その22.七原家のてんやわんや2
篠辺野をアシストに置いてのクライシスゲーム。
篠辺野はルールこそ一応理解しているものの、攻略法やら戦い方やらは学校で教わった程度でゲーム自体は全然でそうで。
そこを俺が得意気に時間を使ってゆっくり教えてやると、篠辺野も色々考えてゲームを進め始めた。
篠辺野自身割りと普通のゲームもやることがあるらしく、小春よりも飲み込みは早かった。
「う~ん……弓で勝ち? かな?」
「お見事!」
篠辺野が考えた手を俺が評価する。
その俺の返答を聞いて篠辺野は「やたっ!」と拳を握って喜んだ。
最初篠辺野は俺の擬戦体が可愛くて仕方ないとかで『ゴミノ助』とか名前をつけて遊んでるくらい戦闘には興味なさそうだったのだが、今ではこの調子でしっかりアシストしてくれている。
結局最後の方は篠辺野から「私が次の手考える」とか言い始めて、俺がそれを評価していくような感じでの戦闘になった。
最後に篠辺野の読みが決まり、見事に撃破。
篠辺野は凄く嬉しそうに跳ねながら俺の手を取って喜んだ。
「凄いねー!! 私、こんなゲーム怖くてやれなかったけれども、真面目に攻略してみると意外に面白いもんだね~」
「まぁ、死ぬとかペナルティがなければ、それなりにな。でも、危ないから1人ではやるなよ?」
「七原くんは1人でやってるじゃないかー!」
「俺は特殊な訓練を受けたから平気なの。篠辺野は校則をしっかり守ってな」
「じゃあ、私がまたやりたくなったら七原くんの所行くよー!」
「お、いいぞいぞ。俺がみっちり指導してやる」
「お、やる気っすね! 七原先生!」
そんな楽しい会話をしながらVRから帰還。
会話の中に漫画のネタとか巧妙に仕込んでくる篠辺野との会話は本当に楽しい。
滑っても笑顔でフォローしてくれるし、ジョークには反応してくれるし、変な空気になったりしないから会話がよく弾んだ。
この戦闘を通して篠辺野との距離も一気に縮んだような気がする。
「ふぅ~……あれ?」
「ふが?」
VRから戻って目を覚ますと、俺はベッドの上。
篠辺野は新聞紙を被って寝てるおっさんのごとく、顔に本をかぶせて変な格好で寝ていた。
戦闘前は二人共ベッドを背もたれにしてVRへ行ったはずだったのに……。
「なんじゃこりゃ?」
篠辺野が自分の顔にかぶさっていた本を手で掴む。
その本の表紙がグラビアの女の子。
そしてタイトルが『発育しすぎた妹』。
それを確認するや否や、俺は悲鳴を上げながら篠辺野からその本を取り上げた。
「ひぃいいいえええあああぁーーぁーーーーーあぁあぁぁぁ!!!!」
「ん? おろろ?」
篠辺野の顔の他にもまるで儀式のように篠辺野の寝ていた周りに本が並んであったので、その全てを光の速さで回収。
そして光の速さでその本を布団の下に乱雑に放り込んだ。
見ら……れた……?
「どしたの? 何かマズイものだった?」
篠辺野は今の俺の行動を見てキョトンとしていた。
ぎりぎりセーフだったか!?
「ちょっと待っててくれ」
これは間違いなく麻莉亜の仕業だ。
俺達がVRに行ってるのを良いことに、こんなふざけたイタズラを仕込んできやがった。
戦闘中は本当に無防備になるんだよ。
戦闘中の体に触れると『危害を加えると罪に問われる』という旨のIPが浮かび上がってくるんだけれども、多少触れたり体を移動させたり程度ならそれだけで済む。
俺も戦闘中の小夏には顔にタオル載せたり俺のトランクスかぶらせてみたりと、色々いたずらしてやった。
それを今麻莉亜にやられたんだと俺は確信した。
俺は部屋に篠辺野を1人残して麻莉亜のいる所へ向かっていった。
とりあえず「イノシエの儀式です」とかふざけたことを抜かした麻莉亜をへこませるくらい叱りつけておいた。
ちょっと可哀想かなって思ったが、あれだけみっちり叱っておけばもうちょっかいかけてくるようなことはないだろう。
ちなみに、リビングに小夏の姿はなかった。
多分、戦闘中に俺がちょっかいかけるのを嫌がって、割り当ててやった自室でレベル上げでもしてるんだと思う。
小夏の方は放っておいて大丈夫そうだ。
「いや~……すまん、すまん……」
「…………」
部屋に戻ったはいいが、篠辺野の様子がおかしい。
何か妙に顔が赤いし、ソワソワしてるし、俺に目を合わせようとしてくれない。
さっきまではリラックスした様子だったのに、今は妙にかしこまった感じでスカートをピッチリ膝の所で折って正座してる。
「…………」
「だ、大丈夫だよ。う、うん。ほら、ね。七原くんも男の子だし……その……私、何にも見てないから……」
「見ただろそれーー!!!」
「み、見てない見てない! 七原くんに妹属性があったとか、ホント一切知らないから!!」
「ちくしょぉおぉおおおお!!!!!」
篠辺野にからかわれた俺はベッドにダイブ。
そして不貞腐れたように布団にくるまって篠辺野に背を向けた。
「ああいいさ、さあ笑え、さあドン引け。健全な男子高校生なめんな。エロなめんな。エロは世界を救うんだからな!」
「師匠! ししょー!?」
「なんだよ……」
「『スイカ三姉妹』がはみでてますよー?」
「…………」
背中辺りにある本を手探りで探し、サッと布団の中に隠した。
「でも、やっぱりアレなのかな? お姉さんがいると妹属性がつきやすくなるっていう……」
「…………」
「七原くんの場合はやっぱり九条さんかな?」
「ちげぇよ!!」
勝手なこと言われたので、そこでようやく布団をガバッと開放して篠辺野と向き合う。
篠辺野は顔を少し赤くしながらもにこやかな表情をしていた。
「九条さん、ちっちゃくて可愛いもんね~。妹ってやっぱり九条さんのことでしょ!?」
「だから違うって!! あいつをよく見てみろ!! 女らしさなんてこれっぽっちもないぞ!?」
「え~! 九条さんこそまさしく『ザ・女の子!』って感じじゃない? いいなぁ、やっぱり女の子は守ってあげたくなるような子がいいよね~」
「……あいつは守ってやろうとするとキレるような奴だぞ……?」
何か篠辺野の視点がおっさんみたいな感じがするのは気のせいか。
100人いたら100人篠辺野を『ザ・女の子』に選びそうなもんだけれども。
そんな会話をしていると、玄関の方から鍵の開く音が聞こえてきた。
「ただいまー」
「おいーっす!!」
帰ってきたのは小春と、もう一人は間違いなく蓮華だろう。
九条さんの妹……まさしく『ザ・妹』が凄いタイミングで帰って来てしまった。
これは誤解まっしぐらコースだ。
「ありゃ、どなたかいらっしゃいましたね」
「…………」
どうしよう。
蓮華というオマケもついてきている。
蓮華と言えば黒波の弟。
そして篠辺野はその黒波の作るチームの幹部。
なんか色々ややこしそうだけれども、大丈夫だろうか。
「あれ? 誰か来てる?」
「カイトが女でも連れてきたか~?」
そんな声が玄関の方から聞こえてくる。
なんか更にややこしくなってきそうな予感が……。
「えっと……」
「あ、こな……九条の妹とその友達だと思うんだけれども……」
「九条さんの妹!? お、お邪魔してるって挨拶した方がいいよね……?」
「いや、家主は俺だし大丈夫」
「でも、九条さんの妹さんなら、少し見てみたいかも……」
「…………」
ザ・妹キャラの小春を今篠辺野の前に出すのは更なる誤解を生む可能性がある。
それだけでややこしいのに、蓮華何かと会わせたらもっとややこしいことになる。
篠辺野は蓮華の兄の作っているチームの幹部だけれども黒波を良く思っていなくて、蓮華も兄をよく思っていないから……一応セーフなのか?
と、色々悩んでいたら蓮華のバカチンがいつものノリでこの部屋を開けてきやがった。
「おーい、カイトー!! あ、あれ……」
「…………」
「こ、こんにちは……」
蓮華は篠辺野を見た瞬間固まってしまった。
続いて小春も俺の部屋の中を見に来る。
「お兄……え!?」
「こ……こんにちは……お邪魔してます……」
小春も固まってしまった。
そりゃ、びっくりするだろうな。
いきなりお兄ちゃんが何の伏線もなく突然部屋に女連れ込んでいるんだから。
「カイトの彼女ぉ!? おっぱいでけぇーーーー!!」
「あ、ちょっと蓮華!!」
すると突然蓮華がダダダッと篠辺野の横に着席。
篠辺野困惑。
俺も困惑、小春も困惑。
「それで……うぅ……海人さんが……」
「だからって何で私が行かなきゃいけないのよ!? 私関係ないじゃない!! え……」
更に追い打ちをかけるように小夏と麻莉亜が登場。
もう嫌だこの家。
そんなこんなでしっちゃかめっちゃかの篠辺野来訪はあっという間に時間が過ぎ、夕飯前になってしまった。
「今日はすっごい楽しかったよー!! ありがとう」
「いや……ホントすまんな……」
篠辺野は伸びをしながら笑顔でそう言ってくれるんだが、俺としては申し訳ない限りだ。
途中まではいい感じで楽しく話ができていたのだが、小春が帰ってきてからはもう篠辺野と会話どころではなくなった。
俺が邪魔だから出て行けと蓮華に言うも、蓮華は俺が連れてきた綺麗なお姉さんに興味津々。
篠辺野も「いいよいいよ」と笑顔で楽しそうに対応するもんだから蓮華もずっと居座ってしまった。
ちなみに蓮華は黒波の妹であることは話したけれどもそれ以降は全然話題にはならずに、普通に篠辺野と楽しそうに話をしていた。
篠辺野と蓮華は初対面だって話だったけれども、蓮華は滅茶苦茶失礼なこと言いまくってたのに対し、篠辺野は笑いながら更に会話を広げていく神のような器のデカさでそれに対応していた。
小春も最初こそ蓮華に「邪魔だから」と言って引き上げようとするも、篠辺野の方が小春を可愛い可愛い言うもんだから、話がどんどん膨らんで結局ずっと話をすることになってしまった。
麻莉亜も何度も飲み物のおかわり運んでくるしで、せっかくの篠辺野との二人きりの場も台無しだ。
小夏は一度顔を合わせただけで以降この部屋には来なかったが。
まぁ、篠辺野本人も同性と一緒の方が安心だろうし、楽しそうだったからいいのかな……。
俺はもったいない時間を過ごした気しかしないけれども。
「せっかくだから夕飯食ってくか? 多分麻莉亜に頼めば全然大丈夫だとは思うけど」
「いいよいいよ! さすがにそれは悪いもん! でも、黒波君や九条さんにあんなに可愛い妹さんがいたとはね~」
「なんかホントごめんな……。せっかく来てくれたのに変なのに巻き込んじまって……」
「全然だよ! 私は本当に楽しかったよ! また一緒に遊びたいっていうくらい!」
「……マジか」
また篠辺野が来てくれる……?
きゃっほーーーーー!!
よくやった蓮華! よくやったぞ小春!!
何かその一言を聞いてテンションが上ってしまった。
「じゃあ、ほらごんぼーる3巻まで借りて行っていいかな?」
「どうぞどうぞ。学校の帰りがけに寄れるからいつでも来いよ。続きならいつでも貸してやる」
「ありがとー! 私も漫画描きとして、これを見て勉強するよ!」
「おぉ! 是非作品完成したら読ませてくれよな!」
「それは……まぁ……」
そんなこんなで、篠辺野はしっかり家にいる全員に挨拶をして家を出て行った。
俺は篠辺野を駅まで送っていったのだが、その間も会話が弾む弾む。
漫画のこととか、麻莉亜や小夏のこととか、会話のネタは途切れなかった。
わざと遠回りしてやろうかってくらい駅にたどり着きたくなかった。
「じゃあ、また明日学校でー!」
「おう! 気をつけて帰れよー!!」
改札で篠辺野と笑顔で手を振り合って挨拶。
今日学校では黒波が色々やらかしていて、学校には俺の生活できるスペースなんてないのかなぁなんて沈んでいたが、終わってみれば最高の1日だった。
もう、黒波関係なく明日また学校行くのが楽しみだ。
この先にある夢の様な生活を妄想して、るんるん気分で帰宅。
夕飯前に今日一日の篠辺野との会話を振り返って1人でムハムハしようと部屋に戻った。
部屋はお菓子や飲み物が残っていたり若干散らかったりという、賑やかな時が過ぎ去った後特有の寂しさを醸し出していた。
ちょっと前まで篠辺野があの座布団の上に座ってたんだよな……。
なんで女の子ってあんないい匂いがするんだろう。
女性フェロモンというやつだろうか。
あれは絶対雄を惹きつける魅力があるわ。
ずるいわ篠辺野。
「…………」
い、今ここで座布団の匂いとかかいだら変態かな……。
ダメかな……。
周りをキョロキョロ見渡してみる。
麻莉亜よし、小夏よし、小春よし。
誰もいない。
ドアもちゃんと閉まっているし、俺のプライベートは守られている。
「ふぅ……」
………………。
はっはっは!
そんな変態みたいなことするわけないじゃないか!
座布団の匂い嗅ぐとか、どこの変態だよ全く。
そんなことしたら俺の人格疑われるっつーの!
俺は紳士なんだ。
エロではあるが、一線だけは絶対越えない真のエロ紳士なんだ。
「…………」
よし、嗅ごう。
何故なら、それが真の『漢』なのだから。
そう思ってソロリソロリとさっきまで篠辺野が座っていた座布団に近づいていき……。
「何しているんですか?」
「ひぇええああぁっぁぁぁぁあああーーー!!!!!」
心臓が止まりそうな程驚いて思わず転倒。
テーブルに頭をゴツンとぶつけてしまった。
ドキドキしながらも声のした方を見てみる。
ドアの前にはいつの間にか忍者のように麻莉亜が立っていた。
何かマスクを付けてスプレーのようなものを持ちながら。
「……ど、ど、ど、ど、ど、どうした?」
「除菌です」
「除菌!?」
「外部からおかしな菌を持ち込まれたら困りますので。そちらこそどうしましたか? やましいことをしている場面を見られた時のような悲鳴が上がっていましたが……」
「ないない! 全然やましいことなんてしてない!! 俺は紳士だジェントルだ!」
「そうですか。それでは除菌を開始しますね」
「え!? ちょっと……えぇ!?」
麻莉亜は『シュッ、シュ』と床、ベッド、座布団にまでスプレーを吹きかけ始めた。
「やめて!! やめてくれーーー!! 俺の夢がぁぁーー!! 俺の花園がぁぁーーー!!!」
「除菌です」
「バイキンみたいに言ってんじゃねぇよ!! やめて!! ねぇホントやめて! お願いだからそのままにしておいてーーー!!」
そんなこんなで、俺と篠辺野の距離はそれ以降急速に縮まっていった。
篠辺野を送った後にも彼女から『今日はありがとう』という内容の連絡が飛んできて、それからも何とか会話を繋げようと頑張った俺は篠辺野とBPSを使ったコミュニケーションを続けていった。
以降、学校では篠辺野からBPSが飛んできたり、俺からBPSを飛ばしたりでよくくだらない会話をし合う仲までになった。
自分の立場はしっかり理解しているので、自分から篠辺野に会いに行くようなことはしていないし、校内で顔を合わせてもサインを送るように互いににこっと笑うだけに留まっているが。
それからというもの、本当に毎日が楽しくバラ色生活が続いた。
放課後に篠辺野と会えると思うとその為だけに嫌な学校生活も頑張れた。
学校生活は相変わらずちょろちょろ他の生徒に絡まれるようなことがあったが、俺はその全てを無視してやり過ごした。
里見のようにゲームを誘ってくる輩もいたが、俺は無視。
というのも、麻莉亜から『対戦を行うことによってステータスがバレ、黒波に伝わったら不利に働く』という助言をもらったからだ。
確かに予め相手のステータスが分かってしまえば、オンラインの雑魚クライシスと同じように攻略は飛躍的に楽になる。
対戦するだけでステータスは全てバレてしまうのだから、黒波チームの人間がわんさかいる校内で人と対戦するのは黒波に情報を伝えてしまうだけになる。
俺もそう考えて納得し、校内で絡まれても徹底的に無視した。
校内ではたまに小夏が絡まれているのを目撃したら割って入る程度で、後はただ影を潜めるだけのぼっち活動。
黒波にこそ直接絡まれたりはしないものの、変な奴らには相変わらず絡まれる嫌な学校生活だが、学校が終われば一目散に学校から離れて篠辺野と遊んだり、直帰してゲームのレベル上げをしたり、夜には小春や小夏を交えて楽しい夕飯と、俺の毎日は充実していて本当に楽しい。
特に篠辺野とは漫画の続きというダシを使って学校帰りに家に呼ぶこともあったし、映画の話で盛り上がっては本当に一緒に映画を見に行くなんてこともした。
これはもう完全に彼女と言って過言ではないだろう!
篠辺野との仲を極限まで深めた先には、あんなことやこんなことが待ち受けていると妄想するだけで、ご飯5~6杯いけそうだ。
そういった感じで、篠辺野と出会ってからの俺は本当に充実した毎日を送っていたのだった。




