというのに、妙に頭がスッキリとして落ち着いていた。
言葉がつらつらと出てくる。
「色々悩んでいるようだけれども、それでいいんだ。悩め悩め。いくらだって悩め。辛くなったら俺にもたれかかってこい! 今までお世話になった分、思い切り俺に甘えてくれ! 辛さを乗り越えるってのも、人間必ず訪れる試練だ! それを乗り越えたらまた一歩大きくなれるんだ! それが人間ってもんだ」
「一歩……大きく……私も……?」
麻莉亜は俺に顔を合わせることなく、そう小さく呟いた。
「そうだ。麻莉亜は俺達人間と一緒に、一歩一歩同じ道を歩いてんだよ。体は成長しないけれども、心は成長していくんだ」
「私も……海人さんと同じように……同じ道を……」
「あぁ。そんなことに気付かなかったとは、麻莉亜もまだまだだな。今度俺が説教してやる。だから今はゆっくり休め。ゲームのやり過ぎは良くないからな! 現実に戻ったら、ゆっくり休んでくれ! その代わり、俺が呼び覚ましたら絶対起きてくれよな!」
「海人……さん……」
「よし、安心して戻れ。麻莉亜のお陰で打開策は掴めた。絶対に勝ってくるから安心して寝てろ!」
「海人さん……私は……。私は……海人さんが……」
俺の言葉で、麻莉亜も少しは励まされてくれただろうか。
麻莉亜は涙を流しながらも、最後には笑顔で言葉を綴っていた。
だが、それを最後まで聞くことなく、麻莉亜は俺の腕の中で消えていってしまった。
麻莉亜を失った俺は顔を引き締めてIPの前に立つ。
持ち時間は残り30秒を切っていた。
相手を見てみる。
相手はもう手を決め終えたようで、にやにやしながらこっちを見ていた。
「どうした七原~。フラれたか~? お~よしよし」
「くっくっくっく。負けが決まって逃げたんだろう。それとも、俺につく覚悟でも決めたか?」
久志川も黒波も好き勝手なことをほざいていた。
そんな挑発にも負けず、俺は手を選択する。
麻莉亜が残してくれたヒントをしっかりと胸に刻んで。
俺が祈る思いで手を選択し終えると、早速勝負が始まった。
相手の擬戦体はだらしなく無形の構えを取っている。
スタートの合図があると、相手はその格好のまま光のエフェクトを発した。
「――しゃあっ!!」
==========
カイト
HP:6
無形:
【なし】
引き分け
クウゴ
HP:10
無形:
【クライシス】
引き分け
==========
見事に相手のクライシスを空振りさせることができた。
しかし、まだ勝ち筋は見えていない。
それどころか、負けの筋は嫌というほど見えている。
勝利の女神がいなくなった俺の戦いは、ここから正念場を迎えていく。




