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その36.約束されていたシナリオ

 誰もいない静かな体育館のステージ。

 数時間後にここは生徒で埋め尽くされ、その前で俺と黒波は戦うことになる。

 人前に出るのは得意な方ではないので、それを想像するだけで少し震がきた。


 小夏からはここに来る前連絡が入って、散々怒られた。

 何度も何度も帰れと言われた。

 あいつも黒波からはちょっかいかけられている訳だし、クラスメートからも冷たい視線を送られている。

 俺がそれを助けてやるんだ。

 今ここで七原の力を全員に知らしめ、金輪際七原研究所関係者にはちょっかい出させないようにしてやる。

 それを達成することができるのなら、いくらでも頑張れる気がしてきた。



 一番最初にやってきたのは黒波の取り巻きであろう5~6人だった。

 中にはこの学校の制服を着ていない奴も混じっている。

 外部の人間だろうか。

 篠辺野も黒波のチームに外部の人間がいると言っていた。

 そんな奴が普通に入ってこれるくらい、この学校は黒波に毒されてしまっているんだ。


 そいつらは俺を見つけるなり、にやにやと笑いながら俺の座るステージに上がってきた。

 「よく逃げなかったな」とか「今日がお前の最後の日だ」とか言われたが、俺はそれを全部無視。

 そうしているうちに次から次へと生徒がこの体育館へと入ってきた。

 黒波様も偉そうにポケットに手を突っ込みながらご登場された。


 黒波は俺と目を合わせるとニヤッと笑い、それ以降は目を合わせることもしなかった。

 全ては全部準備が整ってから始めるということだろうか。



 生徒がこの体育館を埋めていくにつれて、俺の緊張は高まってくた。

 入ってきた生徒たちは、映画でもみるかのように楽しそうにしている奴もいれば、不安そうな顔をしている奴もいる。

 中には俺に対して親指を下ろし、ブーイングをかましてきた奴もいた。


 教員も決まりが悪そうな感じで入ってきた。

 もう、こうなってしまっては教師も生徒もない。

 今この学校の力関係は黒波かそれ以外かしか存在していていないのだろう。

 俺が今から黒波を負かすことによって、それを元に戻してやるんだ。




「七原。悪いことは言わん。すぐに降参してくれ」


 担任の奈良野先生が凄い心配そうな顔して俺に話しかけてきた。

 この人は元々俺の肩を持っていてくれた人なのだが、もはや完全に黒波に制されているというのは、黒波にホームルームを妨害された時に理解した。

 この人だって悪い訳じゃない。

 黒波に、上の連中に脅されているだけなんだ。


「降参はしないっすよ。って言うか、勝ちます」

「無茶するな。あいつは大勢の人間から経験値を集めている。とてもお前の手におえる相手ではないんだ。分かってくれ、これは遊びじゃない。お前の命に関わることなんだ!」

「負ける前に降参はしますが、そういう状況にならないように最善を尽くします。それよりも今はあんま俺に話しかけないほうがいいと思うっすけど……」


 俺と担任が話していると、強面の外部の男が近づいてきた。

 奈良野先生はそれに気がつくと、気まずそうに俺の傍から離れていく。

 でも、何度も何度も俺の顔を心配そうな表情で見てくれていた。

 それが本当に嬉しいし、勇気をくれた。

 俺が勝てば、先生も黒波なんかに屈する必要がなくなるんだ。

 全てはこの勝負で決まる。




 おおよその生徒がやってきて、この体育館はほとんど埋まった。

 小夏や小春、蓮華や篠辺野の姿もこちらから確認できる。

 小夏は……すっごい怖い顔して俺のことを見ている。

 まぁ、小夏の場合はそれがいつもの見慣れた顔だけれども。

 小春は両手を合わせて目をつぶり、神に祈るようにしている。

 蓮華は割りと余裕そうに俺に手をふっている。

 篠辺野は今にも泣きそうな顔している。


 俺のことを心配してくれている人達の為にも、俺はこの勝負に絶対勝つ!!



「さぁ、宴の始まりだ」


 生徒の移動も終わり、場が落ち着いてくると不意にマイクからそんな黒波の声が聞こえてきた。

 いつの間にかステージ上には俺と黒波、そして久志川しか上がっていなかった。

 さっきまでいた黒波の取り巻き連中はステージに上がる階段を塞ぐように立っている。

 俺はその黒波の声を聞いて立ち上がった。


「よく集まってくれた。今日は人類にとっても記念すべき日となる。人類がエボルに対して反撃を行う第一歩となる日なんだ!」


 黒波がステージの中央でみんなに向かってそう言うと、拍手が巻き起こった。

 見た感じではおよそ3分の1から半分程度の人間がそれに賛同して拍手を行ってる様子だ。

 他の生徒は興味なさそうに白けている奴もいれば、いいのかなぁと心配そうな顔をしている奴もいる。


 それからしばらく黒波による演説が続いた。

 この様子は取り巻きが全国ネットを通じて放送しているらしく、台本でも作ったのか、それはそれは立派な演説だった。

 ステージの下でカメラ役をやっている奴に黒波が今どれくらいの視聴者がいるか聞いていたが、およそ1万だという返事が返ってきた。

 全国放送で俺の……七原の名が知れ渡り、顔も確認されてしまった。

 だが、もう俺は逃げないと決めたんだ。

 間違っているのは黒波で、俺は何も間違っていないとここで証明してやる。



 黒波の演説は相当な気合が入っており、合いの手も取り巻きとの見事な連携プレーで決まっていた。

 これはもう演説というか、パフォーマンスに近い気がする。

 ここで人類の敵である七原を派手に倒すことによって、全国にそれを宣伝し、仲間を増やそうとしているんだろう。

 経験値を集めるには合理的な手段だと思うし、正直言えば俺も無関係の人間なら普通に協力していたかもしれない。

 篠辺野もそう感じたからチームに自ら入ったのだろうし。

 

 だが俺はこのチームの汚い部分を知っている。

 やり方も最低だ。

 何より俺を悪者にして潰そうとしているのだから、賛成することはどうしてもできない。

 演説の内容も狂ったように『七原が悪い』の繰り返し。

 もう、その言葉をこの演説中に何回聞いたかわからない。



 そうしているうちにステージの下では何やら揉め事が起こっていた。

 俺の担任を含む2~3人の教師が黒波の取り巻き……カメラ役をやっている奴と口論を始めていた。

 黒波が『殺す』とか『血を吐かせる』という完全なるNGワードを発した後のタイミングだったので、それをやめさせようとしたんだと思う。

 普通に考えればこんなの放送しても学校の評判が地に落ちるだけだし、立場的にも教師は止めなくちゃいけないんだろう。

 理由はどうあれ、少しでも黒波に抵抗できいる教師がいてくれたことが俺にとっては嬉しかった。


 その口論は段々と激しくなっていき、取り巻きも人数を集めて教師を囲いだした。

 黒波もそれに気がついたらしく、演説中にちらちらとそっちに目をやりはじめ、遂には演説を中断した。


「おいそこ!! 何してやがる!!」


 黒波はマイクを通してそう怒鳴りつける。

 お陰で鼓膜が吹っ飛びそうだ。

 黒波は演説を邪魔されたのが気に入らなかったらしく、マイクを床に叩きつけた後、ステージを降りて揉めている現場に向かってゆっくりと歩いて行った。


 現場についた黒波は揉め事を起こした教師を全員ビンタ。

 それでもなお口を挟んだ教員には腹にパンチを入れていた。

 それで教員連中は全員大人しくなってしまい、黒波は「今度邪魔したら殺す」と大きな声で叫びながら憤慨した様子でステージに戻ってきた。

 そしてマイクを拾い上げて演説を再開する。


「いいかてめぇら! 俺の邪魔をすることは、人類に対する反逆行為だと知れ! 俺は必ずエボルを倒してみせる! それを邪魔する奴はエボルの仲間と見なし、直々にこの俺が潰して経験値にしてやる!!」


 黒波がそう言うも、この場は少しざわめきを起こしていた。

 様子を察するに、恐らく今の黒波の行動に若干引いているんだと思う。

 結構な憩いで教師を殴っていたわけだし、こんな光景見たら警察に通報する奴が出てきてもおかしくない。


 黒波は決まりが悪そうに続く言葉を探していたようだが、うまい言葉がみつからなかったのか、しばらく無言の間が続いた。

 果てに、黒波は無理やり演説を終わらせようと締めくくる。


「……俺からは以上だ。俺が本気だというのを、今ここで七原を倒して証明してみせる。それをしっかりと見届けて、俺に協力する意志を固めて欲しい」


 黒波はそう演説を締めると、マイクを俺の方に投げてきた。

 俺はそれを訳も分からず受け取る。


「これでお前も最後だ。言い訳でも何でも、最後の言葉を残してやれ」

「…………」


 黒波はニヤッと笑い、俺にそう言ってきた。


 マイクが俺に渡ると、騒いでいた場は静まり返った。

 人類の敵が何を言い始めるのか、みんなも興味があるのかもしれない。


 俺は受け取ったマイクを見つめ、しばらく無言を続けた。

 散々黒波が『七原悪い』をオーディエンスに植えつけた後だ。

 俺が何を言っても場は受け入れてくれないだろう。


 でも、俺も言葉に出して反撃しないと、世間は理解をするきっかけすら掴めないんだ。

 俺が黙っていれば七原は悪者と認識され続け、七原の関係者は迫害を受け続ける。

 また、黒波は今後も態度を更に大きくしていくだろう。

 俺が黒波の決闘を受け入れ、ここに立った意味はそこなんだ。


 俺は戦う。

 この最悪の状況を打開してやるんだ。

 俺の為にも、俺を心配してくれているみんなの為にも!


 ――――七原自身の手で戦況を……世の中を変えていかなきゃならないんだ!!


 全校生徒の前での演説。

 それどころか、名前も知らないような部外者が1万人も見ている。

 丁度いい。

 俺が黒波に勝てば全校生徒はもちろん、全国の1万人の人にもそれが伝わるんだ。

 黒波が間違っていて、七原は……いや、七原の息子は間違っていないということを証明してやる!


「俺の名前は七原海人。みんなも知っている通り、エボルを開発した七原重蔵の息子だ。世の中を混乱に陥れた張本人。そう認識されても仕方のないことだと俺は思っているし、責任も感じている。今件は、本当に申し訳ありませんでした」


 震える声でそう言い、頭を下げた。

 全校生徒……いや、全国ネットを通じて国民全員に向けるつもりで。


「俺はその責任を取ってエボルを倒そうと考えてる。混乱した世の中を元に戻す責任があると考えている。だから俺は……黒波空吾と戦う」


 マイクを持つ手が震えている。

 大勢の前で話すっていうのは、こんなに大変なことなんだと今はじめて知った。

 それを簡単にやってのけた黒波には、敵ながら褒めてやりたいと思う。


「黒波のやっていることは間違っている。今の一連の流れを見て、俺はそう確信を持った。本来ならこんなことは許されることじゃない。黒波は無茶を通して学校全員を集め、教師の抑止も振り切った。果てにはあろうことか教師を殴りつけ、今度やったら殺すと言い放った。そんな無茶苦茶なことは断じて許されることじゃない! 黒波はゲームを盾に本来あるルールを無視して好き放題やっているだけじゃないか!」


 怖い……。

 これが受け入れられなかったらと思うと、本当に怖い。

 これで反感をかって、更に俺の居場所がなくなるかもしれないと思うと、声が震えてきた。

 でも、俺はもう逃げないと決めた!

 俺はここから変わるんだ!!

 俺の道は俺自身が切り開いていくんだ!!


「こんな無茶苦茶やって、ゲームを盾に社会のルールを無視している犯罪者と何が違う! こんなのは本来許されることじゃないんだ! これはゲームが作った……いや、エボルが作ったこの社会の新たな闇だ! 強くなるためには何やっても許されるなんて絶対に間違っている! 弱い者が強い者の言いなりになるなんて絶対に間違っている!! それを正すために俺はここで戦う! 黒波と戦って勝ち、エボルの作った闇を正していくんだ! それがエボルを生み出した七原研究所の責任の取り方……それが七原海人の責任の取り方だ! これを聞いているみんな、協力してくれ! ゲームを盾に好き放題している人間を咎めてくれ! 俺が必ずエボルを倒す! だからみんなも協力して、エボルの作った人間の闇を取り除いてくれ!!」


 声が震えてきたので、それを誤魔化すように声を張り上げてそう言い放った。

 あまりの恐怖に、最後の方は目を瞑ってしまった。

 それでも、俺の言いたいことは全部伝えたつもりだ。


 頼む!!

 俺は間違っていないと誰か証明してくれ!!


『………………』


 この場が静まり返っている。

 さっきの黒波の様子からするに、全員が全員黒波に賛同しているわけではないと思ったが、間違いだったか?

 やはり世間を騒がせた元凶の話なんて、誰も聞く耳持ってはくれないのか!?


 恐る恐る目を開けてみる。

 みんな静かに俺のことを見ているだけで、誰一人として賛同しているようには思えなかった。

 静まり返ったこの場が、この空間が怖い。

 俺の思いは届かなかったのか!!

 俺は所詮人類の敵なのか――――。



 パチパチパチパチ……。


「!!!」


 静かな空間に、手を叩く音が響いた。

 目を開けて、その音の元を辿ってみる。


「……小夏」


 小夏が恥ずかしそうに、それでも一生懸命手を叩いてくれていた。

 それにつられて小春も……篠辺野も……そして蓮華も手を叩いてくれ始めた。

 拍手は次第に大きくなってくる。

 1割……いや、2割……黒波の時の演説よりも数は少ないが、確かに俺の意見に賛同してくれている人達がそこにはいた。


「…………」


 震え上がるような思いが走る。

 拍手が続くに連れて、段々と勇気が湧いてきた。


 ――世間は俺を受け入れてくれたんだ!


 多くはないが、賛同者がいる!

 大丈夫だ!

 俺は間違ってない!

 俺は今ここで黒波を倒し、それを証明してやらなければならないんだ!!


「……くっくっく。七原にしては中々面白いことを話すじゃないか。貸せ」


 黒波は反対勢力がいると分かっても、なお余裕そうにそう言ってマイクを要求してきた。

 俺は黒波向けてマイクを投げて渡してやる。


「くっくっく。はい、七原君の素晴らしい演説でした。それではみなさん、俺が正しいのか、七原君が正しいのか、その目を見でしっかりと確かめて下さい」

「…………」


 黒波はそう言うと、マイクを床に置いてその場で俺と向き合う形をとって座る。

 久志川もそれに合わせて黒波の隣に位置をつけた。

 いよいよ対戦の時がやってきたんだ。


 俺も顔を引き締め、黒波達に合わせるようにその場で座って黒波と向かい合った。

 準備が整うと、黒波はニヤつきながらかかって来いと言わんばかりに手で俺にジャスチャーを送ってくる。

 対戦方法は俺に選ばせてくれるという話だったからな。


 俺は1回大きく深呼吸をして心を落ち着かせた後、左手首をポンと叩いてBPSを起動させた。

 そしてクライシスゲームのアプリを立ち上げて、黒波に対戦通知を送る為の手続きをとる。

 しかし、そうしているうちに俺の視界にIPが割って入ってきた。


 ――――っ!!!


『クライシスゲーム クウゴ 剣神Lv11 から 真剣勝負:強制戦闘 を 申し込まれました。この勝負は拒否できません。 3:00 以内に安全な場所へ移動して下さい』


 一瞬見間違えたかと思って確認してみるも、IPには確かに表示されていた。


 真剣勝負、と。


 黒波の表情を見てみる。

 その表情は、まるで全ての物事がうまくいき、やりきった後のような満ち足りた表情をしていた。

タイトル変えちゃいました

そのうち序章~1章も順次改稿していく予定です

すいません><


15.06.04 若雛 ケイ

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