表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/50

その35.見えない勝ち筋

「ダメだぁ……」


 次の日。

 黒波との決闘を約束した前日。

 俺は小夏に言われた通り学校を休み、1人自宅に篭って黒波との対戦の研究をしていた。


 まずはレベル10で行われるクラスチェンジの仕様やら、追加されるサポートスキルやらをまとめた。

 クラスが変われば、それに付随してパッシブスキルも変わる。

 剣神は剣の攻撃力+7とか重装兵は全被ダメージ-2とか、クラスチェンジ後のパッシブスキルはどれも強力で、調べが進むに連れて嫌になってくる。


 サポートスキル周りのことを調べると更に嫌になってくる。

 レベル10からはサポートデッキに入るスキルの数が6つに増える。

 更に持ち出せる数も1つ増えて3つ。

 また、レベル10で取得できるサポートスキルには強力なものが揃っている。

 代表的なのが『C封じ』だろう。


 これは出した回に相手がクライシスを使っていた場合、そのクライシスが無効となる凶悪なスキル。

 死ぬ場面で負けを回避できるどころか逆転の一撃を与えることが出来るクライシスを封じられれば、その回で自動的に負けが決まる。

 こんなの相手が持っていると分かれば、うかつにクライシスが出せなくなってしまう。

 使われなかったとしても、相手がサポートデッキに載せているだけで脅威だ。


 その仕様を見たネットの評判も、おおよそ麻莉亜と同じ感想を持っていた。

 『レベル10とそれ未満では完全に別ゲー』

 ある匿名掲示板に書かれていた一言なのだが、これが全てを物語っていると理解できたのは、俺もこのゲームを深いところまで理解できてきたからであろう。



 ネットの攻略コミュニティでは今『セーフティ・クライシス』というものが流行っていた。

 危険なのか安全なのか良く分からないネーミングだが、これはどっかのプログラマーがクライシスゲームを完全に再現して作ったゲームで、クライシスゲームと同じようにBPSにアプリを入れている人同士なら対戦も可能だそうで、一部では結構話題になっているようだ。

 これには対戦のシミュレーションを行う機能もついていて、対戦者のデータを入力すればCPUとも対戦ができるし、1人で2人分の手を考えながらゲームを行うこともできる。


 もちろん擬似的なものなのでVRに行くこともないし、勝っても擬戦体が成長するようなこともないのだが、俺はこのツールを大いに活用して対黒波戦をシミュレートしていた。

 とりあえず適当にレベル11のCPUと戦ってはみるのだが、結果は全敗。

 勝てる要素が全くない。

 どうしても『C封じ』にこっちのクライシスを封じられると、勝機が全くなくなる。

 相手が最善手を使わないとかやれば勝つことは勿論できるんだけれども、相手は黒波……というより、アシストに付くであろう学年一位様の久志川だ。

 俺が思いつく程度の頭の悪い悪手を打ってくると期待はしない方がいいだろう。


「……どうすりゃいいんだよ」


 俺は朝小夏と小春を送り出してから、ずっと1人で見えない勝ち筋を探していくのだった。





 昼飯時。

 学校が昼休みに入ると、小夏や小春、篠辺野から打ち合わせでもしたのかってくらい、一斉に連絡が飛んできた。

 小夏も小春も、麻莉亜の様態を心配したメール。

 篠辺野も『お姉さん平気? 明日もこのまま休んでいいと思う』と、2人と同じようなメールを投げてきた。


 俺もゲームの研究も一息ついて、今は適当に飯を食いながら彼女らとメールを投げ合う。

 特に篠辺野とのやりとりは本当に楽しくて、ゲームのことも忘れてしまいそうだった。

 だって昨日、俺と篠辺野は……。


「ムッハァーーー!! いかんいかん。俺は勝負に集中しないと……」


 とか言いつつも、にやにやしながら篠辺野からのメールを待つ。

 休憩する時くらいは、全てを忘れて思う存分心を休めないといかん!

 むしろ篠辺野とのやり取りは、心を癒やすという休憩の目的に大きく貢献している訳だしな。

 積極的に休憩していこうではないか。


『分かった。それなら私も七原くんを応援するよ! 私も黒波君のことを逆に探ってやるんだから! 絶対負けないで! (*^3^)ノ』


 …………。


「ムッハァーーー!!! いかんいかん……」


 顔文字の『3』を見て興奮してしまった。

 数字のサンで興奮するとか頭おかしいだろ俺。

 いやでも、昨日の篠辺野の良い匂いと柔らかい肌を思い出したら、それはねぇ……。

 と、とにかく今は休憩もいいけど、明日の対戦の勝ち筋を探さないと!!

 後1回だけ篠辺野に返信したら終わりにしよう!


 『俺があんな奴に負ける訳ないってね! 篠辺野を』……いや、違うな。


「…………」


 『俺があんな奴に負ける訳ないってね! 奏を脅したことを後悔させてやるぞ!』……と。

 よし。

 はい、もう篠辺野からは連絡はこない。

 とりあえず篠辺野は忘れて、飯食い終わったらゲームのことに集中しないと!


 そわそわ。


 テロン。


『おっしゃー! その意気だぁ! 勝ったら盛大にお祝いするぞー! 私からもご褒美用意しておかないとね! ご褒美何がいいかなぁ?』


 …………。


「やめろよそういうの!! 絶対狙ってんだろこれ!! ゲームどころじゃなくなるからホントそういう発言は控えてくださいよ!!」


 …………。

 『ご褒美はマシュマロがいいです』……と。

 よし。

 本当にこれでおしまい!!

 もう絶対メール来ても開かない!!

 勝つまでは何も見ない!!

 勝ってから全てを開放する!!

 決めた!!


 ……そわそわ。


 テロン。


『はぁ?』

「え……」


 あれ。

 何か反応がおかしい。

 どうしたんだろう……って。


「やっべぇーーーー!!!! 小夏に送っちまってたぁーーーー!!! やべぇやべぇ!! どうしよう!! あいつマシュマロなんて持ってないぞ!! 違う違う!! どうすりゃいいんだ!? 誤魔化せ!! 誤魔化せ!!」


 両手を頭に抱えて叫ぶなんていう、漫画みたいなことをやってしまった。

 顔面蒼白しながらも、何とか取り繕おうと言い訳を考える。

 あいつが『麻莉亜の様子はどう?』なんていいタイミングで聞いてくんのが悪い!!

 クソ!!

 マジでとちったぞ!!

 どうしようどうしよう!!


 『急にマシュマロが食べたくなったので、帰りがけに買ってきてもらえると嬉しいです。小夏のマシュマロはいりません』……と。

 ……ふぅ。

 何か最後の一言が余計だった気がするけれども、あいつは篠辺野と違って遠回しな隠語みたいのにも疎いからな。

 これで何とか誤魔化せただろ。

 あ、でも、篠辺野に返信しないと……。


「違う違う!! 篠辺野との楽しいお喋りは、全部勝ってからだって!! こんな所でへらへらして気を抜いていたら、勝てる勝負も勝てなくなっちまうだろうが!! 頑張れ海人!! 明日勝つまでの辛抱なんだから!!」


 そう自分に言い聞かせて、篠辺野にメールを送りたい衝動を何とか抑えた。


 テロン。


「…………こ、これは小夏からだろう。これはセーフだ」

『自分で買え。……と言いたい所だけど、今ばっかりは引き受けてやる。お金は後で徴収する』


 真面目かっ!


「さて、昼飯食ったらゲーム対策練らねぇと……」


 テロン。


「…………」

『あ、ご褒美と言っても、いやらしいことはダメだからね? 変なこと言ったらお姉さんに言いつけちゃうゾ』


 …………。

 『勝ったら俺の愛のロケットを奏に飛ばしたいです』……と。

 今度は絶対に間違えないように~送信っ!


「……ふぅ」


 そわそわ。


 そわそわ。


 テロン。


『 (@益@)ノ<オネーサーン 』

「何か変な顔文字でキレたーー!!」


 くっそ! 可愛すぎる!!

 何て返信してやろうかな。

 この調子なら、多少のシモネタ混ぜても引かれないだろう。

 ちょっとその辺探りながら……。


「って、ちっがーう!! 飯!! 飯食い終わったら対策!! マジで負けて泣くことになるぞ!!」


 そう自分に言い聞かせて、無理やり会話を終わらせるような返事を考える。

 それでも結局楽しい楽しい篠辺野とのやりとりは昼休みの時間が終わるまで続いてしまった。


 まぁ、昼休みくらいはな。

 まだ勝ちが全く見えてない状態なんだ。

 これから長期戦……下手すれば徹夜になるかもしれない。

 それまでの一時の休憩だと思えばそれでいい。

 そう自分に言い聞かせた。





 昼休みを終えると俺はすぐに麻莉亜の部屋に戻り、ゲーム対策に戻った。

 麻莉亜は相変わらず眠ったまま、目を覚ます気配はない。

 麻莉亜の体に触れてみると、相変わらずの熱さだった。

 他のアンドロイドでも熱暴走を起こしたことなんてことなんて見たことがないので、対処の方法が分からない。

 麻莉亜はこんなにもが辛そうなのに、俺に出来ることが分からないのが本当に悔しかった。


 麻莉亜を解体することも出来ないし、今は自分から意識を戻してくれる以外に目を覚ます方法がない。

 俺は麻莉亜が早く目を覚ましてくれることを祈りつつ、適宜氷枕を取り替えてやり、極力麻莉亜の傍にいてやった。

 そこで昼休み後は延々と黒波とのシミュレーションを行っていく。

 色んな人からメールをもらったが、本気で勝たなければいけない勝負なので、この時ばかりはメールも無視して全神経を対戦の対策に集中させた。



 攻略コミュニティを回って色々勉強しているうちに、段々とこの勝負の本質が理解できてきた気がする。

 エボルの言う通り確かにこれは頭を使うゲームで、これが強い=社会の役に立てる存在だというのもおぼろげながら納得できるような気がしてきた。


 持ち時間は各回5分に加えて予備時間が30分あるけれども、全然足りない。

 夢中でシミュレーションしてたら普通に1時間経ってたなんてこともあった。

 相手の手を如何に素早く計算して読み切るかという勝負なんだ。

 展開を読み切るのに時間を使い果たしたらその時点で負けだし、読みきれないまま悪手を出せばそこにつけ込まれて不利になる。


 相手も当然俺のことを研究しているのだろう。

 小夏から連絡があったが、今日は黒波も久志川も学校に来ていないらしいしな。


 幸い篠辺野は俺のステータスをデタラメに伝えたと言っていた。

 もし俺のステータスが伝わっていたらと思うとゾッとする。

 そんなの、負け確定だ。

 今俺は黒波の詳細なステータスが分からないから苦労している。

 それが分かればもしかしたら予め必勝パターンを組めるかもしれないのだが、レベルアップ時に任意に成長させるステータスを決められるこのゲームにおいては、相手のステータスを予測することなんて無理に等しい。


「どうしたらいいのかな……麻莉亜……」




 結局この空白の1日は、見えない勝ち筋を探しているうちに終わってしまった。

 麻莉亜も遂に目を覚ますことはなかった。

 それでも黒波との対戦の勝機は見えてこない。


 だが、シミュレーションを繰り返していくうちに、結局勝負を決めるのは運だということも分かってきた。

 勝率0%とかそういう戦いにはなっていないというが分かっただけでも、少し希望を見いだせた感じだ。

 勝率はかなり低いということには変わりないが。


 相手も俺も、現段階ではどんなステータスでどのサポートスキルを持っているのかが分からない状態。

 それが分かるのは対戦開始時で、そこから全ての展開を読み切るのは30分や1時間では麻莉亜でもない限り不可能だ。

 もちろん学年一位様だって到底無理だろう。

 だからその中で必ず最善手ではない悪手が生まれてくる。

 そこにつけ込むことができれば、俺も勝機が見えてくるはずだ。


 相手よりも深く読み切れれば勝率は上がる。

 だから俺はどんなパターンでも対応できるように勝負の展開を予測して、その日は徹夜する勢いでシミュレーションを繰り返した。


 ある種、テスト前の一夜漬けに近いと思う。

 相手のステータスにヤマをはって、片っ端から勝負をシミュレート。

 その繰り返しだ。

 いざ本番を迎えた時に、相手のステータスが事前にシミュレートしたものであれば、グッと勝率は上がる。

 俺に残された勝利への道はそれしかない。


 絶対に負けるわけにはいかない戦いなんだ。

 勝てば黒波の勢いを止めることが出来る。

 負けたら全てが奪われる。

 俺の命を懸けてもいい場面だ。

 俺はこの勝負に全てをかける!!



 その意気込みは俺にしては珍しく本物で、シミュレーションは深夜にまで及んだ。

 睡眠時間は30分程度の仮眠を2回。

 テスト前だってこんなに勉強したことはない。


 シミュレーション中も色々考えたが、これは俺の転機だと思う。

 今まで愚図っていた俺の転機。

 引きこもって現実逃避をしていたことによって、学校は既に七原は敵という認識を植え付けられている。

 黒波の勢力も日に日に増していっている。

 そして、それに反比例する形で俺の居場所はどんどんと狭くなっていっている。


 それを変える転機なんだ。

 麻莉亜が俺にゲームを教えてくれた。

 小夏が俺を引っ叩いて前を向かせてくれた。

 小春が、篠辺野が、俺に頑張れとエールを送ってくれた。

 それに応えて、自ら俺の居場所を勝ち取るんだ。


 俺の反撃は今ここから始まる。

 黒波を倒して、堂々と世間に出てやる。

 小夏を、小春を、篠辺野を守ってやるんだ!

 黒波を倒した勢いにのってエボルも倒して、全てを終わらせてやるんだ!!




 明け方。

 ほとんど睡眠を取らなかったせいか、体調はあまり良くない。

 でも、不思議と闘士とテンションは上がっていった。

 もう何も迷いはない。

 覚悟を決めた俺は、みんなが起きるよりもずっと前に家を出て行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ