その37.荒れた世の行く末
「真剣勝負……だと……?」
何かの見間違いだと思って、再びIPを確認してみる。
しかし、そこには確かに『真剣勝負が申し込まれた』と表示されていた。
黒波は目を見開いてニヤッと笑うと、その場に立ち上がる。
「はーっはっはっは!! その通り!! これは真剣勝負だ。俺はお前を殺すためにここに立ったんだよ! 通常勝負!? そんなヌルい試合をする為に来たんじゃねぇ。立尾と七原の決着を付ける為には、殺すか、殺されるか、それ以外にねぇんだよ!!」
黒波が高らかにそう声を上げると、この場の空気が一変した。
ステージの下からは悲鳴も上がっているし「やめろ!」という怒声も聞こえてきた。
次から次へとステージに上がろうと人が押し寄せてきては、取り巻きがそれを抑止するように押さえつけている。
頭が真っ白になった俺は、ただ呆然とそれを眺めていることしかできなかった。
「何考えてんだよてめー!! 人殺し!! 人殺しじゃんか!!」
蓮華だ。
蓮華が取り巻きの抑止を振りきって真っ先にこのステージに上がり、黒波に飛びかかった。
しかし黒波は容赦なく蓮華を思い切りグーで殴りつける。
「黙ってろ出来損ないがぁ!!」
「蓮華っ!!」
蓮華は黒波に殴りつけられ、床に倒されてしまった。
そして取り巻きに体を押さえつけられ、蓮華は次から次へとサンドバッグのように黒波にグーで殴りつけられている。
たまらず俺は黒波に飛びかかった。
「てめぇ妹だろ!? 何してやがんだよ!!」
しかし、黒波の制服を掴みあげた瞬間、警告音と共に俺の視界に注意を促すIPが立ち上がった。
『対象はゲーム開始前の準備中です。危害を加えると罪に問われます』
俺はそれでも構わず黒波を抑えようとすると、後ろから取り巻きに押さえつけられてしまった。
蓮華は黒波にボコボコに殴られながらも「人殺し」と連呼する。
俺はそれを止めさせようと取り巻きの制止を振り切ろうとするも、相手の人数に敵わず振り切ることができなかった。
蓮華が言葉を吐けなくなってもなお、黒波は蓮華を殴り続ける。
「やめろ!! 蓮華は関係ねぇだろ!!」
「…………」
黒波は俺の言葉を受けると蓮華への暴行を止め、こっちを振り返ってニヤッと笑った。
そして落ち着いた動作で床に転がったマイクを拾い上る。
「いいかお前ら!? これは俺と七原の勝負だ! 誰にも邪魔はさせん!! 俺の邪魔をするものは人類に対する反逆とみなし、七原を片付けた後片っ端からこの俺が直々に真剣勝負で潰してやる!! 死にたくなかったら邪魔をしないことだな!!」
「てめぇ!! ふざけんのも大概にしろよ!! 俺が受けて立つと言ったのは通常勝負だ!! こんな戦いは一切望んでねぇ!!」
本気で黒波に殴りかかってやりたくなったが、取り巻きの力が強くて身動きが取れない。
だから精一杯の力を込めて、口でそう黒波に訴えた。
「知ったことか!! 俺は世界を救う救世主だ。そしてこの学校はそれを全面的に支援する体制を取ると決めた。俺に逆らうことは許されない。逆らうものは全員俺の経験値となる形で協力してもらう! それが人類の為! 世界の為になるということを忘れんじゃねぇぞ!!」
「間違ってる!! そんなやり方が許されてたまるものか!! 俺はお前を止めてやる!! 今ここで絶対に止めてやるぞ!!」
「くっくっく。出来るものならやってみろ」
黒波は余裕そうに、そうマイクを通して言ってきた。
周りは黒波を押さえつけようと、教員が何人かステージに上がろうとしてきている。
それでも取り巻きの方が人数は多く、ステージに上がる道は封じられてしまっている。
一部では殴り合いの乱闘まで発展していた。
「七原くん!!」
人混みの中から篠辺野の声が聞こえてきた。
「篠辺野!! 近寄るな!! 大人しくしてるんだ!!」
俺がそう声を返すも、篠辺野は混乱の隙を縫って蓮華と同じようにステージに上がってきてしまった。
しかし、すぐに取り巻きに体を押さえつけられてしまう。
それを助けに行こうと力を振り絞るのだが、さっきから取り押さえられている取り巻きを振りほどくことができなかった。
「篠辺野……ご苦労だったな。お前、嘘のステータスを俺に言ってきたなぁ。覚悟は出来てるんだろう……なぁ!!」
「きゃっ!!」
「篠辺野!!!」
黒波は取り押さえられている篠辺野に近づき、篠辺野のお腹に思い切りパンチを食らわせた。
それをもらって篠辺野はゴホッゴホッと咳込み、ぐったりとしてしまう。
それを見て俺の怒りが爆発した。
「てめぇ!!! 何してやがる!! 篠辺野は関係ねぇだろ!! 今すぐ離れろ!!」
「七原、良いことを教えてやるよ」
今度は黒波の傍でニタついている久志川から声を掛けられた。
「篠辺野はなぁ、お前の為を思ってか、俺達を裏切って嘘のステータスを伝えてきたんだ。お前にも篠辺野からそう説明があったんじゃないのか?」
「いいや、篠辺野は本当のステータスを教えたはずだ! 俺は篠辺野とアシストを組んでいる。俺のステータスは篠辺野に筒抜けになっているんだ! 篠辺野がお前らに伝えたステータスを聞いたが、それは紛れも無く俺のステータスだった!!」
俺はそう言って篠辺野を無理やり庇う。
もちろん嘘だ。
念のため篠辺野に伝えたステータスを聞いたみたが、レベル5の弓兵、後はステータスの仕組みを勉強して辻褄を適当に合わせたもので、本人も忘れたと言っていた。
しかし、それを聞いても久志川のニヤけ面は止まらず、久志川は篠辺野の顔に手を触れながら余裕そうに言葉を返してきた。
「あ~あ、篠辺野……信じてたのに……。七原なんかを……。いいか七原、俺達はお前のステータスを既に入手しているんだ。偽物ではなく、本物をな!!」
久志川はいやらしい手つきで篠辺野の顔を撫で回しながら、俺に向かってそう言ってくる。
それを聞いて俺の頭は混乱した。
おかしい。
ステータスがバレるのは戦闘が始まってからだ。
戦闘に入ればどうしても篠辺野の嘘はバレてしまうが、俺がその戦闘に勝てば以降は俺が守ってやれば篠辺野は救われると、俺はそう思っていた。
それなのに、戦闘が始まる前に何故嘘だとバレている!?
「この人達、見覚えないか? 七原ぁ」
久志川がそう言うと、脇から二人組のガラの悪そうな男がニヤニヤしながら出てきた。
「!!!」
その二人組を見た瞬間、俺はこいつらの罠に完全にハマッたと理解した。
こいつらは間違いなく、俺と篠辺野が一緒に喋っている時に絡んできて、戦うなりすぐに降参して逃げていったゴロツキ……。
「そういうこと。お前のステータスはこの2人を通じて既にバレてるんだよ。残念だったなぁ。もちろん、全てのシミュレーションは終えている。勝負にならんよ、この勝負は」
「くっ……」
マズイ。
完全に油断していた。
既に俺のステータスはバレており、研究もされている。
勝機は……なくなったか……。
「あ~あ、残念だ、残念だ。でも、以降は俺がちゃ~んと可愛がってあげるからな~篠辺野~」
久志川はそう言って篠辺野の顔を舐め、胸を揉み始める。
篠辺野は嫌そうにもがくが、取り巻きに体を固定されている上、さっきもらったパンチのダメージが効いているのか、うまく動けていなかった。
「ふざけんなてめぇ!! 何してんだ!! 篠辺野から離れろ!!
「嘘のステータスを教えたお仕置きをしてやらないとなぁ……。なぁ、クシ」
「そうっすね~」
「篠辺野はこの戦いが終わった後、全てをひん剥いて公開処刑だ! ここにいる全員でヤりまくってやる!! 裏切り者がどうなるのか見せしめにしてやるぞ!! 勝利の宴だ!! ここにいる全員、希望者は参加していいぞ!!」
「黒波ぃぃぃいいいいいいいーーーーーー!!!!!」
俺は怒り狂って全ての力を振り絞り、押さえつけられていた取り巻きを振り払った。
そして篠辺野を助けに向かうが……。
「お兄ちゃん!!」
後ろから小春の声が聞こえてきた。
振り返ってみると、取り巻きに押さえつけられながらも涙をボロボロながしながら俺を呼びかけている小春の姿があった。
「小春!!」
「お~、これは九条の妹か~。姉の方は俺の妾にしてやるが、お前もそれを希望するか?」
「ざっけんじゃねぇぞこの野郎!! 上等だ!! てめぇを今からここでぶっ殺してやる!!」
黒波が小春にそんなことを言い始めたので、爆発した怒りが更に爆発した。
それでも小春は泣きながら俺に逃げてと訴え続けている。
「くっくっく。それとも、篠辺野と一緒に九条の妹も参加するか? 勝利の宴に。くっくっくっく。はーっはっはっはっは!!」
「やめろよ!! はるるに指一本でも触れてみろ!! 私がてめーを殺すぞ!!」
今度は蓮華が立ち上がって黒波に向かって突進しながらそう吠えた。
「出来損ないのゴミクズは黙ってろ!!」
しかし、黒波がそれを振り払うように蓮華を殴りつけるた。
蓮華は黒波の一撃を顔にくらい、地面に勢い良く叩きつけられた。
物凄い音がした。
ふっ飛ばされている時に蓮華の口から歯が飛んだのが見えた。
蓮華が倒された床にからは、徐々に赤いものが広がっていく。
何だこれは……。
これが今の世の中なのか……?
久志川が篠辺野にやりたい放題。
黒波は倒れた蓮華につばを吐くと、ニヤつきながら小春の方に歩み寄っていく。
周りは悲鳴と怒声が飛び交っている。
色んな所で乱闘が起こっている。
この体育館から逃げていく奴もちらほら見える。
この場にはもう、倫理なんてものは欠片も存在してない。
それは荒れ果てた、この世の行く末のように俺には見て取れた。
こいつがどんなに危険で、こいつを放置しておけばどうなるのかよく理解した。
俺は何が何でもここで黒波をぶっ潰さないとならない。
俺の命を懸けて、この状況をここで止めないといけないんだ!!
俺はゆっくりと歩き、床に転がったマイクを拾い上げた。
「俺はこの勝負を受ける。決着がつくまで大人しくしていろ」
俺がこの場にいる全員に向かってそう静かに言うと、一瞬場が静かになる。
しかしそれも一瞬、すぐに罵声が飛び交い始めた。
「大人しくしていろ!!!」
思わず俺はそう怒鳴りつけた。
それを見た黒波はニヤっと笑い、俺の方に近づいてくる。
そしてマイクを俺から取り上げた。
「七原君の言うとおりだ。全ては決着がついてから。それが終わったらこいつの死体を囲んでパーティだ。それまでは一切余計なことはするな。勝手に宴を始める奴がいたら俺に報告しろ。後で俺が直々に殺してやる」
黒波がそう言うと、場は静かになり落ち着きを取り戻す。
篠辺野も小春も、今の一言で解放されたようだ。
「さぁ、後はお前が戦闘開始を承諾すれば戦闘は始まるぞ」
「…………」
IPを見てみる。
戦闘開始まで後40秒を切っていた。
近くに戦闘開始のオブジェクトも見える。
俺はゆっくりと黒波と向かい合うように対峙し、スッと黒波を指さした。
「俺は滅茶苦茶になった世の中を正す。お前を倒して」
俺がそう言うと黒波はニヤっと笑った。
そして俺はゆっくりと試合開始のオブジェクトを握り潰すのだった。
もうお馴染みのVR空間へやってきた。
ここで何度雑魚クライシスを倒したことだろうか。
相手側には黒波の姿が見える。
程なくしてアシストの久志川も姿を現した。
対人戦は尾ノ崎、ゴロツキに続いて3戦目になる。
だが、その心境はそのどちらの時とも違い、複雑なものだった。
尾ノ崎の時よりも絶対に負けられないという思いが先行している。
だが、尾ノ崎の時よりも遥かに大きな絶望感が俺を包んでいた。
隣を見てみる。
「…………」
当然だが、麻莉亜の姿はない。
尾ノ崎の時は途中で麻莉亜が駆けつけてきてくれたが、今は俺1人で戦うしかない。
小春も篠辺野もすぐ近くにいるし、もしかしたらアシストとして参加してくれるかもしれない。
でも、正直来て欲しいとは思わなかった。
……悔しいが、この戦いに勝てる見込みがほとんどないから。
――戦闘前準備――
==========
カイト
職業:弓兵
レベル:7
HP:44/37+7
剣:9 拳:9 弓:9+3
サポートデッキ(2):
・強撃
・クライシス
・博打
・弓見切り
・小盾
クウゴ
職業:剣神
レベル:11
HP:28/43
剣:11+7+3 拳:11 弓:9
サポートデッキ(2):
・必殺
・クライシス
・交換
・剣見切り
・吸収
・C封じ
==========
落ち着いて相手のステータスを確認する。
相手は剣神レベル11。
サポートデッキにも色々なSSが並んでいる。
一応俺が予習していたものは全て含まれているので、驚きはない。
残念ながらステータスも含めて俺の予習と全く同じものだったということはないが。
ただ、俺はそこに一つの活路を見出した。
相手のHPが随分と減っている。
これは強制戦闘を仕掛けてきた側の弊害だ。
強制戦闘を仕掛けた方のHPは最初から3分の1削られている状態で始まるんだ。
これで少しだけ予習時よりも戦いやすくなっているはずだが……。
「七原~。早く終わらせようぜ~。お前のステータスはもう把握してるんだよ。こんなゲームやっても無駄だ。お前がどんな手を使ってきても、大体勝てるパターンを組み上げてる。イレギュラーがあったとしても、いくらでもリカバリーが効くようにしてある。お前の勝ちは1パーセントもない。諦めてさっさと死んでくれよ。篠辺野が俺を待ってるんだからさ~」
「…………」
久志川が俺を急かすようにそう言ってくる。
篠辺野……。
俺がここで負けたらどうなってしまうのか何て、考えたくもない。
俺はそれでも1パーセント未満に全てを懸けて勝たなくちゃいけないんだ。
負けは絶対に許されない。
俺は久志川の挑発に惑わされないよう、相手の言葉を無視して勝負の組み立てに全神経を注いだ。
相手のデッキには色んなSSが乗っているが、全部効果は予習済みだ。
俺がデッキから持ち出せるSSが2つなのに対し、相手は3つ。
相手の状況から見るに、持ちだされるであろう有用なSSは限られている。
クライシスは当然持ってくるだろう。
C封じ……クライシス封じもまず間違いなく持ってくると思う。
後は交換か、必殺……吸収は恐らくないだろう。
交換は出した回の手がひっくり返るという、かなり強力なSSだ。
相手が交換を付けて先に剣を構え、それを見てこっちが弓を出した場合、俺の手は剣となり、相手が弓となって相手の勝ちになってしまう。
出すSSまではひっくり返らないが、シミュレーションではここぞという場面で使われて負けたことが何度かある。
予習しておかなければ、あっさり負けていたところだろう。
必殺は強撃の強化版。
レベル10になると自動的に強撃が必殺に変化するという情報を事前に掴んでいる。
このSSは勝負に勝った場合にダメージが10も加算される。
これもしっかり頭に入れておかないと、クライシスを出す前にやられてしまうなんてことがあるから注意しなくてはならない。
俺は落ち着いて自分のSSを選び出した。
俺が持ちだしたのはクライシスと小盾。
小盾は本来受けるダメージを半分にするという優れもの。
クライシスの反撃ダメージには無効だが、どの手を使っても絶対に負けるという場面で切り札として取っておけば、クライシスのように負けを回避できる。
クライシスと小盾を選び、確認オブジェクトを握りつぶした。
「おい七原!! お前の選んだSSはクライシスと小盾だろ? 大体読めてるんだよ!」
「…………」
久志川はそう笑いながら俺を挑発してくる。
読まれているようだが、これはあまり影響しない。
俺のデッキにのっかっているものから2つ選ぶとすれば、ほぼほぼその2つと読めるだろう。
「黒波~、どうするっすか? プランAとBあるっすけど~」
「くっくっくっく。なるべくじわじわと殺せる方を選べ。死を確定させた時のあいつがどんな顔をするか楽しみだ」
「おいーっす! じゃ、プランBっすね」
相手の余裕そうなそんな声が聞こえてくる。
そんな声を聞いて俺は顔を引き締め2人を睨みつけつつも、体をガクガクと震えさせてしまった。
ダメだ!
惑わされるな!!
まだ戦局が進んでいないのに負けが確定しているなんてことは有り得ない!
俺もちゃんと勉強したんだ!
勝ち筋はきっとあるはずだ!
俺が間違えなければ運の勝負に持ち込めるはず!
ゆっくり時間をかけて、絶対にミスらないようにしていけば大丈夫なはずだ!!
――ターン1 フォア――
カイト:44 クウゴ:28
両者の戦闘準備が終わると、早速傍に擬戦体が現れる。
俺のは相変わらず鎧を装備した胸糞悪いゴミのような擬戦体。
対して相手の擬戦体は真っ黒の体に和風の剣豪のような出で立ち。
赤い目以外に鼻も口も指もない棒人間のように簡略化された擬戦体だが、その鋭く光った赤い目が俺のゴミとは違って随分と格好良かった。
それを確認すると、俺は一呼吸おいて自分を落ち着かせた。
さて、この回はフォアだ。
相手から先に手を選ぶ順番なのだが、相手の手はすぐに決まったようだった。
相手の手が決まると、すぐにシステムは俺に選択を促してくる。
「さ~て、大事だぞ~。一発目、間違えたら死ぬぞ~?」
「…………」
俺を動揺させるつもりだろうか、久志川がそんなことを言ってきた。
黒波は久志川の隣で腕を組んで仁王立ちしている。
ほとんど黒波はゲームに参加していないような感じだ。
実質、これは俺と学年一位様の勝負という訳だ。
相手の構えを見る。
相手は拳を構えていた。
ここで剣を出して、まずは手堅くダメージを与えていくのが普通のやり方だ。
おおよその場合は、まだ双方にHPが残っている場面での手は後にあまり影響してこない。
ただ、こうレベルに差がある場合は、最初の一手で間違えるとそれで勝ち筋を逃してしまったなんてこともあるくらい、シビアな戦いになるんだ。
相手は交換のSSを持っている。
ここで俺が安易に剣を出して、万が一相手が初手で交換を使ってきた場合は、相手が剣となり、俺は実に21ものダメージを貰うことになる。
俺の最大HPの半分を一気に持って行かれてしまうことになるんだ。
せっかく今は残りHPの差があってステータスの差は幾分埋められているというのに、いきなりその貯金を全て使い果たしてしまうことになるんだ。
普通に考えれば剣。
相手が交換を付けていると読むのであれば、拳に負ける弓を選択すべき。
マイティをこんな所で使ってしまう訳にはいかない。
「くっくっく」
「ほらほら! 早くしろよ七原! 俺は早く篠辺野とヤりたくてうずうずしてんだよ!!」
篠辺野……。
蓮華、小春。
直前の思い出したくない惨状を思い出してしまった。
俺が助けてやるんだ!
俺がみんなを救ってやるんだ!!
落ち着いて考えろ。
初手でいきなり交換を持ってくるなんてこと、考えられるか?
もしかしたら相手は交換のSSを持ちだしてすらいないかもしれないんだぞ!?
初手で交換なんて使ったら、持ちだしたSSが1つバレることになる。
それはそれで後々不利に働いてくるはず!
こういったSSは切り札として、殺すか殺されるかって場面までとっておくのが定石だ。
俺がもし相手の交換を読んで弓を出し、交換を付けてこなかったら11のダメージももらう。
それでもかなり痛い。
ここは焦らず、堅実に剣でダメージを与える方向で行って問題ないだろう。
俺は深呼吸を1回して、落ち着いて剣を選択した。
大丈夫だ。
落ち着け……落ち着け……。
俺が選択を終えると、俺の擬戦体は剣の構えを取る。
すると久志川と黒波がそれを見てガッツポーズをした。
「――――!!」
「っしゃぁーーーー!!!」
「くっくっくっく。あーっはっはっはっは!!」
勝負開始の合図があると、相手の擬戦体は光のエフェクトを発する。
「まずいっ!!」
そのエフェクトを発した後、俺の擬戦体の持っている武器が変わっていた。
拳だ。
それを確認すると、俺の震えはどんどんと加速するように大きくなっていった。
==========
カイト
HP:44→23
剣→交換→拳:9
【なし】
負け:ダメージ21
クウゴ
HP:28
拳→交換→剣:21
【交換】
勝ち
==========
――ターン1 リア――
カイト:23 クウゴ:28
「へーい! へいへーい!」
「くっくっくっく」
久志川と黒波は調子良さそうにはしゃぎながらハイタッチ。
俺は自分の読みを外したことに絶望し、ガタガタと震えていた。
「はい、この勝負終わり! 後は消化試合ね。だから最初が大事だって言ったのに~七原ちゃんったら~」
「はーっはっはっは! 七原、これでお前も終わりだ。俺達はこのターン1のフォアに全てを懸けていた。これが決まれば勝ち。決まらなくても十分勝てたがな!」
「もう、後のパターンはほぼ出来上がっているんだよ~。この天才軍師、久志川の手によってね! お前が何を出しても無駄! きゅうじゅうきゅうてんきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうパーセント俺達の勝ちぃ~!」
「…………」
尾ノ崎にもこんなことを言われた。
あの時はそれがハッタリだかどうだか分からなかったので、俺もひどく動揺していたな。
でも今は違う。
こいつらの言っていることはハッタリではないとよく理解できる。
俺もシミュレーションの際に、相手の立場を知るために何度か自分がレベル11で、相手がレベル7という試合をやった。
結果、割りとふざけながらやってもすんなり勝ててしまってたんだ。
C封じのスキルが強すぎるんだよ!!
ただでさえステータスに差があるってのに、その上クライシスを出せないんじゃ、勝ち目なんてものは全くない。
ブンブンブンブン!!
マイナスな思考になった俺は、慌てて首をブンブン横に振った。
ダメだ!!
負けは絶対に許されない!!
落ち着いて考えていけば、絶対に活路は見えてくるんだ!
久志川も100パーセントとは言い切らなかった!
それがまだ俺に道筋が残っているという何よりもの証拠だ!!
俺はそれを必ず見つけ出してやる!!
まだ時間はたっぷりある!
ありとあらゆる全ての可能性を考えて、絶対にこの勝負に勝たなければならないんだ!!
俺は自分にそう言い聞かせ、自分を必死に落ち着かせた。
しかしそれとは裏腹に、俺の心臓が脈打つ音はどんどんと加速していくのだった。




