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その24.外伝:うごめく黒い野望 ――sight of Kuronami――

「空吾様、来客です。篠辺野奏という名の女子生徒です」


 映像通信越しに見えるメイド服の女性はそう言葉を発し、ゆっくりと腰を曲げた。

 それ見た黒波空吾はにやっと笑い「ここに通せ」と伝えた。


「どうしました?」

「篠辺野が来た」

「おほっ! 篠辺野来るんすか! よっしゃ! 俺、シャワー浴びて来ようかな」


 そう言って鼻を膨らませたのは久志川という名の男子生徒。

 背は小さくメガネをかけている極々普通の男子生徒だ。

 久志川はデスクに座って続けていた作業を中断し、嬉しそうに立ち上がった。


「何もしねぇよ。全ては七原を片付けてからだ。七原を葬った後、記念として俺の次にお前にくれてやる」

「えぇ~頼むよ黒波ぃ~。篠辺野だけは俺に任せて欲しいんすよ。マジで! なぁ、頼むよ!」


 そう言って久志川は黒波のゴキゲンを取るように黒波の座るソファーの所で腰をかがめた。


「お前、前にも奥瀬戸の時にそう言ってなかったか? 奥瀬戸で我慢しておけ」

「奥瀬戸はもういいわ。思ったより全然だった。ちょっと生意気だし、彼氏いたっぽかったし。篠辺野はマジ俺の中で特別なんだって! な、頼むよ!」

「……七原をしっかり仕留められたらな。お前にかかってる。そこをうまくやってのけたら考えてやってもいい」

「うほっ! 本気っすか!? 張り切っちゃうよ俺! あんな奴ノーダメージでコテンパンにするプランたてちゃうよ!?」

「篠辺野なんてどーでもいーわ。それより九条だよ九条。九条はいつ入ってくるんすかねぇ?」


 その会話に割ってきたのは阿古沢という名の男子生徒。

 180を越す身長に黒波や久志川と違って少し垢抜けた感じがあり、爽やかなルックスから一部では女子にも人気のある男だ。

 黒波と久志川、そしてこの阿古沢はこうしてたまに黒波の家にやってきて、三人集まってはチームの作戦会議を行っていた。


「九条は俺のもんだ。あいつは七原と仲が良いみたいだから、九条も七原を倒した後になる。あいつには1年に妹がいるらしい。お前はそれで我慢しろ」

「マジで!? 九条に妹がいるとか初耳なんだけど!? 可愛いの!?」

「昔妹がここに連れてきたことあったな。多分そいつが九条の妹だと思うが、九条にそっくりだった。九条と違って物腰柔らかそうな女だった気がするが……」

「物腰柔らかか~。それだとダメなんだよな~。ああいう人を寄せ付けないような奴が2人になった時ベッタリしてくるのがいいんじゃねぇか。いいな~九条。早くチーム入んねぇかな~」

「だから九条は俺のもんだって。不服があるなら飛ばすぞ?」

「や、やめてくれよ。分かった。でも、お前の次に抱くくらいならいいだろ?」

「……まぁ、考えておいてやる」


 そう黒波が返すと、阿古沢は「よっしゃ」とガッツポーズを取った。

 三人がそんな会話をしていると、不意にこの作戦会議室と銘打たれた黒波家の大きな一室のドアが開く。

 そこから先ほど玄関に向かったメイドのアンドロイドに続き、篠辺野奏が姿を現した。


「来たよ」

「まぁ、座れ」


 そう言って黒波は自分の座っているソファーの前に座るように促す。

 篠辺野は口を真一文字に結び、ムスッとした様子のまま歩いて黒波の前に座った。

 同じくして久志川も足を組んでふんぞり返っている黒波の隣に着席した。

 そして黒波はメイドが茶菓子を持ってくる間も待たぬまま、さっそく話を始める。


「ご苦労だったな。帰りはタクシー代出してやるからそれ使って帰れ」

「結構です」

「まぁ、そう怒るなって。俺達は仲間同士だろ?」

「私は黒波君のやってることに賛同できません。人を脅迫するようなことをしておいてよく仲間だなんて言えますね!」

「おいおい、脅迫とは人聞きの悪い。それに、チームに入れてくれと言ってきたのはそっちの方からだぞ?」

「それは……エボルを倒すっていう目標に賛同したから……。でも、今は全くそんなことしてないじゃない! いつになったらエボルを倒しに行くの!?」


 篠辺野はそう怒った感じで黒波に問い詰めると、黒波の前に隣に座っていた久志川がそれに答えた。


「エボルを倒すにはまず三雄と呼ばれる中ボスを倒さなくてはならない。その三雄のレベルは20。現状のこちらの戦力ではまだ到底太刀打ちできないんだ。こっちの戦力を上げるためにも、もっと同志を集めて、もっともっと経験値を集めないとそこまで辿り着くのは無理なんだよ」

「ゲームは簡単にはクリアできないってな。くっくっく」


 久志川は少し苦笑いしながらそう言うも、黒波のその危機感のないニヤついた態度が更に篠辺野をイラつかせた。


「篠辺野。お前ももっと仲間を集める努力をしてもいいんだぞ? そうすればエボルを倒す日も近くなる。お前の努力がそのまま打倒エボルに繋がるんだ」

「人を集めるって……女の子を集めて遊んでるだけじゃない! このやり方をおかしいと思っている子だっているよ?」

「ほう……。どこのどいつだ、そんなこと言ってる奴は。そんな奴は直ぐに除籍して痛い目見させてやらないといけないなぁ。人類を救う行動に協力できないというのは、七原の味方かもしれん」

「篠辺野、落ち着いて現状を見ようぜ。今の俺達は力を蓄える期間にいるんだ。焦ってエボルに挑戦して殺されたら、みんなの協力が一瞬にしてパァになる。もどかしい思いがあるかもしれないけど、まずそれをしっかり理解して欲しい。それを篠辺野からもみんなに言ってくれると助かる」

「…………」


 そう久志川になだめられ、篠辺野は黙ってしまう。

 黒波は好き勝手やっているが、久志川はみんなの信頼を得られるようにうまく立ちまわっていた。

 篠辺野としてはここにいる三人がどうも信用できないのは同じだが、久志川は黒波に比べて派手に遊んでいる印象もなく、勉強もでき、理性的な印象があったので強く反論できなかった。


「よぉーし、納得した所で成果を報告してもらおうか」

「…………」

「まさか本当に遊んでましたなんてことはないだろうなぁ?」

「……1つ聞かせて」


 遊びでもしているかのような黒波の態度とは対照的に、篠辺野の顔はかなり思いつめたような表情をしている。


「何で七原くんを敵視するの? 彼だってお父さんやお母さんをエボルに殺された被害者なのよ!? それなのにどうして更に追い詰めるようなことをするの!?」

「七原の両親がエボルに殺されたとは、これまた初耳だな。七原に騙されたか?」

「七原くんが言ってた。無責任に自殺なんてする人じゃないって! 私もそう思う! これまでだって七原の人達は責任を持って数々のアンドロイドを世に放ってきたじゃない!」

「はっ。どうせ技術力もないのに危険を顧みずに無理して性能伸ばした結果暴走しただけだろう。立尾が技術の差を詰めてきたから焦った結果の大事故だ。そのくらい誰でも予想がつく。そんな感情論で騙されるとは所詮女なんてそんなものよ」


「感情論じゃないでしょ? 今までの七原研究所の実績がちゃんとあるじゃない! それに、もしそれが本当だとしても七原くん本人には直接関係ないでしょ!?」

「関係ありまくりじゃねぇか。無責任に自殺した責任は誰が取る? 息子の七原海人以外にいないだろう。七原の息子の存在を知った俺の仲間は飛びついてきたぞ。俺も七原を倒したいってな」

「それは……それは黒波君の友達が立尾の関係者だからじゃないの!? そんなに七原くんが憎いの?」

「くっくっく。そう言う篠辺野は立尾の関係者じゃないのか? お父さんが知ったらさぞかし悲しむなぁ。娘が七原の肩を持っているなんて知ったら、お父さんどう思うだろうなぁ。七原研究所は焼けたし、七原に取り行っても取引きする相手にはならないよなぁ」

「卑怯者!」

「いいのか? そんな態度をして。お父さん首釣っちゃわないか、俺は心配だぞ~篠辺野」

「…………」


 黒波はニヤニヤしながら、そう言って篠辺野に逃げ場を残さないように追い詰めていく。

 そう言われた篠辺野はこれいじょう反論することができなかった。


「さぁ、七原のステータスを早く言え。嘘をついても対戦時にはバレる。お父さんのことを、篠辺野家のことをちゃ~んと考えてから言えよ?」

「…………」

「篠辺野さ、俺達は何も七原を殺そうってんじゃないんだ。七原を負かせて、それを校内で……いや、全国ネットで宣伝にしようってだけなんだ。俺達のチームが『七原に勝った』という事実だけ手に入ればそれでいい。そうすれば協力してくれる人もたくさん集まり、打倒エボルに近づくってだけなんだ。その為に篠辺野の協力が必要なんだよ!」


 中々口を開かない篠辺野を論するように、そう久志川がフォローする。

 それでも篠辺野は一向に口を開かず、ずっと黙って自分の中で葛藤していた。

 

「別に他の人間に聞けば良いことだ。10数えても言わないようであれば切り捨てる。七原なんかを庇って全人類を敵に回して一家路頭に迷うか、エボルを倒す為に協力をするかその間に決めろ。い~ち……」

「待って!」


 篠辺野がようやく口を開いたことで、黒波はニヤリと笑った。


「言うから……七原くんのステータスを……」

「最初からそれしか選択肢はないよなぁ。では聞かせてもらおう、七原の職業を」

「弓兵……レベル5」

「ほほぉー! あいつがまさかレベル5まで上げているとはな。これは驚きだ。他のステータスは?」

「HP35、剣7拳7弓11+6……」

「サポートスキルは?」

「強撃、クライシス、結界、弓見切り、特攻……」


 篠辺野はカタカタと震えながらも、俯き加減で全てを話した。

 黒波は隣にいる久志川にすぐにステータスの整合性を取るように指示を出す。

 指示をもらった久志川は早速BPSを開いて色々と計算を始めた。

 しばらくすると久志川は親指と人差し指で丸を作り、OKのサインを出す。


「おっけ。整合は取れている」

「そうだよなぁ。まさかこんな所でお父さんに首を釣ってもらう訳にはいかんもんなぁ」

「……約束して。危ないことはしないって。決着がついたら直ぐに降参を促すって」

「おうよおうよ。さっきクシが言った通り、俺の……いや、俺達の目的は七原を殺すことじゃない。七原を倒したという事実が欲しいだけなんだよ。いくらなんでもそんなことはしないさ。なぁ?」


 黒波はそう言って、隣にいる久志川、そして遠くから椅子に座ってぼんやりこっちの様子を見ている阿古沢に同意を求めた。

 それを受けた二人は共にうんうんと頷いてそれに答える。


「そういうことだ。篠辺野の協力に感謝するぞ。これで打倒エボルにまた一歩近づけた訳だ」

「他に用はないのね? だったら私すぐ帰りますけど?」

「まぁまぁ、そう言うなって。俺達とこれから打倒エボルに向けて話しあおうよ。なぁ」


 久志川は篠辺野を帰すまいとそう引き止めるが、篠辺野はそれを聞いてもなお鞄を持って立ち上がった。


「帰ります」

「篠辺野ぉ~」

「ふっ。まぁいい。おい、篠辺野を玄関まで送って3万渡してやれ」


 黒波は近くにいるメイド用アンドロイドにそう命令を出す。

 メイドは「かりこまりました」と了解し、篠辺野の傍に寄って篠辺野の荷物を取ろうとした。


「ご厚意には感謝します。でも、結構です。自分で帰れますから」


 篠辺野はそんなアンドロイドの厚意を断り、1人でスタスタと歩いてこの部屋から出て行ってしまった。

 部屋のドアが閉まったことを確認すると、阿古沢がまず口を開く。


「あれはダメだな。ステータスも嘘の可能性がある。どうするよ」

「おいおい、いずれバレるっていうのに、わざわざ嘘をつくか?」

「あれ、七原に惚れてんじゃねぇの? 何か必死に七原の擁護をしてたように見えたけど」


 阿古沢は割りとどうでも良さそうにそう感想を述べるが、それに久志川が反論をする。


「違うって! 篠辺野は優しい奴だからみんなから敵視されてる七原を擁護したくなっただけ。 いるだろ? 弱者と見るやいなや、すぐにそっちに回るお節介な子ってさ。あんな弱っちい何の取り柄もないような奴に惚れる訳ないだろ!」

「そうかぁ~? ナイチンゲール症候群っつーのもあるからなぁ。ま、俺はちゃんと勝てればどうでもいいけど。わりぃ、ちょっと便所借りるわ」


 そう言って阿古沢はこの部屋から出て行った。


「おいクシ、俺のレベルが10を超えるのは何時頃になりそうだ?」

「そうっすね~。一等構成員の奴らがもう1レベル上がった所で、一気に黒波に集めれば10は簡単に越えられそうっすけど……」

「レベル10あれば勝てそうか?」

「楽勝でしょ~。ステータスなんてなくてもレベル10あれば負ける組み立てするほうが難しいってね。これでステータスも手に入ったことだし、後は絶対に負けない組み立てを練るだけ。多分、拍子抜けする程つまんない戦いになりそうっすよ?」

「くっくっく……そうか、それは頼もしいことだな」


 それを聞いて黒波は安心してソファーにふんぞり返った。


「後は如何に大袈裟に戦うかだな……」

「せんこーどもの邪魔が入ると厳しいっすね~」

「文句は言わせねぇさ。その辺はちゃんと手を回しておく。全校生徒を集めたいな。九条や篠辺野の前で七原を盛大に血祭りにあげたい。あいつが情けなく断末魔の声を上げて血を吐いている所を見せてやる!」

「うっは! それいいすね! あまりの強さと頼もしさに、九条なんてすぐ黒波にコロッとなびきそう!」

「くっくっくっく……あーっはっはっは! 楽しみになってきた……楽しみになってきたぞ……」


「でも……まさか篠辺野が七原に惚れてるなんてことはないっすよね……? そこだけ心配してるんすけど……」

「知るか。そんなことは七原を殺してしまえばどうにでもなることだ」

「ははっ。それもそうっすね!」

「くっくっく。頼むぞ、クシ。七原を無事に倒すことができたら、クシ、お前にその場で篠辺野をくれてやる。あいつは俺には逆らえん。好きにしていい」

「うっは! まじすか!? まじっすか!?? 俺、超頑張っちゃうっすよ!!」

「その代わり負けは許されんからな。入念に、何度も何度もチェックを重ねておけ」

「おいーっす!! まじ頑張りまーす!! んじゃ俺、早速七原との対戦シミュレーションやるわ」


 その気合の入った久志川の返答を聞いて、黒波は不敵に笑った。

 黒波は学年一位の秀才を味方につけ、策にも抜かりがないと勝利を確信する。

 着々と積年の思いを晴らせる時がやってくるのが、待ち遠しくて仕方がなかった。

 これで七原を潰すことが出来る。

 今の黒波はそれが何よりもの楽しみだった。


「くっくっく。今に殺してやるぞ七原……」

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