七、
自分たちの班と間違えて桜の班と合流してしまい、彼らに合流するまでの道中、行動を共にすることを決めた勇樹と耕介は、無事に本隊と合流することができた。
もっとも、彼らの班員はあまり無事と言える状態ではないようだったが。
「たく……真田、お前は無理させすぎなんだよ」
「っせぇな……」
「ま、犠牲者が一人も出ていないことは称賛に値するんだろうがな」
勇樹のつぶやきが聞こえたのだろうか、真田、と呼ばれた班長らしき男子はむっとなって勇樹を見た。その視線を無視し、勇樹は桜たちの方を向き、ここまでの護衛に対する礼を言おうとした。しかし、礼を言いきる前に、自分たちの周辺に何か異様な気配を感じ取り、身構えた。
その様子に気づいた桜と他の班員、そして耕介と本隊の班員も互いの背を預ける形で身構えた。
「お……おい、どうし……」
何が起こっているのか、一人だけわからない真田が声を上げると、天井からぼとぼとと、黒い何かが落ちてきた。
よく見ると、手にはハンマーやこん棒、そして頭には赤黒い帽子がある。どうやら、ここいら一帯にいるレッドキャップ達のようだ。
「……囲まれた、か」
勇樹のつぶやきに答えるかのように、レッドキャップ達は一斉に襲いかかってきた。
班員は全員、手にした武器でレッドキャップ達の凶器を受けとめ、あるいは受け流し、確実にダメージを与えていっていた。一方の勇樹は、桜と自分の身を守ることにのみ、専念していた。そして勇樹に守られている桜は目をつむり、右手で刀印を結んで何かをつぶやき始めた。
「勇樹!シルフは出せないのか?!」
「この陣形であいつの力を借りるのはまずい……ただでさえ固まっている状態だ、そんな中で暴風を起こしてみろ」
お前らを巻き込んで、殺してしまう可能性が出てくる。そんなことはしたくない。
勇樹が悔しそうな顔をして、飛びかかってきたレッドキャップに蹴りを入れると、桜の足もとから勇樹のそれとは違う魔法陣を描く、光の線が現れた。
魔法陣は桜の言葉に反応するかのように、光を放ちながら回転し、その円周に陽炎を立ち上らせた。
「我が呼び声に応え、現れよ!」
――大樹の精霊、ドリアード!
桜が声高らかに、精霊の名を呼ぶと、魔法陣の中で光の球が生まれた。その球は、徐々に人の輪郭を作り上げていった。
光が治まると、木の葉のような緑色の髪をした小さな子供が姿を見せた。
子供は、周辺をきょろきょろと見渡すと、召喚主の桜を見つけ、ぱっと明るい笑顔をこぼし、桜に駆け寄った。
「桜~」
「ドリアード、今は勇樹に力を貸してあげて!」
桜にそう命じられると、ドリアード、と呼ばれた子供は、こくり、とうなずき、勇樹の方へぱたぱたと駆けてきた。
「頼むぞ」
「うん!」
勇樹の頼みを聞くと、ドリアードはそっと目を閉じ、祈るかのように手を組んだ。すると、シルフの時と同じように、ドリアードの体が光の渦へと代わり、勇樹の手甲へと治まっていった。
光の渦がやむと、手甲が淡い緑色の光を宿した。
「さてと……一気に片付けますか!」
勇樹の声にこたえるかのように、レッドキャップが一斉に勇樹の方へと飛びかかってきた。
それにあわてることなく、勇樹は目を閉じ、合掌した。すると、無数の木の葉が勇樹の周囲に現れ、浮遊した。
「……行け!」
勇樹がそう命じると、木の葉はレッドキャップ達に飛びついて行った。だが、木の葉はレッドキャップの体に触れることなく、そのまま素通りする。そして、木の葉に通過されたレッドキャップ達は、体中に無数の細い穴をあけ、そこから、紅い液体を滴らせながら地面に落ちていった。
そして、彼らを貫いた木の葉はいつの間にか消えていた。
「……樹葉飛刃、と名付けるべきかねぇ」
勇樹はレッドキャップ達が動かないことを確認し、そっとため息をつきながらそう呟いた。そして、周辺にいた班員たちに被害がないかどうかを確認した。一応、彼らの頭よりも上を狙って木の葉を放ったので、怪我があるとは思えないが、念のためだ。
だが、地上に落ちてきていたレッドキャップとの戦闘を行っているあたり、おそらく怪我がないのだろう。
安心したような顔をして、勇樹は再び上を見上げた。さきほど、敵は上の方から落ちてきていた。つまり、彼らは地上からだけではなく、少し上の階層からも攻撃を仕掛けてくる可能性があるのだ。
それに対する警戒を行うことができるのは、負傷した班員か、遠距離系の攻撃ができる勇樹だけだった。そのため、頭上の警戒を行い、かつ敵が襲いかかってくる前に攻撃できるように備えておく必要があるのだ。
もっとも。それは必要なかったようで、地上に落ちてきたレッドキャップをせん滅すると、もう彼らは降りてこなくなっていた。
すると、タイミングを計ったかのように、全員の耳に付けていた通信機のイヤホンから、教官の声が響いてきた。
「時間だ、戻ってきてくれ」
その言葉を聞いて、真田は怪我人を助け起こしながら、撤退を命じた。
やれやれ、と思いつつ、勇樹はドリアードを解放し、礼を述べてから真田の後ろに続いた。一方、桜は浮かない顔をしていた。ドリアードはそれを不安そうな瞳で見ていたが、桜はそれに気づくと優しげな微笑みを浮かべた。
「ドリアード、ありがとうね」
「桜と勇樹の頼みだもん。頑張るよ!」
「うん……それじゃ、今は疲れてるだろうからゆっくり休んでね」
「うん!」
ドリアードは元気に返事を返すと、すうっと、その姿は消えていった。
それを見送ると、桜はなぜか不安げな表情を浮かべ、天井を見上げた。
「……」
しかし、立ち止っている間は無く、班員に声をかけられ、少しばかりあわただしく班員たちの背中を追いかけた。




