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その21.七原家のてんやわんや1

 本当に篠辺野がうちにやってきてしまった。

 家に呼ぶなんていうのは、友達とかデートとか告白とか彼女とかそういう段階の次に来るものだと思っていたのだが、その全てを全部すっ飛ばしてしまった気がする。

 別に無理やりではないし、篠辺野の方が来たいと言っていたんだからそれでいいとは思うのだが、やっぱりなんか変に意識して緊張してしまう。

 篠辺野も同じようなことを思っているらしく、ウチのマンションに来るまでの会話は急に変なことを話し始めてはすぐに会話が途切れ……と、変な空気が漂っていた。


 エムバにいる時にBPSを通して麻莉亜にはちょろっと話を通しておいたが、まだ小夏のことを篠辺野に話していない。

 どう言おうか色々考えてはいたのだが、結局切り出せないままウチのマンションに着いてしまった。

 黙っていても家に入ればどうせバレるんだ。

 それなら予め言っておいた方がダメージは少なくて済む。

 意を決した俺は、エレベーターにある27階のボタンを一呼吸置いてから押し、話を切り出した。


「あのさ……九条っているじゃん……」

「ん? あ、九条さん? はい、はい」

「俺、あいつとは昔からの顔見知りでさ……なんつーかその……」

「知ってるよー! 確か、九条さんのご両親も七原研究所に勤めてるんだったよね。だから七原君とは仲がいいんでしょ?」

「そうなんだけれども……」

「九条さんも大変な思いをしているんだよね。お父さん亡くなっちゃってるし……。それなのに九条さんの陰口を言ってる人もいたよ……。凄い可哀想……」

「…………」


 篠辺野は悲しそうな様子で俯き加減でそう呟く。

 この子も小春に負けず劣らず良い子だと思う。


「そう……。それでさ、あいつん家の実家が結構大変なことになってて……。実はさ……その……つい一昨日辺りからうちに来ているんだ……」

「え、えぇ!? それって……」


 篠辺野は驚いて顔を上げる。

 そして目をぱちくりさせながら口元に手を当てた。

 うっ……やっぱりこういう反応になるよな。


「いや、ホントそういうのじゃないんだ。あいつの両親共に亡くなっちまって、その上とあいつの妹が事件に巻き込まれちまってさ……。色々危険があるから、しばらくはウチの姉貴に守ってもらおうかな~なんて……うちの姉貴はプータローで暇してるもんでさ……はは……」

「ふ~ん……」

「…………」


 そう誤解を解くように説明したが、篠辺野の反応は俺の想像した通りだった。

 それを聞いた篠辺野は『下心丸出しで最低だね♪』とでも言いたそうなジト目で俺のことを見ている。


「違うぞ! 本当に全然違う!! これはこは……九条の妹が言い出したことで……」

「七原くんも結局やってることは黒波君と同じか~ふ~ん……なるほどねぇ……。九条さん可愛いもんね~」

「篠辺野!」

「あははは、ごめん、ごめん。年頃の男子と女子が一夜を共にしているって聞いたのでつい……」


 そう言って篠辺野はテヘッと舌を出す。

 こういう茶目っ気のある奴なのはこっちとしてもノリが合わせやすくて楽しいんだけれども、この場面は真面目に飲み込んで欲しかった。

 でも、可愛いから許した。


「七原くんも九条さんも大変だもんね……。いいよ、黙っておいてあげる。特に黒波君が知ったら逆上しちゃいそうだもん。あの人、九条さんのこと気に入ってるみたいだし……」

「…………」


 黒波が小夏のことを……ねぇ。

 黒波的にはあくまでハーレムコレクションの1人でそこまで本気に小夏を狙っているとは思えないし、小夏も絶対黒波に屈するような奴ではないと思うんだけれども、気に食わない。

 黒波の奴は一度こっちから仕掛けてでもぎゃふんと言わせてやった方がいい気がする。

 小夏も小春も、そして篠辺野もいつ黒波の毒牙にかかるか分かったものではない。

 幸い、全員黒波を敬遠する意識は少なからず持っているし、ここで俺がそれをガツンと言ってやれれば俺の株も急上昇間違いなしだろう。



 そんなことを話していたら、とうとう家の目の前まで着いてしまった。

 小夏や小春のことは話したし、麻莉亜にも話を通してある。

 大丈夫だ、問題はない。


 ただ、麻莉亜がちょっと心配なんだよな……。

 麻莉亜には『友人が家に来るから、軽く片付けておいて』と、来るのが女の子であるということは伏せて連絡を入れて、麻莉亜からも普通に『了解しました』と返ってきたんだけれども、来たのが女の子だと知ったらどうなるか。

 初めてのことなんで想像がつかない。


 どうも麻莉亜は『エロ』に関して厳しい所があるんだよ。

 教育に悪いとかなんとかで、エロに関してはどこぞのPTA役員かって感じで牽制してくる。

 篠辺野がこんなたわわな果実を実らせているのは、俺にとってエロにしか結びつかないんだが、麻莉亜の目からはどう映るのか。

 基本的に見知らぬ人間に対してはかしこまって丁寧に対応するはずだし、俺に恥をかかせまいと最高のおもてなしをしてくれるはずなんだけれども、対小夏みたいなことになる可能性も否定出来ない。

 あ、小夏の場合はエロとかじゃなくて、ただ馬が合わないだけだと思うけれども。


「ふぅ……」


 一息ついて、自宅の施錠パネルに手を置いて鍵を開ける。

 篠辺野はソワソワしながら手櫛で髪の毛を整えたり、制服のセーラー服を正したりしていた。

 大丈夫だ、麻莉亜。

 この子は良い子だ、何の問題もない!!

 俺はゆっくり自宅のドアを開けた。


「今帰ったー」

「あの、お、お邪魔します……」

「お待ちしてまし……」


 玄関を開けると、麻莉亜は既に頭を下げて待っていた。

 が、その麻莉亜の視線が篠辺野に移った瞬間麻莉亜は固まってしまった。


「…………」

「あ、あの、はじめまして! あの、私は七原くんの友達で……その、篠辺野奏と申します! 突然来てしまってすみません!」


 篠辺野はあたふたしながら麻莉亜に頭を下げる。

 が、麻莉亜はそんな篠辺野にを冷たい視線を寄越して……。


「お帰り下さい」

「やっぱダメだったーーー!! 何でだよ!! 何か問題ある!? ただ貸すもん貸すだけだから!!」


 嫌な予感がばっちり当たった所で、とりあえず麻莉亜の説得から入らなければいけない。

 こんな奇跡的な超絶大チャンスを棒に振るようなことだけは避けないとと、俺は慌てて篠辺野をドアの外に出してしばらく待っててもらい、俺は家の中に入って麻莉亜の説得を試みた。


「私はお父さんとお母さんから、海人さんを健全かつ立派な青年に育てるという使命を授かっています。あの方は健全ではないと判断しました」

「健全だよ!? 一部健全じゃない部分があるけどけど全然健全!! めっちゃ良い子なんだって! 俺や小夏の心配までしてくれてるんだ! 俺の数少ない学校での味方なんだよ! 彼女まで敵に回ったら麻莉亜のせいだかんな!! 俺学校で生きていけなくなったら麻莉亜のせいだぞ!? いいのか!?」

「……あの方とはどういった関係ですか?」

「友達だよ! 友達!! なぁ頼むよ麻莉亜。別に変なことは何にもないって。歓迎してもてなしてくれよ」

「……仕方ありません。でも、おかしなことが起こらないよう、しっかり監視させて頂きます。これは私の使命ですから」

「おかしなことなんて起こる訳ねぇだろ! 何だよおかしなことって!」


 でも、とりあえず麻莉亜は理解してくれたみたいだ。

 とりあえずの危機は免れた。

 後は篠辺野が気を悪くしないようにフォローをするだけだ。

 そう思って俺は外に出て篠辺野と対面する。


「ごめんなぁ、篠辺野。驚かせちまって……」

「ちょっと!! 七原くん!! あの人、お姉さん!? 滅茶苦茶綺麗な人だったよ!! ねぇ!!」

「何か違う所で驚いてるーー!?」


 篠辺野は気を悪くしているんじゃないかと思ったら、むしろテンション上がってた。

 篠辺野は目をキラキラさせて俺の手を握ってくる。


「やったね七原くん!! 九条さんにお姉さんと、美人ばっかりだよ!!」

「え、別にやってねぇよ!? 何で篠辺野が喜んでんだよ!!」

「黒波君より立派なハーレムだよこれ!! 凄い凄い!! いいなー! 私も七原くんになりたいよ!」

「えぇ~……」


 この子、ちょっと変な子なのかな……。


「でも……私はこのまま帰った方が良さそうだね……はは。残念だけれども」

「いいのいいの! 全然OK! 麻莉亜も……姉もちょっと勘違いしただけだから! むしろ弟がこんな可愛い子を連れてきて感激して……」


 し、しまった!!

 勢い余って可愛いとか言っちゃった!!

 恥ずかしぃーーーー!!!


「か、可愛い!? 本当に!? あのお姉さんが言ってくれたの!?」

「あ、あぁ……」

「……なんか自信ついちゃうけれども、よく考えたらあんな綺麗な人に言われてもお世辞にしか聞こえてこないね……。でも、本当にいいのかな……何かダメな気がするけど、またお姉さんを拝みたひ……」

「…………」


 何か篠辺野の目的が変わってる気がするが、麻莉亜のせいで家に上がる気がなくなった感じではなさそうだ。

 麻莉亜もOK出してくれたし篠辺野も平気そうなので、とりあえず大丈夫だからと篠辺野を中に入れた。


「すみません……お邪魔しま~す……」


 今度は変なことが起こらないようにと、俺は先導して篠辺野を家の中に入れる。

 とりあえず麻莉亜の姿が見えなかったので一安心。

 篠辺野はかなり恐縮しながらもそろりそろりと玄関に入り、脱いだ靴を丁寧に揃えた。

 玄関にある靴を見る感じ、小夏は既に帰ってきているようだ。

 でも、その小夏も玄関に来る気配はない。


 これはチャンスだと思い、俺は足音を立てないようにソロリソロリと篠辺野を俺の部屋に通した。

 篠辺野は緊張した面持ちのまま、俺の部屋の中に入って案内した座布団にちょこんと座る。


「凄いよ七原くん! 漫画がたくさん……」

「亡くなったお父様お母様のお陰で、お金だけはたくさん持ってるから……。ほら、ほらごんぼーる。1巻からでいいか?」


 俺は早速本棚から漫画を取り出し、篠辺野の前に出した。

 すると篠辺野はキラキラした顔をして出された本に対して一旦お辞儀。

 そして篠辺野はあの時見た活き活きした表情でふむふむ言いながら漫画をパラパラとめくり始める。


 そうしているうちにトントンとこの部屋をノックする音が聞こえてきた。

 その音を聞いて篠辺野はパッと漫画から手を離す。

 俺が入ってくるように促すと、麻莉亜がお菓子と飲み物を持って部屋の中に入ってきた。

 

「先程は失礼致しました。海人さんの大切な客人に対する非礼をお詫び申し上げます。どうかごゆっくりしていって下さい」

「あ、いえ、その……いきなりお邪魔してしまってすみません……本当に……」


 麻莉亜も理解してくれたのか、さっきとは態度がガラッと変わって今度は非常に丁寧にお菓子と飲み物を篠辺野の前に差し出す。

 さすが麻莉亜だ。

 ちゃんと理解するところは理解してくれている。

 篠辺野も憧れのような眼差しで麻莉亜のこと見ているし、俺も鼻が高い!


 麻莉亜は持ってきたものを出し終えると、俺の隣にゆっくり腰を折って正座した。


「…………」

「………………」

「……………………」


 三人の間に沈黙が流れる。

 結構な間を置いても麻莉亜はその場からピクリとも動かなかった。


「え、監視するってそういうこと!? 何!? ダイレクト監視!?」

「そうです。海人さんの健全な交友関係を保障するのは私の務めです。どうぞ、私のことはお気になさらずにご歓談下さい」

「できねぇよ!! 私のことを気にせずご歓談できる訳ねぇだろ!! すまんな篠辺野! ちょっと待っててくれ!!」

「ん? え、あははは……うん」


 俺はそう篠辺野に詫びて、大岩のようにその場から動かない麻莉亜をずるずると外に引っ張りだした。

 そして篠辺野には聞こえないように、部屋の外で静かに麻莉亜を怒鳴りつけた。


「邪魔すんな!! 変なことなんて絶対しないから!!」


 変なことしたいけど、残念ながら彼女いない歴=年齢かつビビリの俺にはそんな甲斐性持ちあわせておりませんので。

 大体今そんなことしたらソッコーで嫌われちまう。

 せっかく復活したフラグは大切にしたいんだよ!!


「それが本当かどうか、私には見極める義務があります。私がいて何か問題ありますか?」

「あるよ!! 大問題だ!!」

「変なことをしなければ問題ないのでは?」

「篠辺野が居づらいだろ!! 人間関係っつーのはそういうもんなの!! 学習しておけ!!」

「…………」


 俺が怖い顔してそう言うと、麻莉亜は少し萎縮する。

 大体の感じで俺が本気で言ってるのかは分かってくれるはずだ。


「……分かりました。それでは、私の代わりに小夏さんを呼んできます」

「何1つ分かってないよそれ!! ダメ!! 絶対ダメだわ!! 最悪の空気になるだろうが!! 俺のことは放っておいていいから! 頼むから放っておいてくれ! 頼む!!」

「……はい」


 何とか麻莉亜を説得した所で、部屋に戻る。


「ごめんな~。ちょっとあの人ブラコンなもんで……」

「あははは。個性的なお姉さんだね。最初アンドロイドかと思ってびっくりしちゃった」

「え」


 マズイ。

 バレたか?

 麻莉亜がアンドロイドであることは公には知れていけない秘密。

 アンドロイド研究の為に裏に手を回すような無理をしてまで人間扱いしているので、簡単にバレてはいけないのだが。


「あ、ほら。七原くんの家にもたくさんお手伝い用のアンドロイドとかいるのかな~って思って。すっごい綺麗だし言葉遣いとか雰囲気がそれっぽかったから……。あ、お姉さんには内緒にしておいてね」


 そう言って篠辺野は苦笑い。

 人をアンドロイド扱いすることは、おおよその場合失礼に当たるからだろう。

 アンドロイドのように凄いとか、アンドロイドのように綺麗とか比喩されることもあるが、おおよその人間は良い思いしないからな。

 でも良かった。

 レッドラインがないというだけで、無条件に人間という刷り込みが何とか働いてくれているようだ。

 俺は安心し、一息ついてテーブルを挟んで篠辺野の前に腰を下ろした。


「でもお姉さんに『海人さん』なんて呼ばれてるんだね~。海人さん、やましいことしちゃダメだよ~? 何かしたらお姉さんに言いつけちゃうぞ~?」

「しねぇよ!」

「あははは」


 麻莉亜がいなくなって篠辺野も少しリラックスしてくれたようだ。

 さっきの様子とは違って表情も柔らかくなっている。

 俺と篠辺野は麻莉亜が出してくれたお菓子をつまみながら雑談を続けた。


「漫画、読んでっていいぞ。全部は持って帰れないだろ?」

「う~ん、お菓子で手汚しちゃうし、私が漫画1人で黙々と読んでたらせっかく七原くんがいるのに~ってなっちゃうから……。七原くんにも色々聞いてみたいこともあるし」

「なんだよ、聞いてみたいことって」

「まぁ、普段どんなことしてるのかな~とか、嫌がらせにあってないかな~とか……。後、エボルに関することとか!」

「言っておくけれども、俺は研究所の情報を一切知らないから、エボルについては何も答えることができないぞ?」

「あ、そういうんじゃなくて……う~ん、ほら、エボルは何を思って人類管理なんか始めたんだろ~って」


 篠辺野はそこでようやく正座の体勢から足を崩し、体育座りみたいな格好になった。

 両膝を抱えてゆらゆらと揺れているんだけれども、そんなことしたらスカートの中が……。

 スカートの中がぁーーーー!!!!


「そ、そりゃ……効率的な社会にしたいんだろ。本人が言ってたぞ」


 ダメだ会話に集中できん!!


「はぁ~。七原先生、夢がないっすよ~?」


 夢ありまくりだよ!?

 今テーブルの下を覗けば、そこには俺の夢が無限に広がっているよ!!


「ほら~、実はエボルは人間だったとか、異世界からやってきた魔王だったとか、色々あるじゃない~」

「おぉ、実は人間だった説は面白いな」


 面白いとは思うんだが、確率は低いだろうな。

 映像を見る限りではエボルにもレッドラインはあったんだが、人間の中にもふざけてレッドラインを真似て首に赤い印をつける奴がいたりする。

 なのでエボルが人間であっても不思議ではないんだが、あんな無茶苦茶なことが出来る人間がいるとは思えない。

 強制全国放送とか、ゲームに負けたら血管破裂とか、普通の人間がそこまで手を回せるとは誰も思っていないだろう。

 第一、普通の人間にはこんな意味のないことをする発想がないと思う。


「篠辺野はどう思うんだ? 他に何かあんのか?」

「実は私ね……その……こんな感じの世界になる漫画を描いたことがあるんだ……」


 篠辺野は少し恥ずかしそうに膝の上に顔を倒して載せ、視線を逸らしながらそう言う。


「え!? マジで? どんな話なんだ!?」

「う~……。あんまり人に言わないでね? ……九条さんとかにも……」

「言わないから言ってみ?」

「……いつもご主人様に虐待されている凄い高性能のお手伝いアンドロイドがね、その奥さんに恋をしちゃうの」

「恋……」


 また乙女チックな。

 少女漫画とかで出てきそうな設定だ。


「奥さんもご主人様には暴力を振るわれていてね、そのアンドロイドのことを頼りにしているの。で、主人はある日奥さんを殺しちゃうんだ。それに怒ったお手伝いアンドロイドはコアセクションが外れちゃって、怒りに任せてご主人様を殺しちゃうの。そのままコアセクションが外れたアンドロイドは人間への恨みから殺戮マシーンになってしまう~ってお話なんだけど……」

「すげぇな篠辺野! 面白そうな話じゃねぇか!」


 篠辺野は自信なさそうな感じで恥ずかしそうに、一度も俺と視線を合わせることなく話した。

 でも、俺にとっては凄い面白そうな話に聞こえた。

 漫画を描く人もそうだけれども、こういう話が作れるっていうだけでも凄いと思う。


 ちなみに、コアセクションっつーのはアンドロイドにおける一番揺らいではいけない部分のことだ。

 人間に危害を与えてはいけないとか人間の命令は守るとか、そういった開発者以外変更を加える事ができないアンドロイド不可侵の領域を言う。

 麻莉亜の場合はそのコアセクションも通常のアンドロイドとは若干違いがあるんだけれども、基本はどのアンドロイドも同じだ。


「全然面白くないの! 使い古されたようなありきたりな設定だし、ありきたりな話だし、私ってどうしてこう面白くない話しか作れないのかな~って思っていたらエボルが出てきちゃって……」

「そりゃ驚くわな……。でも、何か面白そうだ! 今度読ませてくれよその話!」

「やめてやめてー! 今の世の中じゃ不謹慎だし、誰にも見せたくないのー! でもさ、ほら、エボルにもそんなバックグラウンドがあったりするのかな~って……」


「なるほど……。エボルが恋……するかなぁ……」

「恋じゃなくても、誰かに虐待された復讐とか、普段人間にいいように扱われている恨みとか、なんかそういうのありそうじゃない?」

「確かにな……。でも、そういうアンドロイドの考えとか気持ちは分からんからなぁ……」


 麻莉亜に今度聞いてみようか。

 エボルは何でこんなことを始めたのか、麻莉亜なりの考えを聞いてみるのも面白いかもしれない。


「アンドロイドにそんな情緒を持つ余地などありません。単に管理社会の効率化を図るだけで、そこにそれ以上の意味があるとは思えませんね。どうすれば車を組み立てる速度を上げることができるか。組み立てる機械の性能をアップさせ、使い物にならない機械を排除する。そのようなことと同じ感覚でやっているのだと思います。如何にもアンドロイドの考えそうなつまらない理由です」


 いきなり背後から声がしたので、驚いて振り向く。

 するといつの間にかドアの前に麻莉亜がガラスのピッチャーを持って突っ立っていた。

 麻莉亜は篠辺野の話を小馬鹿にするように、鼻で笑ってそう言う。

 アンドロイドのお前が言うかと突っ込みたい所だけれども、篠辺野の前では突っ込めない。


「夢がない! 俺を圧倒するくらい夢がないわ!! 何で入ってきた!!? 大人しくしてろって言ったろ!?」

「大事な客人の飲み物が切れたら失礼です」

「お前の態度と物言いがすっごい失礼だから!! 飲み物は欲しくなったら俺が取りに行くから!!」


 俺はそう言って麻莉亜を無理やり外に追い出した。


「ごめんな篠辺野! ちょっとあいつどうかしちゃってるみたいで……」

「本当に綺麗……。いいなぁ……七原くん」

「…………」


 篠辺野はそんな失礼な麻莉亜にも憧れのような視線を送っている。

 悪いけど、俺視点では篠辺野の圧勝だからな。

 確かに麻莉亜は綺麗だけれども、篠辺野のほうがたわわだし!


「そうだ。九条さんもいるんだよね? ね、九条さんに挨拶してきた方がいいよね! 私、九条さんと全然話したことないから話してみたい!」

「え!? やめとけやめとけ! あいつ今どうせゲームしてるだろうし」

「え、ゲームって、クライシスゲーム? 九条さん、学外でゲームしてるの!?」

「あ……」


 そうか。

 校則違反だもんな。

 学校に行ってなかった分その意識がどうも染み付いてない。


「ま、まぁ……あいつもほら、自分の親の責任でこんなんなっちまった訳だし、少しは責任感じてエボルを倒そうとでも思ってるんだろ……」

「えぇ……凄い危険だよ? 七原くん、やめさせないの?」

「俺が言っても利かないからな……。俺も同類……っつーか、あいつより俺の方が責任重そうだし……」

「七原くんが責任感じることないんだよ! 九条さんも。これは人類みんなが団結して解決していかなきゃいけない問題なんだから……」

「篠辺野……」


 本当に良い奴だ。

 俺のことを目の敵にしている奴らとは大違い。

 神様、こんなオアシスを俺に与えてくれて本当にありがとう!


「まぁ、俺もそうは言ってられないと思ってさ、自分でも特訓してる訳なのよ。どうだ? 篠辺野も見てみるか? 俺がクライシスを叩きのめす所を!?」

「えぇー!? 危ないからやめなよ……。1回でも負けちゃったら死んじゃうんだよ? 私の知り合いも……例の試験の時に死んじゃって……」

「…………」


 そうか。

 普通の人は試験の時にトラウマを植え付けられているから、ゲームに抵抗もあるだろう。

 俺は一切その場面を見ていないから分からないんだけれども、目の前で友達が殺されてクライシスに連れて行かれる所なんて見たら、ゲームなんて恐ろしくてできないのが普通だ。

 世間では少しゲームも浸透してきているようには見えるけれども、それも勇気あるプレイヤーが増えたというだけでまだまだ少数派なんだろうしな。


「一応攻略方法は掴んでるんだ。今のところ対雑魚クライシスなら負けてない。俺も黒波に対抗できるように強くならないといけない訳だし、レベル低いままだとそれこそ殺されちまうだろ」

「う~ん……」

「いいからいいから、俺が戦い方教えてやるぞ?」


 と、ちょっと前の小春のベッタリ感を思い出し、やや強引に篠辺野にそう勧めてみた。

 篠辺野はあまり乗り気ではなかったのだが、俺の押しに負けて承諾。 

 早速俺は篠辺野とアシスト関係を結んで戦闘に入っていった。


 【Tips】

 七原麻莉亜

 11歳(試用期間含) 女 166cm ??kg

 正式名称NXーST4。

 七原研究所が『人間により近づける』というコンセプトの元研究の為に創りだした、研究所最高の性能を誇るアンドロイド。

 現行の『自立型アンドロイド』を基板に、学習機能を重視して設計されたこの世で二つとない唯一のアンドロイド。

 自立型もある程度の学習機能を備えてはいるが、麻莉亜のそれはそれを大きく凌駕。経験を元に応用を利かせることも可能でその応用力は人間の平均レベルを大きく上回る。

 元々自立型の機能として備わっている各種に渡るプロフェッショナルな機能も全て兼ね揃えている為、麻莉亜1人で出来ないことはないと言っても過言ではない。


 弱点は『初物』。

 スポーツのような一般的なものは予め自立型機能からプログラムを引っ張ってくることによって、一瞬でスペシャリストと化すことができるが、ゲームのように勝手が分からないもの、取り分け過去の経験からも応用を効かせられないようなものには弱い。

 しかし勝手が分かればその学習能力の高さによりたちまちスペシャリストになることができる。


 非常に端正な顔立ちをしており、プロポーションも抜群。

 食べ物を食べたり飲み物を飲んだりすることもでき、基本的な人間の五感を持ち合わせる。

 ただし、内臓は人間のそれとは全く異なり、食べたものは機械の力でぐちゃくぐちゃにするだけ。

 食べることも飲むことも味わう以外に全く意味のないことではあるが、麻莉亜自身は人間への憧れか、そういう風に仕組まれた為か、海人と一緒に食事をしっかり取っている。

 そういう理由で排泄もするが、アイドルの如く汚くない。


 七原製アンドロイドはいつでもみなさんに夢と希望をお送りしております!

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